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2007年 2号
Opinion
自然の叡智

(財)地球産業文化研究所

理事 中村 利雄


 本年4月から、2005年に開催された「愛・地球博」の理念の継承発展事業の実施を地球産業文化研究所にお願いすることになった。

 愛・地球博のテーマは「自然の叡智」であったが、当初このテーマについては、「人類に叡智はあっても自然に叡智はあるのか」といった指摘があったそうである。勿論この言葉は、自然の摂理あるいは仕組みと言い換えることもできるが、「叡智」という言葉を使用することによって、より自然を尊重する、人類の叡智の傲慢さを抑制するというニュアンスが強調され、地球環境問題が深刻化していく中、より適切な表現として国際社会でも受け入れられたのではないかと思う。

 万博においてテーマが採用されたのは、1933年のシカゴ万博からである。そのテーマは「進歩の世紀」であり、1970年の大阪万博は「人類の進歩と調和」であった。万博のテーマはその時代時代を象徴するものであったが、必ずしも未来のビジョンを示すものではなく、参加国もそれ程強くテーマを意識して展示等を行っていたわけではなかった。むしろ参加国は、それぞれの国がそれまでに成し遂げた成果を競い合っていたと言える。

 テーマの有する意義が重要性を増し変容したのは、愛・地球博からではないだろうか。BIE(博覧会国際事務局)は、1994年にその存在意義を問われていた万博のあり方について数々の提言を行っているが、煎じ詰めれば「万博は地球的規模の課題の解決に貢献するものでなければならない」というものであった。すなわち万博は、現在世界が抱える課題を抽出し、その克服の方途と課題を解決する技術、新しい社会システムの創造等を明らかにし、それを実現する価値観や生活様式の転換を連帯して進めて行こうとする国際運動であるということである。それ故にテーマの重要性がより強調されるようになったのである。万博が国際運動として大きなうねりになるためには、来場者に頭で考えてもらうということではなく、驚きや感動をもって体感してもらい、モチベーションを与えるような表現でなければならない。このため愛・地球博では、展示やイベントはもとより、会場自体、運営等と全ての面でテーマを表現しようと努め、さらに万博でしかできない表現となるように努めた。

 万博の理念・意義がこの様に変化して来たことから、終了後もその理念を継承発展していくための運動を継続的に行い、その成果が目に見えるようにならなければならない。従って次の万博につなげていく活動も求められることになった。万博の収益金がその理念の継承発展のために使用されることは、万博史上、愛・地球博が初めてであり、BIEとの協働事業、次期博の参加等の事業が行われることは画期的である。

 GISPRIにおいてかかる事業が行われ、自然の叡智が目指した社会、すなわち自然の摂理を尊重し、持続可能な社会の実現に向け、当財団がいささかなりとも貢献できることを期待してやまない。