2000年1号

新世紀に英知の結集を

 過ぎ行く20世紀を振り返ってみると、対立と停滞の時代から共存と成長の時代と大変革を遂げた時代であった。

 20世紀初頭に欧米諸国に植民地支配されていたアジア・アフリカ諸国は、世紀半ばには相次いで独立し、世紀前半に2度にわたり世界大戦を経験した世界は、後半には米ソの二極構造でこれを抑止することに成功した。その東西冷戦も、1989年10月のベルリンの壁の崩壊とともに消滅をみた。

 世界経済は、世紀前半には、石油を背景に工業文明が発達はしたが、大恐慌や保護主義の抬頭、或いは戦乱の影響などがあって停滞気味に推移した。それが後半になると、ガット、IMF体制の下で、自由貿易と技術革新が進み、世界経済は、年率4%前後の成長を成し遂げた。その間、自動車文明が目覚しい飛躍を見せ、航空分野では、ジェット機による大量 輸送時代を迎えたばかりか、情報通信技術革命が花開きつつある。

 さて、21世紀には、どんな変化が待ち受けているのであろうか。

 先ずは、情報通 信技術革命と市場機能重視の価値観の定着によって、経済のグローバル化が定着しそうである。たしかに、経済のグローバル化は、経済活動を活発にし、情報化は、知的活動を拡げることになるが、他方、多くの矛盾を発生させるおそれもある。情報社会においては、情報が情報を呼び、情報に強いものはますます強くなり、情報独占の弊害を招く。モノ、カネ、情報の自由流通 が投機によって大きな経済変動をもたらすことは、最近、我々が多く体験したところでもある。世界経済が拡大すれば、当然、地球環境の破壊や食料、エネルギーなどの供給不安が拡がる。経済発展の条件が十分に整っていない発展途上国は、さらに経済格差に悩むことにもなるだろう。

 しかも、経済のグローバル化は、先進国およびそれに近付きつつある国々の間では、経済力の平準化をもたらし、世界は、多極化構造に向かう。恐らく、日本、欧州が停滞し、中国、アジアが経済力を拡大するだろう。今日、絶好調に見える米国も、社会の統合力を保てるかが国力の維持に大きく影響するだろう。世界が多極化するということは、それだけ、国際合意を得ることがむずかしくなることを意味する。12月のシアトルでのWTOの合意失敗は、それを如実に物語っている。

 経済のグローバル化が世界経済の発展に必要だという認識に立てば、自由貿易の維持、地球環境の保全、通 貨の安定、資金援助、技術協力などが必要となるが、主要国の間にそのような信頼の維持と政策協調が保てるかが鍵となる。

 国際政治は、パックス・グローブス(協調による平和)の時代を迎えることになる。これは、世界が多極化する帰結でもある。経済のグローバル化が進むと、一方で民族、宗教などのアイデンティティが高まり、地域的な対立や民族的な緊張の火種となる。場合によっては、国家の再編成につながり、危機や脅威は、むしろ多様化し、拡散しそうである。

 しかも、秩序運営に参画するプレーヤーが多様となる20世紀モデルが主として国家・国際機関に依存してきたのに比べ、21世紀には、国際企業やNGOが登場し、大きな役割を担う可能性が高い。電子商取引の基準設定に国際企業が大きな発言権を有し、地球環境政策の形成に国際NGOが活躍していることがそれを示唆している。

 大きな流れとしては、世界の秩序は、国際機関を中心とした共同運営体制とならざるを得ないが、その合意形成は、複雑でかつ難しい。信頼と協調をつなぐ新しい理論が不可欠である。

 さらに、人口の動態変化は、世界のパワー構造を変え、世界秩序の枠組みに大きな影響を与えるに違いない。

 地球人口増大の主因をなす発展途上国の人口爆発は、地球環境の破壊、健康被害、貧困の深刻化などにつながり、その過程で、発展途上国の二極分化を起こす。

 一方、日本や欧州で顕著にみられる先進国の人口停滞と高齢化は、貯蓄率の低下、福祉負担の増加、財政構造の悪化、金利の上昇、技術革新の停滞、教育の貧困化、援助能力の低下、保護主義の再燃につながる可能性がある。こうした要因は、経済のグローバル化や、国際政治秩序の運営に深刻な影響をもたらすことはいうまでもない。

 そのほか、21世紀には、技術開発と人間性との関係、異文化摩擦の管理など、人類はさまざまな課題に遭遇するであろう。

 私は、21世紀は、20世紀の延長では考えられない不安定な世紀になるのではないかと危惧している。それを乗り越えることができるとすれば、人類が英知を結集し、相互信頼を高揚するときである。それに、日本は、どれだけ貢献できるであろうか。

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