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20004月号

REPORT
TERI 創立25周年記念環境会議


 TERI(Tata Energy Research Institute)は、インドの企業集団であるTata の基金により創立され、環境および資源に関する研究を目的とした、職員500人を有する非営利の研究所である。その25周年記念の環境会議が2月19日から21日まで、首都ニューデリーで開催された。資金問題、科学技術の役割、企業責任、報道界の役割、制度改革、環境安全保障の各セッションから成るこの会議は、インドの閣僚級はもとより、外国からもUllsten 元スエーデン首相、橋本龍太郎元首相、広中元環境庁長官、Watson IPCC議長、谷口IPCC副議長、Moody-Stuart Royal Dutch/Shell会長、Stigson WBCSD会長、Miller DuPomt副社長、Rowland ノーベル化学賞受賞者、Runnalls IISD会長、Gustave Speth 元UNDP事務局長、McNamara 元世界銀行会長等を始めとして、政、官、学、財、国際機関や団体の指導的立場にある人達が数多く基調講演または指名討論者として参加した、非常に大掛かりなものであった。その発言は、アジアや途上国の問題に限らず、世界的視野に立ち、参加者の立場からして多くは理念的であったが、環境問題に関する思想動向の一端を窺い知ることが出来るであろう。セッション毎の紹介はやめて、全体を通 じて印象にた意見をいくつか簡単に記す。

 持続可能な発展と企業経済との関係は、各セッションに共通する課題の一つであった。途上国、特に貧困層を抱える国にとって、経済の活性化と発展こそが地球を守る意識と資金と能力を生み出す源であるとの考えは強いが、経済の活性と持続可能な発展が不可分であるという考えは先進国からも出ている。持続可能な発展の担い手は産業であり、企業である。企業の国際化と共に政府から企業に、主役が移りつつある。鍵となる科学技術の進歩もまた企業が主役である。ここに企業責任の重要性が浮かび上がる。米国のある大手化学会社の例が紹介され、そこでは、最終的には有害物の発生が無くなることを目指して、全ての社員、全ての過程において、漸進的な改善を求めているという。しかし利益を目的とする企業の力だけでは足りない。企業と社会を結び付ける市民、NGO、公的機関の参加がなければならない。企業と経済・環境・社会との三連結において、企業責任を意味する社会との連結がまだ弱いという自覚がある。社会との共同戦線が効果 を発揮するためには、何よりも情報の開示と透明性が必要である。企業からの情報に対しては、その信頼性を審査する機関が必要だという意見があった。
 
 経済活力と科学技術の重要性は誰も否定しないが、疑問も出た。発展、進歩、経済活力、それらは持続可能な安定したよい生活といかに結びつくのか。経済が活発であるとはどういうことなのか。経済が活発でないと、どうして持続可能にはならないのか。発展とは何か。何を持って進歩と考えるのか・・・。最も基本的なこれらの問題に対しては、まだ議論が足りないようである。OECDが先進国、途上国を含む19カ国で行った調査が紹介された。先進国では技術進歩と経済成長がよりよい生活を意味する時代は通 り過ぎたそうである。先進国だけでなく、まだ貧困の残るチリのような国でも、この点は通 り越したという。科学と言えば、技術の基礎である自然科学ばかりが重視されてきた。それこそ現在の問題を作った要因であり、その問題を解く鍵は、同じ自然科学でなく、社会、人文科学の中にあることが強調された。
 
 持続可能な発展がある程度までは経済や技術の問題であっても、最終的には哲学や文化の問題である、という考えがだんだん一般 的になってきたように思われる。文化の多様性や伝統文化の保護は持続可能性の要因である、という意見が各所で聞かれた。持続可能な発展のシナリオも、環境技術も、土地に密着したものである。あるセッションで、インドのシナリオには西洋思想や西洋文明はあまり適さない、というインド人パネラーの発言に対し、同席したフランス人パネラーがすかさず西洋にも西洋文明は適さないと応じていた。伝統文化の保護が持続可能社会建設の必要条件だろうか、それとも持続可能社会達成の結果 として多様な文化が栄えるのであろうか、今回の会議では両者の関係について詳しい議論はなかったが、考えて見たい課題ではある。

(石田 靖彦)