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地球環境 |
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1999年11月号 |
第36回地球環境問題懇談会
1.「地球温暖化と森林との関係」 今日は、「森林が実際に温暖化に対してどういう貢献ができるか」、次に「吸収源の定義」について述べます。 京都議定書のAnnexⅠの国では森林は吸収源ですが、非AnnexⅠの国では森林は排出源となり、合計すると森林自体は0.9Gt排出していることになります。森林減少の進行状況は、FAO(国連食糧農業機関)の統計では、1990年までは中南米やアジアで減少していましたが、1990年以降はアジアでは急速に森林の減少速度が低下し、逆にアフリカ・中南米は減少速度が増しています。アジアでは人口増加で農地を拡大していますが、中南米の方は、市場経済に巻き込まれ牧場の規模の拡大が進んでいます。この中南米の森林減少をどうとめるかが大きな課題です。 森林の炭素の吸収については下記の5課題があります。
バイオマスから木材製品の間で様々な形で炭素が蓄えられますが、この中で一番ポテンシャリティーの高いのが土壌です。日本の場合は、地上のバイオマスに対して3倍から5倍と言われています。 次に京都議定書の炭素の吸収源の考え方ですが、京都議定書の第3条3項では1990年以降の、「新規植林」、「再植林」、「森林の減少」の3つを考え、これを2008年〜2012年の期間で評価します。ここで問題になるのは「再植林」と「森林の減少」で、どちらも人によって解釈が異なります。そういう議論がこれから明らかになります。第3条4項ではadditional human-induced activitiesを述べています。今までは1990年以降に新しく植えた林だけを対象にしていますが、それに対して人工林まで入るとか、あるいは天然林まで入れるとか、様々な話があります。森林土壌は、一応第3条3項に入りますが、農耕地土壌はこれからです。また、バイオマス燃料の評価や森林の管理行為の評価をどうするかもあります。第6条(共同実施)と第12条(CDM:クリーン開発メカニズム)では、ほかの国と協力して行うということですが、CDMはAnnexⅠの国と非AnnexⅠ国の間で行うものです。但し第12条には排出源のみしか言及していませんが、現在のところ、吸収源も認めるという方向で、特別 報告書が書かれています。 次に「土地利用」、「土地利用変化と植林」という特別 オプションで議論されているのは、実際に森林に覆われている(Land Cover)かどうか、森林として使われている(Land Use)かどうかを判断基準にすることです。従って一時的に農地でも、国が森林と定義していれば、そのまま森林になる場合もあります。主に途上国では政府が森林として定めた場所に不法に農民が入って農地にしている。即ち実際は森林ではないが、統計上は森林のままで現れるという問題があります。またLand Coverという土地被覆の樹冠率の基準が国によって異なるという問題もあります。森林の定義、樹木の定義(成熟した樹高は?)、樹木の種類(竹、放牧地の孤立木、ゴム林、ココナツ等どこまで含めるか)でも変わってきます。新規植林、再植林、森林減少というのは、森林の変化、フローを見ることですが、被覆の変化で見るか、土地利用の変化で見るか、あるいは両方で見るかで大分定義が変わってきます。一番問題なのは、非常に樹冠率が低くなった疎林をもう1度戻したとき、森林とするかどうかということです。土地利用では森林として使っているので、新規植林にはならない。アメリカ、ロシアは疎林が非常に多く、この点について非常に関心が高い。 次にプロジェクトベースで吸収源活動を実施する際の手順と問題ですが、炭素の保存、炭素の固定、炭素排出を代替する活動の3つのプロジェクト活動があります。これまでの温暖化ガス削減プロジェクトの実績は、AIJ(共同実施活動)では、19カ国で30プロジェクト、1ヘクタール当たり14t〜120t程度。固定化の費用は1t当たり0.16USドル〜28USドル程度です。プロジェクト活動のポイントはLeakage(例えば住民が住んでいるところに森林をつくる。住民はよそに行き、森林を切る)と、Boundary(プロジェクトの境界はどこか:例えば森林をつくるとき、作業用の道をつくる。その道を通 って農民が、別の森林を伐採して農地をつくる。それはLeakageにつながる。こういったBoundaryをどこに置くか。)、そしてBaseline(プロジェクトを起こすときには、必ずベースラインをとれる場所も別 に設定し、それを評価する必要がある。後でCertificationの際、そのデータを出す必要がある。)です。従って第3条3項で国内で実施する場合には、森林を2008年から2012年の間に造り、その間の成長量 を計算すれば良い。しかし、CDMの場合にはベースラインとの差を見せる必要がある。 最後に、人口に対して森林が非常に多い国、ニュージーランド、フィンランド、カナダなどは、今の削減目標が意味を持たなくなります。このような不公平をどう是正するかが、今後大きな議論になると思います。 以上のような京都議定書の様々な問題点をどう整理するか、来年の5月に特別 報告書が出て、その後のSBSTA12とCOP6の両方で議論されますが、大きな問題になってくると思います。 (文責:事務局 寺田隆) 2.「中国への緑化協力」〜日中共同「万里の長城・森の再生プロジェクト」 (財)イオングループ環境財団(岡田卓也理事長)は、1991年1月に設立され、92年10月に特定公益増進法人に認定された。当財団の主な方針としては、環境保全活動全般 について、市民参加をベースにした活動を支援し、実施を行う。また、主な事業内容は、毎年日本全国及び海外で活動するNGOに対して公募を行い、助成・支援活動を行っている。 1993年から、当財団は日中環境問題国際シンポジウムを中国・環境科学学会と1年置きに共催し、95年の第2回シンポジウムでは、当財団から万里の長城付近での植樹についての提案を行い、それに対して中国側が賛同した。それを受けて、国際生態学会会長宮脇昭先生を団長とする調査団に、万里の長城付近の土地に適合した樹木についての現地調査を開始してもらい、その結果 「モウコナラ」という樹種の選定をして頂いた。それまで中国側では、松や杉などを植林しようとしたが、殆ど成功しなかったと聞いている。 現地のボランティアが、万里の長城から離れた自然林の中からモウコナラのドングリを30万個採取し、育苗場でそのドングリを育苗した。こうして、1998年7月に、「万里の長城・森の再生プロジェクト」の第1回植樹祭を実施し、日本から1,400名、中国から1,100名の合計2,500名のボランティアが参加し、48,000本の苗木を植樹した。その時の様子は日中両国の各メディアが取材し、数多く報道された。また、本年7月には第2回植樹祭を実施し、日本から1100人、中国から1,100人の合計2,200人のボランティアが参加して植樹を行った。 1998年の第1回植樹際で植えられた苗木は、中国側の調査によると、90%以上の活着率であり、本年7月時点では大きいものでは地上70㎝に伸びており、宮脇先生も着実に成長を続けていることを確認した。次回の植樹祭は、2000年5月4日に実施する予定であるので、ぜひ皆さんにもご参加いただきたい。 3.「森のリサイクル」―王子製紙の海外植林について― (1)海外植林の現状 日本の製紙会社は木材チップを世界中から輸入してきているが、今後はある程度循環する資源として植林し、伐採し、また植林するという形で、自社で確保していくという発想から海外植林を開始した。現在、王子製紙が植林を行っている事業地は、ベトナム、パプアニューギニア、ニュージーランド、オーストラリアの4カ国、8カ所である。当社の海外植林事業の目標は、2010年までに20万ha(東京都の面 積の約9割)を目指し、1998年までに約7万haが植林された。各プロジェクトは1万ha位 ずつの目標を持っており、1カ所の事業地でJR山手線の内側の1.5倍ぐらいの面 積を植えようとする事業である。10年間かけて、毎年1000haずつ植林すると、10年後から20万立方mの木材が伐採可能となることから、1万ha位 の土地が1つのプロジェクトとして必要である。 (2)海外植林の問題点 まとまった植林地の確保が困難であるため、まず1000haの本年分を確保し、地元の理解と協力を得つつ、徐々に植林地を確保する。地元と本当に一体となって溶け込んで信頼されることを10年間継続しないと、1本も木が返ってこないという事業であり、10年経過して初めて循環できるような経済的なベースになる。また全社的なサポートも必要である。例えばオーストラリアでは10年間で1万haを植林すると約40億円の投資が必要で、それが返ってくるのに10年間かかることから相当の理解がないとなかなかできない。 (3)CO2排出量 との関連 日本製紙連合会は「環境に関する自主行動計画」を策定し、2010年までに製品あたり購入エネルギー原単位 を1990年比10%削減し(省エネ)、国内外における植林事業を業界全体として55万haに拡大する。また、2000年までに古紙利用率を56%にする計画である。王子製紙の場合は、省エネ努力を行い、かつ、海外植林の増加分をCO2排出量 に換算すると、2010年のネットCO2排出量は1990年比でマイナス30%となるとの試算を行っている。 (文責:事務局 伊藤裕之)
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