<議事(司会、進行 : 木村委員長)>
1. 研究報告
(1)平成10/11年度研究テーマについて
照井 義則 企画研究部長
(2)研究委員会報告
「21世紀の開発戦略」
竹内 啓 委員長(明治学院大学・国際学部長)
「アジア大平洋の情報化が産業に与えるインパクト」
山内 康英 委員(国際大学グローバルコミュニーションセンター教授)
「環境保全と成長の両立を考える」
奥野正寛委員長(東京大学・経済学部教授)
2. 研究所方針
「地球産業文化研究所長期戦略について」
安本専務理事
3. 自由討議
II..
研究委員会報告より
1. 平成10年度「21世紀の開発戦略」研究委員会
(竹内啓委員長)
本委員会の問題意識は、マクロ経済指標だけでなく、福祉・医療・環境等の視点を反映した指標に基
づく開発戦略を考える必要がないか、というものである。
医療関係面
では、これまで社会主義国は、1人当たりGDPが低い割には、健康指標は良好であった。急速な市場経済化を進めた結果
、かえって健康指標は悪化したことが、ロシアの平均寿命変化、中国の乳幼児死亡率データなどに示される。GDPと健康指標が一義的に対応せず、マクロの経済指標だけでは実態を捉えられない。
中国のGDPマクロ指標推移は日本の後を追っており、構成要素で見れば工業国レベルにある。しかし農業就業人口は総人口の20%を超え、その一人当りGDPは平均の四分の一に過ぎず、大きな国内較差を抱えている。高度成長が続いて日本の水準に到達するかという議論では、国内社会構造・産業構造等が考慮されなければならない。
また、これら議論のベースとなる統計データについて網羅的な収集と精度・信頼度を高める努力が必要である点を強調したい。とくに福祉関連データ収集の遅れが著しい。
市場経済化で東アジアの国に外国資本が大量
に流入し資本不足を補って成長を促進したが、安定的な産業構造の組み上がる前の資本引き揚げで、市場が不安定になった。
これはマクロの問題だが、経済成長の結果として、不平等問題、福祉・利益が社会の一部の階層に偏る可能性があることを認識する必要がある。
2.平成10年度「アジア・太平洋の情報化が産業に与えるインパクト」研究委員会
(山内康英委員)
情報化が日本経済・日本産業に与えるインパクトを、アジア全域、あるいはアジア全域の産業基盤を前提として
(1)製造業の情報利用の実態
(2)日本の電気通信事業者が、現在、アジア・太平洋にどう展開しているか
(3)日本の情報基盤政策そのものの比較制度論
の3点について調査研究を行った。
製造業の情報利用の実態としては、現地調査に基づき、日本企業間の情報利用について例を挙げた。また、アジアアパレル産業のCAD/CAMを情報技術を通
じて統合化する事例が報告された。
日本の電気通信事業者が、現在、アジア・太平洋にどう展開しているか、という視点からは、アジア諸国の情報化の政策、電気通
信事業者のアジアでの活動実態、通信と放送の関係、ASEANとの比較、開発主義論争と情報基盤政策、ASEANのY2K問題等が議論された。
幾つかの先進的な事例、特に通産省が80年代後半から、日本の製造業のASEAN諸国への展開に伴って設立した共同生産システムなどの中で、先進的な情報技術の利用が見られるが、この領域での日本企業の統合的な、あるいは先進的な情報技術利用はまだ十分に発展していない。
今後、インターネットのような情報基盤の整備で、安価な高速大量通
信需要、あるいはエレクトリックコマースの発展、企業間取引関係がこの地域で発展すれば、アジア全域を考えた産業情報化の重要性が増すだろう。
3. 平成10年度「環境保全と成長の両立を考える」研究委員会
(奥野正寛委員長)
本委員会は、工学、計量
経済学、公共経済学、実験経済学、政治学など学際的な委員構成、通産省担当部局、エネルギー経済研究所の協力等、産官学共同スタイルで環境保全と経済成長との両面
から地球環境問題の検討を行っている。特に米国未来資源研究所(RFF)とタイアップ、共同会議で相互に研究成果
を交換する国際共同研究も進めている。
共同会議第1回は排出権取引等の柔軟性メカニズムについて議論し、その重要性は理解できるが機能させる仕組み、市場・制度設計が不明故、当面
は試行錯誤的に漸進させるのがよいとの共通の認識が得られた。
第2回は技術政策に対するインセンティブ、CDMの具体的な事例などの討論と、米国における温暖化対策及びSOXの取引権市場の実例紹介とが報告された。
委員会では、工学分野からは、循環型システム構築の必要性指摘とCO2削減の望ましいタイムパス、計量
経済学分野からは、短期及び長期モデルを使い、炭素税収入を法人税・消費税の減税に当てた効果
予測が報告されている。
排出権市場はアーキテクトするもの、理論的に設計すべきもの、という委員会としてのメッセージである。
本委員会では独自性のある論点として、企業、政府いずれが排出権取引の主体なのか、を取り上げ議論している。
米国のCO2削減への、実効的な取り組みを促す為に、日米欧三極構造のなかで議論するということが考えられてもよい。
III.地球産業文化研究所の長期戦略について
(安本専務理事)
平成10年度開催の地球産業文化委員会で了承された「長期戦略」を基本とするが、その運用にあたっては、近年の我が国経済の停滞が、経済理論等の基本軽視によるとの認識に立ち、特に次の点に重点を置き運用する。
1. 経済活動の合理的な推進に資するアカデミズムの振興
2. 理論的研究に裏付けられた提言
3. 潜在的に有効な将来戦略の開拓
4. 産・官と学の連携
5. 国際的レベルの知的協力の推進
(調査研究活動の基本的視点)
1. 当所の調査研究活動は、
(1)地球容量
の物量的制約の深刻化(人口、エネルギー、食料、環境問題
等)
(2)グローバリゼーション、情報化、新しいナショナリズムの台頭等社会経済的条件の変化
(3)NGOや多国籍企業等新しいアクターの登場により、新しい国際システムが模索されるべきとの視点に立ち、これらを
terms of referenceとして、通商産業省、産業界のニ一ズを勘案しつつ、地球規模の諸問題を適時、適切に取り上げる。
(調査研究分野の位
置づけ)
2. 当所の調査研究活動について、それぞれの活動の意味・位
置づけを明確にする。
第一は、持続可能性やガバナンス等、当所の中枢的分野、
第二に、通商産業省や産業界からの委託等による研究活動で、現在、気侯変動政府間パネル(IPCC)や国連気侯変動条約(UNFCCC)、途上国への技術移転に関する研究等
第三に、海外の研究所との協力によるネットワークの形成を通じた共同研究、である。
(スタッフの専門性強化)
3. これまで、当所の調査研究活動は、外部の有識者・研究者グループを組織し、それに委ねる形で実施してきたが、こうした活動に加え、研究スタッフの専門性を強化し内部の調査研究業務能力を充実させる。
(研究成果のインパクトを高める必要性)
4. 研究成果の普及、実行に向けて、具体的政策の提言、メディアの活用等による広報の充実、内外のネットワークの形成等事業を充実する必要があり、そのための人的資金的資源の確保に努める。
具体的には、
(1)地球産業文化委員会を通
じての各種提言
(2)WebsiteやInternet Networkの充実、海外広報の強化
(3)内外のMediaとの連携
(4)国際SymposiumやSeminarの充実
(5)海外共同研究のOrganizerとしての役割の強化。
(各分野の事業)
5. 今後2〜3年にわたり、地球産業文化研究所としては、以下の事業に重点を置くものとする。
(1) IPCC事業
(2)UNFCCC事業
(3)途上国との技術協力、チャイナカウンシルヘの協力
(4)ガバナンス
(5)グローバル市場競争時代における教育、人材育成
大学、大学院における学力レベルの低下が懸念されている中、11年度から新しく、京大西村教授の指導の下、グローバル市場競争時代における教育、人材育成のあり方について検討を始めている。
(6)持続的発展
(7)アジアの諸問題
前年度から継続の“アジアの中の日本”プロジェクト、“ASEANと日本”プロジェクトに加え、本年度から青山学院大学天児教授の指導の下、今後のアジアの姿を条件づける基本的な要因を安全保障を含めて総合的に検討しつつ、アジアの将来を大胆に展望することにより、日本の取るべき行動の指針を研究中である。
当所としては、今後ともアジア問題を世界の政治経済との関りの分析、日本の対外戦略の構築という観点から、アジア各国との共同研究を含め、調査研究を行うこととする。
(業務処理体制の拡充)
6. 以上の事業以外にも、現在、当所に対し、各方面
から、以下のような協力要請があり、当所として、これらを受けるかどうかを検討中である。
(1)IISDのCCKN
(Climate Change Knowledge Network)への参加、
(2)米国Atlantic Instituteから、“アジアの経済発展と大気汚染”の共同研究の提案、
(3)Nautilus Instituteから、“クリーンコールテクノロジーと革新的資金調達”のプロジェクトヘの参加要請、
(4)“環境と貿易”の問題について、Chatham House、GETS Group、CAITEC等からの協力要請、等。
今後とも、こうした要請は、増加するものと思われ、適宜適切に、当所の事務処理体制および調査研究体制の拡充強化を図って行く必要がある。
IV.自由討議
(座長:木村正三郎委員長)
1. 世界のGISPRIとなるために
(1)GISPRIの成果
が国際的影響力を持つには、国内公表とともに、英語で、それを国際機関とか、研究機関に出すことがこれから必要ではないか?
優れた日本語報告が埋もれたままでは勿体ない。
(2)情勢変化が早いが、適切なタイミングを掴んで提言すれば、受け入れられると考えるべきだ。
例えば途上国は環境問題への理解が薄いが、成長に伴い環境の悪化を自覚する時期が来るはずで、それがチャンスである。人口問題についても情勢は刻々変化しているが、機敏にアピールする発想が大切だ。
(3)GISPRIの知名度が国際的に高まるためには、世界的に名が売れた顔が必要である。研究所の名前を聞いてある人物を思い出す。そうした顔を作る努力をしたら如何か?
2. 21世紀のイシュー
(1)情報化・コンピューター化の進む中で、そうした変化を危機と考える宗教勢力としてのイスラムがある。米国では社会から取り残された人々がイスラムに救いを求めており、キリスト教、仏教など既成の大宗教の不振が指摘される。宗教は主要な課題の一つとなるだろう。
(2)世界戦争が起きることはもはやないと考えられるが、小国を大国が制御できなくなっており、世界全体が統合へ向かうとはいえない。統合と分裂がそれぞれに起こるのではないか。企業社会でも引き続き合併と分社化とが繰り返されるだろう。
(3)メディアアンケートでは、21世紀の予想は「希望」、「多様化」、「混乱」がそれぞれ三分の一だった。自らをどう位
置付けるかによる訳だが、「希望」が三分の一あったという点は素晴しいのではないだろうか。
3. 情報化
(1)シンガポールのように社会的、文化的にコヒーレントな体制下では統一性ある情報化政策が情報基盤を高めたが、他のアジア太平洋の国々の情報化政策は迷走的で、それはモデルの米国に政策的一貫性が見られない事が一因と考えられる。
レイトカマーの米国キャッチアップがスムーズに進まない。情報化の立ち上がり段階で産業開発主義が適用可能か否かという問題に遭遇しており、これは日本も考えるべきことであろう。
(2)アジアはあるいはアジアの価値観はコンピューター情報化に馴染むのかという議論があり、漢字ではだめだという主張があったが、今はもうない。将来予測に半導体集積技術進歩がカウントされていなかったからである。むしろ多様な価値観を包含したアジアではネットワークの強みが発揮されると考えるべきではないだろうか?
(3)インターネットのような情報技術が社会全般に与える影響、とりわけ社会の統合力を増すのか減らすのかは、今後の大きな課題といえる。
(文責
竹林 忠夫)
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