2001年3号

京都メカニズムに関する 国際シンポジウム議事概要 (速報) ~ワーカブルで信頼性のある排出量取引を目指して~



 平成13年4月12日~13日、国連大学にて、外務省、経済産業省、環境省、NEDO 、IGESとの共催により、「京都メカニズムに関するシンポジウム~ワーカブルで信頼 性のある排出量取引を目指して~」というタイトルで国際シンポジウムを開催した。
 京都メカニズム(特に排出量取引)のルールについて、信頼性が高く、実務的 にも運用可能なルールのあり方を議論することを目的として、各国の交渉担当者、研究者、産業界による意見交換や具体的ルール案の分析、各国の先行的な取組事例の紹 介などを行った。
 ※なお、シンポジウムの結果については公式議事録を作成し、関係箇所のサイトに掲載予定である。
入手はこちらで→「議事概要(英語)」 「議事概要(日本語)」


- 開会挨拶(川口順子環境大臣) -

・ 京都メカニズムは、先進各国が京都議定書の数値目標を達成するにあたって、 市場メカニズムを活用し、国際的な協力の下、費用効果的な対策を講じる事を可能と する仕組 みである。
・ 京都メカニズムのルールは、透明で信頼性が高いものであると同時に、実施可 能な(Workable)なものでなければならない。そのためには、各国政府だけでなく、 産業界市場関係者・研究者・NGO等の幅広い立場の方の実務的な視点も含め、交渉 上の論点、オプションを分析する事が有益であると考え、シンポジウムを企画した。
・ ブッシュ政権の京都議定書不支持表明については、今後の国際交渉に与える影 響を強く懸念している。
・ 我が国としては、京都議定書の2002年までの発効を目指す方針に変わりはない。



セッション1:京都メカニズムを巡る国際交渉の現状と締約国の見解
 モデレーター:朝海和夫、外務省 地球環境問題等担当大使

講演1(Mr. Andrea Pinna, UNFCCC Secretariat)

売りすぎ(over-selling)を防止する方法として、移転量を割当量(AAU)の 10%までに制限する方法がある。(2002年の時点で、排出量が京都議定書の目標を上 回っていれば、10%までに制限し、下回っていれば、AAUと2002年データの差を移転可能量とする。)

講演2(Mr. Chris McDermott, Environment Canada)

IPCCの報告書にもあるように、京都メカニズムによって削減コストは半減できる。

講演3(Mr. Olle Bjork, Sweden)

3週間前のEU(環境)サミットにおいて、(1)国際的な協調の重要性、(2)京都議 定書の支持、(3)2002年の京都議定書発効を確認した。

講演4(Mr. Vijai Sharma, India)

補足性(Supplementality)については、先進国は国内で極力下げるべきであ り、そうする事により、途上国との1人当たり排出量の不公平も解消する。




セッション2:ワーカブルな制度構築を目指して(第1部)
 モデレーター:高橋康夫、環境省 温暖化国際対策推進室長

1. イシュー・マッピング(松尾直樹、IGES)
国際的フレームワークと国内規制の連携が重要である。
2. 企業による取引の実例(1)
  (Mr. John Scowcroft, Eurelectric)
排出量取引を行う事によって、(CO2に価値が出てくるため、)温暖化対策を 環境戦略に取り込んでいく事ができる。
3. 企業による取引の実例(2)
  (Mr. Garth Edward, Natsource)
なぜ(Why?)GHGのマーケットが既に出来ているかというと、いずれ企業も規 制の対象となると予想しているからである。
4. 企業による取引の実例(3)
  (Mr.Geir Hoibye,Norwegian Business and Industry)
補完性に規制を設けると、国内削減によりコストが増大し、国内企業の海外流 出が進む。
5. 英国排出量取引制度案
  (Mr. Henry Derwent, DETR, UK)
イギリスが、なぜ早期に国内排出量取引を立ち上げるかと言うと、①コスト効 果的な削減が可能となる。②ロンドンを中心としたマーケットの構築ができる。③国 際交渉に
資する。という理由である。
6. EU排出量取引制度案及び各界からの反応
  (Dr. Jos Delbeke, EC)
EUとしては2005年から、CO2のみでETをスタートする。



セッション2:ワーカブルな制度構築を目指して(第2部)

7. CDMの市場発展における位置づけとCDMプロジェクトの実際
(1) 「アジアにおけるCDMのポテンシャル」
  (Mr. Xuedu Lu, China)
プロジェクトはODAに対して追加的でなければならない。
(2) 「中南米におけるCDMのポテンシャル」
  (Dr. Thomas Black, Colombia)
日本の限界削減費用が$400/t-C程度であるが、国際ETにより$100~120/t-C に、国際ETとCDMで$10~35/t-Cに削減できるであろう。
(3) 「アフリカにおけるCDMのポテンシャル」
  (Dr. John S. Kilani, South Africa)
CDMは、公平に配分する事が重要である。
(4) 「市場の見通し」
  (Dr. Mark Trexler, Trexler and Associates Inc.)
BAUへの追加性を定義するのは難しく、モニタリング・認証の確立も重要である。
8. カーボンファンド(Mr. Ken Newcomb, World Bank)
小規模プロジェクト(5~10MWの発電所)は、Transaction Costが大きくなり 成立しにくくなる。



セッション3:排出量取引を巡る国際ルールの論点と解決策
 コーディネーター:関 総一郎、地球環境対策室長

1. 補足性、Liability(1)
  (Dr. Erik Haites, Margaree Consultants Inc.)
売りすぎの防止としては、”Commitment period reserve(CPR)”が望ましい。
2. 補足性、Liability(2)
  (Prof. Michael Grubb, Imperial College)
補完性については、そもそも先進国はまず自国内で削減を行うべきである。( 経済力で他国から買い付けて目標を達成するのでは、(温暖化問題の解決に向けた) 今後の進路が見極められなくなる。)
閉会の辞:
   長尾梅太郎、経済産業省 環境担当ユニット担当審議官
京都メカニズムはコスト効果的な手法であり、現在検討中の国内制度構築に対 して、ヒントを与える機会となれば幸いである。


(文責 シンポジウム事務局 定森一郎)


(参考データ)
・参加者数:317名 (一般:281名、プレス:22名、大使館他:14名)


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