当研究所では、これからの高度情報化社会に焦点を当てた「高度情報化がもたらす社会変容と対応」研究委員会を平成6年12月から平成7年7月にかけて実施した。本研究委員会はその第2弾とも言えるもので、高度情報化に関する世界各地の動きを、GII(Global Information Infrastructure)へ進む道のりとして検討するもので、本年1月に研究委員会はスタートした。以下、概略を紹介する。
冷戦構造の崩壊とそれに続く今日の世界の情況は、従来機能してきた米ソ二大超大国を軸とする諸システムが、もはや従来のように働かないことを明らかにした。しかし、新しい新秩序は未だ現れず、世界は先行き不透明な混沌とした時代に突入した。
こうした状況下冷戦構造の一方の軍事大国米国は、その軍事技術の新しい転用先を、また世界における新しい覇権の確立を、情報革命の中に求めた。ロシアが混乱の中に沈み軍事技術の転用先に苦しむ中、時代の流れを捉え軍事技術の活用先を見つけた米国には知恵があった。そして、自らが持つ情報テクノロジー技術の優位 を背景に、1992年の米国副大統領A・ゴアによる「情報スーパーハイウェイ構想」、1993年の「NII構想」(全米情報基盤)を経て、1994年のITUブエノスアイレス総会において「GII構想」(世界情報基盤)が米国により華々しく打ち上げられた。GII構想の背景に米国の新たな世界戦略があるとしても、諸々の問題を抱え閉塞状態に置かれている世界にとっては、現状を打破し将来への展望を抱かせるGII構想は十分魅力的であり、世界の視線は一斉に米国に集中した。
しかし時間の経過と共に、必ずしも米国が万能でないことが分かってきた。米国ではGII、NIIをめぐり理想と現実の間で衝突が起こった。政府と議会、政府と民間の考えは必ずしも一致したものではなかった。各国は、米国がこの分野のトップランナーであることを意識しつつも、自分達の可能性を模索し始めた。
今後GII構想がどの様に進展していくのか、現状では明確な姿は見えていない。そこでは、国と国、地域と地域等の利害の対立も予想され、GIIに進む道のりは決して平坦ではない。しかし、半導体チップの集積度の飛躍的向上を始めとして、情報関連技術の著しい進歩を背景にした時代のうねりは、確実に世界の様々な分野に影響を及ぼし始めている。例えば、1998年に決定したEU域内の通 信規制撤廃の動き、それに連動した世界的なメガ・キャリアの提携の動き、衛星・移動体通 信の分野における従来の通信事業者と異なる新たなコンペティターの登場といったことが挙げられ、世界の各国・各地域において21世紀を視野に捉えた高度情報化戦略が動きだしている。
本研究委員会では、第一に、GII構想に向けて影響力が大きいと思われる情報化技術について最新の動きが調査する。第二に、GIIに向けて世界の各国、各地域に現在どのような動きがあるか調査する。地域としては、先端を走るアメリカ、EU統合にに向けて動きだしたヨーロッパ、成長著しい東アジアを考える。そこには、地域、文化、経済の発展段階によってGIIに求めるものが必ずしも同じでないように思われる。第三は、技術・地域の動きを受けて、文化・社会の軸から情報化への許容度を考える。そしてGIIを新しい世界秩序を構築する一つの軸として捉え、GII、新世界秩序、新しい開発主義の関係を整理し、その可能性を検討していく。そしてその成果 を知見としてまとめ、日本の将来へ向けて展望を与えるものとして世の中に提言していきたい。
情報技術の動向
情報技術の日・米・欧の優位
性、インターネットの今後、次世代アーキテクチャー、衛星・無線・移動体通
信の今後の可能性
世界各地域の動向
アメリカ、ヨーロッパ(イギリス、大陸中央、北欧)、東アジア(シンガポール、韓国、台湾、ASEAN地区等)
文化社会から見たGII
技術が圧倒するのか、技術と文化の新たな融合か、技術への拒絶か
GIIと新世界秩序
GIIの理想と現実、国家の役割、新しい世界秩序に向けて
「GIIの行方と各国の対応」研究委員会 委員名簿(五十音順)
委員長 | 公文 俊平 | 国際大学教授 グローバル・ コミュニケーションセンター所長 |
|
委員長代理 | 薬師寺泰蔵 | 慶應義塾大学法学部教授 | |
委 員 | アダム・ピーク | 国際大学グローバル・ コミュニケーションセンター研究員 |
|
川勝 平太 | 早稲田大学政治経済学部教授 | ||
佐賀 健二 | 亜細亜大学国際関係学部教授 | ||
清家 秀哉 | 電気通信政策総合研究所第一研究部長 | ||
須藤 修 | 東京大学社会情報研究所助教授 | ||
浜野 保樹 | 放送教育開発センター助教授 | ||
藤田 正幸 | 三菱総合研究所情報技術開発部 情報基盤システム室長 |
||
松原隆一郎 | 東京大学教養学部助教授 | ||
山内 康英 | 国際大学助教授 | ||
専門委員 | 木村 忠正 | 国際大学グローバル・ コミュニケーションセンター研究員 |
|
津崎 克彦 | 慶應義塾大学法学部研究科修士課程 | ||
鶴田 典子 | 慶應義塾大学法学部研究科修士課程 | ||
講 師 | 土井 利忠 | ソニー株式会社取締役 中央研究所副所長 | |
村井 純 | 慶應義塾大学環境情報学部助教授 | ||
小野寺 正 | 第二電電株式会社常務取締役技術本部長 | ||
小尾 敏夫 | コロンビア大学東アジア研究員 日本経済経営研究所 |
||
ほか |
スケジュールと担当分野
研究委員会のプログラム・スケジュール(案) 96.1.14
平成8年1月 | 第1回 | 「GIIの理念とその背景」(浜野委員) | |
2月 | 第2回 | 「情報通信技術における日・米・欧の比較」(藤田委員) | |
第3回 | 「情報スーパーハイウェイの次世代アーキテクチャー」 (土井講師) | ||
第4回 | 「インターネットは今後どこへ行くのか」(村井講師) | ||
3月 | 第5回 | 「衛星通信、無線、移動帯通 信の今後の可能性」(小野寺講師) | |
4月 | 第6回 | 「ヨーロッパ各国のメガ・キャリアの動きと今後の展開」(清家委員) | |
第7回 | 「通信の自由化先進国 イギリスの現状」(小尾講師) | ||
5月 | 第8回 | 「北欧諸国の高度情報化」(アダム委員) | |
6月 | 第9回 | 「アメリカにおける最新の情報化をめぐる動き」(須藤委員) | |
7月 | 第10回 | 「東アジアの経済成長と情報化」(佐賀委員) | |
第11回 | 「電子立国シンガポールの今後」(山内委員) | ||
7月 | 第12回 | 「社会経済の軸から見たGIIのインパクト」(松原委員) | |
第13回 | 「GIIと新しい文化創造」(川勝委員) | ||
10月 | 第14回 | 「米国の航空政策に学ぶGIIの今後」(講師) | |
11月 | 第15回 | 「GIIと国家の役割」(薬師寺委員) | |
第16回 | 「全体のまとめ」(公文委員長) |