新しい世紀に入り、地球環境問題に象徴される地球の一体性が強く認識されている。資源の有限性、環境容量の有限性の制約下のもとに、持続的な人間活動を改めて考え直す必要が生じている。一方においてはグローバライゼーションの名のもとに企業の国際的な経済活動はますます共通の価値観を意識して行われることになっている。また、昨年の同時多発テロを例に挙げるまでも無く、情報技術の発達は瞬時にして地球の反対側の出来事を身近なレベルに引き寄せることとなり、否応無く世界を一つのものとして認識させざるを得なくなっているのである。
このような時代に産業界は、従来のような無限成長を前提とした成長パラダイムからどのように脱皮していくことが必要なのであろうか。人間活動と地球との調和を如何に図るか、そして何よりも巨大化した産業活動をどのように永続性のあるものにしていくのか、我々に求められている考え方の変更は人間の基本的な生き方に関わるものであるといわねばならないであろう。種々の環境問題に関しては、色々な国際的な動きもあり、産業分野によってそれぞれの対応も始まっている。世界的な経済界の代表的な機関として、国際商工会議所(ICC)、持続的開発のための世界ビジネスカウンシル(WBCSD)もこのような意味での産業活動文化の地球標準を作り上げるための活動が期待される。
地球規模での新しい文化を創出していく上で、国際連合が傍観者たり得ないことは勿論である。近年の国連改革の色々な動きも、国際連合の主導する理念や活動に直接的に民間企業、あるいはNGO・市民など種々のステークホールダーの参画を求める方向の努力がなされ始めており、国と国の関係調整からより広く地球標準に対して種々の取り組みが試みられている。
国際連合のアナン事務総長は1999年の世界経済フォーラムにおいて、グローバル・コンパクト(地球協定、あるいは地球契約とでも訳されるであろうか)という考え方を提唱し、経済のグローバル化が真に世界の人々のために機能するものとなることを経済界のリーダーに訴えた。そして、2000年7月に国連本部において開催された高レベルの会議において事務総長のリーダーシップの下にグローバル・コンパクトは実施に移されることとなった。これは、9つの原則からなるものであり、大きく3つのカテゴリーに分けられる。すなわち、基本的人権の尊重(国際的基準による人権の尊重、各企業が人権の濫用を行わないこと)、労働者の基本的権利の尊重(結社の自由と集団交渉権の尊重、いかなる形であれ強制的労働の排除、子供の労働の撤廃、雇用と職業に関する差別の撤廃)、環境保全のための責任の遂行(環境問題に関する予防的検討の支持、環境に関するより積極的な責任を推進する上での指導性の発揮、環境に適合する技術の開発と普及の推進)である。
民間企業は上記の原則を推進する意志を示すことによって国連のグローバル・コンパクトの一員となる。これはあくまでもボランタリーなものである。その努めとしては、企業としてこれらを守ることを関係者に示し、企業研修その他を通じて必要に応じ改善の努力を進め、企業規約や年次報告などに明示していくということが求められる。
既に、世界のトップ企業が率先して登録を行っており、ABB、BASF、BMW、BP、BT、クレジットスイスグループ、ドイツ銀行、デュポン、ロイヤルダッチシェル、ユニリバー、ボルボなどを初めとし、途上国の企業も多数登録を進めており、企業としての誇りを持つと同時に、プレスティッジを高めている。2002年の初めの段階で1,000社に近い登録が行われているといわれる。
遵守すべき原則に関しては、いずれも我が国の企業にとっては既に当たり前のことであり、他の国々に比しても先んじているところも多いが、不思議なことに我が国からは登録企業は未だ少なく、現段階では一社(キッコーマン)に過ぎないようであり残念である。国連の広報センター日本事務所長の高島肇久氏は我が国の企業に参加を求めたいと熱心にお考えであり、筆者もこの点で同じ思いである。地球産業文化を創出していこうとする企業リーダーの方々にとって、グローバルコンパクトに対して早い時期に登録されることが先決であり、このままでは我が国の産業界の見識が問われることになることを心配する次第である。