地球環境
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Vol. 12 No. 261
2005年5月31日、火曜日

UNFCCC政府専門家会合の概要

2005年5月16-17日



政府専門家会合は、2005年5月16日と17日、ドイツ、ボンのマリティム・ホテルで開催された。本会合の開催は、2004年12月、国連気候変動枠組条約 (UNFCCC) 第10回締約国会議(COP-10)で締約国が決定したものである。この決定と、その後行われたCOP-10での長時間の議論では、この会合は、気候変動プロセスが直面する広範な問題への対処方法を議論することとなっていた。これらの問題のうち、一部締約国が最優先項目としているものは、2013年以後での気候変動との闘いにおける約束および将来枠組(京都議定書は、2008-2012年の期間における排出目標を設定)である。また他にも関心が示された問題として、気候変動の証拠が一層強力になっていることへの対応方法、京都に関する見解の相違の問題、そして気候変動の緩和と適応での対処方法の推進が、含まれる。

COP-10では、特に2013年以後の枠組問題がいかに微妙な問題であるかが浮き彫りになった。京都議定書は、2013年以後に関し、2005年から検討を始めるよう締約国に求めている。しかし、開発途上国の多くは、拘束力のある排出目標の対象国を附属書I締約国から77カ国と中国のグループ(G-77/中国)のレベルまで広げようという努力に、これまで異論を唱えてきた。開発途上国は、共通に有しているが差異のある責任の原則からすれば、先進工業国こそ、その先頭に立つべきであると主張する。また京都議定書の非締約国に、今後の約束に関する協議に入ってもらうにはどうすれば良いかという問題もあった。

こういった懸念から、本会合に関する委託事項は、広範かつ一般的なままで、2013年以後の枠組など他の異論のある問題には特に言及していない。COP-10において、締約国は、この会合が、「(a) 緩和および適応に関係する行動で、締約国による気候変動への効果的かつ適切な対応措置の策定継続を助けるもの、そして(b)各国政府が採用する、既存の約束実施を助ける政策措置について、非公式な情報交換」を促進するべきものとすることで、合意した。

本会合からは、提案や交渉文書など公表される成果が出されるわけではない、しかし多くの出席者が、極めて建設的でオープンな議論であったと感じており、これは、各締約国が、他者の立場や状況を理解しようとしたこと、そしてそれに対応する革新的な方法を探り始めていたことの証しである。しかし、一般には正しい方向に向けた第一歩としか見られていなくても、締約国同士の温度差が現実に狭まる傾向も見られた。



会合内容報告

5月16日月曜日、UNFCCC事務局長のJoke Waller-Hunterは、政府専門家会合の出席者を歓迎し、この会合が、「この種のものとしては、UNFCCCの歴史でも最初のもの」であり、これが歴史的な出来事として記憶されるかどうかは、時がたてばわかるだろうと述べた。同局長は、このイベントが、2005年2月の京都議定書発効の後、UNFCCCおよび京都議定書の実施を考える機会であることを示唆した。同局長は、各締約国が、それぞれの多様な状況を反映して採用している気候変動問題の広範な対応策に関し、出席者に情報が提供されることになると述べ、この会合が、大気中の温室効果ガス濃度上昇を背景として行われていることを強調した。

出席者は、その後、二つの基調講演を聴いた。一つは、ドイツ連邦の環境・自然保全・原子力安全省大臣であるJurgen Trittinの基調講演で、同大臣は、地球平均気温の2℃以上の上昇を抑制し、このような気温上昇の結果としての「災害や不可逆的な損害」を回避するには、行動を起こす必要があることを強調した。同大臣は、京都議定書はその最初の一歩であるが、2012年以後も、前進努力を続ける必要があると述べた。同大臣は、気候を保護するには、政治的な意思が必要であることを力説し、この会合は、2013年以後の枠組つくりのプロセスとして、2005年12月の第一回京都議定書締約国会合(MOP-1)を成功裡に始める基礎を築くことができると述べた。

アルゼンチン健康・環境省大臣でCOP-10議長のGines Gonzalez Garciaは、この会合が、信頼と信用を改めて築き上げる機会であると述べ、2013年以後の体制を設計し、構築することが課題であると述べた。同大臣は、先進工業国が、その約束を具体的な行動で示し、既存のさまざまな気候基金を支援し、技術移転を遂行し、適応を支援するなど、開発途上国の懸念に応えるよう、求めた。同大臣は、信頼を築き「ポスト京都の体制における開発途上国の積極的な参加を図る」には、政治的な意思が重要であると述べた。

開会セッションでのプレゼンテーションの後、共同議長の小西正樹は、この会合がいくつかのセッションで構成され、それぞれのセッションでは、数人の異なる政府専門家によるスピーチと、それに続いて質疑応答が行われることを説明した。共同議長のChow Kok Keeは、この会議が非公式な性質のものであることを強調し、共同議長による結論書はないと述べた。


セッション1

最初のセッションは5月16日月曜日の朝、開催された。このセッションでは、中国、ブラジル、スイス、英国の政府専門家によるプレゼンテーションが行われ、その後、相互の質疑応答セッションが行われた。

プレゼンテーション: 中国:Feng Gao氏は、中国が現在石炭に依存していることを指摘し、エネルギー効率向上の必要性を強調し、中国におけるエネルギー構造最適化努力を紹介した。同氏は、省エネルギー技術の導入と利用、それに対応する政策的インセンティブとキャパシティビルディング(能力開発)、そしてそのような技術を開発途上国に移転する努力の強化と新しいメカニズムへの国際協力を呼びかけた。

ブラジル: Andre Correa do Lagoは、2013年以後でのUNFCCC、京都議定書、クリーンな開発メカニズム(CDM)の成功を確かなものにするための協力を促した。同氏は、ブラジルでのCDMの経験を紹介し、UNFCCCの目的達成や、附属書I諸国による約束達成の支援、および開発途上国においてCDMなしでは実行されなかった緩和努力を遂行する一方、その生活基準を向上させるために、CDMがいかに貢献するかを強調した。

スイス: Beat Nobsは、2013年以後も、温室効果ガス排出量削減にいっそう努力する必要があることを認め、国際枠組としては、持続可能な開発の確保、全ての主要な排出者を含めたあらゆる場所での温室効果ガス排出量削減、環境にやさしい技術の開発、利用、移転の促進、市場の力の活用、そして可能なら排出削減の予定表および目標値を、含めるべきであると述べた。

英国: David Warrilowは欧州連合(EU)に代わり、温暖化を2?C以下で抑えるとのEU案が、そのような温暖化によるプラスのフィードバックと破滅的な影響の可能性を起因としていることを強調し、排出量を削減しつつエネルギー需要の伸びを満たすことが課題であると強調した。同氏は、この問題を緊急なものとして扱う必要があることも強調した。

議論:日本は、中国が、エネルギーの節減と効率化に力を入れていることを歓迎し、これをどうやって達成するのか、中国の計画の詳細について質問し、技術協力を申し出た。これに対し、Feng Gaoは、中国におけるエネルギー需要に焦点を当て、水力と原子力の両方が批判される中、中国にはどういうオプションがあるかという問題を指摘した。同氏は、技術移転に関する強力な合意が必要であるとも付け加えた。

クック諸島とインドネシアは、CDMおよび共同実施 (JI)の将来の役割に関する問題を提起し、ルクセンブルグはEUの立場で発言し、ブラジルの再生可能エネルギープログラムについて質問した。これに対し、Andre Correa do Lagoは、開発途上国でのエネルギー・マトリックス中に極めて高い再生可能エネルギーの割合を持つことが可能なことを、ブラジルは実証したのだと述べた。

中国は、先進国が温室効果ガス排出量を顕著に削減し、開発途上国に手本を示すのは、いつになるのか疑問を呈した。ルーマニアは、第二約束期間での原子力の役割について疑問を提起した。同氏は、たとえば海水面上昇に対応するための防波堤や他の社会構造基盤を作るため必要とされるセメント製造からの排出量など、プラスのフィードバックの危険性を指摘した。


セッション 2

このセッションは、月曜日の午後早くに開催され、南アフリカ、ノルウェー、欧州委員会、米国からのプレゼンテーションと、それに続く質疑応答セッションで構成された。

プレゼンテーション:南アフリカ: Alf Willsは、将来(枠組)では、全ての国が参加し、各国の共通に有しているが差異のある責任を認める、強力な京都議定書とするべきだと述べた。同氏は、適応に関しては十分科学的な発展がなされていないことを強調し、南アフリカでの緩和と適応が「エネルギーの話し」であることを強調し、2005年後半、モントリオールでのCOP-11/MOP-1で交渉の「道筋」をたてるよう呼びかけた。

ノルウェー: Harald Dovlandは、2012年がたったの7年後であり、多くの部門では長期の計画期間が必要なことを考えると、極めて短い期間であることを強調した。同氏は、将来の気候体制の形態についてコメントし、将来体制には、差異のある約束と、柔軟性、報告書作成など、京都議定書のプラスの要素を含めるべきだと述べた。

欧州委員会: Artur Runge-Metzgerは、京都目標達成に向けたEUでの進展状況を紹介し、EUが、費用対効果の大きい政策や、多角的な利害関係者による手法、市場中心の手段、規制と基準、ラベル化や自主的な措置に力を入れていることを強調した。同氏は、EUの排出量取引スキーム(ETS)に関して報告し、このスキームが共同実施(JI)とCDMの関連付けを認めていると報告した。また同氏は、航空輸送部門、炭素回収と貯留、そして適応に関する作業について述べた。

米国: Harlan Watsonは、気候変動に対応する米国の政策を紹介し、UNFCCCでの約束を強調するとともに、全ての国が世代をまたがる努力を持続する必要性を強調した。同氏は、2002-2012年で、温室効果ガスの原単位を18%削減するというブッシュ大統領の「野心的な目標」を指摘し、人口の増加および国内総生産(GDP) の大幅増にもかかわらず、2003年の排出量が2000年より若干減ったとして、米国でのこれまでの進展状況について述べた。同氏は、国際レベルで十分参加するとの米国の約束と、持続可能な開発に対する米国の約束とを強調し、炭素回収と貯留、水素、原子力エネルギー、メタンの回収と利用に関するイニシアティブについて述べた。

議論: Harlan Watsonは、既存の技術に関するルクセンブルグからの質問に答えて、これらの技術が重要な役割を持つことに同意した。Artur Runge-Metzgerは、気候変動の影響削減で森林が果たす役割についてのボリビアのコメントに応じて、この部門が、京都議定書では部分的にしか取り上げられておらず、森林後退が適切に扱われていないことを指摘した。Harlan Watsonは、森林および農地に注目した炭素隔離を強調した。Harald Dovlandは、京都議定書での森林および吸収量問題の扱いに、特に満足しているわけではないことを指摘し、将来の体制では、建設的議論を十分行った上で、森林や吸収量を取り扱うよう希望した。Alf Willsは、水の制限を含めた南アフリカ固有な条件からすると、森林の問題は、炭素吸収源というよりも、脆弱性や適応の意味で考えられると述べた。

Artur Runge-Metzgerは、京都議定書で航空輸送が外されていることに関するブルガリアの質問に答え、欧州委員会は、この複雑な問題を検討しており、航空輸送を、将来の気候体制で取り上げるべきと考えていると述べた。Harlan Watsonは、航空輸送部門が、世界の一部地域では成長している部門であっても、米国ではそうでないことを指摘した。Harold Dovlandは、国際民間航空機関(ICAO)およびEUでのこの問題に関する議論について述べた。

インドネシアは、2013年以後の期間に関し質問した。Artur Runge-Metzgerは、EU ETSディレクティブにしても、CDMおよびJIのリンク・ディレクティブにしても、期限が設けられていないことを指摘した。Harold Dovlandは、あまりに複雑で遵守を効果的にモニタリングできないような体制を築くことにならないよう、注意するべきであると述べた。同氏は、将来枠組では、締約国を「附属書Iと非附属書Iに二分する世界」とするのではなく、多角的な利害関係者が参加する枠組にするべきだという、個人的な見解を表明した。


セッション 3

このセッションは、月曜日の午後に行われ、ツバル、アルバニア、韓国、オランダによるスピーチ、および質疑応答セッションが行われた。

プレゼンテーション: ツバル:Ian Fryは、附属書B諸国はエネルギー効率化と再生可能エネルギーに焦点を当てるべきであり、京都議定書の締約国でない諸国も、排出レベルを削減するべきであると述べた。同氏は、非附属書I諸国での排出削減と必要技術の購入を支援する、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率化技術基金を提案した。また同氏は、原子力をオプションとすることに反対した。Fryは、適応措置では、気候変動の影響に対する抵抗力を増強し、そのような影響により生じた被害の回復を図ることに焦点を当てるべきだと述べた。同氏は、適応への資金供与に関する新しい資金供与機関の必要性を強調したが、適応議定書の必要はないと述べた。

アルバニア: Ermira Fidaは、アルバニアの第一回国別報告書が同国での気候変動政策の本筋として用いられており、これには、同国でのエネルギー戦略の策定や、技術のニーズを満たす方法の明示が含まれると述べた。

韓国: Boo Nam Shinは、韓国でもまた世界規模でも、エネルギー需要の伸びが予測されていることを指摘した。同氏は、共通に有しているが差異のある責任の原則に基づく国際協力に焦点を当て、高効率技術の開発と普及、非附属書I諸国への技術援助を呼びかけた。

オランダ: Yvo de Boerは、EUの立場で発言し、政策の統合に注目し、エネルギー消費が増加していることを指摘した。同氏は、排出削減を経済的に魅力のあるものにする必要性を強調し、さらに京都議定書の教訓の活用を強調した。同氏は、国際社会が気候変動との戦いと開発の達成とのシナジーを活用するべきだと述べた。

議論: その後の議論で、インドは、締約国間に差異をつける新しい方法を明確にするよう求め、Yvo de Boerは、これらの方法は、UNFCCC の枠組に則って作られるべきであると述べた。パキスタンは、貧困層に経済力をつけさせる上での、再生可能エネルギー源の役割を強調し、サモアは、再生可能エネルギー技術移転の重要性を強調した。Ian Fryは、国際金融機関をより効果的に利用する方法について議論するよう呼びかけ、排出削減の必要性だけでなく、貧困削減の必要性も満たす方法をどう策定するか議論することを提案した。


セッション 4

このセッションは月曜日の午後遅くに開催され、カナダ、日本、モロッコ、インドのプレゼンテーションと質疑応答セッションが行われた。

プレゼンテーション:カナダ: Norine Smithは、プロジェクト・グリーンについて報告し、これは、カナダが京都の約束を確実に達成するステップを設定するものであると報告した。同氏は、プロジェクト・グリーンが、市場メカニズムやパートナーシップ基金、大規模排出者、カナダの消費者への情報提供、炭素隔離、環境上持続可能な社会構造基盤に焦点を当てていることを強調した。また、同氏は、気候変動の証拠が増えていることを強調し、すでに気候変動が起きており、カナダ北部などの地域社会に影響を与えていることから、京都以上のものを行う必要があるとの認識を強調した。同氏は、モントリオールでのCOP-11/MOP-1に向けた準備状況を紹介し、会合前の事前の協議プロセスに注目するよう呼びかけ、気候プロセスを前進させ、京都議定書の運用を可能とする助言やインプットを歓迎した。

日本: 西村六善は、京都の約束実施を目指す日本の新しい計画への注目を促し、この計画は、多様な利害関係者が参加するさまざま措置の「極めて大きなパッケージ」であると説明した。同氏は、気候変動が現実のものとなっており、その対応を遅らせるなら、さらに大きな被害を招くことを強調し、日本が指導的役割を果たしてきた技術革新を強調し、地球規模の行動を主唱した。同氏は、自由で率直な協議を支持するとともに、「上限を設け、懲罰的である」よりも、「励まし、力づける」ような「新しいパラダイム」を支持した。同氏は、低炭素社会へのロードマップを支持した。

モロッコ: Taha Balafrejは、モロッコが気候変動の影響を受けやすいことを強調し、これには、降水量や水の供給への影響が含まれることを強調した。同氏は、これからの進め方に関して、モロッコは地球温暖化と戦う実質的な方法の提案であれば、どれでも受け入れると述べた。同氏は、全ての先進国による約束が必要であることを強調し、気候変動の経済的な影響に関するビジネス部門の懸念に注目し、このプロセスを複雑でなく、柔軟性のあるものにするよう提案し、CDMの手続き簡素化を呼びかけた。また同氏は、適応に関する努力を高めるよう促した。

インド: Surya P. Sethiは、附属書I諸国での排出量が増加しており、これら諸国での削減は新しい気候政策措置から生まれたものではなく、東欧での経済移行や英国での石炭からガスへの切り替えなど「一時的な」出来事の結果であると、発言した。同氏は、排出傾向を予測するさまざまなモデルの限界を強調し、技術移転や資金移転への障壁に注目するよう求めた。同氏は、インドの排出レベルの低さは、貧困だけでなく、生活様式の選択に起因する可能性があることを指摘した。

議論: Surya P. Sethiは、さまざまな参加者からの技術移転に関する質問に答えて、開発途上国の資源不足を考えると、商業的な技術移転は、気候変動に有意の影響をおよぼすほど早くは進まないとして、特定の技術は、公的な領域に移すべきであることを強調した。Taha Balafrejは、これまでに先進国が行った努力と、その実績を、はっきりと理解する必要があることを強調した。同氏は、CDMプロジェクトの配分における公平性を改善し、システムを改良する必要性を指摘し、アフリカが十分な配分を受けていないことを強調した。西村六善は、炭素排出量削減への民間部門の参加に関するドイツの質問に応え、日本での任意参加プログラムについて説明し、Norine Smithは、カナダの大規模排出者との協議について報告してその協議の結果が排出原単位方法となったと報告した。西村六善とNorine Smithは、長期気候政策の展望に関する英国からの質問に応え、社会構造基盤への必要な投資を確保するには、長期計画が必要であることを強調した。西村六善は、エネルギー効率と保全に日本が長年にわたり巨額の投資をしてきたことを指摘した。Norine Smithは、異なる諸国のアプローチが似通うのは、おそらく学術文献の影響だろうと述べた。


セッション 5

5月17日火曜日午前中、出席者は、パプアニューギニア、メキシコ、オーストラリア、フランスの政府専門家によるプレゼンテーションを聴き、質疑応答セッションを行った。

プレゼンテーション:パプアニューギニア: Robert G. Aisiは、京都議定書が、開発途上国による森林後退回避行動を除外していることを強調した。同氏は、森林後退回避に対し取引可能なクレジットを発行する選択的議定書を提案し、マラケシュ・アコードを改定するべきかどうかを問うた。

メキシコ: Fernando Tudelaは、将来の気候体制について市場にシグナルを送るべきだと述べ、 COP-11/MOP-1での「モントリオール・マンデート」の可能性を提起した。同氏は、開発途上国間でのさらなる差異化が必要であると提案し、一人当たりの排出量に柔軟な形で行き着くという考えを紹介した。同氏は、CDMのプラスの部分も指摘しつつ、取引コストや、環境の十全性および効果のアンバランスなど、いろいろな懸念も列挙した。

オーストラリア: Jan Adamsは、主要排出者が、排出量削減の行動を起こすべきであると述べ、世界のエネルギー需要の伸びが主な課題であることを明らかにした。同氏は、再生可能エネルギーとクリーンな化石燃料技術の両方の開発における協力を強調し、火力発電、炭素隔離、クリーンな石炭技術が有望な代替技術であることを明らかにした。

フランス: Paul WatkinsonはEUに代わり、投資上の課題に焦点を当てた。同氏は、民間部門の投資決定に影響を与える必要性を強調し、気候政策を他の政策と統合することの重要性、貿易体制および世界貿易機関の果たす役割を強調し、炭素市場では、すでに2013年以後に関する不確実性の影響が出ていると述べた。

議論: 上記に続く議論で、モナコは、一人当たりの排出量が、将来の約束を決定する上で関連する検討事項となるはずだと述べた。エジプト、ロシア連邦、モナコ、その他は、CDMの複雑さなど、CDMにおける問題点を強調した。モロッコは、CDMは改善する必要があるが、CDMは気候変動に関する行動と開発を結びつけるものであることを指摘した。Fernando Tudelaは、CDMが経済面に着目でき、部門別のベースライン策定も可能なことを示唆した。

ハンガリーと日本は、開発途上国間での差異化が何を意味するのか質問し、Fernando Tudelaは、国として排出量削減にもっと努力できるなら、そうするべきであり、そうすれば、「race to the bottom (ビリへの競争)」を回避できると答えた。モロッコは、炭素排出量を一目でわかるようにするため、事務局が、附属書I諸国の貢献度に基づく、炭素温度計をホームページに掲載することを提案した。ロシア連邦は、民間部門の投資を促進するには、2013年以後に関する確実性が必要なことを強調した。ツバルは、小さな開発途上国による気候プロセス参加の問題を提起した。Paul Watkinsonは、EU ETSの結果、EUのビジネス界が、それぞれの排出量レベルを意識していると述べた。


セッション 6

火曜日午前中、出席者は、ニュージーランド、ドイツ、アルゼンチン、フィンランドのプレゼンテーションを聴き、質疑応答セッションを行った。

プレゼンテーション:ニュージーランド: Helen Plumeは、2007年での炭素税導入を含めた、ニュージーランドの気候変動対応策を示した。同氏は、ニュージーランド固有の状況への注目を促し、柔軟な解決策が必要であると同時に、全ての主要排出者をプロセスに含めるべきであり、広範な参加が不可欠であることを強調した。

ドイツ: Karsten Sachは、EUに代わり、技術と発明について発言した。同氏は、技術の市場への進出方法を見出す必要があることを強調し、一連の「push and pull(推進)」政策を紹介して、官民パートナーシップの役割について議論した。同氏は、京都の枠組は2013年以後に向けた優れた土台となると述べ、プロセスでの空白は許されないことを強調した。

アルゼンチン: Vicente R. Barrosは、2?Cという地球温暖化の許容範囲に関する警告を認識し、一部の熱帯および亜熱帯地域ではこれ以上の温暖化が予想されており、特に降水量、水の供給、水力発電および農業に影響が見込まれることを指摘した。同氏は、2013年以後についても行動をとることの重要性を強調し、これらの問題の議論を「今、始めなければならない」と主張した。同氏は、CDMの重要性を強調し、その範囲を拡大するべきだと述べた。また同氏は、炭素隔離と再植林の役割が重要であると論じた。

フィンランド: Outi Berghallは、適応の緊急性を強調し、気候変動と適応を開発政策に組み入れ、また各国のおよび国内地域の意思決定に組み入れるよう呼びかけた。同氏は、部門横断的なコミュニケーションを強化し、二重の努力を回避し、国際機関と他の多国間環境条約の間でのシナジーを見つける必要があることを強調した。

議論: Helen Plumeは、長期目標に関するハンガリーの質問に答え、ニュージーランドは長期の地球温暖化目標を採択しているわけではないが、そのような目標があれば、ビジネス部門にとっての確実性を増すことになるという、国際的な共通認識を示した。Karsten Sachはパキスタンからの質問に答え、再生可能エネルギー促進のネットワークつくりの重要性を強調し、アフリカがもっと効果的にCDMに参加できるよう、キャパシティビルディング(能力開発)の必要があるという、ケニアの意見に賛成した。Vicente R. Barrosは、排出量削減を促進するメカニズムの必要性と、CDMのさらなる発展の必要性を明らかにした。Outi Berghallは、ケニアへの回答で、各国における気候変動の影響の違いを認識することが、適応への第一歩であり、そのような影響への対応は、各国の事情に適合するものとするべきだと述べた。


市民団体のプレゼンテーション

市民団体の代表は、火曜日の午後早くに発言するよう求められた。このセミナーでビジネスと産業界組織の立場を代表するNick Campbellは、ビジネス社会が気候に関する努力に参加する意思を持っていることを強調し、締約国に対し、気候政策の広範な影響を考慮するよう求めた。

気候行動ネットワークのSanjay Vashistは、気候変動の影響がすでに出ていることを強調し、2013年以後に関する交渉のマンデートは、モントリオールでのCOP-11/MOP-1で出てくるべきだと述べた。同氏は、温暖化を産業革命前のレベルと比べ2?C以下の上昇に抑えるよう促した。同氏は、将来枠組ではクリーンな技術へのアクセスや正義と公平性、新規の資金供与、そして適応などの問題を取り上げるべきだと述べた。同氏は、「今の時点で、米国の参加が図れると、自分たちをごまかすわけにはいかない」と論じ、第一約束期間と第二約束期間での継続性を確保するため、直ちに議論を始めるべきであると述べた。また同氏は、「まったく新しいアプローチ」をとるようインドに求め、モントリオール・マンデートを支持した。

Saleemul Huqは、研究および独立非政府組織(RINGOs)に代わり発言し、気候変動への対応を強固なものとし、緩和と適応に関する行動を強化することを支持した。同氏は、RINGOsがこのプロセスにまい進すること、このプロセスが締約国の合意する方向で進められるにつれて、一層貢献していくと述べた。


セッション 7

火曜日の午後、出席者は、ペルー、マリ、サウジアラビアのプレゼンテーションを聴き、質疑応答セッションを行った。

プレゼンテーション:ペルー: Maria Paz Cigaranは、気候変動に対応する国レベルでの実際行動に着目した。同氏は、啓発キャンペーンと適応問題について詳述し、適応は地域的なものであるが、国際的な支援が必要なことを指摘した。同氏は、主要な行動者を明らかにし、啓発キャンペーンの対象を絞る必要があることを強調し、ペルーでの啓発キャンペーンのスローガンが「気候は変わる、そして私たちも変わるべき」であることを指摘した。

マリ: Mama Konateは、マリの国内モニタリング計画、そして農業従事者に天気情報を提供する気象情報システムについて、詳述した。これらは地域的な適応の好例であり、農村部の人口が行動を起こすことを可能にする。

サウジアラビア:Fareed Al-Asalyは、附属書I締約国がUNFCCCおよび京都議定書での約束を守っておらず、特に排出量の削減や援助および技術移転の提供を怠っていると述べた。同氏は、国際的な行動は、UNFCCCの規定に基づく必要があることを強調し、適応に関するブエノスアイレスプログラムは、不適切だと述べて、モデル化、保険、経済の多角化に焦点を当てるよう呼びかけた。

議論: ナミビア、ブルキナファソ、トーゴ、その他は、マリでの国内モニタリング計画と気象情報システムでの経験に関心を表明し、これを地域プログラムとしていくとの考えを提起した。エジプトとマレーシアは、技術移転の重要性を強調し、技術移転での民間部門の役割を強調した。ロシア連邦は、気候変動の影響結果に関する予測を改善するとともに、歴史的なそして長期の予測も改善する必要があることを強調した。

Maria Paz Cigaranは、適応に関するフランスの質問に応じて、各国にはさまざまな状況があり、異なる国々の経験から一般原則を導き出すのは極めて困難であると述べた。同氏は、現在のところ、気候の変動性に対応する能力の開発に焦点を当てることが、情報の普及とともに、最も有益な行動であることを指摘した。Mama Konateは、マリの情報システムはどの開発途上国にもあてはまる例であると述べた。Fareed Al-Asalyは、現在のところ、クリーンな化石燃料技術では石炭に注目する傾向があるが、サウジアラビアとしては、石油技術にも同様な努力が払われるのを希望すると述べた。Fareed Al-Asalyは、経済多角化に関するナイジェリア、英国、アルジェリア、ハンガリーの質問に答え、サウジアラビアは、経済多角化の努力を石油化学部門に集中させているが、適応という意味では、沿岸地帯の管理に重点を置いていると述べた。


閉会セッション

共同議長のChow Kok Keeは、火曜日の午後遅く、閉会セッションを開会した。同共同議長は、この会合が、極めて有意義な議論を生んだとし、専門家が、次の3つの主要問題について意見を述べるよう求めた:技術移転、適応、緩和。

何人かの参加者は、会合を振り返り、自由で率直な議論が行われた点で有用であったと述べた。ルクセンブルグはEUを代表して発言し、今後の共通する課題について、参加者間の「大きな共通認識」を明らかにした。同代表は、2013年以後に関する議論を再活性化するというEUの決意を指摘し、モントリオールでのCOP-11/MOP-1における、さらなる前進を希望した。

技術移転: 技術移転に関し、参加者は、技術移転の流れを強化し、京都メカニズムの効果を増大させる方法について、意見を述べた。カナダは、特定の技術に絞った戦略を支持した。米国は、マラケシュ・アコードで合意された枠組に注意を促した。同代表は、新しいメカニズムを呼びかけ、技術移転に関する専門家グループのこれまでの業績をたたえた。また同代表は、官民パートナーシップへの注目を強調した。ツバルは、技術移転を支援する新しい資金供与メカニズムを提案した。

CDMに関して、ボツワナは、手順を簡素化する必要があると述べた。中国は、CDMにはいろいろ難しいことがあることを強調し、CDMを強化して、追加オプションを検討するよう提案した。ナイジェリアは、技術移転仲介でのCDMの役割を強調し、CDMの強化を支持し、技術のニーズを評価することの重要性を強調した。カナダは、COP-11/MOP-1の前、2005年9月ごろに、CDMに関する非公式なワークショップ開催を申し出た。ドイツは、マラケシュ・アコードについて再交渉することはせず、CDMを強化するべきであると述べた。カタールは、CDM市場の活性を確保する方法として、罰金制度つきの強力な遵守システムを主張した。ウガンダは、CDM手法の再交渉は、あまり時間がかかりすぎることになると述べ、技術移転の商業的な特性に目を向けるよう求めた。

ブルガリアは、2013年以後の約束について市場にシグナルを送るよう呼びかけ、JIの成功を強調し、グリーン投資スキームについて説明し、必要なら締約国がこの新しいメカニズムへの指針を策定するよう提案した。アルジェリアは、CDM手順が複雑なことを嘆いた。インドネシアは、先進工業国に対し、より厳しい排出量目標を与えるなら、気候に優しい技術のコストが削減され、技術移転の速度が速まるだろうと述べ、さらに生活様式を持続することが技術よりも重要であることを強調した。インドネシアは、CDMに関して、運輸プロジェクトや、二酸化炭素の排出量を特に削減するプロジェクトを、より魅力のあるものにする方法を見つけるべきだと述べた。ケニアは、開発途上国における製造業を発展させる措置を提案し、CDMを修正しプロジェクトの公平な配分を確保するよう呼びかけた。バングラデシュは、CDMへの投資促進を市場に任せるなら、優れた社会構造基盤を持つ国にプロジェクトが集中すると指摘し、CDMプロジェクトの広範な配分を確保するメカニズムを呼びかけた。

適応: その後、参加者は適応問題を議論するよう求められた。フィンランドは、気候変動への取組みでは緩和がカギであることを強調した上で、適応も必要であると述べた。同代表は、適応と緩和行動は、互いに置き換えあうものではなく、補足しあうものであることを強調し、適応に対する国際的な取り組みは、緩和に対する取組みとは異なるはずであると、主張した。

インドは、適応措置では、増加コストなど緩和モデルに見られる措置を真似るべきではないことを強調した。セネガルは、技術移転を政治的意思決定に組み入れるべきであると述べ、情報の移転と科学面での協力の必要性を強調した。日本とバングラデシュは、気候の影響と脆弱性のモニタリングおよび評価を強化する必要性を強調した。バングラデシュは、防災を適応戦略に組み入れる必要性を力説した。ボツワナは、適応に関する啓発の重要性を強調した。

緩和: 緩和に関し、韓国は、共通に有しているが差異のある責任を強調し、現在の世界の化石燃料への依存度からすると、原子力オプションを前向きに検討する時機であることを指摘した。また、同代表は、経済面への配慮が2013年以後での議論促進を助けるはずだと述べた。

カナダは、UNFCCCと京都議定書に則って建設的な形で進めるにはどうすれば良いかが、今、重要な問題であると述べた。同代表は、多くの国での気候変動問題への取組み方法が相似していることを指摘し、各国および各部門を横断して努力を蓄積する余地がかなりあると感じていることを指摘した。

ルクセンブルグはEUを代表して発言し、気候変動との闘いと持続可能な開発の目的とのシナジー追求を支持し、温暖化を2?Cの閾値内に制限することでEU首脳が合意していると述べた。英国は、長期的なアプローチと短期的なアプローチの両方を併行して行う利点を強調し、英国の野心的な長期目標が、短期的な行動に、中身とインセンティブを与えていると指摘した。

サウジアラビアは、UNFCCCには緩和に関する明確なアプローチが規定されており、締約国は、それぞれの義務を果たすべきであると述べた。インドは、気候変動を資するような形で開発政策を策定するにはどうすれば良いかが課題であることを、強調した。同代表は、開発途上国がすでに気候変動に関する広範な措置のパッケージを実施しており、成功していることを指摘した。

閉会コメント: UNFCCC事務局長のJoke Waller-Hunterは、本会合の成果に関する質問に答えて、COP-10は本会合の議事録を公開するよう事務局に要請したと述べた。同局長は、議事録のビデオ放送がオンラインで利用できることを指摘し、全てのプレゼンテーションや議論の取りまとめも作成されると述べた(http://unfccc.int/meetings/seminar/items/3410.php)。こちらは、説明と事実に関するものであり、イベントについての判断は含まない。

共同議長の小西正樹は、この会合において「広範な問題に関する有用かつ建設的な情報の交換」が行われたことを指摘した。同共同議長は、多くの情報が交換されており、このことは、個別のそして集団による努力の効率向上に役立つはずであり、締約国間の信頼も築かれると述べた。同共同議長は、全ての出席者に感謝し、この会合がCOP-11/MOP-1への道作りに役立って欲しいとの希望を表明した。事務局、通訳に、そして会合を主催したドイツ政府、さらには、この会合の実施を可能にした全ての者への謝意を表明した。

共同議長のChow Kok Keeは、率直な情報交換であったと指摘し、参加者の前向きで積極的なアプローチをたたえた。同共同議長は、共通するビジョンを感じたと述べ、「100の異なる道を歩むかも知れない」が、全ての道が、持続可能な開発への道筋において気候変動と闘うという同じ目標にたどりつくよう希望した。同共同議長は、午後7時すぎに会合の閉会を宣言した。




会合の分析概要

UNFCCC事務局長のJoke Waller-Hunterは、5月16日、月曜日の朝、政府専門家会合の冒頭で、「本会合は、この種のものとしては、UNFCCCの歴史始まって以来のものである。[しかし]歴史的な出来事として記憶されるかどうかは、時が証明してくれるだろう」との観測を述べた。Waller-Hunterのコメントは、会議開始時の参加者の気分を反映したものであり、多くのものが、この会合に、いったい何を具体的に期待するべきか、わからないでいた。これは、多くの出席者が議論したいと願っている問題の重要性、およびその微妙さからきている問題であった。

会合開催は、2004年12月、 COP-10において、気候変動プロセスが直面するいくつかの広範な問題をどう取り上げるか、熱のこもった議論が繰りひろげられた後、決定されたものである。一部の締約国が何よりも優先するとした問題は、将来枠組と2013年以後での気候変動との闘いに関する約束であった。開発途上国は、非附属書I締約国の排出量目標を議論に載せようとする動きがあることに敏感となっており、また京都議定書の非締約国を次の約束に関する協議にどう入れるかという難しい疑問もあった。このほかにも関心のある問題があり、この中には、気候変動の証拠がさらに強力になっていること、京都の今後に対する意見の相違、そして緩和と適応の問題が含まれた。こういった懸念と敏感さがあることから、本会合に対する委託事項は、広範な形で設定され、一部の国の意見では、極めてあいまいなものになっている。


率直な議論と「安楽いす」論

この会合やその権限に関するCOP-10 での議論で見られた困難さを考えると、この会合が前向きな雰囲気の中で開会されたことは、多くの参加者にとってうれしい驚きだったようである。セッティングがリラックスさせるものであったことも一因と感じた参加者もいた。この会合の共同議長である、日本の小西正樹とマレーシアのChow Kok Keeがリラックスした形をとったことも、参加者をくつろがせたようである。さらに、壇上に政府専門家用の赤い安楽いすが置かれたことについてコメントする参加者も多かった。壇も低く、参加者に近いものとなっており、これもこの場の堅苦しさを和らげた。「テレビのトークショー」のセットと比較するものもいたが、「安楽いす」の利用や、「楽しい暖炉の前の会話」のような肩肘をはらない方式を歓迎するものもいた。

このような企画の細かいところが、前向きな雰囲気を作るのに役立ったのか、協議自体は、確かに率直で、隠し立てがなく、広範なものとなった。各国が、UNFCCCおよび京都議定書での約束を実現できるよう、緩和および適応に関して行っている行動について、自由な情報交換が行われた。またスピーカーが、2013年以後の議論や、これまでは扱い慎重さが必要とされたそのほかの問題について議論をし始めても、異議をとなえるものはいなかった。

参加者は、これまでの気候変動会議からはめずらしく外れ、自分たちの立場がどういうものかを議論するだけでなく、それぞれの立場の基となる懸念についても率直に議論したようである。各国の事情についても、かなりの議論がかわされ、多くのオブザーバーは、他の締約国の立場やこだわりを理解しようという願望が見られたことを、指摘した。ある参加者は、会議に関する委託事項が広範なものであったこと、そして特定の議題項目と結び付けられていなかったことで、スピーカーが「箱の外に出て」考え、話すことができたのではないかと、述べた。


内容と様式

「利用者に優しい」企画方式のほか、中身のある議論であったことも、多数のオブザーバーを喜ばせ、また各問題に注目するよりも手順に注目したことが指摘された。対立点のある問題で率直な議論が交わされており、こういった問題としては、技術移転、CDMの利点と欠点、適応と緩和、そして原子力に関するものなどについての自由な議論が含まれた。

この会合では、技術に関する議論が重要な役割を果たした。技術移転問題について、開発途上国は、この問題で先進工業国側からもっと大きな約束が欲しいという希望を明らかにした。参加者は、通常CDMをプラスの革新的な貢献をするものとみているが、手順を再検討し、能率化し、メカニズム自体の範囲も拡大する必要があることを認めた。また、新しい技術を開発する必要性にも焦点が当てられた。オブザーバーの中には、最近米国や他の数カ国が注目している、炭素隔離や「クリーンな」化石燃料といった技術問題を取り上げようとする気運が高まっているとの印象をもつものもいた。

多数の専門家が、気候変動の対応での資金面を強調し、特に行動が経済的な機会を提供し、費用対効果も高いものである必要性を強調した。さらに、経済面を理由に京都議定書を批判してきた者の考えへの配慮を願うものであると受け取るものもいた。ビジネスや産業界が、長期的な確実性を求めていることも、繰り返し強調され、2013年以後の枠組が明確になっていない中、適当な計画をたてられないでいることへの企業側の懸念も強調された。将来枠組の不確実性は、長期投資にはよくないという点で、共通認識があるようである。また多数の締約国が、気候変動の経済的な影響に関する証拠が増加していると強調しており、このことがこの会合での率直な議論に貢献したと感じる参加者もいた。特に、最近の会議で、産業革命前のレベルよりも2?C以上、気温が上昇した場合の危険性が認知されたことで、緊急な行動が必要との多くの締約国の信念がいっそう強まったようである。

この会合からのメッセージとしては、このほか、政治的な意思決定が有効な政策となるまでの時間差が長いことが挙げられる。このような考えが、2013年以後に関する議論をさらに率直なものにしているようである。一部の締約国が、COP/MOP-1において、2013年以後に関する交渉段階の道筋を明らかにする「モントリオール・マンデート」の締結を希望していることが、明らかとなった。この道筋が、UNFCCCの枠組の中で、直接、京都の領域を通るのか、それともいくつかの異なる道筋に進むのか、これは、多くの締約国が慎重に回答を避けている問題である。

COP/MOP-1はまだ6ヶ月先であり、「モントリオール・マンデート」の成果や可能性が、明確になるには程遠い。今回の会合で建設的な協議が行われたのは明らかであるが、締約国間の違いが実際に縮まった形跡はあまりなく、これらの違いは、いったん交渉が再開されるなら、すぐにも熱のこもった議論や、妥協しないことに変わる可能性がある。その一方、今回の会合が、信用を築き、他者の立場や状況を理解しようとする意思を実証し、これらに合致する革新的なやり方を模索していることに、異論を唱えるものはいないはずである。ある参加者は、この会合を「気候プロセスの新しい段階に向けた小さな第一歩に過ぎない」と評したが、「少なくとも、正しい方向に向けた一歩」だと付け加えた。



NEDOからの委託によりGISPRI仮訳