2008年3号

平成19年度「社会文化の変化と企業経営の進化に関する研究委員会」報告書(★)


平成19年度 社会文化の変化と企業経営の進化に関する研究委員会報告書

平成19年度日本自転車振興会補助事業

※平成20年4月より「財団法人JKA」に名称を変更




 経営学者故ピーター・ドラッカー教授は、1998年「新しい現実」を著し、歴史は年表によって区切られる時代を境に変わるものではない。新しい現実は、社会の多くの人々が認識する以前に様々なセクターにおいて徐々に、そして時にすばやく展開し、古い時代の事実に置き変わっていくことを指摘し、新しい現実として、経済のグローバル化、情報化社会の到来、国家による救済の概念の陳腐化、市民社会の到来等を挙げています。
 わが国経済社会は、内外の環境変化の中で新しい対応が求められています。この環境変化は、①人類に新たな挑戦を提起する地球環境問題、②BRICsに代表される国際社会のグローバル化、それによる比較優位の変化による経済産業構造の変化、③情報通信技術(ICT)の発達による社会経済構造の変化、④戦後のわが国経済社会を規定してきた右上がりの成長経済の枠組変化、少子高齢化社会・成熟社会の到来、市民社会への転換等に代表されましょう。言ってみれば、わが国経済社会は内外双方から二重の意味で大きなパラダイム変化に直面しています。こうした歴史認識とパラダイム変化への感覚を明確にしなければ、1990年以降の時代を単に失われた10年といったような経済・社会現象を単なる景気循環的現象として把握する矮小化された認識となってしまいます。 
 内外の環境変化は、人々の思考・行動様式にも変化を及ぼしますが、当然、我々の当面の対象である社会の構成要素たる企業のあり方、企業経営に対しても大きな影響を与え、企業経営は的確な対応を図ることが求められています。
 地球環境問題は、産業革命以来、科学技術の発展による資源制約からの解放や自然の克服を行う近代工業社会のあり方やライフ・スタイルに一大反省を求めるものであり、循環型社会形成を必須のものとしています。また、地球環境問題は、人類の相互依存意識を助長し、従来の生産者と消費者の意識、関係をも変えるインパクトを持っています。
 BRICsに代表される経済のグローバル化は、経済の比較優位関係を世界大に拡大し、中国や東南アジア製品を市場に氾濫させるとともに競争環境を変え、同様の変化を世界各地に及ぼしています。
 情報化社会の進展は、情報伝達コストを劇的に低減し、産業構造、組織形態のあり方を大きく変える一方、パソコン、ジャーナリズム等を通じて、消費者を情報の非対称性の世界においた状況をも変えており、企業の消費者対応にも決定的変化をもたらしています。
 高度成長経済社会は、終身雇用制、年功序列、企業別組合に代表されるわが国の企業と個人の関係を規定してきましたが、その関係にも大きな変化が生じ、市場の失敗、政府の失敗から、NPO組織の台頭等市民社会の形成の動きが進んでいます。
 こうした変化のなかで、環境基本法、循環型社会形成基本法、製造物責任法、消費者契約法等の制定、消費者保護基本法から消費者基本法への大改正が行われる一方、企業の社会的責任を問うCSR問題もあらゆる企業体を巻き込んでいます。

 「社会文化の変化と企業経営の進化に関する」研究委員会は、各界の有識者を、委員として委嘱するとともに講師として招き、激変する内外環境の変化に対する企業経営のあり方を研究するものであります。
 その研究対象は、極めて広く、奥深いものであり、多様な視点からの現実観察が不可欠であり、短期間に、一様な結論が得られる性格のものではありません。
 今年度の事業としては
  ①行政側の認識と対応として「製品の安全文化の定着に向けて」
  ②先進的企業の取組としての「CSR(企業の社会的責任)と企業文化」
  ③優れた企業経営者の観察による「ものづくりの倫理の構築」
  ④研究者の立場による「新製品開発と企業文化‐製品安全文化の醸成と課題‐」
  ⑤行政官・企業経営経験を有する弁護士からみた「コンプライアンスと企業価値」
  ⑥広告会社研究所から観察した「消費者のリスクに対する不安・不満と幸福感」
  ⑦行政官・事業者団体からみた具体的ケースとしての「塩ビを巡る環境安全問題と企業の対応」
 等行政、企業、事業者団体、法律家、研究者、マーケット観察者といった人々の観察とそれを巡る識者の議論を展開しました。

もとより、本件対象の大きさを考えれば、群盲像を撫でるの感を出るものではありませんが、こうした議論、研究の積み重ねと認識の共有によって、パラダイム変化のなかにおける企業経営の進化(evolution)が達成されるものと考えられます。本考察は、その第一歩として位置づけられるものであります。
 
(平成19年度報告書 序論 より)



研究委員会委員名簿
(敬称略、五十音順)

【委員長】

井出 亜夫 日本大学大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授

【委員】

後藤 和子 埼玉大学大学院経済科学研究科 教授
杉浦 勉 丸紅経済研究所 顧問
袖川 芳之 (株)電通 消費者研究センター プランニングディレクター
田中 一雄 (株)GKデザイン機構 代表取締役社長
西出 徹雄 (社)日本化学工業協会 専務理事
宮村 鐵夫 中央大学理工学部経営システム工学科 教授
W.パーペ 日欧産業協力センター 事務局長

【講師】

本庄孝志

経済産業省大臣官房審議官

川野 洋治 サントリー(株)コンプライアンス推進部専任部長
北川則道 株式会社小松製作所 顧問
大宮 正 西村あさひ法律事務所 弁護士
【事務局】  
蔵元 進 (財)地球産業文化研究所 専務理事
金坂 順一郎 (財)地球産業文化研究所 企画研究部長



報告書目次

第1部 序論 井出亜夫
第2部 各論(委員会講演録)
第1章 製品安全文化の定着に向けて (本庄講師講演録)

第2章

私たちの考えるCSRと企業文化
-サントリーの取組み事例から-
(川野講師講演録)
第3章 ものつくりの倫理の構築 (北川講師講演録)
第4章 新製品開発と企業文化-製品安全文化の醸成と課題- (宮村委員講演録)
第5章 コンプライアンスと企業価値 (大宮講師講演録)
第6章 消費者のリスクに対する不安・不満と幸福感 (柚川委員講演録)
第7章 塩ビを巡る環境安全問題と企業の対応 (西出委員講演録)
第3部 まとめ  

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