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ニュースレター
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2013年 1号
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Opinion | |||||||
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2013年1月13日 私は、半世紀にわたり日本の産業の動向を観察してきたが、今日ほどその将来に不安を感じたことはない。ソニー、パナソニック、シャープといったかつて世界市場で大活躍した優良企業が今期1兆6000億円にも及ぶ赤字に追い込まれた。円高とデフレが原因だという声も聞くが、日本産業は、鉄鋼、テレビ、パソコンなど多くの産品で生産シェアーのトップの座を中国に奪われ、スマートホン、3DTVなどの革新的な商品やその部品の提供が韓国、台湾などの企業に先を超されている。しかも、これら3国の関係企業は、日本企業に比べると、遥かに高収益を上げている。 産業力の発展は、本来、技術、新商品などのイノベイション力に係っているが、残念ながら、日本産業がその能力を低下させている。 主要国の研究開発費の支出状況に明らかな変化が現れている。科学技術研究調査報告書やOECD報告によってみると、日本のそれは、明らかに停滞し、中国、韓国、台湾などの東アジア諸国が、R&Dを急速に拡大させている。日本の研究開発費は、2000年の16.3兆円から2010年に17.1兆円へと4.9%の上昇に止まっているのに、同じ期間に、中国が896億元から7,062億元へと7.9倍に、韓国が13.8兆ウオンから43.9兆ウオンへと3.2倍に、台湾は2,810億台湾ドルから3,950億台湾ドルへと41%増となっている。世界最大の研究開発国である米国でさえ、2,681兆ドルから4,016兆ドルへと50%増加させている。 政策上の比重を評価する観点から研究開発費の対GDPを見ると、韓国のイノベイションに対する強い意欲が見て取れる。韓国のそれは、2010年には3.74%で、日本の3.57%を追い越した。米国の2.90%(2009)、中国の1.77%よりもかなり上回っている。韓国は、基礎研究にも力を入れており、研究開発費支出のうち、基礎研究には18.2%を振り向けており、米国の19.0%(2009)と肩を並べるようになっている。ちなみに、日本のその割合は、14.7%に止まっている。 日本の企業関係者は、韓国産業の技術は、日本の模倣で、まだまだ日本の産業技術が上回っているのだという意見を聞くが、事態は急速に変わりつつある。 研究論文の発表数を見ると、2005年から2010年にかけて、日本が77千件から69千件への10.4%減少しているのに対し、中国は64千件から121千件へと89.1%も増加させ、今や日本を遥かに上回っている。中国は、第12次5カ年計画で科学的発展観を基礎に技術水準の上昇に力を入れている。 特許の出願数を見ると、中国の増加が目に付く。2010年の出願数をみると、日本が46.2万件、米国が41.6万件、そして中国が30.7万件と続くが、中国は2005年からの6年間になんと3倍に増加しており、やがて日本を抜く勢いである。 日本の産業技術は、1980年代に米欧などと激しい貿易摩擦を招来したように、世界でトップを占めていた。スイスにある経営開発研究所(IMD)の国際競争力評価によれば、1990年代初頭には、世界で第1位を占めていた。ところが、最近では、27位に後退した。その背景は、1980年代後半のバブル期に経営者の間でおごりの意識が広がり、R&Dへの意欲が低下したことに加え、その後政府も財政事情の悪化から研究開発政策への努力を低下させたことがあげられる。 しかし、諦めるのは早い。日本では、研究機関や企業にはまだ研究機能の潜在力があり、環境を整えれば十分回復可能である。 第一に、マーケット・インのイノベイションに努力することである。日本の経営者や技術者は、「いいものを造れば売れる筈だ」と確信する傾向があるが、今や「売れるものを造る」ことに徹しなければならない。消費者が求めない過剰な機能を入れる必要はない。一方、美しさや感性が重視されることから、技術と文化の融合にも努力する必要がある。 第二に、基礎研究の拡大に努力することである。この分野は、とりわけ政府が支援、推進すべき分野である。情報関連技術、新素材、生化学、再生医療、新エネルギー、環境保全など、そのフロンテイアは広い。基礎研究の進歩は、マーケット・インのイノベイションの可能性を拡大する。 第三に、海外との研究交流を積極的に展開することである。革新的な海外の企業や研究所、優秀な人材を日本に誘致することも必要である。それことが新しい発想と成果を呼び起こす。 安倍内閣は、インフレ・ターゲットを含む金融緩和政策で成長を図ろうとしているが、それだけでは経済の持続的成長を実現し得ない。人材養成、研究環境の整備、研究開発費の充実を進め、イノベイションを強化して構造改革を加速してこそ、「新しい成長」の実現を達成できるのである。 |
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