184日間に渡り、万博史上最大の観客7305万人を迎えた上海万博が無事に終わり、今、安堵の気持ちで一杯です。
日本館は、連日長蛇の行列ができるほどの超人気館でした。日本館のテーマは“こころの和、わざの和”ということで、人間に受け入れられる技術をアピールしてきました。その端的な事例が、ヴァイオリンを弾くロボットです。そのほか見学した皆様は、辞書や電話などの機能も持つ大型画面のテレビや、また、笑顔に焦点を当てるワンダーカメラなど、全ての技術について、人間が楽しめるようになっていることを感じていただけたと思います。これが日本館に多くの人々が訪れた最大の要因だと思います。結局、約540万人の方々が日本館に来られました。
また、期間中、25の都道府県知事の方々、及び多くの市町村の首長が議会の方々と共に来訪し、それぞれ数日から長くて一週間、日本館に併設されたイベント会場で、各都道府県や自治体の観光名所、特産品、文化・伝統など、独自の地域資源を、来場者に向けて大いにアピールされました。今、日本各地にはビザの緩和もあり、中国からの旅行客が増えています。実際に北海道などは、中国で公開された映画の舞台になったこともあり、大変な人気を集めています。観光庁の溝畑長官も万博会場を訪れ、日本の魅力を、積極的にアピールされていました。その他、「梅屋庄吉と孫文展」、「音楽劇 阿部仲磨呂」など日中の交流を紹介する催しも皆さんを楽しませていました。
個人的な面では、日本人としては初めて今回の万博の運営委員会の議長に選任され、会期中、32人のメンバーの人々と共に、主催国との間で万博の円滑な運営を巡って、大変苦労をいたしました。時には激しいやり取りもありましたが、結果的には、この史上最大の万博を安全に、且つ観客の皆さんに楽しんでいただく形で運営できたということで、本当に良かったと思っています。
万博の運営に関して、上海市の最高責任者である兪正声共産党書記は、二つの重要な指摘をしています。まず、「オリンピックと万博は、全く違う」ということです。
すなわち、オリンピックは開催期間が三週間程だが、万博は半年間に及ぶ。また、オリンピックでは、観客はスタジアムに集結し観戦するだけだが、万博は多くの観客が会場内を縦横に移動する。したがって観客のコントロールの難しさはオリンピックの比ではない、加えて万博は、参加国が出展費用を供出してパビリオンを建設し、その運営を行うので、主催国と参加国の関係は常に円滑であることが求められる。こうした点をもって、オリンピックと万博との違いを明確に認識しておく必要がある、という指摘です。もう一つの指摘は、「この万博を開催するにあたり、開催都市である上海市は、完全無欠な上海市としてこれを迎えるべきではない」という内容のものでした。完全無欠な上海市などはそもそも不可能だし、それは真実の姿ではない、たとえ欠陥が見られても、それは今後改善すべき点として順次改めていくという精神が重要なのだ、と。この現実重視の発想があったからこそ、今回の万博運営は成功したのだと、私は確信しています。
さらに付け加えたいことは、スタッフの人たちが日々、何らかの改善をしていたことです。そしてこれはまさに、愛知万博の精神そのものなのです。愛知万博の事務総長を務められた中村利雄氏は何度も中国から取材され、その度に“日々改善”が重要であると語っておられました。これを踏まえて、上海の万博事務局の人たちは、改めるべきは直ちに改めるという考えで臨んだといってよいでしょう。
こうした形での愛知万博の運営ノウハウの継承とともに、テーマにおいても、愛知万博の理念は継承されたといえます。すなわち、愛知万博のテーマは「自然の叡智」でした。そのエッセンスは、環境と共存していく人間社会、ということです。今回の上海万博の基本テーマは「Better City, Better Life」であり、人間が環境と調和しながら未来へ向けてより良い都市生活を送っていくというものです。すなわち、愛知も上海も「環境」という要素を重視している点で愛知万博の理念が正しく継承されたと言えるでしょう。
最後に、中国が国際的なイベントをマネージしていくノウハウを習得したという点で、この上海万博の成功は大きな意義があったと思います。今回の成功は、今後の自信になるでしょう。そして自信を持つということは、余裕を身につけることでもあると思います。
余裕を持つということは、他人の考えや意見を受け入れる度量の大きさ、広さを意味しますので、前述したような利害の相違や意見の不一致に直面したときにも他の国々の考えや意見を受容していくことにもつながります。今回の万博成功が中国にとって「より国際的な調和を図りつつ、発展していく」契機になってほしいと期待しています。
日本館の展示を案内(前列中央は直嶋前経済産業大臣)