IPCCの理念は国際的第一線の専門家による地球温暖化問題に関する最新の科学的知見の集大成と中立客観的な総合的分析評価を通じて、政策立案と意志決定に、余計な介入をすることなく、適切な材料を提供すること(Policy
Relevant but not Policy Prescriptive)とされている。しかし、この10数年間の3次に及ぶ評価報告書の作成過程を振り返ると、IPCCの存在意義は、政府間パネルという名称が示唆するごとくむしろ科学と政治、国際的専門家集団と政策決定者の間の複雑微妙な緊張関係の上に立脚しているのが実態であろう。特に、1990年以来ほぼ5年毎にまとめられた3つのIPCC報告書が、同様の内容を少しづつ深めながら、地球温暖化問題に関る国際交渉をリオ・サミット以来節目節目で支え、議論のための「科学的根拠」作りに大きく貢献してきた事実と、国際交渉が京都議定書の批准とその後の国際展開、アメリカ合衆国の対応、中国、インドや中南米諸国の意味ある参加等を巡って大きく動き始めた事実とを考え合わせると、IPCCも次のステップについては、従来路線の延長繰り返しでは済まされず、政治的な利害と駆引きが絡んだ様々な思惑が動き始めて当然であろう。我が国もいよいよ地球温暖化の問題が観念論でなく、現実の経済社会活動の厳しい制約となり得ると共に、技術革新と経済社会の変革を通じて国際的比較優位を獲得する機会となり得る重要な局面に直面している。地球温暖化ガスの濃度を現在の2倍程度までの比較的気候変動への影響が限られたレベルで安定化させるためには、温暖化ガスの排出量を長期的には現在日本が約束している6%の削減率に対して地球全体平均でその10倍位は減らさなければならないのである。日本のためにも世界のためにも、是非新しい大きな構想力を持って国内外の英知を最大限活用して次のステップに取り組んで欲しい。