|
|
シンポジウム・セミナー
|
|
1998年4月号 |
|
国際会議「中国への外国投資・日本、ドイツ、アメリカの展望」- < 報告 > -膨大な市場を抱え、発展途上にある中国は先進諸国の投資先としてもはや「選択肢」ではなく「必須条件」となっている。拡大する中国はまた同時に世界の懸念ともなっている。ウィリアムズバーグ・サミットで謳われたように日米欧3極の連帯は世界の平和にとって重要なものとなっている。日米欧は連帯を強め、中国が安定した平和国家として、世界全体に貢献できる責任あるパートナーとなるよう、中国を導いていくことが必要である。 このような問題意識の下に「中国への外国投資、日本、ドイツ、アメリカの展望」が開かれた。本国際シンポジウムは、地球産業研究所、スタンフォード大学、ベルリン日独センター、およびフリードリッヒ・エーベルト財団の主催で2月26日、27日の両日にわたって開かれたが、ここでは公開討論となった27日午後の第4セッション、「会議総括、中国は特例か」の模様を中心に紹介する。 1.中国の投資受け入れにあたっての特徴 1950年から70年にかけて日本は外国技術をライセンス導入し、外資に依存することなく経済発展を遂げた。一方、中国の経済発展は外資導入を抜きにしては考えられない。そして、今では外国からの投資を受け入れるにあたって技術導入、それも最先端技術の導入を条件としている。この技術移転を確実なものとするため外資の進出形態はジョイントベンチャー方式が中心となっている。海南島でのカプロラクタム製造プラントでは前工程をBASFの技術で、後工程をDUPONTの技術でと、世界最高技術を採用している。NECも30%出資条件をのんで上海において半導体製造に乗り出した。こういう中国にとって有利な条件が通
るのも中国のマーケットアクセス、つまり「膨大な中国市場」といったものを切り札として使っているからといえよう。工業化重点政策である自動車工業についても部品等の裾野産業も含めて、中国は自前でやろうとしている。技術者を先進国へ派遣して技術習得に努めており、後10年もすればある分野では中国が先進各国の恐るべきコンペティターとなることも考えられる。もはや中国を労働集約型産業に代表される、澄w)菴聞颪痢崟源叉鯏澄廚噺・襪戮?任呂覆ぁ・・鍵年代のタイ且曹?lえてみるとタイは外国投資によって発展したが、ローテクの労働集約型産業導入に甘んじて、スキルを向上させることを怠ってきた。中国はテクノロジー、マネージメントを高め、電器通
信機器、発電事業、鉄道の近代化などに成果を発揮しており、これは他のアジア諸国には見られないことである。日本も持てる先進技術を中国に供与していかなければ中国市場参入競争に負けるかもしれない。 2.日、米、欧の中国投資に対する態度これまでの中国への外国投資では香港、シンガポール、台湾経由の華人投資が重要なものであったが、華僑の資金はこのアジア通 貨危機で尽きてしまったように見える。これからは日、米、欧からの投資が中国にとって重要性を増してくる。現実的には多国籍企業中心の投資が中心となるだろう。 米国は日本より早く、株式投資を中心に中国投資を開始した。大手企業が率先して進出し、技術移転も他国に先駆けて行っている。発電所建設などのインフラ投資、機関投資(ファンド)が多いのも特徴といえる。一方、日本は貿易が投資に先行して行われ、中国に対する直接投資は米国に後れを取った。しかしながら90年以降、急激、かつ広範囲に投資が行なわれ、米国に追いついた。日本企業の中国進出にあたっては、商社が特異な役割を果 たしている。つまり商社の指導の下に日本の中小企業が進出し、商社を通して原材料を日本から持っていき、製品を引き取るといった形態である。しかしこれら労働集約的産業は沿海部の労働賃金上昇により転機を迎えている。 欧州の中国投資開始の時期は日米に比べて遅れたが、急速に追いつきつつある。特に欧州コンソーシアムを組んで重化学工業などの大掛かりな投資が進みつつある。 欧米は大陸的発想に基づき、内陸部へも市場を求めて積極的に進出し、中国人を登用して大規模な事業を展開している。日本も欧米のような長期的な戦略的展開を考える時期に来ている。 3.中国をめぐる2つのパースペクティブ(1) 2つの中国と東アジア地中海構想90年代より急激に外資が中国に流入し始めた。流入先はインフラの整った広東、福建、上海、天津など沿海部が中心だったため、発展する沿海部と開発の遅れた内陸部という2つに分断された中国を招来することとなった。外資系企業の経済成長に対する貢献度、工業生産に対する貢献度、投資に関する貢献度、対外貿易に関する貢献度、何れをとってみても1−2の例外を除いて、沿海部の諸都市が軒並、上位 を占める。中国の経済地域は発展の続く沿海部と取り残された内陸部の2つに分断されており、その較差は益々広がるばかりである。そして、中国の沿海部諸都市は一体化し、中国内陸部よりも東アジア諸都市との結びつきを強めている。この東アジア経済地区のプレーヤーは国家ではなく港湾都市であり、都市同士の経済関係、協力関係はますます強固なものとなりつつある。ウラジオストックから東京、香港、マニラ、シンガポールを結ぶ港湾都市群が形成した経済圏を「東アジア経済コリドー」、あるいは「東アジア地中海」と名づけたい。 (2) 一つの中国確かにトウ小平の開放改革路線にのって沿海部が発展してきたのは事実である。しかし中国には沿海部に3億人、内陸部に9億人の人間が住んでおり、内陸部のほうの人口が多い。中国は中央集権国家であり、一つになっていないと政治的、社会的に安定しない。「一つの中国」の重要性は中国が十分認識していることであって、歴史的に分断された中国は大変弱い中国だった。沿海部と内陸部との経済較差は社会的問題を引き起こす可能性があり、中国政府として内陸部の発展を図る方向に政策を転換している。財政投資の50%、ODAの60%が内陸部へと向かっている。内陸部と沿海部のバランスの取れた発展ががうまく行かないと中国の将来はない。これからは人口の多い、つまり市場の大きい内陸こそが発展の中心となる。上海から重慶、四川を通 る揚子江ルート、また江蘇省西北からシベリアを通ってヨーロッパ、ロッテルダムに向かう鉄道路線もあるわけで、内陸部発展の素地は充分である。又高速道路建設のインフラ整備にも力を入れている。 4.中国は法治国家か(1) 中央と地方の法解釈の違い、不透明な裁量 権中国に法律がないのではない。ありすぎるくらいで中央政府は「この法律をちゃんと守るように」という法律を出しているくらいである。問題は北京政府レベルでの法律、地方政府レベルでの法律があり、人により、組織により解釈が違う、また地方によってもその解釈は一様でない。行政官の裁量 権が大きすぎるといった弊害も見られる。 一つの例だが、米国の企業が発電所を建設し、電気代金の算定価格のベース(これに為替リスク、原料コストを上乗せするための最低価格と見てよい)を決めておいたところ、発電所の完成後、地方政府より「ベース価格がシーリング価格である」と一方的に宣告されてしまった。米企業の抗議に対する当局の返答は「いやなら一切支払いはしない」というものであった。もちろん国際商事仲裁に持ち込めば勝てるのであるが、たとえば中国側に罰金支払いの裁定が出ても、それを実行しようにも、中国の地方裁判所は協力しない。中国の地方裁判官の給料は地方レベルの共産党組織から支払われているので、外国人に限らず、ヨソモノに対しては法理論よりも地方政府の利権が最優先され、地方政府の意向に沿った判決が出ることになる。 また、大規模プロジェクトは中央政府の許可が要るため、一つの橋や一本の道路を建設するプロジェクトが10くらいに分割されて、ダミー会社に発注されることもある。これは欧米の法律に照らせば脱法行為といえるものである。 また、発電プラントにしても、中央政府の許可を必要としない発電規模にするため、効率が悪く、環境に問題のある小規模発電所の乱立を招いている。これは結果 として中国の経済発展の質を低下させるものである。「上に法あれば下に対策あり」とは中国でよく聞く言葉である。中国には法がありすぎて、それもきつすぎるものだから、実務慣行が先行してしまい、法律自体の存在意義が無くなり、法が後追いで現実に沿って改正されることもある。 逆に、実務慣行が先行していても一罰百戒の意味で突然、摘発、弾圧を受けることもある。特に中国で弁護士活動をしていて困るのは賄賂を出すべきかどうかという相談を受ける時である。 (2) 移行期にある中国確かに中国に改善すべき点は多い。 欧米、日本は法治国家としての歴史が中国に比べて格段に長い。今中国は法治国家になろうとしているところであり、欧米並みになるには時間がかかる。だからといってその間、ビジネスはやっていかなければならない。どうやって自分を守るか、これが中国で仕事をやる上でのノウハウである。例えば、地方政府の言うことだけを信用することなく、中央政府とも連絡を取って、将来禍根を残さないよう、情報を密にしておくなどである。この時に長年の経験、人脈がSIを言う。頼れる人間関係はしっかりした契約と共にあらゆるビジネスで大切なことだ。 中国は地方の活性化を目指して中央の承認の下に地方の自由な活動を許していた。中国は今、経済の量 から質への転換を目指し、技術移転を伴ったハイテク産業など、投資案件について選別 導入を図っている。地方といっても多くの幹部は中央から派遣されているし、中央の力は強化されていくだろう。 先進技術を持っている日米欧は中国に対し交渉力を持っており、中国の譲歩を引き出すことのできる立場にある。 5.中国のWTO加盟に向けてWTOは貿易のことだけを扱うと思われがちであるが、投資はWTOの重要課題である。自由で公正な投資の保障はWTOの精神の根幹を成すものであるが残念ながら、中国は投資の受け入れに関し、制度の透明性、法解釈の公正さ、当局の裁量 権等において改善すべき点が多く、現状では国際的義務を果たす能力は小さいと疑われも仕方がない。中国政府は国際的取り決めを守り、地方政府にそれを守らせる能力があるのか。能力以前にMAIなどの多国間投資、貿易取り決めを守る「意思」があるのか。 国際的貿易システムに入るということは、益々複雑化していくグローバルなシステムのダイナミックス、プロセスに自国のシステムをあわせていかなければならないことでもある。中国の抱えている金融制度上の、また知的所有権、労働基準、その他諸々の問題が我々の問題として提起されてくる可能性もある。 我々は例えば、中国の地方での法制面 の違いを調査する国際的プロジェクトの設置、そして2国間、多国間、OECD、G7等、あらゆる舞台を通 じて中国交渉を進めるといった地道な努力を通じて、中国の状況を変えていく必要がある。中国を責任あるパートナーとして国際システムに取り込むということを行わなければ、国際システム自体がうまく働かないということもあるのだ。 日、米、欧の3極はこれからも希望と忍耐心を持って「チャイナ・プロブレム」に対処していくことが必要だ。 (文責 事務局 中西) |
|