経済活動の国際化が急速に進んでいる今日、企業の財務指標は投資を判断する際に不可欠な要素である。京都議定書は、排出枠を一種の財とみなし、経済原理を利用しながら効率のよい削減を行うという考え方を一部に取り入れている。 英国では、本年4月より、このような仕組みを利用した国内排出取引制度が導入された。わが国においても、既に一部の企業により、自主的に排出枠および排出枠派生商品の取引が行われている。しかし、京都メカニズムの具体的なルールそのものが昨年11月に行われたCOP7で合意されたばかりであり、排出枠の会計上の考え方や取り扱い等についての具体的な指標は存在しない。このため、排出枠は、取引主体の判断により、会計上、“有価証券”、“繰延資産”あるいは“調査研究費”など様々な形で処理されているのが現状である。 しかし、今後、排出枠の取引が増加するに従い、排出枠の財としての意味も大きくなっていくと予想され、排出枠をいかに企業のバランスシートに載せていくかは、重要な課題となっていくと考えられる。 本研究委員会は、このような問題意識の下、排出枠の企業会計上の考え方ならびに取扱いについての検討を行っている。H12年度においては、排出枠の現物について焦点をあてて検討を行い、排出枠の持つ金融商品的な性質も否定はできないとしながらも、基本的には、漁業免許的あるいは原材料的に利用されることが多いと考えられるため、無形資産あるいは(無形の)棚卸的資産といった考え方がふさわしいのではないか、という方向性が得られた。 H13年度は、既に取引が開始されている排出枠のデリバティブ(派生商品)の会計上の考え方および取り扱いを中心に検討を行った。以下に、検討により得られた方向性を示す。 通常、派生商品には、先渡取引(Forward)、先物取引(Future)、オプション、スワップが存在し、排出枠についても同様と考えられる。このうち、先渡し取引およびオプションにおいては、純額決済の要件を満たしているか否かによって処理が異なり、純額決済を行うものについては金融商品に準じた処理を行う。純額決済の要件を満たしていない先渡取引は、現行の会計基準においては、現物引渡しまでの期間はオフバランスとなるが、例えば、このような債権・債務の関係を明示するために、約定基準を用いることも1つの考え方であろう。純額決済を行わないオプションについては、オプションの行使による現物受渡しが予定される場合、実物資産の購入と売却の会計処理が適用されよう。また、先物取引は金融商品の会計基準が適用されると考えられる。 一方、排出枠はヘッジ目的で取引されることが多いことが予想される。この場合には、先渡取引、先物取引、オプションいずれであっても、ヘッジ会計が適用されることとなると考えられる。なお、スワップについては、H13年度は検討を行っていない。 |
委員長 | 黒川 行治 | 慶應義塾大学商学部教授 | |||
顧 問 | 井上 壽枝 | 日本公認会計士協会環境会計専門部会副部会長 中央青山監査法人社員、環境監査部部長 |
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委 員 | 宇佐美 洋 | 一橋大学商学部客員教授 | |||
浦出 陽子 | (株)トーマツ環境品質研究所シニアアナリスト | ||||
大串 卓矢 | 日本公認会計士協会排出量取引専門部会部会長 中央青山監査法人環境監査副部長 |
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小野里 光博 | 東京工業品取引所企画部長 | ||||
工藤 拓毅 | (財)日本エネルギー経済研究所環境グループマネージャー | ||||
栗原 均 | 日本公認会計士協会環境会計専門部会専門委員 新日本監査法人社員 |
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古室 正充 | (株)トーマツ環境品質研究所代表取締役社長 | ||||
西條 辰義 | 大阪大学社会経済研究所教授 | ||||
末武 透 | 朝日監査法人新規事業第2部マネジャー | ||||
月村 裕子 | 日本公認会計士協会環境会計専門部会専門委員 中本国際会計事務所 |
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浜岡 泰介 | みずほ第一フィナンシャルテクノロジー(株)業務企画部次長 | ||||
堀内 行蔵 | 法政大学人間環境学部教授 | ||||
村井 秀樹 | 日本大学商学部助教授 | ||||
安本 皓信 | 電源開発(株)取締役 | ||||
オブザーバー | 小川 順子 | (財)日本エネルギー経済研究所環境グループ | |||
田口 聡志 | 慶應義塾大学商学部助手 | ||||
船曳 尚 | ナットソース・ジャパン(株)マネージャー | ||||
松尾 直樹 | (財)地球環境戦略研究機関上席研究員 | ||||
水野 勇史 | 野村総合研究所国土・環境コンサルティング部上席研究員 | ||||
矢尾 眞穂 | 日本公認会計士協会環境監査専門部会専門委員 朝日監査法人マネジャー公認会計士 |
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山岡 博士 | 東京工業品取引所企画部調査・国際課長 | ||||
湯本 登 | (株)エネルギー環境研究所代表取締役 | ||||
事務局 | 木村 耕太郎 | (財)地球産業文化研究所専務理事 | |||
纐纈 三佳子 | (財)地球産業文化研究所 |
(名称・役職はH14年5月時点) |
I.昨年度の成果および今年度の目的
II.排出枠取引をめぐる国際的動向の現状
III.排出枠の先物に関する会計上の取り扱い
IV.環境報告書に対する第三者認証の排出削減量認証への応用について
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