2005年2号

国連気候変動枠組条約 ポストCOP10セミナー開催報告 -GISPRI / IGES共催-

セミナー概要

2004年12月6日から17日にかけてアルゼンチン・ブエノスアイレスにて国連気候変動枠組条約第10回締約国会合(COP10)が開催されたのを受けて、2005年1月20日全社協・灘尾ホールにおいて標記セミナ-を開催した。本セミナーでは、実際にCOP10で交渉に当たった政府各省庁の担当者を講師に招き、交渉経緯や決定事項の報告及び会場からの質問に回答を頂き、地球温暖化問題における国際交渉についての情報を包括的かつタイムリーに提供し、セミナー参加者の本問題への更なる理解促進を実現した。産業界、コンサルタント、研究者、学生など地球温暖化問題に興味を持つ296名もの方々が会場に詰め掛けた。以下に、講演及び質疑応答を報告する。



講演者

□  COP10開催結果のご報告
  外務省   気候変動枠組条約室首席事務官   小野益央
  経済産業省   地球環境対策室長   坂本敏幸
  環境省   国際対策推進室長    水野 理
  林野庁   海外林業協力室調査官   赤木利行
□  質疑応答
<コーディネーター>
  財団法人地球産業文化研究所     専務理事     木村 耕太郎
<ご回答者>
  外務省   気候変動枠組条約室首席事務官   小野益央
  経済産業省   地球環境対策室長   坂本敏幸
  環境省   国際対策推進室長    水野 理
  林野庁   海外林業協力室調査官   赤木利行

各講演者の発表要旨

外務省 気候変動枠組条約室首席事務官 小野益央氏
  ・COP10の位置付け
気候変動枠組条約10年目の節目であるとともに、ロシアの批准により今年2月の京都議定書発効を目前に控えた重要な会議となった。議定書がいよいよ発効という歓迎の雰囲気と切迫感から熱を帯びた議論が交わされた。日本政府は60名の代表団を組織した。
各締約国は、10年間の地球温暖化への取組の進展を評価し、更なる取組の認識を新たにした。
省エネを推し進めてきた我が国としては、マイナス6%の目標達成は容易でないものの、「経済と環境の両立」を掲げ、着実にこれを実現していくとの決意を表明した。また京都議定書発効日の2月16日に京都で記念行事を開催し、温暖化対策の重要性を世界に発信していきたいと考えている。
・適応措置
適応措置に関しては、島嶼国を始めとする途上国の関心が高く、アルゼンチンのエストラーダ大使も適応への取組が不可欠との認識であった。途上国は先進国に資金面だけでなく技術移転でもより多くの支援を求めている。
一方、先進国はこれまでODA等で様々な支援をしてきたので、先ずは、これまでの支援を評価してもらいたいという考えがあった。日本政府代表団は日本がこれまで行ってきた途上国支援の実績をまとめた日本の適応支援策という「能力と自立の育成」と題する資料を会場で積極的に配布した。各国から日本の支援について、一定の評価を受けることが出来たと考えている。
途上国への資金支援・人材育成支援や温暖化に対する脆弱性の評価や持続可能な開発との統合などを内容とする「5カ年行動計画」の策定が決議されたことは、大きな成果と言える。今後5年間に渡って途上国支援における行動計画を策定していこうというものである。
・2013年以降の将来枠組み
アルゼンチンの提案により中長期的な将来の行動に関する「政府専門家セミナー」を開催することが決定した。このセミナーの性格付けをめぐって意見が対立し、色々な駆け引きが行われた。予定より1日延長した12月18日の午前中まで議論が行われた。日本やEUはセミナーに積極的であり、その成果を次回のCOPに活用して交渉に役立てて行きたい立場であった。一方、米国や途上国は将来の削減目標義務化につながる懸念があり、セミナーの開催に反対であった。結局今年5月の補助機関会合と合わせて開催され、結果がCOPにフィードバックされることになった。今後のポスト京都に対して、重要な進展であると日本政府は考えている。
途上国にも色々な立場の国が有り、意見の違いが表面化してきたという印象を受けた。水没の危機にあるような島嶼国、経済発展が著しい中国やインド、石油収入に大きく依存している産油国などが有る。今後は、多量排出国の米国も取り込まなければならず、今後の交渉に当たっては複雑な様相を呈している。
経済産業省 地球環境対策室長 坂本敏幸氏
  ・COP10全体
COP10の大きな成果は、政府専門家セミナーの合意と途上国に対する適応の支援策に対し一定の合意が得られたこと。アルゼンチンのエストラーダ大使のイニシアティブが大きかった。そもそも政府専門家セミナー議論の始まりは、昨年9月にCOP10の事前会合が開催された時に、エストラーダ大使からの提案であった。
適応に関する支援について、マラケシュ合意のディシジョン5の決定事項(途上国に対する適応支援、化石燃料の使用を減少させることによる産油国の収入減に対する先進国の対応)がある。産油国の補償に対する先進国と産油国の意見の違いが発展途上国の適応の議論全体まで影響を与え、何の合意も得られない状態が二年間続いた。COP11以降、次の枠組みと緩和の議論が長引くと予想されるので、適応についてCOP10で何らかの決着をしておくということが重要という認識が事前会合で確認された。
第二週に非公式な議論が多く行われた。政府専門家セミナーが3分の1、途上国の適応支援が3分の1、その他が3分の1という感じであった。その他については、非附属書Ⅰ国の国別報告書の提出頻度とタイミング・地球環境ファシリティーの第四次増資・キャパシティービルディング・LDC問題・SBSTAでの適応などがあった。
政府専門家セミナーについて、将来の議論を進めたい日本・EU・カナダ・ニュージーランド・ノルウェーなどと、将来の議論は時期尚早とする米国・途上国という形で分かれた。年一回開催となった。最終的に、SB22と一緒にドイツ・ボンで開催することになった。エストラーダ大使より交渉から離れた雰囲気でセミナーを開催するべきという意見が出され、オランダやイギリスからホストしたい旨の発言もあったが、予算面などの観点からSB22と一緒に開催することになった。
開催日数については、現段階でも未決定である。
EUは政府専門家セミナーについて高く評価しており、現在の行動・将来の行動を議論する良いきっかけになると受け止めている。米国や途上国はEUの考えとは違うようであり、各国によって受け止め方に違いがある。
・CDM
CDMはCOP本体で議論が行われた。第1週のプレナリーにてCDM理事会議長からCOPへの報告から行われた。その後、プレナリーで議論が行われた。10年間米国の交渉官を続けている人も、COPプレナリーの場で、これほど活発な議論がされたのを見たことが無いと言っていた。
途上国側から省エネCDMプロジェクトの要望が強かった。
COPプレナリーにおいて、日本はMethパネルを含めたCDMプロセス透明性の確保と省エネ・地域暖房・交通・製品を輸出することによるCDMの必要性を訴えた。個別方法論の積み上げという従来の方法には限界があるので、CDM理事会のもとに専門のタスクフォースを設置して方法論を作っていく上でのガイダンスを提供するというアプローチを提案した。
透明性の問題に強く同意したのは米国だった。CDM理事会にオブザーバー出席が認められていない点について、CDM理事会のルールからして問題があるのではないかと主張した。
省エネプロジェクトの必要性について指摘したのは、EU・ネパール・コスタリカ・アルゼンチン・メキシコなどであった。
追加性に関する考えについて、インドは日本に非常に考えが近い。マラケシュ合意に記載されている追加性の定義というのは、将来の温室効果ガス排出量が減るということで追加性と記載されているのではないかという考えを表明し、元々の定義からすると非常に厳しい運用ではないかという意見があった。
インドから、原子力発電についてCDMにすべきとの意見があった。
エジプトについて、方法論の承認・CDM手続きについて簡素化すべきとの強い意見があった。
今回のポイントは、省エネプロジェクトの重要性がCDMに関するCOP決定文書に盛り込まれたこと。日本が提案したように省エネ・交通・地域暖房のような新しいタイプのプロジェクトについて、ガイダンスをトップダウンアプローチで形成していくことに合意は出来なかった。CDMプロジェクト参加者に、新しいタイプのプロジェクトの方法論を提案して頂き、提案のあった省エネ・交通・地域暖房などのプロジェクトについてCDM理事会は優先的に審査することになった。
優先的とは、甘く審査するという事ではなく順番について優先的ということ。  更に、個別方法論が段々提出された段階で統合方法論へつなげていくことになった。
省エネプロジェクトの取り扱いを含めたCDMの在り方について、今年の3月中旬に日本政府の主導により東京でワークショップを開催する。良い成果が出ればCOP11に反映していきたい。
HFC23の破壊プロジェクトについて、「途上国の持続可能な発展」に適さないと指摘したのが、コスタリカ・アルゼンチン・メキシコなどの色々な国々。
HFC23は京都議定書で対象になるものであるが、HCFC22の副産物。昨今指摘されているのは、HFC23の排出量を増やすために主産物であるHCFC22を増やすことが挙げられる。HCFC22はモントリオール議定書で規制されている物質。
京都議定書のために、モントリオール議定書で規制されている物質を増やしてしまうのではという懸念がある。新しく作られるHCFC22の生産設備やHCFC22の生産が増えてしまうようなケースについては、新しい方法論が必要ではないかというのがCDM理事会の結果であった。
・閣僚級会合「技術と気候変動」
途上国側から、技術移転やキャパシティービルディングの重要性が指摘された。
パネリストであるEUの環境担当委員は、技術を生み出すには政策的なインセンティブの付与、既存技術の実用化、革新的な技術開発促進、CDMを活用した技術移転の重要性を述べた。
マレーシア、モザンピークなどの途上国のパネリストはワークショップやセミナーは開催されているが、実際に技術移転は進んでいないということを強く主張した。また、今後CDMが普及されるので技術移転が進むのではないかという期待する声もあった。
日本は主に3点主張した。1点目について、長期的な技術開発はリスクもあるし時間もかかるので政府自ら推進していくことが大事。2点目について、セクター別に国境を越えて原単位を減らす既存技術の普及が大事。3点目について、先進国の知見を生かすことによって、途上国はこれまでの先進国以上に持続可能な経済発展をすることが出来る。
環境省 国際対策推進室長 水野理氏
  ・COP10全体
途上国側からすると、国連気候変動枠組条約というのは、先進国が温室効果ガス排出量の削減目標を達成するためのものだけではなく、先進国が適応やキャパシティービルディングなどの途上国支援を行っていくことを約束した条約でもある。
よって、これらの途上国に対する問題についても配慮しなくては、将来枠組みの話も進展しない。将来枠組みについて、米国のスタンスは強固なものが有り、EUと足並みが揃わない。
途上国でも立場の違いが浮き彫りになってきた。特に産油国は何でも反対というスタンスが有り、NGOなどからも批判されていた。
政府専門家セミナーについて、COPに成果をフィードバックすることに最後まで反対していたのはインド。
・適応措置
SBSTAとSBIで議論され、その後まとめて議論がされ、5カ年作業計画が決議
された。
適応ワークショップのポイントは以下の通り。
;適応は途上国だけの問題ではなく、先進国にとっての問題でもある。
;脆弱性の評価と適応が調和する形で進める必要がある。
;地域固有の知識を活用する必要がある。
;モデルの研究が重要。
;途上国における対処能力の向上、そのためのデータ整備が必要。
;情報交換が重要。
;持続可能な開発を促進するために脆弱性を低減させる必要がある。
適応は世界中の問題である。
議論がなかなか進まない。産油国は、化石燃料の輸出減に対する補償を主張。途上国は更なる援助を要求。
「適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」は、4章に分かれている。
最初の3章はSBIの議論をまとめたもの。最後の1章は、SBSTAでの議論における5カ年作業計画を作ることのまとめ。
適応に関する閣僚級会合の場で、高野副大臣は、科学的な証明はされてないもの
の気候変動が増せば異常気象も増すことの懸念・国民の意識変化が現れていること・適応は途上国だけの問題でなく先進国の問題でもあることなどを発言した。
・閣僚級会合「10周年の枠組条約;成果と将来の課題」
小池環境大臣がパネリストとして参加した。主な発言内容は以下の通り。京都議定
書の発効は重要な第一歩である。未批准国に批准を促す。日本は京都目標を確実に達成するため、追加的施策対策を実施している。
中国の主な発言内容は以下の通り。先進国の温室効果ガス排出量に不満足。共通
だが差異のある責任は大事。技術移転をスムーズにさせるメカニズムが大事。
インドの主な発言内容は以下の通り。技術移転が進んでいない。条約の実施が上手くいっていない。ほとんどの先進国の温室効果ガス排出量は1990年レベルより増加していることに不満。貧困削減と意識の向上が優先課題。
キリバスの主な発言内容は以下の通り。途上国も経済成長とともに排出量削減に取り組まなくてはいけない。
米国は、現実的なアプローチが大事。具体的な行動を積み上げることが大事。
・京都議定書発効記念行事
2月16日に京都で京都議定書発効記念行事を行う。 具体的な内容は環境省HPに掲載する。
林野庁 海外林業協力室調査官 赤木利行氏
  ・森林等による吸収量の推計方法等に関する指針(GPG)の京都議定書への適用
COP9で合意することが出来ずCOP10まで長引いたもの。最終的に決定。
附属書I締約国の吸収源目録の算定・報告の手法は、LULUCF-GPGを採用することで合意。
次期約束期間の吸収源の取扱いに関する対話の開始は、途上国の「時期尚早」という反対により合意できず。今後も議論を継続。
・伐採木材製品(HWP)の計上方法
現在、四つの方法が議論されている。日本は木材による炭素貯蔵効果を適切に評価すべきと主張。IPCCからどのアプローチにも適応可能なデータの推計方法の開発を進められていることが報告・了承された。今後も検討を継続する予定。(もともと第2約束期間以降の議論。)
HWP関連データの未提出国(日本含む)は8月までにデータの提出を招請。
・小規模吸収源CDMのルール等
定義:吸収源に懐疑的な中国は3,000tCO2を主張していたが、結局8,000tCO2以下と決定。又、プロジェクト期間(60年)の各年吸収量平均が8,000tCO2以下とするか、各年の吸収量が8,000tCO2以下とするかで意見が割れたが、結局は、各検証(verification)期間(5年)の平均が8,000tCO2以下であれば良いという折衷案が採択された。(従って、5年間で4万tCO2以下の吸収を念頭にプロジェクトを行うということ。)更に「途上国の低所得者層への参加」が要件として必要。
バンドリング:有効化、検証、認証に係る費用削減のため、締約国が複数のプロジェクトの提出を調整することも可能。なお、同一プロジェクト参加者、過去2年以内の登録、最も近い境界の登録が1km以内でなければ通常規模プロジェクトのデバンドリングではない、と判断される。
ホスト国支援:事務局はWEBを利用した情報交換の促進等を行う。附属書I国は、ホスト国のキャパシティービルディング支援を行う。
share of proceedsについて:もともと低所得者層の支援的性格を有することから、途上国支援のための収益分担金(share of proceeds)は不要と決定。CDM制度運営のための収益分担金は低めに設定。
・CDM理事会での検討状況
吸収源CDMの方法論は現在CDM理事会に2件提出されているが、EBの作業がオーバーフローしているため、COP/MOP1までに通すのが目標とされている。(これから1年近くあるが、それでも厳しいと予測されている。)
質疑応答
【ロシア関連】

Q1:ロシアの京都議定書批准後、同国とコンタクトはとっているのか?
A1(外務省・小野氏):ロシアは京都議定書批准の際、2013年以降の参加については保留という条件を付けたと報道されたが、それは正確ではない。2013年以降についてはあくまでも2005年末までにUNFCCC締約国間で交渉を開始すると決定されている。現時点でロシアが2013年以降の行動について保留していても大きな問題ではない。ロシアはJIに関心を寄せており大使館にも接触を求めている。日本としては、JIを実施できるよう体制の整備を求めている。

【CDM関連】
Q2:CDMの具体的な問題点、対応策等は議論されたのか?
A2(経済産業省・坂本氏):CDMのルールを具体的にどう変えるかというところまで議論・合意できていないし、それはCOPでまとまるような問題ではない。専門家を交えた話し合いが必要であり、そのためにも3月に日本主導で国際会議を行う予定。なお、CDM理事会の体制強化については多くの意見が出された。実際、資金が数百万ドルのオーダーで不足しており、CDM理事会も各国のvoluntary contributionを求めている。

Q3:日本からのvoluntary contributionは大きな意味があると思うが、検討されているのか?
A3:(経済産業省・坂本氏)既に経済産業省・環境省からCDM理事会に対して数千万のオーダーで資金供与している。増額については検討中。

Q4:省エネ方法論を優先的に審査することとなったが、日本からの省エネ関連方法論は提出されていない。日本にはCDMに成り得る省エネプロジェクトが存在するのか?
A4(経済産業省・坂本氏):日本に省エネプロジェクトに関する動きがないわけではない。CDM理事会17で省エネ方法論が2件追加されたし、経済産業省のヘルプデスクに持ち込まれる相談でも省エネ案件に関するものが一番多い。中国を始め、かなりの潜在性があると思われる。

Q5:省エネを進めるためには、国の政策が必要なのではないか?検討していることは?
A5:(環境省・水野氏)CDMへの補助によってCDMの形成を促進したり、フィージビリティースタディーを実施したりしている。また、基本情報の提供やセミナーも開催するなどして努力している。今後も拡張していく予定。
(経済産業省・坂本氏)世界銀行などのファンドなどはpay on deliveryだが、日本が行っているCDM補助はup front paymentであるため、ファイナンス面では大きな力になるはず。来年度からCDMの補助率も高まり50%をカバーするようになる。又、より運用しやすくする手段も検討中。

Q6:3月に開催されるCDMワークショップについて、オブザーバー参加は可能か?
A6(経済産業省・坂本氏):公開なので一般の方の参加も可能。ただ、会場の収容能力の問題はある。情報は経済産業省ホームページを参照。

Q7:COP10においてユニラテラルCDM(途上国関係者だけのCDM)に関する議論はあったか?
A7(経済産業省・坂本氏):京都議定書の中でのCDMは先進国と途上国のプロジェクトと位置付けられている。途上国はクレジットを保有していても、排出量取引に参加出来るのは先進国だけと京都議定書に記載されているため使えないので意味がないと思われる。基本的に日本としては、ユニラテラルCDMは認められないという見解。現在、CDM理事会にホンジュラスの小規模水力CDMプロジェクトが申請されたが、ユニラテラルCDMであるということで見直し要請が入っている。CDM理事会は次回の会合(EB18、2005年2月23-25日)で検討する予定。

Q8:COP10でCDMへのODAの利用については議論があったか?
A8(外務省・小野氏):ODAの流用は出来ないという決定事項はあるが、何を持って流用とするかの議論は未確定。ODAはもともと個々の案件ごとに検討するものであるため、プロジェクトのCDM化にODAを利用するのは問題だが、CDMプロジェクトの実施そのものに利用するのならば、当該ホスト国への資金が減額されているわけではないので問題ないと思っている。とはいえ、ホスト国との共通の理解が重要なため、そのための活動を積極的に行っている。

【吸収源CDM関連】
Q9:締約国全体吸収源CDMを促進すべきという共通認識があるのか?日本としては促進する動きはあるのか?
A9(林野庁・赤木氏):各国によって事情が異なるため一概には言えない。日本やカナダは出来るだけ利用しやすい柔軟性を持たせたルールを主張する交渉スタンスだったが、中国、ブラジルは吸収源プロジェクトをネガティブに捉えており厳しいルールを主張していた。小規模吸収源CDMについては、全体的にルールを簡単にするということで合意できていた。

Q10:伐採木材製品(HWP)に対する主要国の主張はどうなっているのか?
A10(林野庁・赤木氏):HWPの主たるアプローチ及び主張国は下記のとおり:
・デフォルト方式 → 伐採即排出とみなす方法。
・フロー方式 → 木材を利用した国の排出とみなす方法。木材輸出国が主張。
・プロダクション方式 → 米国・アルゼンチン等が主張。
・ストック方式 → 国内のストック変化量を排出とカウント。EUやノルウェー等が主張。
どの方式も一長一短があり、日本政府として「これが良い」という議論には至っていない。日本は、全体の80%の木材を輸入しているためフロー方式には反対。

Q11:森林の違法伐採と植林した森林の伐採の取扱いを変えるということは考えていないのか?
A11(林野庁・赤木氏):第2約束期間以降の話として、議論の整理を専門家が行っている。

Q12:海中の藻類も吸収源の対象にするつもりか?
A12(林野庁・赤木氏):COP10では海中の吸収源について議論していない。具体的なイシューについても承知していない。

【適応策関連】
Q13:環境省として適応策についてはどのように考えているのか?ODAや防災対策への資金を利用できるのではないか?
A13(環境省・水野氏):どのような影響に対して適応するのかはしばしば議論になっている。無論、気候変動に対する適応への対策だが、事実上その影響だけを限定するのは難しい。持続可能な発展対策の中に統合していくことが重要。一般論としては、科学・技術の面で、援助していくつもり。

Q14:今後、適応策について学術的にどのようなことをやっていけば良いと思うか?
A14(環境省・水野氏):地域別の影響を検出するモデルの開発等、地域毎の知見が役立つ。

【2013年以降の枠組み関連】
Q15:政府専門家セミナーはCOPに反映されないが、具体的にどのような形で議論が進んでいくのか?
A15:(環境省・水野氏)セミナーの内容はCOPで報告されないものの、各締約国には提供されるので、その違いに留意。なお、京都議定書3.9条には2013年以降の目標について2005年末までに議論を開始することと定められているが、日本にとってその条項は議論を始めるきっかけであり、京都議定書に定められることのみを行えば良いと思っているわけではない。日本としては、米国・途上国も含めた枠組みについて議論することを目指している。具体的にそのセミナーの結果をどのように利用していくかはセミナーをやってみなければ分からないが、今後の議論の「呼び水」にしたい。
(経済産業省・坂本氏)水野氏と同意見。京都議定書3.9条をそのまま読むと、先進国と経済移行国しか含まれていない。しかもCOP/MOPで議論することになっており、米国は既に外れている。従って、この京都議定書の条項だけでは不十分。COP10では米国も途上国も頑なであり、彼らを巻き込むには今後長い時間がかかると思われる。しかし、努力をしていく。
(外務省・小野氏)日本は世界の主要20カ国と、過去3年間に渡って将来の枠組みについて意見交換を行っている。今年も行う予定であるため、5月のセミナーに追加してこの会合を「きっかけ」にしたい。又、G8サミット(議長国:英国)でも気候変動問題が取り上げられている。米国が入っているため京都議定書についての議論には必ずしもならないと思うが、気候変動問題の重要性は高まると思われる。

Q16:将来枠組みについて環境省と経済産業省の案は統一されていないが大丈夫なのか?
A16:(環境省・水野氏)あくまでも中間とりまとめ。環境省と経済産業省が別々に検討しているのは事実だが、基本的なスタンスは共有している。具体的な部分については、調整しているわけではないのでバラバラな部分も当然ある。最終的には日本として1つの案を打ち立てていくつもりだが、もともと賛否両論ある非常に難しい事項であるため、各省庁で様々な意見を聞いて検討するのは、ある意味望ましい取り組み方ではないかと思う。
(経済産業省・坂本氏)中環審の7つの視点の説明を聞いて、経済産業省としても異論なし。

【京都メカニズム関連】
Q17:CDM以外の京都メカニズムについて議論は活発にされているのか?国際排出量取引はどうなるのか?
A17(経済産業省・坂本氏):JIの6条監督委員会(CDMのCDM理事会に相当するもの)はCOP/MOP1で立ち上げる予定になっているので、それまでにそれぞれの地域で候補者をあげる運びになるだろう。しかし、COP/MOP1まで待つ必要もないので主要国で議論を進めでも良いと思っている。(欧州からそのような提案も既に受けている。)
グリーン・インベストメント・スキーム(GIS)を利用して排出量取引をしようという動きもある。ファンドを設置して、AAUを売却して得られた資金をその国において環境目的の個別プロジェクトに使用するというもの。ブルガリアは2005年からGISを開始したいと述べているらしい。日本としては、CDM/JIのみではなくGISを利用してのクレジットの獲得も考えている。
(環境省・水野氏)CDM/JIについては積極的に進めていくつもり。特にJIについては、対象国を取り込んで進めている。

Q18:日本版ERUPT/CERUPTは行わないのか?
A18(経済産業省・坂本氏):政府がクレジットを国内プロジェクト参加者から購入するスキームは既に存在する。アップフロントで資金提供し、補助金対応額を国に提供してもらうシステムであるため、世界銀行のファンドやオランダ政府とはやり方が異なるが、100億円規模で進めている。このスキームを利用して欲しい。なお、国が直接クレジットを購入するやり方も検討中。

【イベント関連】
Q19:2月16日に京都で行うイベントはどのようなものか?
A19(環境省・水野氏):現時点であまり公開できることはないが、COP3を行った同会場で、夜6時から開催。ケニアのマタイ副大臣(ノーベル賞受賞者)からもメッセージを頂く予定。多くの方々に是非参加して欲しい。

【国内対策関連】
Q20:京都議定書の発効によって日本の国際対策・国内対策で何が変わるのか?
A20:(外務省・小野氏)京都議定書で定められている目標が義務となるという意味で変わるが、既に目標達成のために対策を実施しているので、活動としては変わらない。
(環境省・水野氏)法律上の位置付けが変化する(大綱→計画というような名前の変化等)が、活動自体は変わらない。
(経済産業省・坂本氏)国際面での大きな違いは、今までバーチャルなものであった京都議定書がリアルなものになったということ。今後、CDMだけでなくJIも実施され、GISも検討されるだろう。


会場風景
【講 演】 【質疑応答】
(矢尾板 泰久)

▲先頭へ