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2005年 4号
Opinion
日本から世界へ広がる「工夫」

財団法人 共用品推進機構

専務理事 星川 安之


 点字ブロックの発祥が、日本であることを知っている人は少ないかもしれない。岡山県で旅館を営んでいた街の発明家三宅精一氏が、目が不自由な友人のために、昭和40年に発明、初めて設置されたのは、昭和42年のことである。その後、福祉の街づくり条例、ハートビル法、交通バリアフリー法などの法整備も進み、公共空間での点字ブロックの普及は目をみはるものがある。

 今では携帯電話の普及であまり見かけなくなった「公衆電話」であるが、これもまた障害のある人達が使いやすく・・の葛藤の歴史が刻まれている。ダイヤル式の時には、時計の長針が3本付いた形状のものがダイヤル中央に付きそれぞれ「3」、「6」「9」を指し、目の不自由な人が、数字を探すことを容易にしていた。プッシュホン式になってからは、5番のボタンの中央に「小さな凸」が付いた。この点を基点に、目の不自由な人たちは、他の数字も正確に押すことができる。公衆電話に使用するプリペイドカードは、電電公社からNTTに変わる時、カードの一辺に半円の刻みがつき、挿入する方向、表裏が触覚だけで分かるようになっている。

 1991年、花王から容器の側面にギザギザの付いたシャンプーが初めて発売された。これは、同社に届いた目の不自由な人の「同形のシャンプーとリンス容器識別が難しい」との問い合わせに答えたものでる。花王は、実用新案を取得したが、それはリンス容器にギザギザが付き混乱を避けるためで、ギザギザの工夫は無料で公開した。その結果、14年たった現在、日本で市販されているほとんどのシャンプー容器の側面にギザギザが付いているまでになっている。

 日本では電車の車内放送も珍しくないが、欧州では車内放送が日本のように丁寧に流れているとは聞かない。更に日本では、耳の不自由な人に次の駅などを知らせる電光表示が車内に設置されており、耳の不自由な人が駅に着くたびにホームの駅表示を確認しなくてもよくなっている。

 また、日本玩具協会、家電製品協会では、障害のある人も使いやすい玩具、家電カタログを企業の壁を超えそれぞれ毎年作成し、関連の施設に配布している。

 このように、障害のある人達にも使いやすく工夫されている一般製品が他の国に無いか、1996年から97年にかけて、私どもで調査を行ったところ、「日本の試みは素晴らしいが、わが国では未だほとんど実施されていない」という答えが返ってきた。

 そこで、日本工業標準調査会(JISC)から、国際標準化機構(ISO)へ、一般製品・サービス・生活環境を、障害のある人たちでも共に使いやすくするためのガイドライン作成の提案を行った。日本からの提案は、1998年チュニジアでの会議で行われ、満場一致で可決された。その後、日本が議長国となり3年間かけてISOでの71番目のガイドラインISO/IECガイド71(規格作成者のための高齢者・障害のある人たちへの配慮設計指針)が、完成した。そこには、日本の多くの産業会が障害のある人たちとのコミュニケーションの積み重ねで作られた製品・サービスのエキスがふんだに盛り込まれている。 尚、同ガイドの中では、一緒に使えるものを「アクセシブルデザイン」と称し、その配慮が具現化されることを目指している。

 その後、同ガイドは、2003年6月、日本において日本工業規格(JIS)として、生まれ故郷に戻ってきた。それと同時に、日本工業標準調査会 消費者政策特別委員会より、「高齢者・障害者への配慮に係る標準化の進め方について」という提言書が出され、そこでは、

1) ガイド71の普及と関連JISの体系的作成、
2) ガイド71とセクターガイドの明確化、
3) アクセシブルデザインフォーラムの発足、
4) アジア各国との連携 アジア発国際規格、
5) ISOへの規格提案、
6) マーク制度による高齢者・障害者配慮制度の検討の6項目が示されている。

 上記提言書4)の「アジア各国との連携、アジア発国際規格」は、昨年から、中国、韓国、日本で「中日韓アクセブルデザイン委員会」を設け、この分野でのアジア発、国際規格の作成を目指している。既に2回ほどの会合が、北京、ソウルで開催され、日本のアクセシブルデザイン関連JIS5テーマを、国際提案する合意となっている。尚、韓国では日本のアクセシブルデザイン関連のJISを、既に8テーマ、昨年の暮れに韓国国家規格(KS)に採用してくれている。

 上記は、国内において障害のある人たちとの小さなコミュニケーションから始まった作業が、国の壁を越え知恵を出し合って行った結果である。

 この4月20日「コミュニケーション絵記号」という題名の日本工業規格(JIS)が制定された。言葉によるコミュニケーションが困難な障害のある人たちとの道具として考えられたものであるが、標準化されることにより、更に今まで以上のコミュニケーションがより多くの人たちとはかられ、次々と社会への「工夫」が終わることなく創出され続けることを願っている。

 尚、上記のコミュニケーション絵記号に関しては、下記、共用品推進機構のホームページからダウンロードすることができます。
 → http://kyoyohin.org/index.html