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ニュースレター
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1996年8月号 |
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IPCCの歴史と活動の概要1.組織と目的IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)は、気候変動に関する最新の科学的知見を取り纏め評価し、各国政府にアドバイスとカウンセルを提供することを目的として政府間機構であり、次の特徴をもっている。
IPCCの組織は、全体会議ならびにに作業部会からなるが、ビューロー(議長団)は、全体会議および各作業部会の正副議長ならびにに各地域代表により構成される。 なお、常設事務局は、ジュネーブのWMO(世界気象機構)本部内にWMOとUNEP(国連環境計画)により共同設置されている。 IPCCの公式会合には次の3種類がある。
この他に作業部会単位 でのビューロー会合が適宜行われている。 2.歴史1979年の第1回世界気象会議後に設置された世界気象計画を機に、WMOとUNEPは気候と気候変動に係わる研究を推進する決意を表明した。 また、気候変動に関する国際的課題が増加するにつれ、各国政府が効果 的な政策を講ずることができるように、気候変動に関する科学的情報を包括的に提供する必要性が高まった。 これらを背景として、IPCCの設立構想が、1987年のWMO総会ならびにUNEP理事会で提案され、1988年に承認された。 これを受けて、1988年にIPCCが設立され、次の項目について活動することが要請された。
3.活動[1]第I期:1988〜1992 IPCCでは、上記の目的に添って第1から第3の各作業部会を組織し、1990年に「来世紀末までに全球平均気温が3℃程度、海面 が約65・上昇する」ことなどを織り込んだ「評価報告書」が発表した。 同報告書は、気候変動に関する知見を集大成・評価したものとして高い評価を受け、基本的な参考文献として政策立案者や科学者などに広く利用されている。 また、同報告書は、1992年にリオデジャネイロで行われた国連環境開発会議開催のひとつの引き金になったといわれている。 さらに1992年2月には、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)交渉に寄与するため、気候変動に関する最新の情報を収録した補足報告書を発表した。 [2]第II期:1992〜 1995年に予定している第2次評価報告書の作成に向けて、1992年11月の第8回総会で、それまでの第2・第3作業部会を統合して新第2作業部会とし、新たに第3作業部会を編成する組織改正が行われたが、この改正の特徴としては以下の2点が挙げられる。
組織改正後のIPCCの編成は以下のとおり。 ◇第1作業部会:気候変動の科学的知見 前記の第8回総会で第2次評価報告書の概要について決定された後、1993年の夏までに各項目の執筆を担当する代表執筆者が途上国からの参加者を含めて選任され、その中から各項目の取り纏めを行う統括執筆者が選出された。 原稿の執筆にあたっては、国連発表文書のルールにのっとり、執筆と査読が繰り返されることとなる。 従来は、執筆者相互、執筆者以外の専門家、各国政府による3回の査読と再執筆が行われていたが、1994年11月の第10回総会で査読手続きの一部見直しが行われ、それ以降の査読は、専門家と政府を同時並行に行い執筆期間の短縮を図ることとなった。 なお、第2次評価報告書の一部は、気候変動枠組条約交渉委員会(INC:Intergovernmental Negotiating Committee for a FCCC)からの要請を受け、「特別報告書」として全体から先行して認められ、第10回総会で承認された後、1995年3〜4月に開催された気候変動枠組条約第1回締約国会議(COP:Conference of the Parties)に報告された。 第二次評価報告書の採択は、1995年の7月から12月にかけて開催された各作業部会の総会ならびにに第11回IPCC総会で行われた。 作業部会の総会では、政策立案者向け要約(SPM:Summary for Policymakers)が文章ごとに審議され議論が行われた。 審議された案文は、各国政府等の査読を経て何度も吟味を重ねて作成されたものであったが、自国の政策と報告書の内容をできるだけ合わせたいという各国の思惑もあり、文章の修正を求めて活発な意見が提出された。 各作業部会総会の先陣をきって開催された7月の第3作業部会総会では、修正意見が続出し、SPMの半分弱についてしか全体の合意を得ることができず、急遽10月に追加総会を開催することとなった。 この事件はその後の作業部会総会の運営への大きな警鐘となり、各作業部会のビューロー・メンバーはその後行われた総会に向けて万全の準備を強いられることとなった。 10〜11月に行われた各作業部会総会では、これらの準備のおかげもあって、何とか各作業部会のSPMの審議は終了し、SPMは採択(adopt)された。 また、各報告書本体各章については、SPMの採択後一括で審議に諮られ、SPMで行われた修正を反映することを条件として承認(approve)された。 12月に行われたIPCC第11回総会では、各作業部会報告書についての承認が行われた後、統合報告書(synthesis)について文章ごとに採択にむけて審議が行われた。 当初、統合報告は、気候変動枠組条約第2条の運用に資する諸状況を総合的にまとめることとなっていたが、各作業部会のSPMに含まれていない独自の表現はことごとく削除され、結果 として、各作業部会のSPMの総合版というものになった。 [3]今後の活動 IPCCは、昨年12月に第二次評価報告書(SAR)を採択し、1993年11月に始まった報告書作成に関連する一連の作業は終決した。 従来の予定では、1996〜97年は報告書の作成作業は行わず、SARの広報を行うワーク・ショップを各地で開催するとともに、1998年から執筆を開始し2000年の完成を目標とする第三次評価報告書(TAR)の内容決定およびそれに伴う作業部会および議長団の再編成などの作業を行うことになっていた。 一方、国際連合気候変動枠組条約が1994年3月に発効したことにより、締約国会議が組織され、条約9、10条に基づき締約国会議の2つの補助機関(SBSTA:科学的及び技術的な助言のための補助機関、SBI:実施のための補助機関)も発足した。 また、昨年開催された第1回締約国会議(COPI)において、2000年以降の目標について1997年の第3回締約国会議までに定めようというベルリン・マンデートが採択され、この検討を行うアド・ホック・グループも組織された。 締約国会議発足後は、SBSTAの活用が期待されるため、条約の実施に直接関連する科学的調査はこれらに移行され、SBSTAとIPCCの作業分担が行われると予想されていたが、SBSTAがその組織編成関連などで立ち上がりが遅れておりなかなか実質的な活動が開始されないため、危機感をもった枠組条約締約国会議事務局からIPCCに当面 の作業を依頼することが補助機関の会議で提案され決議された。 この依頼に対してどう対応するかを決定するため、3月末にIPCCのビューロー会議が開催され、枠組条約補助機関からの作業依頼への対応を含む今後のIPCC活動の方向について検討が行われた。 この結果、
補助機関の要請により作成することが決定された技術的報告のテーマと完成目標は以下のとおり、
SBSTAとIPCCの関係については、科学的評価などの実質的作業はIPCCが大部分を行い、SBSTAはその成果 を活用するという方式が確立されつつあり、IPCCの重要性が高まってきているといえる。 この点からも、IPCCの作業は、今後の気候変動に関する国際的な枠組みの形成に対して大きな影響を与え続けることが予想され、我が国としても、国連気候変動枠組条約とともに大きな比重をおいて対応していく必要があると思われる。 1996〜97年のIPCC活動は、総合評価報告書の作成ではなく、特別 報告の作成といった焦点を絞ったものが主体となるが、1997年のビューロー改正時に日本(通 産省)としてのビューロー・ポストを引き続き確保するためにも、積極的に貢献を続けていく必要が感じられる。 以上 IPCC第二次評価報告書作成スケジュール
これら以外にも各作業部会ごともしくは執筆チームごとの代表執筆者会議多数開催 第二次評価報告書関連のIPCCワークショップは、つくば(94年1月:環境政策)、フォルダレザ(94年4月:シナリオ)、ナイロビ(94年7月:公平性)、ナポリ(94年7月:トップダウンとボトムアップ)、フォルタレザ(94年10月:枠組条約第2条)など IPCC第10回ビューロー会議結果 報告1.開催月日 1996年3月28、29日 4.会議概要 今回会合の結果 は、9月にメキシコで開催が予定されているIPCC第12回全体会合に報告され、審議される予定。 (1)AGBM、SBSTA会合の概要について ボリン議長から、2〜3月に開催されたAGBMならびにSBSTAの概要について、Technical Paper(以下TPという)の作成、国別報告書のインベントリー手法の確立などIPCCの重要性が高まっているという報告を受けて、IPCCとしての対応が検討され、AGBMならびにSBSTAからの要求に応えてTPを作成することなどが決定された。 特に、SBSTAとIPCCの関係については、科学的評価などの実質的作業はIPCCが大部分を行い、SBSTAはその成果 を活用するという方式が確立されつつあり、IPCCの重要性が高まってきている。 (2)IPCCの当面 の作業について AGBMならびにSBSTAからの要請をうけて作成するTPについて作業分担と作業日程を決定した。 作成する6つのTPのうち、AGBMからの要請で作成する。“Policies and Measures”をはじめとしてAGBMが活用を予定しているものについては、12月のAGBM会合に間に合うように11月中にまとめること、他のものについても来年3月のSBSTA会合に間に合うように2月中にまとめることとなった。 また、TPの執筆者については、新たな執筆者を選任する場合には、IPCCのルール上、政府等からのノミネートから始めなくてはならず、選任に長時間を要することから、原則として、第二次評価報告書の執筆者から再任することとした。 作成するTPのテーマと作成時期は以下のとおり。
上記のうち、とくにAGBMの要請によるPolicies and MeasuresのTP作成にあたっては、WG2/SG-Aの成果を織り込む必要があるため、日本からの専門家(執筆者)の協力や、まとめにあたってのリーダーシップ発揮のためSG-A議長の協力が必要となる。 また、WG3からの要請を受け、Integrated
Assessment Modelのワークショップを1997年3月に東京もしくはつくばで、IPCC、国連大学、日本国政府(環境庁)の共催で開催することが決定した。
(3)議長およびビューローの交代日程ならびに選出方法について a.ボリン議長が次の作業に向けて再選を希望しないことを発表した。 b.9月のIPCC全体会合での新議長選出に向けて、選考委員会をつくることが提案され、構成が検討された。 c.9月以降新議長のもとで、第三次評価報告書作成にむけての作業内容の決定ならびに作業部会の再編成、新ビューロー・メンバーの人選などの作業が行われ、1997年の全体会合(日時、場所:未定)にて決定される。 d.ボリン議長からIPCC議長は以下の資質を要することが表明された。
e.ボリン議長の降番(9月)により、IPCC活動の新しい展開も考えられるが、SBSTA、AGBMに対するIPCCの役割の重大性を考慮すると、9月以降の作業計画策定ならびに新ビューロー・メンバーの選出について、とくに引き続き、ビューロー・メンバーとして参画することに十分フォローする必要がある。 (4)IPCC 1996−1997 budgetについて 一部の国から資金提供の申し出が来ている(米100,000CHF、英90,000CHFなど)が1997年のbudgetが不足している。 (5)今後の会議日程
IPCC第1作業部会「第2次評価報告書」の目次およびトピックス政策立案者向け要約
[トピックス] WG1は殆ど気象学会の延長であり、「政策立案者向け要約」以外は日本語で読んでも気象学の基礎知識がないと難解である。 IPCC第2作業部会「第2次評価報告書」の目次およびトピックス政策立案者向け要約 [トピックス] 従来のWG2(影響)とWG3(対応策)が合体したため、広い範囲をカバーしたWGとなった。 第2作業部会の第二次評価報告書執筆にあり、「影響と対応策」の各章では、気候変動枠組条約第2条の「気候系に危険な人工の影響を防止する水準」に焦点をあて、閾値(しきいち:threshold=作用を起こさせるための最小必要量 )の解明、脆弱性(ぜいじゃくせい:vulnerability=弱さ)などの解明と不確実性(uncertainty)の定量 化を主眼に執筆された。 また、緩和策の各章では、初めて、エネルギー供給、産業、交通 、人間居住、農業、森林管理、横断的事項とひろく各項目にわたって、かつ2100年という長期目標を設定して、温室効果 ガス削減の技術的ポテンシャルについて極力定量的評価を試みたところに特徴がある。 報告書の執筆にあたって執筆者が苦労したことは、各分野における解析を先進国・途上国・経済移転国の別 に解析を行うことが要求されたものの、現存する文献は先進国の解析が主体であり、途上国や経済移転国のデータがすくないこと、各解析はそれぞれ異なった前提をもとに行われているため、総合評価が難しいことなどである。 議長団(ビューロー)の先進国メンバーの専門分野は、議長のワトソン氏(米)が気象学、SG-Bのフェリンハ氏(蘭)が海洋気象学、SG-Cのベニストン氏(スイス)が地理(気象)学、SG-Dのブチ氏(仏)が環境庁系で、SG-A(塚本氏=日本:通 産省)以外のメンバーはエネルギー・産業のとくに緩和策の分野を不得手としており、この分野でのイニシアティブの発揮が期待されている。 第2作業部会の報告書の内容は、最初の重要目的が過去の流れおよび議長団の得意分野から「気候変動に関する閾値と脆弱性」に置かれたこともあって、「影響」に関してはかなりしつこく堀り下げた書き方がしてあるのに比べ、「緩和策」については、代表執筆者(科学者)の論点がストレートに反映されてたものとなっている。 IPCC第3作業部会「第2次評価報告書」の目次およびトピックス政策立案者向け要約
[トピックス] 従来の報告書(1990年、1992年)でIPCCがカバーしていたのは、気象に関する科学的知見、社会経済への影響と対応策(適応策と緩和策)など自然科学(+工学)の分野であったが、「第2次評価報告書」で“気候変動の経済的影響および対策”という社会科学の分野に踏み込んだ評価を行うこととなった。 これは、IPCCに対する要求が、単なる自然科学的解析の領域を越えるべき政策の評価まで広がり、各国が政策決定にあたり「広く調査した教科書」にまで及んだことに起因している。 今回の報告書では、“本報告書は経済的影響および対策を科学的に調査・評価を行うことを目的としたもので、政策決定にあたっての示唆・指示をするものではない”ことが執拗に述べられているものの、IPCC報告書で初めて取り上げられる分野であることに加え、従来の報告書がカバーしていた領域に比べて政策決定に与える直接影響が大きいことから注目を集めている。 (津坂 秩也) |
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