2002年1号

日欧環境セミナー 「サステイナビリティの達成に向けて」 開催報告

 去る12月3日、国際連合大学、地球環境戦略研究機関、環境科学会と共催で、日欧環境セミナー「サステイナビリティの達成に向けて」が開催され、約200名の参加者を得て、経済産業省大臣官房審議官・大井篤氏、ドイツ連邦議会議員・エルンスト・ウルリッヒ・フォン・ワイツゼッカー博士、そしてフランスのファクター・テン研究所長・フリードリヒ・シュミット・ブリーク教授の三氏が講演を行なった。

1.大井審議官講演要旨

 日本では持続可能な社会を目指し政府、議会、企業が充実した対応を進めている。国際交渉では、気候変動、オゾン層保護等の問題が取り上げられ、一定の成果が見られる中、気候変動に関する議論が特に進展している。
 日本政府は地球環境、循環型経済社会、化学物質管理等の制度化に取組んでいる。
 一方、企業セクターは環境問題への取組みが不可欠と認識、環境への対応を戦略的に位置付けようとの動きが一部見られる。企業が創意工夫を活かし如何に実行へ移すことができるかが鍵となる。また、環境対応と競争力強化を矛盾なく両立させるために、環境配慮に取り組む企業が優位に立てる制度設計を推進することが重要である。
 地球温暖化対策の実効性確保には、全ての国の温室効果ガス削減努力が必須であり、全ての国が一つのルールの下で行動することを目標に、米国の建設的な対応を引き続き求めるとともに、発展途上国を含めた国際的ルールが構築されるよう最大限の努力が必要である。

2.ワイツゼッカー博士講演要旨

 持続的発展は、90年代に入り経済グローバル化圧力を受け、社会・経済・環境という持続可能性のトライアングル構造は瓦解した。
 英米流経済最優先パラダイムが幅を利かせ、企業はより多くの配当を迫られ、産業構造が変化、コンセンサス、環境への配慮などの優れた企業文化は影を潜めた。
 貧富格差は拡大し、生物種の絶滅や地球温暖化の危機が迫っているが、人々はこうした社会、環境という弱い部分への関心を払わなくなりつつある。
 持続的発展の実現は極めて難しい状況だが、次の戦略に活路を見出せるだろう。
 (1)環境効率の事業収益性との両立
 (2)最貧層の能力レベルアップによる生産性改善
 (3)資源浪費抑制策を含む国際ルールの確立
 (4)環境投資・倫理投資を促進する優遇税制の導入
 (5)社会的、環境的必要性の代弁者としてのNGOの支援

Q&A
Q1: ITは持続可能性の達成においてどう位置付けられるのだろう。
A1: 例えば金融システムで市場効率を高めるのは確かだが、IT格差拡大も懸念される。公平性、環境への配慮、効率確保との調和が必要だ。
Q1: 経済ルール化は進んでいるが、倫理面、環境面での国際ルールづくりは具体的にどう進めるのか。
A1: 金融安定フォーラムでA.クロケット氏が過大な為替変動を抑制するルールを提案した。トービン税しかりだが、すべての国の参加が必要で、実現は容易ではない。
 財・サービスについては供給側の透明性の確保が重要だ。環境については、先日のWTO会議でも取り上げられ、いずれルール化に向かうだろう。

3.ブリーク教授講演要旨

 持続的発展の達成には、社会・環境・経済の3要素をバランスよく追求することだ。
 市場による富の配分能力を回復させ、雇用増大と社会参画を促し、高い効率で財・サービスが提供されねばならない。
 N.パーカーによれば、世界を人口100人の村に譬えると、6人が富の59%を保有、50人が栄養失調、1人がコンピュータを保有、ということになる。
 ITの恩恵に与っているのは一握りの人間に過ぎず、一方、もし人口の10%がアクセス可能になるとその資源消費で生態系バランスは完全に失われる。資源の利用効率改善が必須だ。
 循環型社会の税制は現在の労働課税から資源課税にシフトすべきだ。
 次の5項目が持続的発展への課題となる。
 (1)20~30年後の目標・ビジョンを作成する。
 (2)GDPのみでなく、環境などの指標導入を具体化する。
 (3)日欧で阻害要素を探る。
 (4)総合的で包括的な政策を作成する。
 (5)日欧が持続的発展を進めた場合の途上国への影響を検証する。
 一貫性のある戦略的なビジョン作成に向け日欧共同研究を提案したい。

Q&A
Q1: 欧州で導入された炭素税は雇用、国際競争力等の視点からどう評価されているか?
A1: まだ評価は出ていないが、労働コストが多くの問題を抱えているのは事実だ。労働に対する増税は失業を増やす。労働税制を資源税制に抜本的に変えてはどうかと考える。
(文責 竹林忠夫)

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