国際大学グローバル・コミュニケーションセンター所長公文俊平教授を委員長に進めてきた標記研究委員会の報告書が完成したので、その概要を報告する。
1.報告書概要
90年代にアジア諸国は次々と長期的な情報化計画を打ち出した。マレーシアのマルチメディア・スーパーコリドー(MSC)やシンガポールのIT2000などがそれである。しかしそれらは全て1997年から始まるアジア経済危機以前に策定された計画であり、その後の情報化計画の実態は不透明である。シンガポールのように経済危機の影響を早々に脱した情報先進国もあれば、経済危機が政治不安にまで飛び火し、浮上のきっかけをつかみきれないインドネシアのような国もあり、アジアの情報化はまだら模様となっている。
一方アメリカは、戦時を除けば史上最長のインフレなき経済成長を続けており、その立役者として情報化投資の役割が大きいと言われている。1993年のゴア副大統領によるNII構想は国家主導による情報化計画であったが、現実にはほとんど民間主導で進んでいるというのが実態である。
日本は、バブル崩壊の後遺症から未だに抜けきれずに低迷を続け、情報化においてはNIES・北欧などにも遅れをとっていると言われる。
本研究委員会では、以上のようなアジア・太平洋地域の現状を見つめ、「情報化が産業に与えるインパクト」および「産業界・政府の情報化における役割」の“現状”と“未来”を検証し、その中でも特に日本企業・日本政府の動向に焦点を当てた。またASEAN諸国の2000年問題への対応状況についても調査・検討した。
シンガポールのような情報先進国もあり、インドのバンガロール地方のようにソフト産業で発展している地域もあるが、アジア経済危機の影響も大きく、「情報立国」に成功している国は少ない。情報化が経済牽引役となるまでに貢献できない理由としては、経済危機による需要減退が大きいが、安い労働力が逆に情報需要を阻害している面 や政治の不安定などのアジア特有の原因も考えられる。
それでもアジア地域がこれまで以上に発展していく上で情報化は不可欠であり、実際APECでも情報化は重点課題とされている。またODA等を通 して日本がアジアの情報化のために貢献できることも多く、実際すべきである。分割が秒読みに入ったNTTを筆頭に民間によるアジアの情報化への貢献も期待される。
またアジア各国の2000年問題対策状況についても調査を行ない、タイなどでは重要インフラ設備でも非常に危うい状況であると考えられる。
2.委員・講師・オブザーバ(50音順・敬称略)
委員長 | ||
公文 俊平 | 国際大学グローバル・コミュニケーションセンター所長 | |
委 員 | ||
泉田 裕彦 | 通 商産業省通商産業研究所主任研究官 | |
小尾 敏夫 | 文教大学国際教育センター所長 | |
北村かよ子 | 拓殖大学国際開発研究所教授 | |
佐賀 健二 | 亜細亜大学国際関係学部教授 | |
前田 充浩 | 政策研究大学院大学助教授 | |
三上 喜貴 | 長岡技術科学大学教授 | |
山内 康英 | 国際大学グローバル・コミュニケーションセンター教授 | |
講 師 | ||
足立 晋 | Y2KJAPANサイト主宰 | |
オブザーバ | ||
桐山茂美 | (株)日立製作所システム開発本部 第5部主任技師 | |
佐々木修一 | 塩ビ工業・環境協会専務理事 | |
鈴木 淳弘 | 国際大学グローバル・コミュニケーションセンター主任研究員 | |
田辺 孝二 | 通 商産業省大臣官房参事官(技術担当) | |
中山 浩一 | 日本電気株式会社海外企画部 グループマネージャー | |
若松 勇 | 日本貿易振興会海外調査部 アジア大洋州課課長代理 | |
綿貫 健治 | ソニー株式会社渉外部門担当部長 |
3.報告書目次
(1) アジア・太平洋に拠点を分散しつつある日本企業全般 の情報利用
(2) アジア各国の情報基盤政策
(3) 日本の電気通 信事業者の国際展開と情報直接投資の行方
(4) 情報産業における開発主義
(5) ASEANにおけるY2K問題への対応
(文責 事務局 古見孝治)