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2007年 1号

Council
ポストCOP12及びCOP / MOP2セミナー開催報告
− GISPRI / IGES 共催 −


セミナー概要

  2006年11月6日から11月17日までケニア・ナイロビにて国連気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)が開催されたのを受け、財団法人 地球産業文化研究所(GISPRI)と財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)は2006年12月21日に全社協・灘尾ホールにおいて標記セミナーを開催した。
 本セミナーでは、産業界、コンサルタント、研究者、学生など地球温暖化問題に関心をもつ258名の参加者の出席のもと、実際にCOP12及びCOP/MOP2で交渉に当たった政府関係4省庁の担当者を講師に招き、交渉経緯や決定事項、将来の見通し等についての報告(講演)及び会場からの質問への回答(パネルディスカッション形式での質疑応答)が行われ、地球温暖化問題における国際交渉についての情報を包括的かつタイムリーに提供することにより、セミナー参加者の本問題への更なる理解促進が図られた。



プログラム

13:00
開会      
13:05
開会挨拶  
    財団法人地球環境戦略研究機関 理事長 森島 昭夫  
  COP12 and COP/MOP2 開催結果の報告 (各35分)
13:10
  外務省 気候変動室長 久島 直人 氏  
13:45
  経済産業省 地球環境対策室 課長補佐 岡本 晋  氏(※)  
14:20
  環境省 国際対策室長 和田 篤也 氏  
14:55
  林野庁 森林吸収源情報管理官 赤木 利行 氏  
15:30
休憩(20分)  
15:50
質疑応答(65分)  
  <コーディネーター>    
    財団法人地球産業文化研究所 専務理事 木村 耕太郎  
  <ご回答者>      
    外務省 気候変動室長 久島 直人 氏  
    経済産業省 地球環境対策室 課長補佐 岡本 晋 氏(※)  
    環境省 国際対策室長 和田 篤也 氏  
  林野庁 森林吸収源情報管理官 赤木 利行 氏  
16:55
閉会挨拶      
    財団法人地球産業文化研究所 専務理事 木村 耕太郎  
17:00
閉会      
         
(※地球環境対策室長増永明氏の予定だったが、都合により岡本課長補佐が代理で講演。)


講演・質疑応答内容
<COP12 and COP/MOP2 開催結果の報告(講演)>
外務省 気候変動室長 久島直人氏
  ・ 議定書レビュー
「何を見直すか」という内容の前に、法律論、条文解釈論などの入口論で紛糾した。途上国は、議定書見直しの結果として、自分たちにも排出削減義務を負わされることを恐れていたことが背景にある。
今回は単純な先進国vs途上国という図式ではなかった。中国、ブラジルなどは強硬に反対であったが、アフリカグループ、中南米のいくつかの国は議定書見直しに基本的に賛成であった。
今回、決定パラグラフ7で「見直しを基に、COP/MOPが適切な行動をとる」という文書が入ったことは大きな成果と考えている。決定パラグラフ6の「いかなる締約国の新たな約束につながるものではない」という部分を取り上げて、否定的な評価も目にするが、見直すこと自体が目的でなく、見直すことによって何をするかが重要であり、その点で「適切な行動をとる」とされた意味は大きいと考えている。
本件は、非公式での会合が続けられたが議論はまとまらず、最終的に閣僚レベルにまで挙がり、最後はCOP/MOP議長も加わり最終日にようやく合意に達したものである。

・ AWG
AWGは附属書T国の更なる約束を議論するものだが、日本はそれだけを議論すべきでないと常々主張してきた。また、科学的・実証的な分析を基にすべきであるという主張をしており、今回のワークショップはそれに沿うものである。
ワークショップでは、IPCCからの発表や、日本を含む数カ国から各国の取組み状況などが紹介された。
今回は、今後の作業計画が合意された(特にパラグラフ3)。この中で、来年は、附属書T国の削減ポテンシャルと排出削減目標の範囲に関する分析を行うこととなっている。
結論書パラグラフ11に「国際炭素市場の継続について明確なシグナルを送る」という文書が入ったが、日本としては、それについての決定がなされる前の段階で自動的に継続のメッセージを送ることについては反対を表明した。投資家など経済プレーヤーの立場も理解しているが、今回アフリカでの会合でのメッセージとしてこれが相応しいのか、むしろ気候変動に脆弱な人たちに対するメッセージこそが相応しいのではないかとの主張を行った。

・ 長期対話
持続可能な開発と市場の役割をテーマに対話が行われた。最も注目を集めたのはスターン・レポートである。これはイギリス政府によるレポートではあるが、これまであまり行われてこなかった経済学的な分析を行ったという点で大きな話題となった。

・ 今後のスケジュール
  今後のスケジュールとしては、2008年にG8日本サミット、米国大統領選挙、北京オリンピック、2010年に上海万博などが予定されている。気候変動問題に限らず中国は今後、国際社会での地位が大きくなっていくことになるであろうが、それに伴って義務を負うことについては抵抗感を示す可能性があるのではないか。国際社会としてこれにどう対応していくかということが、今後の一つのテーマとなるのではないか。

・ 今後の課題
主要排出国への働きかけ:アメリカ中間選挙後の動向は、一つの節目になり得よう。中国は気候変動における責任には消極的であるが、エネルギー効率への関心は高い。
日本の目標達成:京都議定書目標を達成できるかは、単なる国内問題のみではない。今後日本が国際交渉において、日本の国益に沿って、他の国に行動を促すために主導的な役割を果たしていくうえでも、信頼性の問題として重要である。
長期目標の具体化:EUは具体的な提案を出してきている。今後の交渉に当たっては日本としてのスタンスを確立することが重要である。
   

経済産業省 地球環境対策室 課長補佐 岡本晋氏
  ・ ナイロビ会議の感想
COP11はカナダの強いリーダーシップの下、京都議定書が発効して初めて京都議定書締約国会合が開かれ、一つのマイルストーンとして意義があった。他方、今次会合の全体的な感想としては、事前の印象ではモメンタムに欠けるのではないかと予想していたが、結果的にはかなり時期枠組みの交渉が進んできたという印象を持っている。
 
・ CCS-CDMの扱い
今回のCDMに関する議論の中で最も大きい議題として、CCS(二酸化炭素回収・貯留)プロジェクトをCDMの対象として実施することについての検討がなされた。

この議題では「先進国vs途上国」という単純な構図にはならず、自国の利益に合致するか否か、つまり「CCSをCDMの対象とすることが利益に繋がるか」という対立の構図になった。

 
ブラジル、小島嶼国 → 強く反対(当初はプロセスを作ること自体も反対。)
 
産油国 → 強く賛成(EORをすでに実施しており、CDM化の利益がある。)
 
南アフリカ、インドネシア → 賛成(自国にCCSポテンシャルがあるため。)
CCSポテンシャルが比較的少ない日本がなぜCCS-CDMに賛成なのかというと、
 
全球的な排出削減を実現するには、CCS技術を必要な地域へ移転しなければならない
 
中国やインドでの石炭火力発電の使用が確実に増えてくることが見込まれており、CCS技術の導入が不可欠
 
CCS技術が無ければ京都議定書2条の究極目標達成が難しいということが様々なモデルより明らかである
 
CCSをCDMプロジェクトの対象とすることは、技術の移転・普及に対してインセンティブを与えうる
  と考えているためである。世界的にCCS技術の移転、普及を進展させていく中で、日本がCCS関連技術で貢献するという戦略を描いており、そうした観点から当省でも技術開発などを積極的に行っている。
EU、カナダ、日本、ノルウェイといった国が、歩調を合わせて働きかけた結果、COP/MOP4(2008年12月)でのガイダンス採択に向けてのプロセスや解決すべき課題について決定した。これはCCS-CDMプロジェクトの第一約束期間における実施に向けた大きな前進である。
   
・ CCS-CDMガイダンス採択までのプロセス
ガイダンス採択までの解決すべき課題は以下のものが挙げられる。
 
貯留サイトからの長期にわたる漏洩リスクの評価
 
貯留サイトにおける長期間の管理責任の扱い
 
貯留サイトの選定に関する評価方法
 
国境をまたぐプロジェクトの扱い(例:中国で貯留したが、ベトナムで漏れた、などの場合)
  最大のイシューとして、環境面のリスクというテーマがある。CCSというのは明日にでもできるという技術ではないので、科学的な評価を省略してCDM化を進める必要は無く、きちんと議論していかなければならない。このため様々なステークホルダーから意見を求めていく。具体的には、貯留後どのくらい漏れるのかの評価や、誰が何年ぐらい管理するのか(責任の所在)といった点について、専門家の意見を反映してガイダンスを作成していかなければならない。
ガイダンス採択までのプロセスとしては、以下のとおり。
 
2007年5月31日…NGOや産業界などから課題解決のための情報を提供
 
2007年9月21日…締約国政府より課題の解決策についての意見書を提出
 
2007年12月(SUBSTA27, COP/MOP3)…解決策などについて検討
 
2008年12月(COP/MOP4)…CCS-CDMプロジェクトに関するガイダンスについて最終決定

・ 小規模CDMの扱い
手続き等が簡素になるため実施が容易である小規模CDMの適用拡大を検討した。検討の結果、省エネプロジェクトについて、範囲が従来の4倍に拡大された。今後省エネCDMプロジェクトが更に促進されることが期待される。
中国は省エネ技術でかなりのCO2排出削減が可能であると言われている。省エネCDMが一つのインセンティブになり、日本の技術を導入するチャンスになる。



環境省 国際対策室長 和田篤也氏
 
・ ナイロビ会議の感想
以下の3つのトピックにおいて非常に強い波を感じた。
 
「中長期」という波(究極目的がハイライトされたという点)
    →IPCCの第4次報告を控え、スターン・レビューが発表される中、「中長期での削減目標」がハイライトされるような波があった。
 
「カーボン・マーケット」という波
    →スターン・レビューでの市場メカニズムの強調等、EU諸国を中心に積極的な取組が展開されつつある。
 
(UN)FCCC以外のアクターによる波
    →世銀のODAの今後のあり方や、G8プロセスといったFCCC以外の組織、機関、プロセスによるプレゼンテーションがなされた。
     
・ コフィ・アナン国連事務総長によるハイレベルセグメントでの声明について
事務総長の声明には以下のようなユニークな点があった。
 
気候変動はあらゆる分野に対する脅威である(保健、食料、気象、生態系等)。
    →最近英国では、「Climate Security」という言葉が使われるが、気候変動を安全保障の側面から見ようとする動きも出ている。
     
・ 若林環境大臣による声明について
声明の主旨を解説。
 
日本は6%削減目標を断固達成する決意。
    →他国から「日本は達成できないのではないか」と思われると、交渉における信用を失い、結果的に交渉力を失ってしまう。
 
気候変動を安全保障の問題として取り組んでいく必要性。
 
主要排出国による最大限の削減努力等、実効ある枠組みの構築。
 
条約以外のプロセス
    →G8対話、APP、日英共同研究(2050プロジェクト)など。
 
アフリカ等への貢献
    →適応についてはUNFCCCのみでなく、開発援助政策との密接な連係の下で推進されるべき。日本はODAにより気候変動問題で大きな貢献している。
     
・ 適応について
適応に関する5ヵ年作業計画
交渉の目的は、5ヵ年作業計画の前半期(2007年まで)の具体的な活動内容の確定についてであり、先進国と途上国とで意見が対立した。
 
先進国の主張…まず科学的な影響等の特定をすべき。
 
途上国の主張…適応の実施まで深く含めるべき。
前半期の活動内容が合意され、「ナイロビ作業計画」と呼ぶこととした。
適応に関する5ヵ年作業計画
交渉の目的は、適応基金の運営を開始するため、運用について合意する。先進国と途上国とで意見が対立。
 
先進国の主張…GEFに付託すべき。
 
途上国の主張…GEF以外の組織を新設し、付託すべき。
付託機関選定の前提となる基金の管理原則や運営形態等について合意。付託先は議論を継続することになった。
     
・ 技術移転について
最も南北問題が際立った議題。交渉の目的は、期限を迎えたEGTT(技術移転に関する専門家グループ)の継続性についてであり、先進国と途上国とで対立した。
 
先進国の主張…
    a) EGTTのこれまでの活動を評価。
    b) 今後は機能を拡充しつつ、諮問的役割を果たし続けるべき。
    c) クリーンな技術は民間が有しており、政府の役割は技術の研究開発や普及・移転のための資金提供や法整備であるべき。
    d) 途上国側も、キャパシティ・ビルディングや基盤整備が必要である。
 
途上国の主張…
    a) 組織体の格上げを行い、権限を強める。
    b) 先進国政府が知的財産権を買い上げ、途上国に無償でそれを供与するための多国間技術取得基金を設置する。
    c) 技術移転の進捗状況を評価する指標を作成する。
結果としては、今次会合では解決できないため、EGTTを現状のままもう1年延長させ、次回補助機関会合(SBSTA26)において継続議論することが合意された。
     
     
 
 
林野庁 森林吸収源情報管理官 赤木利行氏
  1. 途上国における森林減少に由来する排出削減
・ 背景
森林減少による排出量は、世界の排出量の20〜25%。日本の排出量の約5倍、米国の排出量に匹敵する。

途上国による森林減少の減速による排出削減は京都議定書では評価されない。
(CDMは新規植林・再植林に限定)

世界の森林減少は途上国に集中。年間820万ha(北海道の面積に相当)に達する。特に、ブラジル、インドネシアの2カ国で全体の6割近くを占める。

   
・ PNG・コスタリカ提案
予測される排出量と実績の排出量との比較をして、差分をクレジット付与。
支持国:ボリビア、中央アフリカ、チリ、コンゴ、ドミニカ共和国、ニカラグア等
CDMに比べて補填義務がないこと、途上国の自主的取組支援につながること、持続性の観点でODAよりも有効である等の利点を主張。
 
・ これまでの経緯
COP11において、今後議論をしたうえでSBSTA27までに報告することを決定。
日本は、科学的・方法論的事項について十分な検討が必要なこと、UNFF、FAO、ITTO、CIFORなど関連機関との協働が効果的との意見を表明。
   
・ 各国の動向
米国:新たな市場メカニズムの導入に消極的。GEF等の既存の枠組みの活用を主張。
EU:実効性、公平性の観点から技術的・方法論的に十分な検討が必要。パイロットプロジェクトの実施を検討中。
ブラジル:市場メカニズム(クレジット方式)に反対し、基金方式を提案(後述)。
中央アフリカ共和国:PNG提案を支持しつつ、森林面積を基準とする基金方式を提案(後述)。この背景には、信頼性の高い森林関連のデータがないことがある。
   
・ ブラジル提案
森林減少防止による排出削減量に対して、クレジットではなく直接財政的なインセンティブを与えることを提案。あくまで任意の取組であり、将来の義務を発生させないことを強調。
この背景としては、森林面積が世界第2位であり森林減少面積が世界一の森林大国あることから削減ポテンシャルが大きいこと、CDMで先行していることからクレジット方式では競合してしまうこと、先進国は善意から追加資金提供をすべきとの考えがある。
   
・ 中央アフリカ提案
森林面積を基準とする基金方式を提案。森林管理交付金と気候政策交付金の2方式による分配を提案。
この背景には、信頼性の高い森林関連のデータが不足していること、モニタリングキャパシティが低いことがある。
   
・ 検討すべき技術的論点
吸収源全体の取扱いとの整合性、追加性、リーケージ、非永続性、モニタリング等、技術的・方法論的課題が多い。
持続可能な森林経営促進との整合性や生物多様性の確保との整合性を図る必要。
   
・ 我が国の基本姿勢
持続可能な森林経営への世界的な取組と調和した実効性あるものとすることが重要である。
将来枠組みに関する議論や吸収源の取扱いと整合的に検討する必要がある。
UNFF、ITTOなど関連機関との国際取組とシナジーが重要である。
   
・ 今後の検討スケジュール
来年3月に第2回ワークショップを開催する。それを受けて、SBSTA26でCOP13への報告の取りまとめに着手する。
途上国は、資金面も関係するためSBIでの議論も提案しているが、現在はSBSTAのみでの検討である。
   
2. 植林CDMの取扱い
・ 土地適格性ガイダンス改訂
第26回CDM理事会(EB26)で、土地的確性ガイダンスが改訂された。その内容は、新規植林の場合50年間森林でなかったことを少なくとも4回証明すること、再植林の場合1990年以降ホスト国定義の森林に1度も達したことがないことを証明する、等厳格な規定となった。後者については、マラケシュ合意を逸脱しているとの指摘もありCOP/MOP2で議論となった。
EB22でのオリジナル版およびEB26の改訂版共に保留となり、公開での意見聴取を行なったうえで再度CDM理事会がガイダンスを策定することとなった。(意見聴取は来年1月31まで。EB28で決定予定)
   
・ 小規模植林CDMの上限値
COP9で上限値が8kt-CO2/年となっている。コロンビア、ボリビアから上限値が小さすぎるとの主張がなされた。ブラジルは消極的姿勢を示している。
来年2月23日までに各国が意見を提出して、SBSTA26で検討することとなった。
   
3. その他検討中の議論
・ 伐採木材製品(HWP)の取り扱い
様々な議論が行なわれているが、輸出国と輸入国でスタンスが180度違い、難航している。
   
・ 森林吸収量の評価
森林本来の吸収量と、人為的手段による吸収量増加の部分との切り分けをどう考えるかが論点となっている。
   

質疑応答
 
1.2013年以降の将来枠組みについて
Q1 ロシア提案(Voluntary commitment)の真意は何か。それが途上国や先進国にどのような意義を持つのか。
A1 (久島室長)不明なところがまだあるが、少なくとも、約束を持たない国が自ら約束を持ちたい場合の手続きが現在の京都議定書(KP)にはない。したがって、この手続きを定めるべき、というのが一般的に理解されている内容である。このような手続きはあってしかるべきと日本は考えている。ロシア提案に対する途上国の反応は非常に否定的であり、KPに定まっていないルールを個別に決めていくことに抵抗を示しているものと思われる。今後さらに議論されることになっている。
   
Q2 将来枠組みはアメリカ、オーストラリアなど主要排出国が入ることが必要だが、そのために日本はどのような取り組みをしているか。
A2 (久島室長)主要排出国である途上国(中国など)と、KPに入っていない米国などの先進国があるが、条約の究極目的の実現のためには、これら主要排出国の行動がかぎである。
途上国については、UNの枠組み外であるG8などの場も活用しつつ、なぜ途上国参加が必要なのか、データ的にも説明することが重要。例えば今回のAWGの議論で、「あるデータによれば、先進国が一切経済活動をとめても全球的に濃度は危険なレベルに達する」というデータも示された。つまり、途上国における削減の取り組みが必要、ということを示唆するものである。また、排出削減が、途上国の開発・経済成長を阻害するものではない(持続可能な開発の概念)という説明も必要。
アメリカについては、最大の排出国であるので、将来枠組みの議論には積極的に加わるべきと繰り返し伝えている。このような働きかけをこれからも引き続き行う。

(和田室長)すでに様々なチャネルを通じて行われているが、国際会議の場では閣僚レベルがバイ会談で働きかけて本音を引き出している。

(岡本課長補佐)米国、豪州、中国、インドといった大排出国については、アジア太平洋パートナーシップ(APP)などUN枠外でも協調して取り組みを進めている。加えて、バイの関係の中で、日本は中国、インドとのエネルギー・環境協力に注力している。これらの活動における望ましい要素をUNの将来枠組みの交渉でも取り入れていくというアプローチを目指している。

   
Q3 将来枠組みについて日本とEUのスタンスは大きく異なるとのことであったが、日本と立場の近いカナダ(非ヨーロッパで先進国、KP批准国)のスタンスはどうか。
A3 (久島室長)炭素市場についての捕らえ方では違いがあっても、根本的には、日本とEUの立場は途上国の参加が必要という面では同じであると考える。カナダは政権が変わってKPから距離を置いているといわれているが、交渉の場でははっきりとした政策の打ち出しが減り、やや歯切れが悪いとの印象である。一方、9条レビューについては日本と同じスタンスで途上国参加の必要性を訴えていた。
   
2.適応措置・技術移転
Q1 適応、技術移転に関して、COPMOPでも日本がイニシアティブをとれるのではないか。ODAを使えるか。今後COPMOPで日本としてのロードマップはあるか。
A1 和田室長)ODAは外務省の管轄なのでここで環境省として要望はいえないが、今回のCOPではODAに焦点が当てられていたと思う。世界銀行(WB)もODAを用いて温暖化関連のファイナンスも行っている。今後のODAは貧困など当初の問題に加え、気候変動も主要なテーマになればいいと思う。
   
Q2

CDMのODA流用、WBの気候変動のファイナンシャルメカニズムについて。

A2

(和田室長)G8気候変動対話でタスクアウトしてWBに委託している。まだ具体的に何かが動いているというわけではない。今後の進捗を楽しみにしているところ。2008年の日本サミットで報告される。

(岡本課長補佐)昨年のグレンイーグルズサミットによって採択された行動計画は、WBに対して「クリーンエネルギーと開発に関する新しい投資フレームワーク」の検討を依頼した。世銀の中で検討を進めている状況だが、具体的には排出削減に対する支援やエネルギーへのアクセス改善などが検討例として挙げられる。2008年のサミット議長国である日本は、この作業を世銀と協力しつつ責任を持って進めなければならない。(2005年から2008年の)G8議長国である英、ロシア、ドイツ、日で協力しつつ具体的内容をつめていくことになろう。
ODAのCDMへの流用は第1約束期間では認められていない。現在の交渉では第一約束期間の話をしているわけではないが、KP全体のレビューにおいて、KMを包括的にレビューする中で検討される課題であると理解している。ODAも排出削減に貢献しているのであれば、次期枠組みではこれも何らかの形で評価すべきと考えている。

(久島室長)日本は、ODAでも緩和・適応に貢献しているが、UNFCCCの場ではこれがなかなか認知されず、途上国は先進国の支援が不十分と言うのみである。わが国はUNFCCC外でもいかに日本がODA等を通じて貢献しているかアピールしている。

 

   
3.京都メカニズム
Q1 省エネCDMの交渉で日本以外にどこがサポートしていたのか。
A1 (岡本課長補佐)CDMの交渉は4つの分野に分かれており、省エネCDMに関する交渉の細かい経緯については、正確に把握していない。申し訳ないが、いい加減なことを説明する訳にはいかないので、お答え出来ないということにさせていただきたい。
   
Q2 CCSが認められるとCERが大量に発行され、価格が暴落してしまうのではないか。
A2 (岡本課長補佐)CCSが導入されないと、条約2条の究極目的は達成できないだろう。どのモデル研究を見ても、CCSなしでは長期的な大幅削減は不可能ということは明らかだと思う。したがってCCSの技術移転を石炭火力発電の急増が見込まれる途上国などに移転・普及させていかなければならない。CCSが本格的に導入される頃のマーケットの動向はわからないが、CDMの対象と認められればCCS技術をより進めるインセンティブとなるだろう。ご質問の主旨は、炭素価格が下がるから問題だろうということだと思うが、もし価格が下がったとしても、それが全球的な排出削減を反映した結果であれば、価格の低下そのものは問題ではないと思う。
   
Q3 アメリカ、カナダのCCSに対するスタンスはどうか。
A3 (岡本課長補佐)この議論はCDMとしてのCCSであり、KPの枠組み内なので、アメリカに発言権はない。ただし、インベントリにおけるCCS議論で、アメリカは強く支持する旨発言していた。カナダ、ノルウェイ、UKといったポテンシャルのある国も強く支持。これらは国内対策としての視点から発言した模様。日本の国内のポテンシャルは他国と比べて少なく、CCSが広まることは日本にとって不利という見方もある。我々の基本的立場としては、いかなる地域であれ、CCS技術が大幅な排出削減を実現するのであれば、結局世界規模の排出削減に貢献するものであり有用と考える。
ただし、次期枠組みの目標の議論において、CCSのポテンシャルがある国とない国が全く同じような約束をするような仕組みとなるべきではないと考えている。AWGでの作業計画にあるように、各国の削減ポテンシャルを合理的に検討すべきで、各国のCCSによる削減ポテンシャルも詳細に検討した上で数量目標が設定されるべき。
   
4.シンク
Q1 新規植林、再植林はもともとの生態系を壊しかねないのではないか。
A2 (赤木管理官)CDMプロジェクトでは早く育つ種類が選ばれ、周りの植生と合わない、という懸念がある。マラケシュの交渉の際、移入種や外来種には制限を設けることをルールとして明確にすべきという声もあったが、結局序文で「取り扱いには留意する」というにとどまった。一方、CDMでは手続き上環境影響評価を行うことになっているので、全く生態系に配慮をせずプロジェクトを進めていくということはない。
   
Q2 パプアニューギニアやコスタリカの森林関連提案はEUが市場メカニズムを推進していることと通じるものなのか。何もかもクレジットに換算するという考え方はコストパフォーマンスのみに着目した対策の仕分けを招くのではないか。
A2 (赤木管理官)ベースラインの引き方によるが、実際に国レベルで森林減少を食い止めて、食い止めた分をクレジットとして先進国の削減分とすると相当な量となるだろう。この提案がEUの政策とどのように結びついているかはわからない。しかし、クレジットを大量に供給するような仕組みであれば、先進国も途上国もメリットを受け、さらに排出削減が進む、という提案である。大量供給が進むとほかの分野で削減が進まないという懸念も生じるだろう。
   
5.横断的課題
Q1 炭素市場について。EUや豪州、アメリカに発達しつつあるが、これらがリンクされたら日本は取り残されないか。
A1 (岡本課長補佐)排出権取引(ETS)を日本に導入するかどうかについては、目標達成計画にあるように「総合的に検討していく」課題としている。ETSは効果的な点もあるだろうが、現在温暖化を解決するためにひとつだけの政策手段では不可能であり、その国の状況に応じた最適なポリシーミックスが必要。EUは当初は共通炭素税を検討していたが、それができなかったためETSを採用したという経緯もある。また、東欧諸国をETSに含めることにより、削減ポテンシャルをETSの中に取り組むという狙いもあった。こうしたEUの特別な事情を勘案せず、EU-ETSを単純にコピーするという政策は適切ではない。
彼らの知見・経験を我々も次期の枠組みのインプットとして取り入れる必要はあろうが、国の政策は国それぞれの置かれた状況によって判断すべきと考える。

(和田室長)ETS、炭素市場というキーワードが出てきて、何が何でも導入すべき、やめるべきという極端な議論は避け、幅広いオプションを考えるべきと思う。

   
Q2 2013年以降の枠組みが明確にならないとCDMプロジェクトが進まないのではないか。日本政府としては日本企業の取り組みを担保するためにどのような努力をしているのか。
A2 (岡本課長補佐)将来枠組みについて、我々は主要排出国を入れた実効ある枠組みとすることを第一と考えている。そこでCDMがそのような実効ある枠組みにつながりうるか、と考えたとき、現在のCDMは数量目標を持つ国と持たない国の2分割がベースとなっている点は何らかの改善が必要だと理解している。2008,9年ごろが将来枠組み交渉の山場になるだろうが、条約9条の議定書全体のレビューがこれから行われるという状況で、CDMだけ最初から継続を決めるべきではない。したがって、柔軟性措置といったものは2013年以降も残る可能性が高いと思うが、CDM継続について現時点でコミットすることは、より大きな目的である「実効ある枠組み」を目指すうえで必ずしも望ましい戦略だと考えていない。
   
Q3. 日本のKPコミットメント。本当に守れるのか。それに向けてどのような行動計画を考えているか。
A3 (久島室長)日本は約束を達成する、というお答えしかない。

(岡本課長補佐)最大限努力するというのが公式スタンス。国際交渉の中で「守れない」「できない」と言ってしまえば、非常に厳しい状況におかれることになる。交渉を担当する立場としては、守らなければならない合理的理由として、次期枠組みでの交渉に発言力を持つ、ということがある。

(和田室長)ナイロビの大臣ステートメントにあるように「断固守る」。同ステートメントにはまた、目標達成計画の見直しも行うとあり、見直しの中で追加的な政策も検討する。我が国の排出量は直近値で90年比8.1%増加とのこと、遵守は不可能のようであるが、6%の中身を見ると1.6%が京メカ、3.8%が吸収源で残りの国内対策は0.5%。したがって必要以上に萎えるような言い方は避けるべき。

(赤木管理官)森林吸収分は達成すべきであるが、人為的に整備したものがカウントされる。今の状況だと3.8%の吸収確保は厳しく、森林整備制度を整える必要性がある。

   
会場風景
 (講 演)  (質疑応答)

議事記録者:松本 仁志、信岡 洋子、渡邉 政明(GISPRI)
以上