地球環境
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SB20中間速報
2004年6月16〜19日 ドイツ・ボン
2004年6月20日
篠田 健一
蛭田 伊吹


 2004年6月16〜25日までドイツのボンで開催されている第20回補助機関会合(SB20)は、京都議定書の発効が未だ宙に浮いたままであるためか、非常に静かな始まりを見せた。全体会合に集まった代表団も少なく、傍聴席に至っては通常の半分ほどの席しか用意されておらず、まさに「つなぎの会合」といった雰囲気があった。しかし、何も重要な案件がないわけではない。小規模な吸収源クリーン開発メカニズム(CDM)のルール作り等COP10までに決定すべき内容は盛りだくさんであるし、SBSTA19で立ち上げられた「気候変動の影響、脆弱性、及び適応措置の科学的、技術的、社会経済的な側面」、及び「緩和措置の科学的、技術的、社会経済的な側面」の2つのアジェンダの一環として行われたワークショップも、各国が今後どのように気候変動への適応策、緩和策を進めていくかを見極めるために重要であると言える。また、交渉と平行して開催されているサイドイベントも、京都議定書の後、つまり2013年以降の各国のコミットメントに関する議論や各国の最新動向、京都メカニズムを利用していく上での疑問点等がテーマとなっており興味深い。
 SB20の第1週目が終わった時点で、SBSTAにおけるいくつかのアジェンダの議論の進捗及びサイドイベントの様子を以下に紹介する。

小規模吸収源CDMのルール作り
 SBSTAは、小規模な新規植林及び再植林CDMプロジェクトに関するルール及びそのようなプロジェクトの実施を促進する措置に関する決定文書をCOP10までに作成することを求められている。 初日の全体会合では各国のポジションが発表され、ラテンアメリカグループ、AOSIS、中国、マレーシア、ケニア等殆どの途上国は、小規模吸収源CDMのルールが低所得層コミュニティによって本当に実施出来るもの、つまり簡易でプロジェクトを実施するまでの費用が低く抑えられるものになることを強く望んだ。それはもちろん日本やEUも同意しており、全体的には前向きに取り組む姿勢が見られた。しかし、実際にはベースとなる資料そのものからして賛否両論を呼んでおり交渉は難航すると思われる。その他、中国、ツバル等はODAを流用しないことや、既に合意したルールの枠内で議論することを強調し、マレーシアは、このために新しいファンドを設立することを提案した。これら意見を受けSBSTA議長は、環境とコストのバランスを保った簡易なルール作りを進めるよう指示し、吸収源CDMのルール作りを今まで引っ張ってきたThelma Krug氏(ブラジル)を議長に指名しコンタクトグループを立ち上げた。
 コンタクトグループはさっそく翌日17日から行われた。まず事務局から技術報告書(FCCC/TP/2004/2)の内容について紹介され、Krug議長はその技術報告書のセクションIIIを小規模吸収源CDMのルールのたたき台にすることを提案した。しかしG77+Chinaはグループ内での協議が必要だとし、その日は決定が見送られた。17日のコンタクトグループでは、プロジェクトのバンドリングや、リーケージ、追加性、環境及び社会へ影響、モニタリング、低所得層コミュニティの定義等それぞれのトピックについて各国の意見が募られた。全体的に、ボリビアを始めする一部の途上国は、「低所得層が参加できるプロジェクト」というアイディアを最優先事項と考えており、従ってルールも可能な限り簡易なものにしたいという願望が感じられた。しかし、特に気候変動の影響を受けやすい小島嶼国は、安易に排出クレジットを発効させてしまうようなシステムを嫌い、小規模とは言え環境に対する影響を重要視し保守的なルールにするよう主張した。また、低所得層コミュニティの定義に関して日本、ブラジル、中国、チリ等多くの国がホスト国自身に決めさせることを望む等、ホスト国の意思を尊重し柔軟性を持たせたルール作りを目指しているように思われた。18日以降議論は非公式に行われており現在どこまで合意されているか明確ではない。今週も毎日協議が行われる予定になっており、最終日までにはCOP10に向けてルールのたたき台となる議長ノンペーパーが作成される予定である。

適応措置・緩和措置に関するワークショップ
 2つのワークショップは、各国が今まで個別に行ってきた気候変動に対する適応策や気候変動そのものを防止する緩和策について経験談やノウハウを条約の締約国間で共有し、より効率的に気候変動問題に取り組もうという目的の下企画された。従って通常の補助機関会合における交渉とは異なり国としてのポジションを訴える場ではなくあくまでもニュートラルな勉強の場となった。
 気候変動の影響とそれに対する脆弱性及び適応措置に関するワークショップでは、気候変動に対する社会や環境の被害の受け易さやそれら被害への適応策について小島嶼国や洪水や干ばつといった異常気象に頻繁に見舞われている地域の人々がどのように認識しているか、またどのような適応技術が存在し、それら技術の導入を阻むバリアは何かといったことが様々な地域からのパネリストによって発表された。その中で、現地の人々等利害関係者とじっくり話し合い、彼らが本当に必要としている適応技術を導入する必要性や、現地の人々の能力向上支援が不可欠であることが再確認された。また、気候変動の影響は一部の地域に集中して現れることも理解し、そういった地域を特定し重点的に技術援助等を行っていく必要性も指摘された。
 また、気候変動に対する緩和措置に関するワークショップでは、特に途上国が経済的な発展を第一に望んでいることから、緩和政策を各国の持続的開発計画の一部として盛り込むこと、緩和技術の開発・導入のネックになっているのは技術的問題でも資金的問題でもなく、マネージメントの問題である可能性があること、緩和政策はハードの問題だけではなく現地の人々や他の国際機関との協力といったソフトの部分が非常に重要であること、また、新しい技術だけではなく既存の技術も十分効果があることが指摘された。
 これらワークショップのまとめは21日の全体会合にてSBSTA議長から発表される予定になっており、その後各国のポジションが述べられSBSTAとして今後どのように作業を進めていくべきかが議論される予定である。

サイドイベント
 補助機関会合においてもCOPと同様にサイドイベントが開催される。今回は9日間の期間中計44件が開催される。昨年冬のCOP9に比べると半数以下だがサイドイベントに力点をおいてウォッチしている参加者も多い。
 イベントの主な内訳は、京都メカニズム関連が14件、緩和措置(Mitigation)・適応措置(Adaptation)関連が9件、将来枠組関連が9件などである。
 特に、全体の1/3を占める京都メカニズム関連のイベントは多様で充実している。EU排出量取引の開始が近いこと、CDM・JIとのリンク指令が欧州議会で承認されたこと、初のCER発行が間近いこと、CDMをより効果的に進める仕組み作りの必要性が高まってきていること、などを背景に関係者の関心も高まっている。

6月19日(土)までに弊所でウォッチした代表的なイベントのポイントは以下の通りである。
CDM理事会 質疑応答(第14回CDM理事会分)(6/16)
議長のキラーニ氏から13件中9件の新方法論が承認されたことや、DNA(Designated National Authority)設置が63ヶ国にのぼること、方法論を統合するアプローチ(Consolidated methodology:再生可能エネルギーによる電力置き換え案件とランドフィル案件が対象)について今後も継続して取り組むことなどが紹介された。質疑応答では、CDMの手続きの複雑さとスピードの遅さを厳しく指摘する声もあった。
気候変動政策に対応するための組織作り(主催 OECD)(6/17)
CDMの実施にあたり、ホスト国サイドのプロジェクト受入・実施に関する組織面の弱さが1つのネックであり、可能な限り「組織的なアプローチ:institutional approach」によることが重要であることが紹介された。国により事情は異なるとはいえ、CDMを確実に実施するには、ホスト国サイドにも専任組織は無理でも省庁横断的に気候変動政策を担うような組織が強化される必要があるとした。関連で南アフリカ協和国のDNAの考え方の例が紹介された。
JI(共同実施プロジェクト:京都議定書6条)について(主催 UNFCCC)(6/18)
モスクワで今年5月26、27日に開かれたJI実施に関するUNFCCCワークショップの紹介があった。関連してロシアからは透明でシンプルなルール作りに期待がよせられた。東欧諸国と西欧諸国や世界銀行PCFがMOU(Memoranda of Understanding)を結んでおり、これがプロジェクトを円滑に進める1つの鍵であることが紹介された。また、CDMの経験をJIに生かすことが重要なことも確認された。

GEO(Group on Earth Observation)とGCOS(Global Climate Observing System’s) (主催 アメリカ政府代表団)(6/18)
GEOは48カ国・29の団体から成り、EU・日本・米・アフリカの4共同議長で運営されている。今年4月25日第2回EOサミットで、10年実施計画(10-Year implementation plan)に関する概要文書が採択され、それに基づき行われる10年計画のドラフト策定作業の概要について紹介があった。対象分野は、災害、健康、気候、水、エコシステム、農業、生物多様性である。また、GCOSはこれらの作業に必要なデータの整備・メンテ等を行うことになるが、既存のシステムをうまく融通して機能を拡大し、世界規模で機能横断的に持続的な観測ができるものを目指すことでGEOと連携することが紹介された。

Bio-CF、Community Development -CF(主催:世界銀行)(6/19)
バイオカーボンファンドと、地域開発ファンド(CDCF)について紹介があった。
いずれも実施が難しいとされる小規模なプロジェクトが対象となっており、その成功事例と投資へのメリットが紹介された。特にCDCFは3〜6ドル/t-CO2という高いクレジット価格、多くの案件による幅広いポートフォリオによるリスクヘッジ、CDMの承認方法論を使う安全さ、2012年までに60〜70%の償還の保証などが紹介された。
また、カーボンファイナンスに関するコロンビアの3事例が紹介され(風力発電、水力発電・水供給、下水利用)、発電により既存の排出から低排出発電に置き換えることに加え、生じたクレジットによる資金によりさらにプロジェクト実施へ投資が続くSD-Cycle(持続的発展循環)となることが紹介された。また、CDM/JIのためのキャパシティビルディングや技術評価に関しCarbon Fundの案件をサポートするCF-Assistという世界銀行の組織についても紹介があった。
Ecological debt (主催 ベルギー政府、ゲント大学)(6/19)
自国の活動で他国の環境に悪影響を与える活動をEcological debt として定量的に把握する試みである。例えば、一人あたりの排出量が持続的発展を維持する水準より高い分をカーボン負債として定量把握するものである。要は排出者(汚染者)は、環境に対しダメージを与えた分だけ支払え(polluter pays)という発想に基づき、多国間の環境協定などでこの負債概念を用いて交渉・約束を取り交わすのがお互いの排出削減に有効である、というものである。温暖化対策という視点でも興味深いアプローチであるが、主催したベルギーのエネルギー事情がこの発想のもう1つの原動力であるとも考えられる。ベルギーは戦後すぐまではエネルギーを自給していたが、石油・天然ガス化に伴いほとんどを輸入に頼るまでになっている。エネルギーセキュリティ上輸入化石燃料からの脱出を図る必要があり、その危機感のもと事態打開の動機付けとしてこの枠組を提案していることも一面として感じられた。
以上