1998年2号

チャイナカウンシル・クリーナープロダクション WGミーティングについて


  本年1月15日から17日まで3日間の日程で、中国・福建省廈門(アモイ)市において、チャイナカウンシル・クリーナープロダクションWGミーティングが開催された。

 ここではチャイナカウンシルとクリーナープロダクションWGミーティングの結果 の概要について以下に紹介する。


1.チャイナカウンシルの概要

1.1 設立の経緯と組織

 中国政府は、環境と経済成長の調和が必要であるとの認識に立ち、環境と開発に関する中国と国際社会の協力促進を目的として、1992年に「環境と開発に関する中国国際協力委員会(CCICED:The China Council for International Cooperation on Environment and Development):以下チャイナカウンシル」を設立した。第1回目のチャイナカウンシル本会議は同年4月に開催され、それ以降毎年1回開催されている。なお1996年に本委員会の第1フェーズ(5年間)の活動を終了し、昨年より第2フェーズへ移行している。

 チャイナカウンシルの議長には、宗健・国務委員、国務院環境保護委員会主任が、副議長は、ラベル・カナダ国際開発庁(CIDA)長官、曲格平・全人代環資委主任、顧明・元全人代法律委員会副主任が就任。外国委員に、コロンボ元イタリア大学科学技術庁長官始め16名と、中国委員に解振華・国家環境保護局長始め22名で構成。日本からは石坂匡身元環境庁事務次官(現自動車保険料率算定会副理事長)と福川伸次 電通総研社長が参加している。事務局は中国(NEPA)とカナダ(CIDA)の関連組織内に置かれている。

1.2 主な目的と活動

 チャイナカウンシルは、中国政府に対して環境と開発の統合に関する建設的な提案をするためのハイレベルの諮問機関であり、環境保護、エネルギー、科学研究、技術及び経済開発の分野において中国と他の国々との協力関係を強化することを目的としている。これまでの本会議で審議され、最終的に中国政府へ提出された提言は40項目以上にのぼり、この内数多くの提言が中国政府の行政に生かされている。

 チャイナカウンシルの目的を達成するため、カウンシルには7つの作業部会(WG)が置かれ、それぞれ共同議長2名(中国側、外国側各1名)、委員約10名(中国側、外国側ほぼ半分ずつ)より構成され、年に1~2回の会議を開催。この内、日本人の参加は、(1)~(4)のWGである。

【チャイナカウンシルとWGの構成】

2.クリーナープロダクションWGミーティング

2.1 結果概要

 中国側から銭易・清華大学環境工程系教授(中国側共同議長)を含む委員4名が、外国側から清木・(財)地球産業文化研究所専務理事(外国側共同議長)を含むWG委員6名、他が参加し、中国の郷鎮企業(注)の現状分析、クリーナープロダクション実現の潜在能力とその阻害要因、政策提言等についてメンバー間で情報の共有化を行い、討議を行った。次いで、チャイナカウンシル本会議へ提出する活動報告書の構成内容を検討し、その執筆分担を取り決めた。(構成内容:?中国における郷鎮企業の概要、?成功事例を含めた中国の郷鎮企業と海外におけるクリーナープロダクションの実施状況、?クリーナープロダクション実行にあたっての諸政策、?中国・郷鎮企業のクリーナープロダクション推進に向けた提言)

    (注) 中国の全製造業の内、中国の郷、鎮、村が営む共同経営企業及び個人営企業である、「郷鎮企業」の生産額と汚染物質排出量 はそれぞれおよそ5割を占めていると分析され、その比率は増加傾向にあると言われている。従って、クリーナープロダクション(より環境負荷の低い生産)の余地が高いため、本WGの調査研究対象に郷鎮企業を選択したもの。

 次回のWGミーティングは本年8月までに中国国内で開催予定。本WGによる中国政府向け政策提言のテストを行うためにワークショップを同時開催し、そのテスト結果 を踏まえ、次回チャイナカウンシル本会議へ提出する提言を含めた最終報告書を完成させる予定である。

2.2.ワークショップの同時開催

 今回のWGでのプレゼンテーション内容を広く活用してもらう目的で、「郷鎮企業のクリーナープロダクション・ワークショップ」を開催した。中国農業部(郷鎮企業所管官庁)、アモイ市行政当局、同市環境保護局(EPB)の各代表、アモイ市地区郷鎮企業幹部等約50名が出席した。プレゼンテーションの主要な項目は次の通 りである。

  • クリーナープロダクションに関わるUNEP(国連環境計画)の中国への協力、その成果 と今後の課題

  • 中国・郷鎮企業の環境保全推進施策に関する中国側研究成果 と日本の環境事業団の支援による環境改善サポート事例紹介

  • 中国国内経済における郷鎮企業の役割、環境への負荷、クリーナープロダクション方式導入の可能性と課題、他


 このうち、「中国・郷鎮企業のクリーナープロダクション推進に関する予備的分析」報告につき紹介する。

I.郷鎮企業の現状

 1978年の改革開放政策導入(中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議)以降、郷鎮企業は急速な発展を遂げ、現在では中国経済において重要な役割を果 たすようになってきた。しかしその一方で郷鎮企業は地域への環境汚染を引き起こし、また都市型の大・中規模企業に比較して技術レベルや経営面 での改善が立ち遅れ、エネルギー・資源の浪費や低い収益率という問題を抱えている。

 1995年時点での、郷鎮企業の総数は2,203万社で、職員・労働者数は1億2,862万人である。郷鎮企業1社当たりの平均職員・労働者数はおよそ5.8人である【表1】。

{表1 郷鎮企業の分野別職員・労働者数}単位:万人
農業 工業 建築業 交通・運輸業 商業・飲食業 合計
1995 313 7565 1933 952 2099 12862

郷鎮企業は中国東側の沿海部に集中し、山東省、江蘇省、浙江省3省の郷鎮企業の合計生産額は中国郷鎮企業全体の生産額の37%を占める。

 郷鎮企業の総生産額の推移を見ると、1978年の493億元から17年後の1995年には6兆8,915億元と140倍に拡大した。分野別 構成比率では、農業と工業分野の合計で75%以上を占めるが、最近ではサービス業分野も伸長している【表2】。

{表2 郷鎮企業の分野別生産額推移} 単位:億元(1元=16円)
農業 工業 建築業 交通・運輸業 商業・飲食業 合計
生産額 生産額 生産額 生産額 生産額
1978 36 7.3 385 78.1 35 7.1 19 3.6 18 3.7 493
1986 69 1.9 2413 68.1 523 14.8 256 7.2 280 7.9 3541
1991 180 1.5 5709 74.9 1141 9.8 767 6.6 826 7.1 11623
1995 1018 1.5 51259 74.4 6336 9.2 4117 6.0 6185 9.0 68915
(注)率:分野別構成比率 合計は計算上100%にならない。

II.郷鎮企業の環境問題

 郷鎮企業から排出される水質汚染、大気汚染、産業固体廃棄物は中国における環境汚染の重要な要因となっており、年々深刻化してきている【表3】。これらの排出元を分析すると、水質汚染については紙パルプと繊維産業が上位 に挙げられる。大気汚染ではセメント、煉瓦、窯業などの非鉄金属産業が、産業固体廃棄物では、石炭を中心とする鉱業がそれぞれ上位 を占める。

 郷鎮企業の汚染防止対策について、郷鎮企業の廃水処理施設の普及率はわずか3.9%にとどまっており、郷鎮企業100社あたり平均4社しか備えていない。これに対して、大・中規模企業では、100社あたり平均71社が同様の施設を備えている。また、郷鎮企業の煤煙、煤塵、工場排出ガスなどへの対策についても、大・中規模企業に比較して低いレベルにある。従って、郷鎮企業における効果 的な対策、環境重視の経営、汚染対策技術の改善が早急に求められている。

{表3 郷鎮企業からの汚染物質排出量}
  1995年(a) 比率 1989年(b) 増加率(a)/(b)
産業排水 59.1億トン 21.0% 26.8億トン 121%
排水中のCOD(注) 611.3万トン 44.3% 176.9万トン 246%
二酸化硫黄(SO2) 441.1万トン 23.9% 359.7万トン 23%
煤煙 849.5万トン 50.3% 543.0万トン 56%
煤塵 1325.3万トン 67.5% 470.0万トン 182%
産業固体廃棄物 1.8億トン 88.7% 0.27億トン 567%
比率:対全国総排出量比
(注)化学的酸素要求量

III.郷鎮企業のクリーナープロダクション推進に向けた提言

 郷鎮企業においてクリーナープロダクションを推進する主要な方策は次の通り。

  • 郷鎮企業内に環境対策部の機能を併せ持ったクリーナープロダクション推進組織を強化して、その業務の中核として、資源の節約、工場内全体のプロセス管理を検討する。
  • クリーナープロダクション管理システムと実施規則を設定する。
  • 郷鎮企業へクリーナープロダクションを導入するため、従業員トレーニング、クリーナープロダクション実施組織の設立、試験的な設備でのデモンストレーション実施、その調査結果について職員・労働者へ必要な情報伝達を行う、等である。

 今回開催したワークショップでは、中国・郷鎮企業の環境問題の現状とその対策事例をわかりやすく紹介できたと思われ、出席者にとって大変参考になったものと考えられる。中国では、郷鎮企業を始め産業界の環境保全対策の成功事例や必要な情報を、ワークショップやセミナー等の機会を通 じて広く行政や企業の関係者に対して「普及」させていくことが、環境と両立した持続可能な発展のために今後ますます重要となるであろう。

以上

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