1998年11月22日(月)全社協・灘尾ホールにおいて、第37回地球環境問題懇談会も兼ねて、標記セミナーを昨年に引き続き(財)地球環境戦略研究機関(IGES)との共催で開催した。COP5においては主要論点の決着は求められておらす、COP6への道筋を決めるという位 置づけであったにもかかわらず、企業・シンクタンクをはじめとして180名を超える参加者が来場し、関心の高さを窺わせた。プレゼンテーションは政府関係者の報告、産業界の立場からの見方と海外動向、研究者によるCOP6へ向けた動向解説・展望と続き、間に企画された政府担当者への質問票回答では、予定の1時間を使い切り、参加者の質問に分かり易い例を交えて回答がなされ、その役割を果 たした。閉会挨拶では気候変動問題をも包括する循環型社会への移行が述べられ、セミナーを締めくくった。字数の関係上、以下には「交渉担当者による報告」と「各国産業界の考え方」の2つのプログラムを抜粋して、その概要を報告する。
プログラム | ||||
● 開会挨拶 |
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安本 皓信 | (GISPRI専務理事) | |||
● 交渉担当者によるCOP5報告 | ||||
梶原 成元 | (環境庁 温暖化国際対策推進室長) | |||
谷 みどり | (通 商産業省 地球環境対策室長) | |||
● 各国産業界の考え方 | ||||
細谷 泰雄 | (経団連 地球温暖化対策タスクフォース座長) | |||
● 参加者からの質問票への回答 | ||||
梶原・谷 両室長 | ||||
● 研究者から見たCOP5と今後 | ||||
松尾 直樹 | (IGES上席研究員・GISPRI主任研究員) | |||
● 閉会挨拶 | ||||
松下 和夫 | (IGES副所長代行) | |||
司会:西岡秀三 | (IGES気候変動プロジェクトリーダー) |
交渉担当者によるCOP5報告
<梶原室長>
まずこれまでの経緯とCOP5の位
置づけを説明。ブエノスアイレス行動計画 では具体的なCOP5以降COP6まで、どのような日程でどうやって決めるのかが明らかではなく、その合意が求められていた。
続いて日本政府代表団の「COP5の概要」ペーパーにそって、交渉結果 について解説 。政治的に最も意義ある動きであった2002年までに議定書発効という「リオ+10」が一 つの 相場観を形成したこと、COP6合意を実現すべく政治的リーダーシップが期待されることに言及。また政治的対立点についても、閣僚レベルでの調整を随時はかり議論を進める役目を担う「特別 調整官」の日本提案について、直接決議に盛り込まれなかったものの、ハイレベルで交渉を促進するためのプロセスが必要との合意がなされたと述べた。京都メカニズムについては、今回の議論(相違点や一致点の確認のみで交渉は無し・あまり活発だったとは言えない)のたたき台となった第2次締約国提案統合書について、将来の交渉テキストをイメージするに足るものだと述べた。COP6までの日程については、まず1月末までの締約国の追加提案受付について、今回の統合書では空白であったベースライン、モニタリング、排出削減量 の認定、レジストリー(登録簿)等の方法に関する具体的技術的な提案(これらについては更にGを設けて議論してはとの話もある)が出てくると予想されること、補助機関会合が「COP及び交渉担当者の尻をたたく」べく2回に分けて行われること等に触れた。シンク(吸収源)については、2000年5月のIPCC特別 報告から半年で合意に持っていかなければならず今回その道筋を如何につくれるかが問題であったが、結果 決まった具体的スケジュールを解説した。3条3、4項で国際合意するということが京都議定書の実現にどのような影響を与えるかについても疑問符をつけた。
<谷室長>
途上国(非付属書Ⅰ国)参加問題に関わるカザフスタンの付属書Ⅰ国参加正式表明
とアルゼンチンの目標発表について、米国批准と絡めて触れた後、京都メカニズムに
おける意見の相違点・課題、第2次統合書のAppendixを中心に解説。
JI(共同実施):管理機関の要・不要(EU・途上国の「要」に対し、アンブレラG不要。管理機関に必要なコストで太陽光発電パネルが何枚も買えるとのこと)。モニタリングも簡素に。
CDM
(1)ODA使用の可不可 →フロアで日本の「可」に賛成したところはないが、2国間で話すと賛成してくれるところ(アフリカなど)あり。
(2)「持続可能」の判断→ホストが決めるだけ(アンブレラ・中国)、理由付必要(EU)
(3)シンク含めるか→JIと違い、含めることが明言されていない。(アンブレラ=基本的に可)
排出量
取引:やるかやらないかから議論すべき(インド)。売り手責任(金を出して買っているのだ・アンブレラ)と買い手責任(株式と同じだ・途上国等)。
遵守制度問題については、6%の目標は法的拘束力を持つが、遵守の結果 が持つかは別問題であることを説明。議定書改定が必要となり議定書早期発効が困難になるような法的拘束力のある制度をつくらずとも、立派な遵守制度は可能であることをILO勧告を例に強調した。
産業界の考え方
<細谷座長>
まずCOP5にまつわる印象について、(1)段取りが整わないでしゃにむに合意・発効をねらうとなると各国条件整備が急がれるが為に、いろいろと無理を呼び込む。(2)
議定書発効が2002年をこえて(米国の批准は早くても2005年以降では?)遅れていくとなると、対策に必要な準備期間が短くなっていき、遵守が非現実的になる。と、この2点について懸念を表明。
COP5議長・SB11両議長との対話やEU閣僚級との会合を例に、実質的な推進者として産業界への期待の高まりがあることを述べた。しかし産業界としてはいつまでもボランティアではできないと答えたこと、EUが、期待とはうらはらに
産業界に環境税等で大きな負担を強いている矛盾について閣僚級に、それはそれ、これはこれとかわされてしまったエピソード等が目を引いた。また、産業界としてその役割を期待され、関
わり合いを求められる以上、参加しやすく利用しやすく効果的な姿でまとめ上げるよう望むこと、及び京都メカニズムについて、市場メカニズムを使ってコスト効果
的に達成する、と言う本来の機能を損なわないような形となるよう要望した。
次に日本産業界の取り組みの1例として経団連自主行動計画について解説した。第
2回フォローアップ結果(1998年)が昨年よりCO2排出約6%減であったことについて、
経済活動の低下による影響が大きいとしながらも、同時にこれが90年比でも2.4%減に
あたることについては、各業界の努力の成果のあらわれとの見解を述べた。
諸外国の産業界のスタンスについては、批准に反対しながらも市場を重視した取り
組みを進める米国と、その米国よりも既に30%以上も諸課税が高いにもかかわらず、新しいエネルギー税導入等の話から国際競争力低下を懸念し、規制と引き替えに排出権市場導入を目指すEU産業界について語られ、その対比が面
白い。プログラム導入にあたっては、その国の特徴・特性・対策の余地・経済性を十分考えながら選択をするべきとして、対策optionが非常に狭い日本とは一緒に論じられないことに注意を促した。
まとめ:箱を作る努力ももちろんだが、その中に何をどういう風に詰めて、全体と
して最も効果的な姿に仕上げていくかが大事。また国内排出権市場では買い手ばかりになりそうだが、外からの購入にも信頼性の点から安心できないため、プロジェクトベースできちっとした対策を打っていくことになりそうであるとの見通
しを述べ、プレゼンを締めくくった。
(中西 秀高)