(早稲田大学理工学総合研究センター講師・高偉俊氏)
(1)都市人口
中国では流動人口が、沿海部の都市で非常に大きな問題になっている。例えば、上海市の流動人口はおよそ300万人で、統計上の常駐人口である800万人と、この300万人を含めれば1100万人にものぼる。今後の予測として、2010年までに都市人口が約50%増加すると言われている。特に、浙江省、江蘇省、広東省、上海など沿海部の都市化が目立ち、上海の都市化率(市街地面
積)を見ても、約150年間をかけて緩やかにその規模が拡大したが、過去25年間でその規模が倍増した。都市化が人口増加と一緒に発展していることがわかる。
(2)都市部のインフラ
中国国内の都市交通問題の解決には、公共交通の充実が最も重要である。自家用乗用車も有望な産業であり、発展させていく必要があるが、NOx、SOxの排出量
がより少ない車を低価格で生産することが実現すれば、中国の環境問題の解決に役立つのではないか。もう1つの中国の大きな問題は都市部での給水。統計上、普及率は非常に高いが、各行政が限ったエリアの都市部でのみ統計を出しているので、数値は高くなる。都市周辺部も含めて給水人口を調査する必要がある。下水処理率、ガス普及率の統計データも同様である。
(3)エネルギー消費状況と都市環境
中国のエネルギー構造はほとんど石炭が占める(70%)。中国北部は石炭の生産地でもあり、エネルギー消費構造の中で石炭が主体となっている。年間電力消費量
では、中国南部の方が多いことから、南部のエネルギー消費構造は石炭の他に石油やより良い質のエネルギー源を利用しているとも言える。都市別
NOx排出量の多い都市は、唐山、鞍山などすべて北部の工業都市で、これらは石炭の生産地でもある。SO2排出量
の状況では、重慶と貴陽は中国でも非常に汚染されている都市である。これに対して、現在通
産省が中国の3都市(重慶、貴陽、大連)をモデル都市として指定し、特にSO2の排出量
削減に力を入れている。
1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、CO2排出量が問題になっている。中国の生産力はまだ低く、1人当たり排出量
では少ないものの、各都市別で見ると北部の数値が非常に大きい。その中で、鞍山は石炭の主要生産地であり、その都市を訪問するにはマスクをかけないと、歩きにくい都市でもある。
(4)環境から見た中国都市の類型化
都市区域面積率、都市人口率、エネルギー消費、社会経済、インフラ、交通
・通信、環境の7つの基本指標(表1)を使用し、中国の全部の各省を分類した。その結果
、沿海エリアはIグループ、内陸部はIIグループ、その北部がIIIグループ、西部がIVグループと4つのグループに大きく分けられる。グループIの沿海エリアの上海、天津、北京、江蘇省、広東省の都市化の指標はすべて全国平均以上である。グループIIの内陸部エリア(山東省、河南省、河北省、湖南省、四川省)は、都市区域面
積や人口の増加が顕著であるため、交通・通信などのインフラ整備が急務である。グループIIIの北部エリアの環境指標は全国平均以上であるが、総合的にはまだ遅れたエリアである。さらに、チベットを含めたグループIVのエリアは、非常に貧しく遅れたエリアであるものの、都市公園面
積や緑化面積の項目を含む環境指標は最も高く、環境容量が十分あるエリアである。
表1 都市化に関連する項目指標
基本指標 |
項目指標 |
エネルギー指標 |
1人当り石炭消費量、1人当り原油消費量、1人当り生活用電力消費量
|
社会経済 |
1人当り工業生産総額、1人当り国内総生産、就業人口、第3産業人口就業人口 |
インフラ |
1人当り水道給水用パイプ総延長、1人当り給水総量、1人当り生活用給水総量
、1人当り生活汚水処理量、1人当り下水道総延長、1人当り道路総延長、1人当り舗装道路総延長、1人当り生活用ガス供給量
、1人当り生活用プロパンガス供給量 |
交通・通信 |
一人当り自動車保有台数、1人当り電話機台数、1人当り移動電話、郵便局数 |
環境 |
都市公園面積、緑化率、廃棄物排出量、SO2排出量、粉塵排出量 |
以上のように非常に発展しているエリアと環境がまだ大きく残っているエリアと2つの大きなグループに類型化して分析できる。この内、グループIの沿海エリアでは、地元行政府が都市計画の中にグリーンベルトを設置したり、日本製ごみ焼却炉を導入するなど環境保全に力を入れ始めている。これらの地域はある程度経済に余裕があり、これから環境ビジネスが発展し、環境が改善される可能性のあるエリアである。
(早稲田大学大学院理工学研究科
都市環境工学尾島俊雄研究室・李海峰氏)
(1)調査目的と方法
中国の都市化及びエネルギー環境問題研究の一環として、既に中国へ進出している日系企業を対象として、アンケート調査及び現地でのインタビュー調査を行い、現在、日系企業が中国でどのような都市インフラ及び環境問題に直面
しているかということをまず把握し、その上で、中国の環境問題による日系企業進出への影響を予測したいと考えた。また、その結果
を踏まえて、今後の中国における環境問題の改善に向けてどのような提案ができるかということを考えた。調査期間は1998年5月から7月の間、資本金100億円以上の企業を中心として、200社にアンケート調査を実施した。この内、有効回収数は72社で、電気機器メーカー等、製造業が大きな割合を占める。
(2)調査結果
2-1)調査企業の概要
上海、北京、大連等の都市インフラがかなり整備されている都市の方は、割合に日本企業がかなり進出していることがわかる。
2-2)中国に進出するに当たって最も重視した要素
72社中63社(ほぼ8割以上)の企業は、中国の(将来)市場が大きいということで中国に進出した。2番目は人件費の安さ。但し、業種にもよるが、中国では人件費が製品コストに占める割合はそれほど大きくないため、いかに現地で部品調達ができるか、コストダウンができるかということを重視している。
2-3)進出先都市インフラの状況
日本本社側の調査結果によると、進出後に直面した最も大きな都市インフラの問題は、電力供給、交通
(物流)、通信問題となっている。現地企業へのインタビュー結果によれば、中国では都市によってインフラ整備にかなり格差がある。北京や上海等の沿岸地区はインフラがかなり整備されている一方で、内陸部の都市インフラは全く弱い。水供給はほとんど問題ないが、水処理面
は全く弱い。中国のほとんどの都市は、全国平均で水処理率は大体2割しかなく、生活用水と汚水をほとんど分けていない。このため、特に製造業の場合は、河川の汚染により工業用水が使えないという状態となっている。交通
、物流に関しても、道路整備がかなり遅れている。これに対して沿岸地区は海に近く、船舶やいろいろな交通
手段があるため、ほとんどの日系企業は沿岸地区に集中して進出している。さらに、通
信関係については、例えば上海は中国第1、第2の大都市であるが、電話回線は少なくインターネットもなかなかつながらない。このため企業としては仕方なく、専用線を引いているのが現状である。
進出先地域のインフラ整備の満足度に関しては、「大変不満足」と「少し不満足」と合わせて44%を占め、「普通
」も38%あり、全体としてはやや不満足と言える。但し、この統計は、大都市への進出企業を対象としているため、地方都市のケースでは満足度が大幅に低下すると思われる。
2-4)進出先の環境規制
進出先都市の現状の環境規制に関して、5割の企業は日本より緩いと見ている。また、6割弱の企業は、そうした現地の環境規制が生産及び販売にほとんど影響を与えなかったと見ており、現時点では環境問題による日系企業の進出にはそれほど影響がなかったという結果
が得られた。
2-5)進出先への環境投資
現在、日本国内で環境投資を行っている企業は77%。これに対して、中国で何らかの環境対策を取っている企業は42%にとどまる。今後予定している企業は2割で、環境投資に対しては、日本側と中国側の重視度合いをある意味で表していると思われる。
中国現地での環境対策の基準に関しては、「現地の環境基準に合わせる」が38%、「日本と比較して厳しい方を適用」が13%、「可能な限り国内と同じにする」は45%、という結果
が得られた。
2-6)今後の対中進出の環境対策
8割以上の企業は、今後の中国の環境問題が日系企業の中国への進出に対して何らかの形で影響を与えると考えている。また、その中の約8割の企業は、影響項目として「投資コストが上がる」ことを心配している。このことは経済の利益性と環境問題の2つの問題に同時に直面
することを表している。
地球温暖化問題については、クリーン開発メカニズム(CDM)やCO2排出権取引等により、国際的な市場で改善していくという動きが最近見られる。そこで、中国にそのような意味の環境投資を行い、削減された分が日本に還元されるような仕組みが作られ、トータルコストが日本側にとって安くなった場合は中国に環境投資するか?という質問に対しては、5割以上の日系企業は積極的に環境投資を行うと考えている。
2-7)まとめ
中国に進出している日系企業は、都市インフラ及び環境規制など様々な問題に現在直面
しているものの、その問題に対しては、日本本社側と現地側の認識は少し異なっている。現時点では、進出企業は生産及び販売において中国国内の環境規制にまだそれほど影響されてはいないが、今後中国の環境規制は厳しくなることが予測されるため、今回の統計の中では8割以上の企業は投資コストが上がることを心配している。
しかし、例えば中国での環境投資が日系企業へ何らかのメリットをもたらすのであれば、その半数以上の企業が中国に環境投資を行いたいとの意欲を持っている。従って、今後、環境ビジネスという経済の流れの中で、日本側の企業が中国国内において環境ビジネスを起こして積極的に環境投資を行うことにより、何か利益をもたらすような仕組みを作っていく方が適切ではないかと考える。(了)