通産省環境立地局地球環境対策室総括班長 大井川 和彦
まず、エネルギー政策と環境政策からお話したい、と思います。これはまさに国際的な面 から云いますと、地球環境問題への対応ということになります。
地球温暖化問題に関して、1988年『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』が設立されました。IPCCは1990年、第一次影響評価報告書を発表し、その中で、CO2排出抑制措置をほとんどとらない場合、来世紀末までに、CO2濃度は2倍に達し、平均気温は3度上昇し、平均海面 は65cm上昇する、と云っています。
この問題提起に対して、応えるのが『気候変動枠組み条約』です。この条約は既に50か国が批准を終え、今年の3月21日には発効することになります。
この条約は先進国には一つの義務を課しています。それは今年の9月21日までに『国別 報告書』を締約国会議に提出すべし、というものです。
この報告書に関するルール作りを行っているのが、『気候変動に関する政府間交渉会議(INC)』です。
INCに積み残された議論が三つあります。第一に、『国別 報告書』の書き方です。第二に、『国別報告書』が締約国会議でどのように扱われるか、ということです。何故なら、CO2排出量 について具体的な国別目標がこの条約に明示されていないからです。第三は共同実施に関するものです。省エネの投資コストは日本では280円/C-ton.中国では9円/C-ton.と云われています。従って、省エネの進んだ日本のような国は途上国と共同して削減努力を行った方が地球トータルとしては効率がよい、という考え方です。
しかし、この点についても、この条約は共同して実施できる、という文章以外何も規定していません。
次に、この三つの論点に対して欧米諸国がどのように反応しているかをお話したい、と思います。
1993年10月、米国は『気候変動行動計画(CCAP)』を発表しました。この第一の特徴は包括的アプローチである、ということです。個別 に温室効果ガスの削減目標をたてるのではなく、あらゆる温室効果ガスの温室効果 を、例えばCO2で換算し、その総量の削減を目指すのです。ですから、この計画の2000年に於けるCO2排出量 は1990年に比べ増えているのです。第二の特徴はボランタリー・アグリーメントという手法です。これは基本的に企業の自主的な努力によって、環境政策の目標を達成していくのですが、この時、政府は直接関与せず、複数の企業が契約を結び、自主的努力を行うのです。
但し、包括的アプローチは科学的裏付けが乏しく、国際社会で合意された手法ではありませんし、ボランタリー・アグリーメントにしても、これで本当に目標が達成できるのか、疑問の声もあるようです。
今、アメリカに注目すべき動きがあります。環境ビジネスをアメリカの雇用創出や経済発展につなげよう、というのです。エネルギー省、環境保護庁、商務省の環境技術輸出戦略がそれです。
次に、ヨーロッパについてお話しましょう。
ECのCO2/エネルギー税は、今だに正式決定しておりません。というのも、他のOECD諸国が同様の措置を採用することを条件としているからです。但し、ドイツやオランダ等はCO2/エネルギー税の導入に熱心です。
こうした背景のもと、地球温暖化問題に対するわが国の貢献についても御紹介しましょう。
今、通 産省を中心として、『TREE構想(Technological Renaissance for Environment and Energy) 』が練られています。これは直接『気候変動枠組み条約』のコミットメントの実施につながる訳ではないのですが、中長期的な観点で本来取り組むべき問題を対象にしています。
既に、地球温暖化に対応するような技術開発の国際協力を進めていくべき、との提案をOECD、IEAの中で行っています。特に、この分野で日本は技術的に一歩先んじていますから、国際的なイニシアティブを執ることができるのではないか、と考えています。
昨年、ウルグアイ・ラウンドが合意成立し、世界貿易機構(WTO)に生まれ変わろうとしています。今、ウルグアイ・ラウンドの後はグリーン・ラウンドだ、ということがECやアメリカを中心にして云われています。
この問題には三つの論点があります。
第一は環境ダンピングと呼ばれているものです。環境水準が各国バラバラですと、結局、環境コストを全く負担しない製品が競争力をつけ市場に参入してくることになるが、これこそダンピングではないか、という議論です。
第二に、環境保護のもとでは、貿易制限が正当化されるべきではないか、という議論です。
第三は必ずしも貿易制限を意図しない環境施策が貿易制限になるか、という議論です。 例えば、フロンで洗浄した半導体チップの輸入を禁止する等の『PPM規制』がその例です。
今、国際標準化機構(ISO)は各国の産業界とともに環境管理や環境監査等のルール作りをしています。ここで決定された基準は自主的判断にまかされるのですが、一部の先進国では事実上の取引条件になって、貿易制限に向かうのではないか、という懸念もあります。