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2004年 3号

Report
貿易と環境の調和に関する調査研究委員会報告書
平成15年度日本自転車振興会補助事業


 貿易と環境の調和に関する調査研究委員会は、山口光恒委員長(慶應義塾大学経済学部 教授)の下で5回開催され、多国間環境協定(MEA)の中でも、特に産業界に大きな影響を及ぼしている気候変動枠組条約(UNFCCC)及び京都議定書とWTO協定の抵触について、政策実施段階での摩擦を回避することを目的に、潜在的な問題点の抽出及び整理を行った。

 具体的には、まずWTO協定の中のGATT3条、GATT20条、TBT協定の解釈の変遷を分析し、貿易と環境の調和問題に対するWTO及び世界の潮流を明らかにした。その後、より具体的な例として、中央環境審議会 総合政策・地球環境合同部会・地球温暖化対策税制検討委員会が提案している温暖化対策税制や、CDMやJIといった京都メカニズムとWTO協定の抵触問題、更には2005年から導入される予定のEUの排出枠取引スキーム(EU-ETS)の分析を行った。また、温暖化問題交渉に大きな影響力を持つ途上国の立場についても理解を深めた。その他、海外文献調査、及び香川大学での国際シンポジウムに出席し、最新の動向の調査を行った。

 主な成果としては、以下のような分析結果が挙げられる:


WTOにおける環境関連条項の解釈の変遷について
  WTO設立協定の前文に環境保護の目的が含まれていることから、WTOは従来に比べ環境という要素を重視し、自由貿易の確保だけを追求するわけではなくなっている。
  GATT3条は、もともと国内産品と輸入産品の平等な競争条件の期待を保護するものであり、措置の貿易への影響という観点では受け止められていない。従って、環境措置についても保護目的の如何よりも、いかに同種の内外産品が平等に扱われているかによって判断されてしまう傾向にある。
  TBT協定は、環境保護を目的としている、特に国際的な基準に準じた基準であれば容認する可能性が高いと判断出来る。しかし、製品の生産段階において消費してしまう投入物(例えば生産段階に排出される温室効果ガス量)に対して基準を設けることは、容認しない傾向にある。
  上記のような場合、GATT20条によって貿易に影響を及ぼす環境措置の正当化を図ることになる。GATT20条は、不当に差別的な措置でなく(柱書)、かつ生物の生命や健康の保護(20条(b))、又は有限天然資源の保存(20条(g))の目的であれば、貿易に影響のある措置でも例外としてWTO上容認する条項であり、数々の紛争の結果、最近では、容認されるケースも出てきた。しかし、GATT20条柱書の判断要素はまだ不透明な部分があり、それを利用して京都議定書をベースとした貿易に影響を及ぼす措置が必ずしも認可できるとは限らない。


温暖化対策税制
  課税により国際競争力に大きく影響が出ることを防ぐための手段としては、輸入産品・輸出産品の国境税調整と、影響の大きい鉄鋼等の部門に対する税の減免措置の2つが考えられる。
  輸入産品の国境税調整に関しては、課税対象(最上流・上流部門)と実際に国境税調整を行うレベル(最終製品)に開きがあり、最終製品にどのくらい化石燃料が使用されたかを正確に調査し税調整することは非常に困難であると予想される。また、輸出産品の国境税調整に関しても、正確な税負担額を算定することが困難である上、控除対象の部門に助成補助金が交付されていれば、それも考慮して国境税調整を行わねば輸出補助金と見なされる可能性もあり難しい。
  減免措置は有効な手段ではあるが、減免されている部門にも助成補助金が交付されれば補助金協定違反となるため、むしろ一律課税と税負担分を超えない助成措置の組み合わせが良いと考えられる。


排出量取引全般、その他
  京都メカニズムで使用されるクレジットの性質については、WTO上のモノ又はサービスの定義範囲にはいらないことを確認。
  EU域内でしか通用しない排出枠を取引するEU-ETSがEU域内におけるCDM・JI的性格を有する場合、排出削減に資する物品や技術を欧州域内から調達しようとするインセンティブが働きうるが、それはGATT3条4項違反にあたる可能性あり。
  途上国と先進国や多国籍企業の間にある根強い不信感を取り除く努力がWTOの中における「貿易と環境」問題の解決の糸口になる。

 以上の成果は、報告書として1冊にまとめられている。
現在のような経済システムの中で、地球温暖化を緩和しようとすることによって出てくる「貿易と環境の調和」問題は、京都議定書が発効し企業や各国政府が実際に対策を実施することによって一気に表面化する可能性のある重要な問題である。今後は、具体例によるケーススタディー等も含め、企業の環境対策の戦略構築に役立つ情報提供が出来るよう、研究を続けていきたい。

(事務局:蛭田 伊吹)