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2000年8―9月号
CONFERENCE 
国連気候変動枠組条約
第12回補助機関会合(SB12)印象 


 ドイツ・ボンにて6月5日〜6月10日に「ワークショップを含む非公式会合」が、翌週12日〜16日に第12回補助機関会合(SB12)が開催された。このような形の開催は今回が最初であり、11月のCOP6へ向けての公式会議のスタートとして、その出だし具合がどのようなものになるか注目された。ここではその印象について報告、個々の議題の決議概要、経緯等詳細はUNFCCC情報をご参照頂きたい。   

SB 
 SBとはsubsidiary bodies(補助機関)の略語であり、SBI(実施に関する補助機関:条約第10条に規定)とSBSTA(科学上及び技術上の助言に関する補助機関:条約第9条に規定)という、気候変動枠組条約の実行を補助する2つの機関をあわせて指す際の通 称である。共にCOP1において正式な設置が決議され会合が始まり(両機関は通 常同時開催され、期間中並行してそれぞれ議論が行われる)両機関共に今回で12回目の会合となる(メンバーは主に各締約国の交渉担当者)。COP3以降は年2回のペースで開催され、1回は初夏(2週間)に、残り1回はCOP期間中に同時開催されてきた。

非公式会合とSB12の位置づけ
 COP4において、COP6までに合意すべき主要事項が数多く決定(ブエノスアイレス行動計画)された。続くCOP5では、COP6での合意を実現すべく議論の進展を確保するため、COP6前までに補助機関会合を2回(6月:SB12、9月:SB13)、1週間ずつ開催し、各々の前1週間に非公式会合を行うことが決定した。今回のSB12はCOP5以降、COP6へ向けて走り出す上で最初の公式会議である。前週に行われたワークショップを含む非公式会合(informal meetings including workshops)は、翌週SB12にほぼ全て議論が引き継がれていることから、従来通 りSBが2週間開催された場合と大差ないように見受けられた。よって1週間ずつとはいえ、交渉機会は事実上2倍になっていると見て良いだろう。

世間の注目度の低下?
 参加者は非公式会合も含め総計約1,674名で、COP3後のSB8、昨年のSB10に比べ300人以上の増加(内訳としては各国代表団とNGOの増加)である。しかしそのうちメディアは134名→68名→52名と大幅減少傾向にあり、この問題に携わる人々にとっての重要度は増しているとしても、世間的な注目度は落ちていることの現れともいえるかもしれない。

前座:ワークショップを含む非公式会合 
 SB12に先立ち、その前週月曜〜土曜で日程が組まれた本会合(次回SB13も同じ形)であるが、当初この問題を追っている面 々にとっても、どれだけ注目すべきか計りかねる代物であった。会場につくと、バッジは「SB12」が手渡され、2週間分の手続きとなっており、Document CounterにはいつものようにDaily Scheduleと公式文書がストックされ、外貨両替コーナー設置、SBと何ら変わるところはない。議論の内容もSBに直結した。変わった点といえば、やはり代表団、環境NGO、Business NGO共に参加人数が少なかったこと(但し両NGOのclosed会合はそれぞれ毎日行われていた様子)、各参加団体による会場内special event及び展示ブース設置が土曜のみであったことが挙げられる。ちなみに初日夜にはボンの観光名所・旧市庁舎にてレセプションが行われた。
 さて肝心の会合の中身であるが、遵守制度、議定書5,7,8条(排出除去量 推計の国内制度・報告・レビュー)、これらに跨る横断的事項、LULUCF(土地利用・土地利用変化及び林業)、条約4条8,9項・議定書3条14項(途上国影響)、政策措置、技術移転、能力育成についての非公式会合、及び京都メカニズムについてのワークショップが行われた。土曜の夜に予定されていた会合がキャンセルされるなど、翌週のSBを控えて、深追いを避けて終わった印象である。
 メカニズム・遵守・5,7,8条に重複するトピックをどうするかという横断的事項に関しては、例えば主に5,7,8条において議論し、そこにメカニズムでの議論をinputするといった、主管とinputの担当の振り分けがなされた。この横断的事項以外の会合については翌週SBに殆ど議題として予定されており、そのまま議論が継続された。メカニズムではワークショップらしく、OHPでChow議長が今回の締約国提案統合書(更なる交渉のためのテキスト)の要点のみを主要要素別 にシンプルに整理たものを示し、コメントを受付け、今後の議論を円滑にするべく各国の理解促進をねらった。中でもCDMの実際の流れ・構造が図示されたことは意義深い。勿論提案オプションの整理の結果 であるため(細かい部分の是非は別として)、とんでもないものが出てきたということはない。またUNFCCC CDM Reference Manual(COP/MOPによって内容決定、常に改訂可)という運営上の基準が参照される構造であることも興味深い。 
 
 

ベートーベン広場(左)と自転車に乗るベートベン(右)

SB12の成果とは? 
 メディアであまり取り上げられない理由の一つには、何が成果か?と聞かれたときに、この問題になじみがない人にも分かるように簡潔に答えることが極めて難しいことがあると思われる。それにはCOP3以降、目標と手続きを決めるのがせいぜいで、内容的な決定・進展が少ないこと、問題が制度設計の細かいところに入り、各国の利害対立も含め、温室効果 ガス削減からすぐに連想できる議論から、かなり遠くに来てしまったことが挙げられるだろう。
 今回、主要議題に関してはCOP6で合意するためのドラフトに近づける作業が行われたものが多く、成果 といえば、いよいよ議論の大枠が決まり今後本格的交渉に入れそうな雰囲気がでてきたことである(但しLULUCFについてはIPCC特別 報告書を受け今回からの本格スタートに加え認識の隔たりが大きく、まだ内容には入れていない)。例えばメカニズムにおいては今まではコメントの出し合い段階にあり主要対立点の溝は埋まるべくもなかったが、今後のコメントは現在のテキストに直接関係するもののみと初めて明記されるに至った。特に次回SB13(於:フランス・リヨン)は、COP6前の公式会合となるため、合意へ向けての見通 しが立つ必要があり、「交渉」が展開されることが不可欠である。
 総じて期待される以上に進んだわけもなければ、どうしようもない状況でもないという印象である。新聞等では相当困難な状況になったという評価もあるが、もともと非常に困難な状況なのであり、今回を経て更に厳しくなったわけではない。今までの議論を追いかけている身からすれば、立場にもよるが、「まずまず」から「せいぜいこんなものだろう」という受け止め方が主流である。
 

暗雲:サウジらの反撃
 前回COP5(SB11)では、サウジアラビアをはじめとする産油国の孤立化傾向(小島嶼国等その他途上国との分離)が目立ちはじめ、京都メカニズム等における今後の議論の進展が期待されると思われた。しかし今回は特に途上国間でのほころびは見られず、4条8,9項・3条14項(気候変動による途上国への悪影響の対処・対応方策による影響)の議論においては、非公式会合最終日にconsolidated textが作成され、(前回の孤立化作戦の成果に安心していた先進国にとって)思いの外議論が進み、足元をすくわれた形となった。またメカニズムの議論が上記4条8,9項問題の議論の停滞を理由に、サウジをはじめとする途上国の要求で中断される事態が発生した。
 更に今回のclosing statementにおいて、サウジを含むG77&中国は「COP6で成功をおさめるために、(中略)COP6において具体的な形で途上国の利益が満たされなければならない」と明言。今後再びこの問題にトータルでどう対応していくかが問われることとなった。

(中西秀高)