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ニュースレター
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1999年6月号 |
OPINION |
2000年問題の地球的協働研究への参加を 国際大学グローバル・コミュニケーションセンター所長 人類は今、これまでに経験したことのない、地球的な規模での同時多発的な災害に直面
しようとしている。大型コンピューターから、ワークステーションやパソコン、さらには各種の機械・建物類に埋め込まれたマイコンチップスのハードあるいはソフトのいたるところに潜む「2000年バグ」への不対応が引き起こす経済・社会・軍事・政治問題としての、「2000年問題」がそれである。 そして、この種の複雑系が、今日では世界の経済システムや軍事システムの下部構造を形作っている。だから、著名なプログラマーのエド・ヨードンによれば、2000年問題とは、世界経済の巨大なエンジンに百万個のモンキー・レンチを投げ込むことに等しい。その結果 は、「一年の社会的混乱と、十年の経済的不況」となっても自分は驚かないというのが、ヨードンが最近あえて試みた予想である。 このような事態の到来を前にして、米国科学アカデミーの下部組織である全米研究評議会(NRC)は、グローバルな2000年問題研究プロジェクトの立ち上げを呼びかけている。これは、予見可能な地球規模の混乱から人類が学ぶ、またとない機会なのである。高度に相互依存しているが完全には統合されていない複雑系に対する大々的な局所的調整努力の効果 を事前および事後についてそれぞれ研究して、組織や部門や地理的境界の内外にわたるシステムの脆弱性を防止したり、それに対応したりするためには、現行の管理の構造や慣行をどう改善すればいいかを、学びとりたいというのがそのねらいである。 過去数年の間に、2000年問題がもたらす混乱や被害を最小化するために、すでに何千億ドルもが使われた。今後は、誰に責任があり誰が保障すべきかを裁判で決めるために、さらにもう何千億ドルが使われると予想されている。それなのに、このユニークな事態が何故出来し、何を引き起こしたか、また何がそこから学べるのかを知るためには、ほとんど資源が費やされていない。もちろん人類は、2000年問題の最終局面 においてはそのような努力にとりかかるだろうが、実は今すぐに始めておかなければ、研究に不可欠な質的・量 的データは永遠に消え去り、われわれは歴史的な研究機会を逸してしまうだろう。 これが米国研究評議会の、はなはだ適切な問題意識である。2000年の到来を間近に控えて、一見迂遠なようにも見えるが、研究とはまさにそのようなものでなければならないと思う。わが地球研も、ぜひこの呼びかけに応えて、協働研究に参加してほしいものである。
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