IPCC Expert Meeting on Costing Issues及びIPCCシンポジウム開催報告(1999/6/29~7/1、ホテル ニューオータニ)


平成11年6月29日~7月1日、ホテルニューオータニにおいて、IPCCに関係する専門家および政府関係者を招聘し、コストに関するIPCC Expert Meetingを開催した。また一般の方々を対象にIPCCシンポジウムを開催した。その概要を以下に紹介する。


会合の背景と目的

  IPCC第三次評価報告書(TAR)作成プロセスにおいて、各作業部会の共通 の課題となる部分を、Cross-Cutting Issuesと称して、共通の枠組みで統一的に扱うことが決められている。このうちの次の4項目、コスト手法、不確実性、政策決定枠組、開発・公平性・持続可能性(DES)の問題に関しては、ガイダンスペーパーを作成してきている。これらガイダンスペーパーの目的などは、各作業部会に関わる統一的枠組を提供することであり、また用語・用法の統一化をはかることである。このCross-Cutting Issuesに関する調整作業は、2名のIPCC副議長、Pachauri博士と谷口教授が行っている。

今回行われた専門家会合では、これらのCross-Cutting Issuesの内、コスト問題という、気候変動の緩和(Mitigation)および、その影響(Impact)と適応(Adaptation)にとり、重要な課題の一つである問題に焦点をあてて議論が行われた。コスト問題は、他のクロスカッティングイシュー、つまり不確実性、DESおよび政策決定枠組とも繋がる問題である。

今回のIPCC Expert Meetingには、コストに関係する専門家など約60名が出席した。主催は、IPCC、NEDO、後援は通 産省、環境庁、外務省で、会議運営をGISPRIが行った。世界各地から、広範囲な専門分野の出席者が選ばれたほか、日本からも数名が出席した。また、専門家会合のあと、一般 の方々を対象に公開シンポジウムを開き、IPCCの活動についての啓蒙広報活動を行った。

IPCC Expert Meeting会議概要

2日半の会合では、5つのセッションを行い、コスト問題の大半について集中した議論が行われ、非常に成果 の大きい会合であったというのが、出席者の一致した意見である。開催にあたり、高市通 商産業省政務次官より、日本で開催されることに対しての意義と各参加者への謝辞が述べられた。

この会合のセッションの構成は、

  1. コスト評価に関する過去のIPCCでの議論、
  2. 影響/適応と緩和に関する共通 した問題、
  3. 緩和に関する問題、
  4. 影響/適応に関する問題、(4.5)3と4の統合、
  5. まとめと政策関連の問題を含めたこれからの実践

であった。

第一セッションは茅座長のもと行われ、Halsnaes博士とMarkandya教授が、第二次評価報告書で必要とされたコスト評価の主な点を紹介した。次にMoss博士から、不確実性に関してプレゼンテーションが行われ、続くToth博士は、政策決定枠組の特徴をあげた。これに加えて、谷室長からは、急病で会合に出席できなかったEstrada-Oyuela大使作成の報告書も含めた、政策立案担当者の見解が披露された。議論で明らかとなった重要な点としては、公平性への配慮や、ディスカウントの時間的枠組、決定や行動のタイミング、市場の枠外の価値と副次利益、被害の推定、モデル手法、技術革新の組み込み、ノーリグレットオプション、そして炭素税や排出権取引を含めた政策ツールがあげられる。

第2セッションでは、上記の共通 問題について、引き続き、さらに掘り下げた議論が行われた。特に注目されたのは、コスト決定に関するタイム・ディメンション(時間的な枠組み)の問題である。Tol博士とMarkandya教授は、この問題の特徴について、経済的な観点から話があった。数値結果 が、ディスカウントレートの数値に大きく依存することが示されたほか、単一のディスカウントレートを長期にわたり適用することへの懸念が表明された。市場外と副次的な利益に関しては、Sokona博士から、プレゼンテーションがあった。この問題は重要であるが解決困難ということが、政策決定者の共通 認識となっている。Yohe博士は、アグレゲーション(集約化)から発生する問題についてプレゼンテーションを行い、気候変動が、平均値を移動させることより、変動幅を増幅させることの方が問題であると示された。この点から、ディスアグレゲーションの(非集約的な)評価を行うことが、実践的な面 では非常に重要となってくることがあげられた。

第3セッションとして、緩和(第3作業部会で扱う問題)に焦点を絞った議論がおこなわれた。Sathaye博士のプレゼンテーションでは、ボトムアップ策に関連する問題が取り上げられ、特に何種類かの取引コストの定義を含めたCDMプロジェクトの分析に焦点が当てられた。Tol博士は、ボトム・アップとトップダウンのモデル手法にどういう特徴があるかを説明し、それをハイブリッド手法などと統合させたものや、新しいハイブリッド手法を紹介した。柏木教授は、熱カスケードのようなエネルギーの流れに焦点をあて、具体的なボトムアップ手法例や、部門別 アプローチに関する研究を発表し、こういったアプローチは、大きなエネルギー節減につながる可能性を強調した。Halsnaes博士からは、自身のコスト曲線計算や社会コスト計算をもとに、途上国や市場経済移行国に特有の問題に関する発表があった。

第4セッションでは、影響と適応(第2作業部会の課題)に関するコスト評価の問題が議論された。Hanemann教授は、理論上の問題について、副次的な想定条件や最適化行動などに関する手法上の弱点に注目したプレゼンテーションを行った。Burton教授は、全体的に、適応に関する研究がまだ十分されておらず、関連するコストを定義するには大きな困難があることを強調した。政策上の観点からしてもこの分野はより多くの研究が必要であると見られる。Shackleton博士は、京都議定書の公約を組み入れ、他の可能な展開も加味することを目指したエネルギーモデルフォーラムEMF16の状況を説明した。Schneider教授は、通 常の経済やコスト分析の枠では扱うことが難しい、非連続あるいは不可逆な突発事項の重要性を説いた。これは、ある面 では、不確実性をどう取り扱うかの問題であり、より分析の枠を広げ、新しい手法を使うことが必要である。

第4.5セッションにおいて、Yohe教授は、政策決定分析のモデルで、コストを簡素化し、パラメーターで表現する手法を適用した場合の評価を行う上で、緩和と影響/適応の評価を統合した。技術革新や、適応コスト、そしてそのベースにある想定条件の問題も、議論された。

最後に、第5セッションでは、それまでの2日間での掘り下げた議論を踏まえて、Toth博士から、政策決定の枠組の中でコスト問題に関する見解が示された。同博士の見解は、クロスカッティングイシューのガイダンスペーパーの改訂版に反映されるとみられる。第三次評価報告書統合報告書の主要部分を構成する「政策関連の科学的、技術的、社会経済的課題」についても、コスト問題とより密接につなげる議論がなされた。全ての出席者やパネルが行った討議では、前日までに明らかとなった重要な問題について、政策決定プロセスに有用な情報提供を行うための検討が行われた。

IPCCシンポジウムの概要

IPCCの活動に対して広く啓蒙広報活動を行うため、現在IPCCが作成している第三次評価報告書、インベントリープログラムおよび特別 報告書について谷口IPCC副議長を座長として、Pachauri-IPCC副議長、Sundararaman-IPCC事務局長、Metz第三作業部会共同議長および各主要な執筆者から講演をいただいた。 一般 参加者は当初予定の120人を上回る約170人の方々の参加があり、IPCCに関して関心の深さがうかがえた。参加者からは、半日という短い時間でこのような著名な方々から講演をいただき、またIPCCの活動に対して、このようにまとまったシンポジウムはかつてなく、大変好評であった。

(事務局 渡邊広志)

 

 

▲先頭へ