IPCCでは、1992年11月から第二次評価報告書の作成に取り組んでいるが、10月11~13日に第3作業部会総会(7月に行われた第3回総会の追加総会)、10月16~20日に第2作業部会第3回総会が開催され、それぞれの作業部会の報告書が採択・承認された。
(1) 開催日時
平成7年10月11~13日
(2) 開催場所
カナダ・モントリオール 国際民間航空機関(ICAO)会議場
(3) 出席者
ボーリンIPCC議長、ブルース、リー両共同議長はじめ第3作業部会議長団、代表執筆者、66カ国、3国連機関、2国際機関、7NGOなどの代表 計約120名が参加
日本からは、天野明弘関西学院大学教授、楠昌司環境庁地球環境部地球環境専門官、西岡秀三国立環境研究所地球環境研究センター総括研究管理官、同福渡潔交流係長、GISPRI課長津坂秩也が出席
(4) 議事ならびに審議概要
開会
ボーリンIPCC議長は、東京でのWEC関連会議のため開会に間に合わなかったため特段の挨拶もなく、ブルース共同議長の議事進行のもと審議が開始された。
政策立案者向け要約(SPM)案の採択
第3作業部会のSPMは全部で11節から構成されているが、7月のジュネーヴでの総会で合意が得られなかった6節と1項目について審議が行われた。
今回の追加総会では、ジュネーヴ会議の教訓から、主な意見を総会の場でとりあげた後、意見のある国と代表執筆者からなるコンタクト・グループを結成してそこで徹底的に議論を行った修正案を総会で再審議するという方法がとられた。
前回の審議で大論議の末繰り越しとなった原子力の取り扱いについては、IAEA(国際原子力機構)から出された修正案を叩き台にして修正案が作成された。結局、「原子力の温室効果 ガス排出削減の効用は認められたうえで、炉の安全性、核の非拡散、廃棄物管理などの点で社会的、政治的合意がえられれば削減ポテンシャルは大きい」といった内容の文章が採択された。
前回の総会で同じく途上国の人命軽視(温暖化による人命損失をその経済規模の差から途上国と先進国で違う値で評価)という批評から繰り越しとなっていた社会的コストの評価については、前回と同じ論点で審議が長引いたが、コンタクト・グループでの審議の結果 、代表執筆者の反対を押し切って「人命は市場外のものであり、社会は平等に人命を考慮すべき」という表現が追加された。
また、今回の総会中のコンタクト・グループで、「総合評価」の節でより詳しい内容を記述した修正案が、また要約全体を要約したエグゼクティブ・サマリーの案文が合意され審議にかけられたが、産油国などから、「これらは新規に作成された内容でIPCCのルール(作業部会総会で採択される文章は4週間前までに事前配布を行う)に違反しており審議に応じられないとの意見が出され、審議にはいれずに廃案となってしまった。
第二次評価報告書本編各章の承認
SARの文章が採択されたのをうけて、本編各章の承認について審議が行われた。原子力の取り扱いなどが今回の審議で大きく変更になっており、これを初めとして総会での審議で基調が変更になった項目について整合をとることを条件として各章は承認された。
閉会
今後の活動などの議題はとくに準備されておらず、報告書の採択・承認の終了により閉会された。
(5) その他
今回の追加総会では、前回から2カ月半がたっており、その間に十分な事前調整が可能であったこと、コンタクト・グループを強化して議論を徹底したこと、産油国のいつものスピーカーが東京でのWEC会議出席を優先させたため産油国にいつもほどの元気がなかったことなどにより、前回よりは順調に審議が行われた。
(1) 開催日時
平成7年10月16~20日
(2) 開催場所
カナダ・モントリオール 国際民間航空機関(ICAO)会議場
(3) 出席者
ボーリンIPCC議長、ワトソン、ジニョウェラ両共同議長はじめ第2作業部会議長団、代表執筆者、71カ国、4国連機関、2国際機関、10NGOなどの代表 計約160名が参加。
日本からは、前週から引き続いて参加の西岡、楠、福渡、津坂の4名に加えて、通
商産業省塚本弘参与、同内山俊一地球環境対策室長、東京大学石谷久教授、東京農工大学柏木高尾教授が出席。
(4) 議事ならびに審議概要
シェイラ・コップス カナダ副首相・環境大臣から歓迎の挨拶、ボーリンIPCC議長から開会の挨拶があったのに引き続き、ジニョウェラWG2共同議長から第二次評価報告書(SAR)執筆の経緯について紹介された。引き続きワトソン共同議長による議事進行のもと、以下の議題について審議が行われた。
政策立案者向け要約(SPM)案の採択
気候変動の影響、適応策、緩和策に関する科学的知見の評価をしたSPMについて1文ごとに採択審議が行われた。
注目される緩和策については、以下の概要が採択された。
エネルギー供給における緩和策については、WG3同様の(a)化石燃料利用効率の向上(b)低含炭素燃料への転換(c)CO2回収(d)原子力への転換(e)再生可能エネルギーへの転換の5項目について、より技術的な面 を重視した対策の記述が採択された。
低CO2排出エネルギー供給システム(LESS)構築の検討については、SARの他の部分と異なり、各文献から得られたデータを集大成したシミュレーションを行っており、IPCC報告書の基本原理(既設の情報の収集および評価)から逸脱しているのではないかという意見が提起され議論になったが、ボーリン議長から作業の枠内であるというコメントがなされたのに続いて英、スイスなどから政府にとって有用な情報であるというコメントが出され、SPMに残されることとなった。
エネルギー利用分野(産業、運輸、民生関連)における緩和策については、WG3報告書と同様に、今後20~30年の間に、技術的節約策や管理慣行の改善によって、世界中の多くの地域で、殆ど増分投資なしで10~30%のエネルギー効率の向上が可能であり、(増分投資をすれば)技術的には50~60%の効率向上が可能であるという提言が採択された。また、これを実現するための技術移転の必要性、途上国での対策実施のための資金の必要性、非技術的障害の克服の必要性が提案された。
横断的緩和策については、SAR25章でとりあげられているが、6月のLA会議でも内容が練られていないことが指摘され、SAR案に含まれていなかったが、「資源の利用の競合」「地球システム工学」を中心に記述が追加された。
政策手段については、本来は第3作業部会で取り扱うこととなっているため、第2作業部会の記述に含むかどうかが議論になったが、ボーリン議長から「WG2としても技術的観点から政策手段の提示をすることは政府にとって有用である」と口添えがなされ、同項目の記述を残すこととなり13項目にわたって記述された。
第二次評価報告書本編各章の承認
SARの文章が採択されたのをうけて、本編各章の承認について審議が行われた。
第0章「テクニカル・サマリー」についてはSPMと全面 的に整合がとれるように書き直しを行うこと、一部の章についてLAがSPMと整合をとるために書き直しを行うことがあることを含めて議長から提案され、一括して承認された。
その他事項:WG2の今後の活動について
・気候変動枠組条約締約国会議(COP)補助機関の要請に資するため、特別
報告を既に審議された報告書の記述をもとにまとめる。
・(COP3に資するため)アップデートされた特別 報告を作ること
・2000年(仮)にむけて1998年(仮)から第三次評価報告書の作成にとりかかる。
閉会
最終日にワトソン議長は超人的会議運営技術を発揮し、各国の協力もあって予定された議題はすべて審議・採択・承認され予定通 りに閉会した。
(5) その他
第2作業部会が担当している分野は、自然科学・工学が中心ということもあって、第3作業部会総会でみられた政治的発言による紛糾はあまりなかった。
ただし、今回の会議にはいつも紛糾のもととなるサウジ、クウエート、ブラジル、中国などからメイン・スピーカーが出席していなかったため、12月のIPCC総会でのこれらの国の動向が注目される。
残る第1作業部会は11月27~29日にマドリッドで開催される作業部会総会で報告書を採択・承認する予定で、これらは12月11~15日にローマで開催される第11回IPCC総会で総合報告書とともに審議され、採択・承認される予定となっている。
また、当研究所では、第2・第3作業部会での審議終了を機に、(財)地球・人間環境フォーラムなどと共催で11月6日にIPCCの近況を報告する特別 報告会を開催し、産・官・学の各界から参加された280人の参加者に各作業部会の現状を報告ならびにB.ボーリンIPCC議長の特別 講演を行った。