2002年4号
平成13年度「少子・高齢化社会における日本の選択 ~教育、福祉と経済の戦略」研究委員会報告書
京都大学経済研究所・西村和雄教授を委員長として「少子・高齢化社会における日本の選択~教育、福祉と経済の戦略」研究委員会を設置し、昨年6月~本年4月の間に10回開催した。
これまでの少子・高齢化社会をテーマとした多くの研究やプロジェクトが、特定の狭い分野の問題に限定した研究や、行き着く所の少子化社会がどのようなものであるかといった議論に留まっているものがほとんどである。当研究委員会は、より広いマクロ的な見地から、深刻な少子・高齢化社会が到来する以前の段階である現在の「過渡期」を、どのような具体的な施策によって安全に乗り切ることができるかについて、総合的に議論するとともに理論的な肉付けを行い、21世紀に向けた効果的な提言を行うことを目指した。
初年度となる平成13年度は、テーマとして、女性の就業、児童福祉政策、人口動向、経済・社会政策、地方自治体による子ども家庭福祉施策と児童虐待問題、育児支援と年金改革、小児科医療、オランダにおけるワークシェアリング、社会保障の財源調達を取り上げ、検討を行った。 |
○報告書について
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●目 次
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第1章 少子高齢化社会と日本の課題 (西村委員長)
第2章 教育改革の経済学――「ゆとり教育」とバウチャー制度 (小塩委員)
第3章 教育改革による少子化対策の可能性 (池本委員)
第4章 保育所サービス供給とニーズとのミスマッチ (八木委員)
第5章 少子化はなぜ起こっているのか:サーベイと展望 (永瀬委員)
第6章 出産・育児に関する公私の責任分担 (牛丸委員)
第7章 保険診療下における小児医療の現状 (松平講師)
第8章 「家族」・「企業」の変容が及ぼす社会保障制度におけるplayerの交代 (筒井委員)
第9章 年金財政予測と改革の方向 (小口講師)
資 料 委員会開催記録 |
●概 要
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「第1章 少子高齢化社会と日本の課題」では、日本が解決するべき課題として、潜在的労働力の活用や適材適所の人材配置を阻害する人事・労務制度、当事者の結果責任を問わない体質、子どもたちの「生きる力」を結果的に奪ってしまった感のある「ゆとり教育」、低い英語力等について論じている。「第2章
教育改革の経済学」では、「ゆとり教育」と「学校選択におけるバウチャー制度」を経済的に分析し、「ゆとり教育」は効率性・公平性のいずれの観点からも是認できず、バウチャー制度は、能力の高い者には有利に、能力の低い者に不利に働く仕組みであり、公平性に欠けると結論づけている。
「第3章 教育改革による少子化対策の可能性」と「第4章 保育所サービス供給とニーズとのミスマッチ」は保育制度を取り上げた。第3章では、ニュージーランドやスウェーデンが取り組んでいる保育制度を教育制度として取り込む改革を紹介し、日本における就学前教育を含めた教育改革の必要性を論じている。第4章では、保育所サービスに関する保護者アンケートの結果をもとに、保育所サービスへのニーズと供給とのミスマッチを明らかにし、ニーズと供給のミスマッチを感知してそれを解消する仕組みを整える必要性を指摘している。
「第5章 少子化はなぜ起こっているのか」ではこれまでに行われた少子化の要因に関する実証研究をサーベイした上で、少子化の原因解明は所得や賃金といった変数のみでは到底説明しきれないとし、現在の子ども世代の出産行動をサポートするためには、社会全体での家族規範・企業慣行の転換、ジェンダー規範の転換が必要であるとしている。また、「第6章
出産・育児に関する公私の責任分担」では、出産・育児に関する意思決定について経済学的に分析した上で、出産・育児に関する公的補助・負担を増大させる政策を採るにあたっては出産・育児の責任分担に関する社会的価値観の合意が必要となること、その合意のための根本的な検討を行うことが必要であり政策当局は理念を提示して人々の意識に働きかけるべきであるとしている。
「第7章 保険診療下における小児治療の現状」では、現行の診療報酬制度のもとで厳しい経営を強いられている小児科の入院医療、不採算制とマンパワー不足という問題を抱える小児救急医療の現状を指摘し、少なくとも医療・保健・福祉を包括した「小児保健法」制定の検討と小児診療報酬制度の見直しを求めている。
「第8章 「家族」・「企業」の変容が及ぼす社会保障制度におけるplayerの交代」では、これまでの「家族による生活保障」「企業による生活保障」が崩壊したことにより、社会保障のplayerが公的な市町村・国家から市場へ、家族からNPO・コミュニティ・共同体へ交代しつつあるとして、こうした動きの現状を分析し、playerの交代に伴うルールの考え方について論じている。
「第9章 年金財政予測と改革の方向」では、年金財政シミュレーションの結果から、現在の年金改革が行われれば年金財政が破綻することはないとして、積立方式に準ずる財政方式として市場収益率方式に早急に移行し、若年世代の負担を和らげると共に、年金の安定性・持続性を国民に示して、年金への信頼を得ることが重要であるとしている。 |
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○研究委員会メンバー (五十音順)
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[委員長]
[委 員]
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池本美香 (株)日本総合研究所 調査部 主任研究員
牛丸 聡 早稲田大学政治経済学部経済学科 教授
小塩隆士 東京学芸大学教育学部 助教授
倉元直樹 東北大学アドミッションセンター 助教授
筒井孝子 厚生労働省国立保健医療科学院 福祉サービス部福祉マネジメント室長
永瀬伸子 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科 助教授
八木 匡 同志社大学経済学部 教授 |
[講 師]
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小口登良 専修大学商学部 教授
高橋重郷 国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部部長
長坂寿久 拓殖大学国際開発学部 教授
松平隆光 松平小児科院長・(社)日本小児科医会常任理事
松原康雄 明治学院大学社会学部 教授
宮尾尊弘 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 教授
三宅 亨 東京都児童相談センター 所長
壽原重熙 東京都児童相談センター 虐待対策課長 |
[オブザーバー]
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石井和人 多摩南部地域病院 医事課長
杉田定大 経済産業省大臣官房 政策企画室長
武井良之 経済産業省大臣官房 政策企画室企画主任
関口訓央 経済産業省大臣官房 政策企画室企画主任補佐
戸瀬信之 慶應義塾大学経済学部 教授 |
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