地球温暖化問題(気候変動問題)に関する政策決定において科学的側面 からインプットすることを目的としているIPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change) は,Watson新体制の下,第3次評価報告書 (TAR; the Third Assessment Report) 作成に向けてスタートした。
この新体制の仕事は,
TARの作成(主目的)
政策決定者へのサマリー (Summary for
Policy Makers) 作成
各種 特別報告書 (Special Reports)
作成
各種 統合報告書 (Synthesis Reports)
作成
各種 技術報告書 (Technical Reports) 作成
となっている。今回,1998年6月29~7月2日に,ドイツのボン近郊のBad Munstereifelにおいて行われた「スコーピング%ミーティング」は,この中の TARおよびLUCF (Land-Use Change And Forestry) の特別報告書等に関する「方向性」を議論する場として位 置づけられている。
参加者は,3つのワーキング%グループのコアとなる研究者等で,総勢150人程度,日本からは清木副議長始め,柏木,森田,山口,山地 (以上WG III),西岡,原澤,三村 (以上WG II),中島,堀江,鬼頭 (以上WG I) の各氏,およびGISPRIから渡邊,松尾が出席した。
また,続いて,Bureau Meeting(7月3日)も行われた。
スコーピング%ミーティングの主目的は,3つのワーキング%グループの報告書の章立ての詳細に関して合意することにある。報告書作成にあたっては,各WGの各章ごとに,CLA(Contributing Lead Auther)を中心として、LA(lead author) が責任を持って執筆することになる(その他RE(review editor),CA(contributing author) が係る)。スコーピング%ミーティングにおいては,そのLAとなることが期待されているメンバーが,各章数名ずつでミーティングを持ち,事前の事務局資料をベースに,TAR各WG報告書の章立ての詳細の議論を行った。これは,最終的には,9月の全体会合において決定されることとなるが,その骨子はほぼ固まったと言うことができるであろう。
議論されたTARの各報告書の章立ては,以下の通 りである(さらに詳細な内容も議論されている)。
WG I:
1.Climate
System - Overview
2.Observed Climate Variability and
Change
3.Carbon Cycle and Atmospheric CO2
4.Atmospheric Chemistry and Radiative
Trace Gases
5.Aerosols and Clouds
6.Radiative Forcing of Climate
7.Physical Climate Processes and Feedbacks
8.Global Models - Evaluation
9.Global Climate Models - Projections
10.Approaches for Developing Regional
Climate (Change) Information
11.Change in Sea Level
12.Detection of Climate Change and
Attribution of Causes
13.Climate Change Scenario Development
14.Advancing Our Understanding
WG II:
I.Setting the Stage for Impact, Adaptation,
and Vulnerability Assessment
1.Overview
of Impacts Issues
2.Methods and Tools
3.Scenario Approaches to Impact Assessment
II.State of Knowledge in the Context of Climate and Other Regional/Global Change
4.Ecosystem
5.Hydrology and Water Resources
6.Food and Fiber
7.Coastal and Ocean Systems
8.Human Settlements
9.Financial Services
10.Human Health
III.Regional Analyses: Adaptation and Vulnerability
11.Africa
12.Asia
13.Australasia
14.Europe
15.Latin America
16.North America
17.Polar Regions (Arctic and Antarctic)
18.Small Island States
IV.Global Issues and Synthesis
19.Adaptability and Vulnerability (using
current scenarios)
20.Exploring Different Stabilization
Scenarios and Potential to Reduce Impact and Adaptation Consequences
WG III:
0.Introduction
1.Scope
2.Mitigation Scenarios
3.Technological and Economical Potential
of GHG Emissions Reduction Options
4.Biological CO2 Mitigation Options
5.Barriers and Market Potential for
Technology Penetration
6.Policy and Measures
7.Costing Methodologies
8.Global, Regional and National Costs
and Ancillary Benefits of Mitigation
9.Sectoral Costs and Ancillary Benefits
of Mitigation
10.Decision Making Frameworks
TARの特徴として,各WGの共通の課題となる部分を,Cross-Cutting
Issueと称して,共通の枠組みで統一的に扱う試みがなされる。これらのイシューは,
(1) Perspective on Development, Sustainability and Equity (WG II,
III)
(2) Costing Methods (WG II, III)
(3) Integrated Assessment (WG I, II, III)
(4) Frameworks for Decision Making, including Cost-Benefit Analysis
(WG II, III)
(5) Scenarios (WG I, II, III)
(6) Uncertainty (WG I, II, III)
(7) Biogeochemical Cycles (WG I, II, III)
(8) Sinks (LUCF)
が挙げられており,特に (2) のCosting Methodsに関しては,WG II, W IIIのジョイント%チャプターと位
置づけられており,清木副議長の寄与が大きく求められることとなった(その他,(1),
(4)にも関与)。
各章を担当するLAおよび,その核となるContributing Lead Author (CLA)に関しては,たとえばWG IIIのBureau Meeting等で検討された。日本も,数多くのLAと少数のCLAを推薦しているが,これらに関しても,9月の全体会合において決定がなされる。
6月のボンにおける補助機関会合において,条約事務局側から要請されたCO2の吸収源 (LUCF; Land-Use Change and Forestry) に関する特別報告書を作成することが,IPCCの重要な役割のひとつとなっている。この報告書においては,京都議定書に記載されている各種用語 (reforestation等) の定義や意味に関して,科学的な見地からの報告を行う。これは今後の議定書の数値目標やCDMと係ってくるため政策サイドから重要な意味を持ってくる。
この報告書作成に関しては,アウトライン案が提示され,Watson議長自らがタスク%フォースを組織することとなった。今後は,専門家のリスト作成を行ない,9月の全体会合の直前にスコーピング%ミーティングが行われる予定となっている。 なお,特別 報告書に関しては,その他,技術移転,航空機,排出シナリオに関する3つが作成中となっている。
WG I担当の英国が,温室効果ガス排出インベントリー(目録)プログラムに関して,充分なフォローが難しいため,新たなタスク%グループの設置を要請した。この問題に関する今後の方向性は,不透明である。
IPCCは,今回のスコーピング%ミーティングの結果
を踏まえ,今後のTARおよび各種報告書の作成に着手することとなっている。重要なイベントのスケジュールは,以下のようになっている:
1998年3月9-11日:
WGビュロー会合(モルジブ)各WG報告書の章立てと
CLA候補選出。
1998年6月29日-7月1日: TARスコーピング会合(ドイツ)
WG報告書構成の最終案作成。
1998年7月-12月末:
排出シナリオ特別報告書 Open Process
(コメント受付: http://www.sres.ciesin.org/)
1998年9月28日-10月3日: 第14回全体会合(ウィーン)
構成案の決定。
1998年11月2日-13日: COP 4(ブエノスアイレス)
1998年12月2-4日:
WG III LA会合(オランダ)他WGも随時。
1999年3月:
全体会合/航空機特別報告書の採択。
2000年4Q-2001年1Q: 各WG報告書
完成
2001年2Q:
統合報告書 完成
(松尾 直樹)