今回新たに研究事業として、竹内 啓明治学院大学国際学部教授を委員長とし、標記研究委員会が発足したので概要を紹介する。
弊所の「2050年のサステナビリテイ研究委員会」が、本年6月に行動指針WG研究報告書を完成させ、’93年11月から開始した研究に終止符を打った(研究内容は9月号のnews letter を参照)。その研究成果として今後は、分配問題(南北間)の解決が大きな課題であることが指摘されている。しかも、現在の世界情勢を鑑みるに、発展途上国の経済の安定化・社会福祉の向上は、解決が急がれる大きな課題である。
今年度より研究を開始する、21世紀の開発戦略研究委員会では、上記課題を受けつつ、下記構想にて研究する方針である。
21世紀初頭(2010~2020年)の東南アジア(タイ、ヒ2リピン、インドネシア、マレーシア等)の社会問題の低減、市民社会の繁栄の為に、先進国の日本は今後どのような援助をすべきかを研究する。特に援助のありかたとしては、途上国の自己努力・自立を考慮しつつ、南北問題の解決につながり、途上国との国際合意を形成できる援助とは何かにアプローチし、今後の地球環境問題、持続的発展問題の解決に役立てることを目指す。
研究初年度の平成10年度は、途上国の社会問題(社会福祉指標を中心に、貧困問題、人口問題も含む)の実体とその解決の方向付け、南北問題の途上国側の認識と先進国側の認識のずれ、相互理解に向けての課題と方策は何かを研究する。
研究2年目の平成11年度は、初年度の研究成果 を受け、特に社会問題の大きな要因である、途上国の貧困問題・人口問題の解決策につながる途上国の経済発展の為の援助のあり方に重点を置くが、先進国の援助が地球温暖化問題に対する途上国の国際合意へつながるための戦略についても研究し、政策提言に結びつける。
●平成10年度の重点課題
(1) 途上国(東南アジア・中国)の社会福祉指標とその問題点
(2) 援助の各種方策と途上国との相互理解
(3) 各国との相互理解を得られる援助のあり方の絞り込み
(4) 国、地方自治体、NGO、企業などの役割
(5) 国際援助の政策提言
委員長 | :竹内 啓氏 | (明治学院大学 国際学部教授) |
委 員 | :植田和弘氏 | (京都大学 大学院経済学研究科教授) |
尾村敬二氏 | (日本貿易振興会 アジア経済研究所 経済協力研究部部長) |
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佐藤活朗氏 | (海外経済協力基金 開発援助研究所 援助理論グループ主任研究員) |
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吉岡完治氏 | (慶應義塾大学 産業研究所教授) | |
吉田恒昭氏 | (東京大学教授 大学院工学系研究科 社会基盤工学専攻) |
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富浦英一氏 | (通産省大臣官房企画室 法令審査委員) | |
武藤寿彦氏 | (通産省大臣官房企画室 企画主任補佐) |
平成10年10月27日(火)18:00~20:30 於:地球研会議室
テーマに関して委員長の考え方をご紹介戴いた後、自己紹介も兼ね、各委員の関心事をご説明戴く。主な論点は以下の通 り。
社会福祉
貧困問題は金の問題だけではない。能力の貧困問題もある。
パキスタンの女性の識字率は10%位しかない。女性に教育することそのものに対する反対ある。
衛星放送により、教育が大事であるという認識が途上国の一般 家庭にも広がりつつある。
地球環境
環境技術移転は、どのような技術が移転のメカニズムの乗って行くかがさしせまった課題の一つ。
環境保全技術は受け入れ側が熱心にならない問題あり。環境技術は公共的側面 を持つ技術である。それに対して国、地方自治体、NGOの果たす役割は何か?
経済問題
インドネシア国内の経済は地域間で差がある。都市部はまだ良いが、地方は本当に生活に困っている人が増えている。また富裕層の生活は全く変化していないが、貧困層は確実に広がっている。工場労働者は失業している。
インドネシアの政変の原動力はインターネットである。
海外援助
海外援助の成功には、市民組織の力が大きいのではないだろうか。
冷戦後は欧米各国はSocial Issue に援助をしたが、危機管理対策は何も用意していなかった。Social Safety Netが今大事になっている。
アジア地域では大家族制の崩壊は最大の変化。
21世紀のアジアは今後自己主張をどんどん始めるだろう。
アジア開発銀行、世界銀行、経済協力開発機構のいままでの20年間の総括は必用。
持続的な社会
モンゴルはいわばサステナブルな生活をしているが、衛星放送で都市生活にあこがれ生活が変化していけばサステナブルでなくなるのではないか。サステナブルな社会とは一体どんな社会か考えさせられる。
公正な社会を作るための問題は何か、どう作るかが一番の問題点。各国の統計指標の批判的な解析を通 じた社会問題の正確な認識を出発点としたい。