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1997年12月号

ROUND-TABLE CONFERENCE

地球環境エンジニアリング(日揮)


1.地球環境問題への対応

 環境保全対策は、2つの領域、すなわち上流と下流に分けることができる。上流の対策は環境に好ましくないものを作らない分野、下流の対策はやむを得ずできてしまう環境に好ましくないものを無害化する分野である。健康問題でいえば上流が予防に当たり、下流は治療に当たる。なぜ上流と下流に分けるかというと、上流対策がかなり重要だからである。

 上流領域をさらに分類する。1番上流にあるのが需要の抑制で、途上国では増加し続ける人口の抑制、先進国では消費財の長寿命化が大きな対策となる。2番目が、LNG、太陽、バイオマス、原子力、風力、地熱などクリーンエネルギーへの転換で、3番目が燃料脱硫・脱灰などエネルギーソースから汚染物質を早い段階で除去してしまうエネルギー改善である。ちなみに日本では1日50万トンの石油を消費しており、その中に1.4%(7千トン)の硫黄が含まれている。もしこのまま燃焼させたら日本中に酸性雨が降るであろう。しかし実際は、石油の精製過程で約90%が分離・除去され、セメントあるいは化学肥料原料に利用されており、最終的な燃料消費過程に向かうのは約1割である。上流の最後、4番目はエネルギーと資源の利用効率向上である。

 下流側には、排煙脱硫・脱硝、除塵、脱臭等の排ガス処理、有機物分解、有害物質除去、固形分除去等の排水処理、さらには廃棄物の処理・資源化等の対策がある。そして下流領域の最下流の対策に損傷した環境の修復があり、これは最も費用対効果 が悪く愚かしい対策である。

 このように地球環境問題の対策には、上流から下流まで次元の違う様々な選択肢がある。したがって選択肢のうちどれを組み合わせればベストか、ということを常に考えることが必要である。選択・組み合わせの過程においては、地域によって採用できる対策に制限があること、採用する対策によって費用対効果 に大きな差があり、一般的に下流になるほど環境汚染物質の濃度は薄くなるが量 が増大すること、上流分野の対策の方が効果的な場合が多いこと、等を考慮しなければならない。そして上流側では環境(Environment)、経済(Economy)、エネルギー(Energy)という3Eの最適化、下流側では、第1に削減(Reduce)、第2に再利用(Reuse)、第3にリサイクル(Recycle)という3Rの優先順位 付けが重要となる。

2.日揮の環境保全理念

 当社は企業理念として「エンジニアリング事業を通 じて社会の繁栄と地球環境保全に貢献すること」を掲げ、行動規範として「企業活動を通 じて国際協力を促し、国際社会の繁栄に寄与するとともに地球環境の保全に貢献する。投資事業による開発効果 と環境保全のバランスを考慮しながら、適正な事業計画を顧客にアドバイスし、環境を保全するために当社の技術を最大限活用することとする。」と謳っている。

 さらに3つの言葉、すなわち「地球に生きる」、「地球を護る」、「地球を伝える」を用いて、地球環境問題への対応理念を示している。「地球に生きる」は社会の繁栄と環境保全の両立を、「地球を護る」は投資計画にともなう公害の防止を、「地球を伝える」は貴重な地球資源の保全を意味するキーワードである。

 さて環境対策の基本方針だが、第1が上流対策の重視である。しかしこれは下流対策の無視ではなく、上流対策を優先して限界まで行い、しかる後に下流対策を実施するというものである。第2は費用対効果 の最大化である。これは上流から下流まで様々な対策の選択肢がある中で、対象とする地域と原燃料条件に基づいて、費用対効果 の最大化を達成する組み合わせを検討し実施することである。第3はエネルギーと資源の利用効率向上である。エネルギー効率・原料利用効率・用水利用効率を高めれば排ガスや排水の排出量 が減少し、資源保全と同時に後処理すなわち下流領域の負担も軽減される。そして第4が環境規制基準の遵守である。

 最後に環境保全の具体策であるが、計画、設計、調達、建設の各段階において以下のことに配慮し事業を展開している。計画段階では立地業種と規模、使用燃料と原料、そしてプロセス選定に配慮し、設計段階では、資源利用効率、費用対効果 、環境規制基準に配慮している。また調達段階では、環境影響を配慮した設備・機材の選定を心がけ、環境規制基準確保に必要な信頼性の確保に努めている。さらに建設段階では建設工事に伴う環境影響を配慮し、建設廃棄物の抑制と適正処理に留意している。このようなエンジニアリング事業における各段階での具体策によって、我々は企業理念である「社会の繁栄と地球環境の保全に貢献する企業」の具現化を目指しているのである。

(本稿は9月17日の第30回地球環境問題懇談会での日揮株式会社 松村 眞 環境監理部長の講演を事務局でまとめたものです。)