地球環境
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COP9中間速報

2003年12月1日(月)〜6日(土),イタリア ミラノ

2003年12月9日
地球環境対策部
矢尾板泰久  蛭田伊吹


COP9開幕

 冬の雨が降り、地下鉄・バス・トラムといった主要公共交通機関がストライキになるという厳しい条件の中、国連気候変動枠組条約第9回締約国会議(COP9)及び第19回補助機関会合(SB19)がイタリアのミラノで開幕した。会場のフィエラ ミラノ(Fiera Milano)国際会議場を警察が警備する中、世界各国の交渉団やNGOなどが続々と集まった。11月30日UNFCCC発表の参加者リストには約4300人の登録がされている。

 会合初日の12月1日(月)午前10時に開催されたCOPの全体会合では、COP9副議長のEnele Sopoaga氏(ツヴァル)が会合を開きCOP9議長のハンガリー環境・水利大臣 Miklos Persanyi氏を紹介した。Miklos Persanyi氏は、京都議定書は未だ発効していないが、多くの国々による京都議定書発効の重要性の表明により批准されると語った。気候変動枠組条約事務局長Waller-Hunter氏は、大事なことは温室効果ガスの拡大を止めることだ。市場において技術をもっと促進させ少ないコストで排出削減することが大事だ。CDMのルールブックが完成し、森林関連の方法論が理事会で考察できるよう、CDMにおける植林、再植林の算入の方法について、今回のCOPで結論に至って欲しいと発表した。

 補助機関会合(SB19)は、議題ごとのコンタクトグループを形成し、コンタクトグループは、8日中に合意に至るよう事務局から指示が出されている。SBSTA/SBI議長が中心となって協議を開始した。
COP9議長のハンガリーMiklos Persanyi氏


吸収源CDMについて

 吸収源CDMのルール作りに関しては、12月2日に行われたSBSTAの全体会合にて最初の意見交換が行われた。各国は、pre-sessional会合での進捗を含め各国のスタンスを表明し、特にEUは有効期限付きクレジット案へ意見が収束してきたことをはじめ、クレジット期間についてはより長期に設定すること、モニタリングに関してはIPCCのLULUCFGPGを利用すること、社会・経済的事項に関してはホスト国の判断に任せ、EUが提示しているリストはプロジェクトを設計する際の透明性と一貫性を保つためのものであること等を説明した。また、カナダは保険つきクレジットアプローチの良さを改めてアピールした。その他、日本や途上国(セネガール、タイ等)の多くは小規模プロジェクトの重要性を述べた。また、G77+Chinaは、原住民(コミュニティー)のプロジェクトへの参加の重要性も訴えた。これらの意見を受けて、SBSTA議長は、pre-sessionalに引き続きThelma Krug氏及びKarsten Sach氏の共同議長の下コンタクトグループを設置した。

 翌日(3日)のコンタクトグループでは、Sach共同議長からpre-sessionalでまとめた共同議長によるnon-paperが紹介され、それを元に議論を行い最終的な規約作りを進めていくという道筋が提示された。Non-paperには、森林、炭素プール、プロジェクトバウンダリーといった定義がほぼまとめられ、「ベースライン」等言葉の定義ももともとの4つのオプションから2つへ絞られたこと、新しいAppendix E(吸収源CDMの環境及び社会経済的影響の分析に関する事項)等が示されている。また、Sach共同議長はリーケージ、有効化(validation)及び登録、ノルウェー案(外来種の扱いについて)、DOEの役割等にもpre-sessionalで目を通したことにも言及した。その他、合意に難航している外来種とGMOの扱い(ノルウェー案)、小規模吸収源CDM、非永続性に考慮したクレジット(iCER及びtCER)等の問題については、主に提案をしている締約国が代表となり異論のある締約国とコンサルテーションを行い、意見をまとめることとpre-sessionalで決定したことが説明された。なお、コンタクトグループですべてを議論し決定することは不可能に近いことから、20名程度(地域バランス等は考慮済み)の小グループでのコンサルテーションを行い、大筋での合意を試みることとなった。

 その後、5日にはコンサルテーションの進捗状況が報告され、6日にはルールの共同議長案、及びCOP決定案・COP/MOP決定案が発表された。ルールに関する共同議長案の主要点は以下のとおり:
1) 基準年については1989年末。
2) 非永続性を考慮したクレジットについてはTemporary CER(tCER:発行された約束期間の次の期間終了時に失効)と、Long-term CER(lCER:クレジット期間の終了時に失効)から選択できる。失効する前に他のクレジットとreplaceすることが可能。
3) 小規模吸収源CDMについてはホスト国が特定する低所得コミュニティー等が開発・実施する10,000tCO2/年以下のプロジェクトとし、10,000tを超えた吸収量分はクレジットとして認めない。
4) ポジティブ・リーケージについては認めない。
5) クレジット期間については、最高20年で2回まで更新可、又は最高30年で更新不可から選択できる。
6) プロジェクト活動が環境・社会経済に負の影響を及ぼす場合は、ホスト国が提示する評価手順に従って評価を行わなければならない。(Appendix Bに記載されており、Appendix Eは削除。)
 なお、小規模吸収源CDMのM&P及びその実施を促進するメカニズムについては2004年2月末(未定)までに各国が意見を提出すること、外来種及びGMOを利用するプロジェクト活動の実施に関してはホスト国が評価し、そのようなプロジェクト活動から発行されたクレジットの利用については附属書I国が評価すること、吸収源CDMには出来る限りIPCCのLULUCFGPGの適用を奨励すること、及び、第2約束期間以降の吸収源CDMの扱いは第2約束期間の交渉で議論することがCOP決定案に記載されている。


IPCCTARについて

 IPCCの第3次評価報告書(TAR)をどのようにUNFCCC(SBSTA)の活動の中で利用していくかということについて検討している当アジェンダは、SBSTA16、17、18と大揉めした結果、SBSTA19から新しいフェーズに入った。SBSTA18で決定した2つのアジェンダ(「気候変動の影響、脆弱性、及び適応措置の科学的、技術的、社会経済的な側面について」、「緩和措置の科学的、技術的、社会経済的な側面について」)の下で検討されることになった当事項は、TARを「定期的に参考にする資料」と位置づけており、TARという名前の下で検討している割にはその報告書の内容とは若干異なるところで議論されている。

 COP9初日のSBSTA全体会合ではThorgeirsson SBSTA議長よりpre-sessional会合での成果(要旨)が説明され、この新アジェンダ(TARというよりも「適応措置」と「緩和措置」)を検討するアプローチとして「情報交換や経験の促進」、「データ及び情報のギャップの特定」、及び「政策に相応しい分析」が挙げられた。また、適応措置・緩和措置が持続可能な発展に貢献する方法や機会についても言及された。SBSTA議長の説明に対し、G77+Chinaは新アジェンダの検討が途上国に対する新しい約束の導入につながらないこと、適応措置の必要性を考慮し長期的な措置ばかりに焦点を当てないことを述べた。また、EUは様々なアプローチを利用する必要性、日本は現実的なアプローチを利用する必要性を述べた。その他、サウジはこのアジェンダを条約4条の範囲内で検討すること、USは適用・緩和を「持続可能な発展に貢献する方法と機会」と「長期計画」の2つに分けて検討することへの不満を述べた。以上の意見を得てSBSTA議長は自らが議長となりコンタクトグループを設置した。

 最初のコンタクトグループはその晩に行われ、2つの新アジェンダの下で取り扱うタスク、SBSTA20(2004年中旬)までのステップ、及びCOP決定案について議論を行った。議論の中で、サウジ、オーストラリア、及び中国は「現実的なステップ」ということに重点を置き、特にサウジは長期的な作業プログラムを作成することを提案した。また、オーストラリアとノルウェーはSBSTA20にてラウンドテーブル会合を行うことを提案した。その他、US、日本、カナダは情報交換の重要性を述べ、NZは情報交換センターを設立することを提案した。SBSTA議長は以上の意見を元にSBSTA結論案及びCOP決定案を作成することとした。

 4日には第2回目のコンタクトグループが開催され、Thorgeirsson SBSTA議長からCOP決定案及び結論案が提示された。決定案は、特に何かを「決定」しているわけではなく単にこの議題について扱っている理由(締約国が国民に対し気候変動を紹介し、条約の目的を達成するためのオプションを決定する際に参考になるように。)や扱う主なテーマ等を明記するにとどまっている。また、結論案にはSBSTA20(それぞれのアジェンダについてラウンドテーブル会合を行う。)及びそれまでの活動(事務局に、締約国や国際機関等の気候変動の脆弱性、影響及び適応を評価する方法に関して技術報告書をまとめてもらう。)について示している。議長案に対して、G77+Chinaは現時点でCOP決定を提出すること自体に反対し、結論案と決定案を統合して1つの結論案を作成することを提案したが、オーストラリア、EU、日本等に反対された。また、ワークショップを行うことも提案したが、目的が見えないということを議長から指摘された。更に、事務局が適応措置に関する方法を技術報告書にまとめるという点について、G77+Chinaから事務局がまとめる(優先順位をつけてしまう)ことに懸念が示され反対された。EUは適応措置のみでなく緩和措置についても同じように報告書を作成すべきであることを指摘した。カナダは事務局が作成するのではなく、各国が意見を提出し事務局が編集することを提案した。その他、オーストラリア及びノルウェーから、このアジェンダの下では情報交換に焦点を置くことが強調された。以上の議論を受け、議長はG77+China等と個別に議論をした上で、今後どうすべきかを判断することとした。

 第3回コンタクトグループ(5日)では、まず前日の個別議論の報告が行われた。SBSTA議長は、G77+Chinaやアンブレラグループといった各グループの中では意見が統合されてきていること、プロセスだけではなく実施の段階に入りたいとすべての締約国が思っていること等を述べた上で、SBSTA20の会期中にそれぞれ適応と緩和に関する2つのワークショップを行うこと、新たな意見提出は要求しないことの2点を提案した。ワークショップに関しては、会期中に開催されることで多くの途上国からの参加を得られることから、サウジ、中国、オマーンをはじめとした途上国が賛成したが、ワークショップでどのような内容を議論するのかという最も大事なことを決定するプロセスにも参加したいことを訴え、EUやスイス等からの理解を得た。また、意見提出に関してG77+Chinaはまだ多くの国から提出がないことや前回の意見提出の主旨が明確でなかったことを指摘し"structured submission"を求めた。その他、COP決定の作成については前日と同じく、途上国は当アジェンダにおける議論がまだ不十分であることからその作成を頑なに拒否し、EU、ノルウェー、NZ、カナダといった先進国は、今まで2年間の議論の一応の結論として作成することの必要性を強調し、最後まで議論が平行していた。また、オマーンや中国は途上国を代表して、当アジェンダの作業はあくまでもお互いの理解を深めることを目的としており、今後の新しいプロセス(第2約束期間の約束)につながらないように訴え、オーストラリアに支持された。 

 5日の会合の最後には、新しい議長案が配布され翌日再び少人数で議論を行い午後のコンタクトグループまでにドラフトをまとめていくこととなったが、土曜日のコンタクトグループはキャンセルされ、月曜日にもコンタクトグループが予定されていないことから、議論は難航していると思われる。


技術移転について

 G77+Chinaは、先進国が可能な環境作りに向けて十分な対策を取っていない点とEGTTの資金が限られていることに不満を述べた。カナダは民間部門との関係の重要性を表明した。締約国は、SBSTAが行う技術移転の作業が他のフォーラムの作業を補完することに留意するよう合意した。会議の頻度について、EGTTメンバーが参加可能かどうか、予算上の制約も考慮する必要があるとEUが述べ、共同議長(英国・トリニダードトバゴ)が結論書草案を作成することになった。


キャパシティービルディングについて

 日本はGEFとUNFCCCとの協調を高めるよう促した。G77+ChinaはCOP決定書の実施進展を監視するため実績指標を作成するよう呼びかけ米国は反対を表明した。G77+ChinaとEUは、事務局の重要性と枠組実施でのギャップや欠点を考慮することの重要性を訴えた。

 締約国は以下の点で意見の一致をした。
1) 各国政府がテクニカルペーパーをレビューするべき。
2) ワークショップの必要性とタイミングについて、SBSTA20に向けて事務局が作成する途上国でのキャパシティービルディングの効果に関する文書に取り込む。


2004年度−2005年度の予算について

 日本は名目ゼロ成長予算を支持したが、EUは9%増を支持、G77+Chinaは9%の予算増に賛成し、主要予算に京都議定書の開発活動を含めることを支持した。一方、米国は予算の構造に関する懸念を述べ、事務局の基幹予算に京都議定書の開発費用を含めることに反対し、オーストラリアとともにUNFCCCと京都議定書の予算を分割するよう求めた。京都議定書の活動費は、京都議定書の締約国だけが資金提供するべきだとの見解を示した。John Ashe(アンティグアバ−ビューダ)を議長とするコンタクトグループが結論書草案と決定書草案を作成することになった。


付属書I締約国国別報告書について

 第3回付属書I締約国国別報告書は36の国々が提出をした。G77+Chinaは付属書I締約国における排出量増加の傾向に不満の意を述べた。サウジアラビアやアラブ首長国連邦等は途上国に対する対応策の影響に関する懸念の考えを示した。EUと日本は排出量削減に関する取り組みを報告し、京都議定書の目標達成の進捗状況を述べた。米国は京都議定書規定の約束に言及することは時期尚早であり、先進締約国による約束達成(4.2条a ・b)の解釈に疑問の考えを示し、国際航空輸送への着目に反対した。第二週も審議を継続することになっている。


非付属書T締約国国別報告書について

 米国はEUの支持を得て、地域ベースではなく国別報告書の作成状況に基づいて、ワークショップを企画するよう提案した。第二次・第三次国別報告書の提出について米国は非付属書締約国の国別報告書は初回の国別報告書の4年以内、後開発途上国には5年ごとに提出が必要との見解を示した。温室効果ガス目録の提出に関しては、非付属書T締約国は2年毎に、後開発途上国は国別報告書の一部として5年ごとの提出が必要との見解を示し、コンタクトグループはこれらの項目も検討課題に含め、COP決定書案を作成するよう要請された。


日本政府による状況説明について(12月5日10時00〜10時20分)

 日本政府による状況説明が行われた。経済産業省の坂本室長が説明され、30名以上が出席した。

 閣僚級会合が12月10日の午後から行われ、小池百合子環境大臣が第1セッションの閣僚級会合に共同議長として出席する。京都議定書の早期発行の重要性・途上国の取組の重要性・グローバルな参加の重要性などをスピーチする予定。また、省エネ、新エネルギーでの高いレベルにある日本の途上国への貢献・革新的な技術開発の重要性についても述べたい。

  各国の政府はデリーの時のような南北での対立構造は避け、将来に向けた考え方の信頼を築きたいという認識で一致している。

 シンクCDMについては、現時点で主要論点がまとまっていないものの日本が気にかけるシンクにおける小規模CDMについて反対している国が減少している状況。

 IPCCTARについて、SBSTA20からadaptationとmitigationの二つに分けた議題を設定することが決定している。SBSTA20以降のadaptationとmitigationのワークプログラムなようなものを考えようということで、どういう議論をするかを決めている。

 2004年から2005年にかけてのプログラム予算に関して、EUは柔軟な姿勢を示すが、カナダや日本は難色を示した。


 CDMの三つの論点
方法論について、ボトムアップ型の個別事例の承認しかされていないので、もっとトップアプローチ型の承認が必要という議論。
OEの設定が非付属書T締約国で必要。キャパシティービルディングや支援が必要。
CDMEBの傍聴について、もっとオープンに。

 EUがダブルアカウンティングを防ぐ名目で、CDM/JIとEU排出量取引(EU ETSをリンクさせ、EU域内におけるERUの発行(JIプロジェクトからの京都クレジット)を禁止するといういわゆるリンク指令を提言する案は、EU域内でのJIプロジェクトを実質的に難しくするものとして、欧州委員会と二者間協議を行い、日本政府として反対の申し入れをした。引き続き交渉が必要。

以上