当研究所は本年1月より、学会、財界、ジャーナリズム等の委員により構成された「世界の中の日米関係を考える懇談会」を主催し、数次の委員会を開催しました。 また、米国においても、カーネギー国際平和財団が同様の委員会を主催しました。両国の委員会は2度の合同会議を持ち意見交換を行い、日米それぞれで報告書を作成し10月30日に発表しましたので報告致します。
1.「世界の中の日米関係を考える懇談会」設置趣旨
冷戦後の世界において、中長期的に世界の力のバランスが急速に変化するとともに日本自身の政治経済状況も変化していることから、新しい世界秩序及び日米関係のあり方のビジョンが求められており、これを提示することが必要。
日米包括協議は本年6月でほぼ2年を経過することから、これを節目として現在の日米通 商関係を明確化し、新たな解決策を提示することが必要。
日米での相互理解が不足し、互いの国を誤解している面 があり、これらが日米関係を悪化させる一要因となっていることから、日米のオピニオンリーダー等の情報及び問題意識の共有のための情報及びデーターの交換を行う。
2.「世界の中の日米関係を考える懇談会」経緯
本懇談会は、(財)地球産業文化研究所(GISPRI)の主催により、本年1月から開始され、数次にわたる懇談会の開催及び適宜委員から意見を伺う機会を持ちながら進められた。
本懇談会と並行して、米国でもカーネギー国際平和財団の主催により、同趣旨のスタディグループが設置され、日本側と同様の運営が成された。
日米両グループは2回の合同委員会を開催し、双方の意見の交換を通 じて、各種問題についての相互の考え方の一致点及び相違点について理解を深めた。
日米両懇談会の報告書は、それぞれの独自の報告書となっているが、「変革期にある日米関係」の表題の下に、合わせて一冊にまとめられ、英語版と日本語版が日米で発表される。
なお、その冒頭には、日米両座長の共同声明が付けられている。
3.懇談会議論概要
日米の両懇談会ともに、1)二国間の経済問題を中心とする日米関係、2)アジア地域との関係における日米関係、3)地球的規模の課題を巡る日米関係、の三つの柱立てに沿って議論が展開された。
両懇談会ともに、1)の経済問題に係わる日米関係に関し、議論が集中した。これは、両国間の通
商問題を含む経済問題の深刻化が、日米関係全体をより困難な状況に陥れつつあるとの共通
の認識に基づくものである。
しかし、現状認識では大きなギャップが見られた。具体的には、日本側が、I.
経常収支インバランスについては日本の資金余剰と米国の資金不足という双方のマクロ経済構造が要因である、II.
為替レートの大幅な変動についても、日本側の黒字拡大等のみならず、米国側の基軸通
貨国としてのドル防衛努力が不十分であることが要因である、III. 市場アクセスについては日本市場は非難されるほど閉鎖的ではない、との認識を提示した。
一方、米国側は、I. 及びII. は主として日本が対応すべき問題であり、III.
に関しては日米の市場アクセスには明らかな不均衡が存在するとの考えを示した。
また、2)アジアとの関係、3)地球的規模の課題との関係についても、アジア地域における自由化のタイミングとペースに関する見方(日本側は米国型よりも自由化プロセスにおける自主性を重視。)や地球的課題と二国間の課題の重点の置き方(日本側は両課題に並行的に取り組むべしと主張したのに対し、米国側は二国間の課題に対応することが先決とする意見が有力。)等についての相違が見られた。
上記のように、現状認識や問題設定に関してはギャップが見られたものの、日米関係を改善・強化するために何らかの対応が必要であることは、両国の懇談会が一致して強調し、具体的な対応策の提言に関しても共通 点が多かった。
4.報告書概要(米国側懇談会の報告書との対比については表I参照)
(1) 二国間の経済問題を中心とする日米関係について
通商問題を含む経済問題が日米関係全体を非常に困難な状況に陥れつつうるが、それらの問題に対し、以下のような対応策を提言。
適切な経済政策の推進
日本の積極的な景気拡大策及び規制緩和の推進。
米国の財政赤字縮小・国全体の過剰消費を抑制するための努力。
経済制度の収れん化(コンバージェンス)
各種規制・規格、競争政策等の経済制度の差異を狭めるため、日米欧の三極間協議を開始することを提案(日米間の問題を相対化し無用な摩擦を回避するためにも、複数国間の協議とすることが適当。)
新たな紛争処理メカニズムの創設
二国間の交渉(多くの場合米国の一方的措置を背景とする交渉)は、むしろ相互不信を増幅することが多くなっていることを踏まえ、新たに、WTOの紛争処理システムを補完するものとして、非強制的な紛争処理メカニズム(第三者による中立パネル)を創設し、活用することを提案。
交流チャンネルの多層化・広範化
日米の経済システムや規制等について、第三者の視点も入れて客観的に研究分析する日米欧三極経済比較研究を実施する等、一層広く多層的な交流を促進すべき。
(2) アジア地域と日米関係について
同地域の発展が日米関係にとって極めて政治・経済的に重要であるとの認識を前提として、次のような対応策を提言。
日本におけるアジア製品の輸入の拡大、米国によるアジアへの直接投資の拡大。
APECを活用したアジア地域の貿易自由化の推進
APECを活用して、経済法制等の整備、インフラ整備、人材育成、中小企業育成等産業基盤整備、マクロ経済政策等とバランスをとりながら経済自由化を進めるべき。
当面は各国の発展段階に応じた自由化策を遂行する協調的自主的アプローチが適当。
中長期的にAPECの本部機構強化が必要。
産業毎の自由化アプローチも将来的に有効。
アジアの安定的発展に向けた日米協力
エネルギー、環境等の成長制約要因の除去、インフラ整備に係わる協力を進めるべき。4) 安全保障
日米安全保障の有効性の再確認、日米中の対話推進、ASEAN地域フォーラムの育成等が課題。
(3) 地球的課題と日米関係
冷戦終結後の国際システムを再構築するために、日米、さらに欧州の三極が共同でリーダーシップを取っていく必要があるとの認識に立ち、具体的には次のような分野での協力を提言。
世界の長期的発展の制約要因への対応
資源エネルギー問題、環境問題、医療問題、食料問題等について、技術開発やその他の国際協力を進めるべき。
国際経済システムの強化
WTOをはじめその他の国際機関の強化、ドルの安定化(基軸通 貨としての規律ある対応)、円の国際化を進めるべき。
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