地球産業文化研究所(GISPRI)について
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地球産業文化研究所の長期研究戦略
(2003年9月策定)

 標記については、2001年12月19日に開催された地球産業文化委員会で承認された「長期戦略」に示された基本的な考え方を維持しつつ、その後の経済社会情勢の変化を踏まえ、その一部について手直しを行うものである。

(調査研究活動の基本的視点)
1. 当所の調査研究活動は、これまでの地球産業文化委員会で審議されたように、
(1) 地球容量の物量的制約の深刻化(人口、エネルギー、食料、環境問題等)
(2) グローバル化、情報化、新たなナショナリズムの台頭等社会経済的条件の変化
(3) NGOや多国籍企業等新しいアクターの登場、新しい国際システムの模索、
という諸状況を総合的に捉える視点に立つ必要がある。
 また、個々の調査研究のテーマについては、上に述べた視点に立脚して、経済産業省、産業界のニーズを勘案しつつ、個々の地球規模の諸問題を適時、適切に取り上げていくこととする。

(調査研究分野の位置付け)
2. 当所の調査研究活動については、今後、それぞれの活動の意味や位置付けを明確にする必要があると思われる。

 第一は、持続可能性やガバナンスといった当所のコアとなる基礎的分野で、当所の諸活動の拠って立つ基本的な考え方を構築することを目的とする。同時に、この分野で、当所は、内外の研究に積極的に貢献する役割を果たす必要がある。

 第二に、経済産業省や産業界のニーズに即し、その委託等により行う研究活動で、現在、気候変動政府間パネル(IPCC)や国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に関する研究等を行っている。これらの分野では、委託等の趣旨に沿った質の高い研究が必要であり、継続的な研究活動を通じ、当所の専門性を高めていく必要がある。

 第三に、海外の研究所と協力して、ネットワークで共同研究を行うものである。当所の課題が、地球的規模の問題の解決に向けての視点の確立、普及にある以上、こうした海外の研究所とのネットワークの形成を通じた共同研究を推進する必要がある。

(スタッフの専門性の強化)
3. これまで、当所の調査研究活動は、外部の有識者や研究者のグループを組織し、それに委ねる形で実施されてきたが、当所の活動を上のように意義づければ、事務局的活動に止まらず、自らの調査研究能力を強化し、より質の高い研究成果の創出と蓄積を図る必要がある。このため、それぞれの調査研究活動を継続的に行いつつ研究スタッフの専門性を高めることに加え、分野によっては、時限的に学識・識見を備えた専門家の採用を行うとともに、機動的に客員研究員の活用を図ることが必要である。

(研究成果のインパクトを高める必要性)
4. 近年、各国の公共政策研究所は、単なるシンクタンクではなく、ドウタンク(Do-Tank)として、研究成果の普及、実行に向けて、具体的政策の提言、メディアの活用等による広報の充実、内外のネットワークの形成等を行っている。当所としても、今後こうした事業を充実する必要があり、そのための人的資金的資源の確保に努める。

 具体的には、
(1) 地球産業文化委員会を通じての提言
(2) インターネットウェブサイトのコンテンツの充実、海外広報の強化
(3) 内外のメディアとの連携
(4) 国際シンポジウムやセミナーの充実
(5) 海外共同研究のオルガナイザーとしての役割の強化

(各分野の事業)
5. 今後2〜3年にわたり、当所としては、以下の事業に重点を置くものとする。

(1)IPCC事業
 2001年9月にIPCC第3次評価報告書が完成したが、当所はその過程において、経済産業省から委託を受け、国内委員会の開催、査読、改訂作業への参加等報告書作成の様々な局面で積極的な活動を続けてきた。現在、2007年後半の完成に向けて、第4次評価報告書の策定作業が開始されているが、当所は、これまでの知見を踏まえ、人的資金的資源の確保を図りつつ、従来同様中心的な役割を果たしていく。

(2)UNFCCC事業
 京都議定書の発効が現実のものとなりつつあり、我が国でも温室効果ガス削減に関する国内制度の検討が進められ、京都メカニズムの利用を促進するための早急な対応が求められている。これまで当所は、クレジットの取引で顕在化するであろう法的論点や会計上・税務上の取扱いについて検討を進めてきた。今後とも京都メカニズムの利用に関する諸制度及びそのインフラ整備に向けた研究を実施する。また、WTOとUNFCCCや京都議定書との間に潜在する諸問題を検討し、貿易と環境の調和を目指した研究を進めていく。
 これと並んで第一約束期間終了後、米国や発展途上国も含めた全球的な取組みをどう再構築していくかも重要な課題となっており、次の段階に向けての持続可能な国際的枠組みのあり方についての検討を継続する。

(3)チャイナカウンシルへの協力、途上国との技術協力
 1992年より始まったチャイナカウンシル(中国の環境と発展に関する国際協力委員会)は、2002年より5年間に亘る第三フェーズの活動を開始した。当所は、第二フェーズにおいて「クリーナープロダクションWG」を通じて多大の貢献を行ったが、第三フェーズにおいても「クリーナープロダクションと循環経済タスクフォース」の活動を中心に積極的に参加するものとする。
 途上国との技術協力については、2002年度から資源循環型社会への対応とエコビジネス強化のための環境技術移転戦略に関する研究を実施している。

(4)ガバナンス
 この分野では、これまで総合安全保障問題、途上国貧困問題を中心に新たな国際協調の枠組みの検討を行ってきた。近年、多国籍企業の国際社会での影響力が更に強まり、またNGO(非政府組織)のプレゼンスの増大等グローバルガバナンスの構造的変化が起こりつつあるとの認識のもと、2001年度からはNPO/NGOと政府・企業の協働のあり方を探り、2003年にはこの研究成果に基づく政策提言を行った。2003年度からは、企業の社会的責任を考える研究会を組織し、持続的社会発展のための企業とステイクホルダーズのあり方とこれを広く社会的に定着させるための政策課題について研究を進めている。

(5)持続的発展
 この分野においては、これまでWRIとの共同研究であるSustainability2050で大きな成果を挙げたほか、地球温暖化問題の解決と両立し得る発展戦略の構築、IT革命が地球温暖化問題に及ぼす影響の分析等の研究を行ってきた。2002年度からは企業の環境問題への取組みをどう評価していくかの研究を進めている。これに加え、アジアにおける循環型社会形成戦略についての検討を行う。

(6)アジアの諸問題
 これまで日本のアジアとの関わりのあり方について、通商、経済開発・支援、直接投資、政治・外交、安全保障等多角的な検討を加えてきた。2002年度からはWTO加盟後の中国経済とそのアジア経済への影響に関する研究を開始し、中国市場におけるビジネス展開に存在するリスク及びその対応策について検討を進めている。更に、アセアンを含む東アジア経済圏の形成など、引き続きアジアの政治・経済・外交における諸課題について、世界の政治経済との関わりの分析や日本の対外戦略の構築という観点から、調査研究を行うこととする。

(7)グローバル化時代における日本の戦略
 グローバル化時代の日本の戦略に関わる研究では、2000年度まで日本の教育問題について、また2001年度からは、急速に進む少子・高齢化へ対応すべく、教育・福祉と経済の総合戦略についての検討を行い、2003年3月にはその成果を踏まえ、「少子・高齢化社会における日本の切り札」をテーマにフィンランドセンターとシンポジウムを開催した。
 また、日本の魅力を如何に海外に向けて発信していくかについて研究を進める。

(8)共同研究の実施
 上述のチャイナカウンシルに加え、2000年からは米国「大西洋協議会」、「インド産業連盟」、中国「持続可能発展南北研究所」とともにインド、中国における大気浄化の共同研究に参加した。また、貿易と環境を巡る問題について、米国「世界環境貿易研究所」と共同研究を行っている。