2008年4号

雇用・解雇のルールの強化 こそ重要 ―不安定な非正規雇用急増への対策―

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「終身雇用」「年功制」「企業別組合」の三点セットの日本型雇用システムをはじめ、雇用の安定、失業の予防と解雇の抑制を図る雇用政策の仕組や整理解雇4原則を定めた最高裁判例などは、雇用・解雇の自由裁量の余地を狭め労働市場の流動化を妨げる「日本版社会主義システム」と断罪し、これの解体こそ必要で、そうしなければ劣悪な非正規雇用を増やし「格差社会」を生むというのが「労働ビッグバン」の提唱である。

 しかし、日本の労働市場は柔軟性を欠いた硬直的な非流動的市場であるとの事実認識と判断は、独断と偏見に基づく事実誤認で、これは、「失われた15年」といわれる長期不況過程で事実をもって実証された通りではないか。

 たとえば、相対的に高賃金で雇用契約期限を定めずに手厚く雇用が守られてきたとされる正規社員でも、中途解雇が「希望退職」と称して指名解雇に近い「肩叩き」によって大規模に実施されてきている。しかもこの「希望退職」は、年功を積んだ中高年齢の正社員を対象とし、解雇反対争議を伴うことなく、静かに実施されたのである。

 欧米では、採用・解雇の労使協定で「先任権制度」が締結され、解雇は、年功の短い若年者より、再雇用は年功を積んだ中高年者より優先するルールであるが、日本の年功制の適用は全く逆順で、解雇は年功を積んだ高賃金の中高年層より、採用は年功のない低賃金の新規学卒者を優先するシステムとして運用されてきた。

 しかも、この長期不況過程では、正社員の定年退職などによる欠員補充は、新規学卒者の正社員としての採用ではなく、パート、派遣、契約社員など非正規雇用に向けられて充足されたことである。これが「就職氷河期」の内実である。

 こうした企業の採用行動について、正社員のみ組合員とする日本の企業別組合は、非正規雇用の採用枠や採用条件を労使協議の対象とすることもなく、また採用後も組合の仲間に入れることもせずに、企業経営の自由裁量に任せてきたのである。

 しかも、恒例の「春闘」は、経営側の「ベ・アゼロ回答」を横並びで受け入れるシステムとして経営側に逆手をとられて後退してしまった。

 つまり、このことは、日本の企業別組合は、中高年の正規雇用の守護神であるという批判は事実誤認で、不況期の景気変動に柔軟に対応してきたことになる。

 こうした状況下で「構造改革なくして景気回復も経済成長もなし」ということで「労働市場流動化政策」が政府によって追い討ちをかけたわけであるから、いわゆる「リストラ」によって総額人件費の削減を図る企業経営は低賃金の解雇し易いパート、派遣、契約社員などの非正規雇用をなおのこと大量採用させることとなったといってよい。

 こうして非正規雇用は、全雇用労働者の3分の1強を占める1735万人に達し、年所得200万円以下の「ワーキングプア」が1000万人を超える「格差社会」を生んでしまったといってよい。

 一部の識者が強調する「労働者を守る手厚い解雇規制が非正規雇用を増やし、新卒者をはじめ失業者の就職・再就職を妨げている」という主張が誤りであることは、以上の事実経過が示す通りである。

 そこで、いまわれわれが直面している社会問題は、貧者と富者の二極化した治安の悪い「格差社会」の問題をいかにして解決するかである。

 一つは、「力は正義」とみなして「優勝劣敗」の弱肉強食社会を目指す「市場原理主義思想」から脱却することである。市場経済は万能ではなく、K.ポラニーが『大転換―市場経済の形成と崩壊』で、警告したように、過当競争を生む自由な市場経済が社会もヒトも破壊しつつあるのが今日の日本及び世界の経済であるといわざるを得ない。

 二つは、長期安定的雇用システムを再構築することである。これによって、生活の安定が約束されるから、仕事のやり甲斐と誇り、企業への信頼が強まり、労働能率の向上、人材の育成と技術開発が進むことによって、企業経営のみならず国民経済の成長が期待できよう。人材こそ社会の唯一の財産である日本経済にとって、雇用と生活の安定を損なうヒトの使い方は、日本経済の衰退を生むことになる。

 幸いなことに非正規雇用の多様化と活用の見直しの気運が産業界から起きてきた。この気運を加速する政策転換を期待したい。また、労働組合には、春闘相場の波及つまりトリクルダウンを目指す“春闘”の再建・強化を訴えたい。

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