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2010年 1号
Opinion
コペンハーゲンCOP15を超えて

(財)地球産業文化研究所 顧問

福川伸次


 国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、昨年12月、京都議定書の後継となる新たな枠組みの合意を得ることができず、主要国が取りまとめた「コペンハーゲン合意」を「テークノート」して閉幕した。世界の気温上昇を2度以内に抑制し、発展途上国への資金供与の仕組みを強化するなど、それなりの成果を挙げたが、京都議定書の延長棚上げは、国際社会に新たな戦略構築を迫ることとなった。

 COP15は、我々に重要な教訓を残した。

 第一に、地球規模の問題に対する合意形成がいかに困難であるかということである。国連の場で採用される全員賛成方式を続けていけば、決議の採択が今後も不可能に近い。早くからこの問題をリードしてきたEUも、1990年比25%という大幅削減を提案した日本も会議の主導権が取れず、大排出国である米国と中国が中心になってまとめた合意案も小国の反対で採択に至らなかった。小国の反乱があると多国間の合意形成は将来も望み薄である。
 第二に、経済と環境を両立させる解決策の発見がいかに難しいかということである。途上国は、先進国の歴史的責任を追及して京都議定書の延長と排出量の大幅削減を要求し、一方、衡平性の見地から求められた規制に対しては経済成長の制約となるとして拒否し続けた。拘束力ある排出抑制と市場機能との理論的関係も未解決である。

 1月31日までに先進国は2020年までに削減目標を、途上国は排出抑制行動を登録することになるが、締約国はメキシコでのCOP16に向けて新しい対応を模索することになる。その登録内容にもよるが、大きくいって三つのシナリオが考えられる。
 一つのシナリオは、新たな国際的枠組みを構築することである。もはや京都議定書の根拠にあるキャップ・アンド・トレード方式は無理であるが、プレッジ・アンド・レビュー方式が根拠となり得るかが課題となる。それは、世界全体の排出許容量を基礎に各国が排出量を約束(プレッジ)し、国際的にその内容や成果を審査(レビュー)する仕組みである。COP15 でこれに類する議論があったが、中国が米国の説得にもかかわらず、国際支援の対象となったものを除き国際監視の受け入れに反対の態度をとった。私は、この方式が効果的かつ現実的な案だと考えており、関係国の合意に至ることを期待したい。
 次のシナリオは、グループ別に排出削減の仕組みを形成することである。これまでも、アジア太平洋パートナーシップ(APP)やコペンハーゲン合意案作成グループなどが活動してきた。それを活かして実効性ある仕組みをつくろうというわけである。丁度、世界貿易機構(WTO)と自由貿易協定(FTA)の関係と類似する。
 私は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)を活用するのが一案だと考える。APECは、緩やかな連帯であり、柔軟性に富み、既にエネルギー・環境問題に取り組んできた実績がある。何よりも魅力を感ずることは、日米中という3大経済圏が参加していることである。
 もう一つのシナリオは、地球温暖化問題の共通認識のもとに、各国が主体的に対応するやり方である。既に米国、中国、インド、ブラジルなどは、自国の削減目標を公表している。各国がこの実現を目指して適切な政策を実施し、エネルギー需給構造や産業構造の改革に取り組むこととなる。国によっては環境税や国内排出権取引を実施するものもあろう。とにかく、実施のきっかけを掴むという案である。
 これらのシナリオをめぐって締約国は今後論議を展開していくことになる。そこで鍵を握るのは米国、中国、インドなどの主要排出国であろう。

 日本は、鳩山イニシアティブに沿って登録したが、日本として重要なことは、現実的な削減目標を掲げて排出削減の成果を挙げ、実質面で世界をリードすることである。そのためには、政策手段を再検討しつつ、市場構造、生活スタイル、技術体系、産業構造の改革に鋭意取り組むことが不可欠である。その際、産業政策の手法を活用するとともに、公民連携(PPP)の実を挙げることも必要である。
 同時に、途上国に対しては、日本の優れた蓄積を活かして取り組むべきモデルを提供するとともに、資金援助の拡大と技術移転を加速する条件整備に努める必要がある。
 日本としては、地球温暖化ガスの排出削減について実質的な成果を挙げ、技術的、産業的、かつ社会的に貢献することこそ、世界から評価される途である。