2005年2月に京都議定書が発効し、世界的に温室効果ガス(以下、GHG)の排出に関する関心が高まっている。我が国でも同年に京都議定書目標達成計画が策定され、国民各層の排出抑制・削減への取組みが加速しつつある。また、地球温暖化対策推進法の改正により温室効果ガス算定・報告・公表制度も導入される。事業者は自社の排出管理について、社会的責任を意識して環境マネジメントの観点及びGHGの排出削減・抑制の観点から取組みを強化しつつある。このような中で、ISO14064は、GHG排出・削減量の算定・報告の自主的なガイドラインとして、環境マネジメント規格のISO14000シリーズの一環で2006年3月に国際規格化された。
ISO14064を活用する最大のメリットは信頼性の向上である。この点をふまえ、日本の事業者がISO14064を活用するとすれば、2つの目的が考えられる。すなわち、排出量管理・排出削減活動に関し、効果的に内部管理を行うことと、自社の取組みを効果的に外部へ説明することである。 内部管理において、ISO14064はGHGの算定・報告に関する原則や基本的手順を体系的に示しており有用である。ISO14064は、算定の実務で使うような具体的な計算方法等が示されているわけではない。考え方・基本的な手順を示すものであり、それにそって、他の具体的な算定ツールやプログラムを用いて算定・報告の実務を行なう形で利用されるものである。このことから、用いる具体的プログラムの選択や、内部・外部の監査の活用も含め、利用者の目的に応じた柔軟な活用方法が可能となる。ISO14064を活用することで、意図するステイクホルダーの要求レベルに応じた品質・信頼性を保ちながら、GHGの算定や報告を行なうことができる。 重要なことは、ISO14064があくまで自主的な規格であることと、目的に応じた柔軟な活用が意図されていることである。これを阻害するような用いられ方、例えばISO14064に準拠することが商取引や便益取得、環境格付け等の評価要件とされることや、行政機関などが不必要に独自のルール・解釈を付加することは、ISO14064の本来の機能・メリットを活かす上で望ましいこととはいえない。 外部説明においては、ISO14064に準拠することで報告内容等の品質・信頼性への「お墨つき」が付与される効果が期待できる。事業者はこれにより自らの排出管理・排出削減への取組みへの姿勢・努力を社会・ステイクホルダーから評価・理解してもらいやすくなる。目的・必要に応じ内部・外部の監査・検証の手順を活用することで、信頼性を向上できる。公表するデータ・情報の信頼性の向上は事業者が社会・ステイクホルダーから理解され、社会的責任を果たしていく上で非常に重要である。この点を強化することが可能である。 なお、ISO14064に準拠することで、他社への比較優位を獲得しうるのではないかという視点もあるが、現状ではまだ明確に肯定はしにくい。その理由は2つあり、1つは、ISO14064に準拠したことでGHGに関するパフォーマンスの比較が直ちに可能となるわけではないことである。横並び比較にはISO14064のもとで具体的に算定に用いられるプログラム・ツールの共有が必要だが、そのような観点で整備されたデータ・情報の提供がまだ限られている。もう1つは、事業者や提供される商品・サービスを選択する側の消費者・ステイクホルダーが、選択の基準としてGHGの排出に関するパフォーマンスを大きなファクターと捉えるにはまだ至っていないことがあげられる。 もちろん、今後、GHGの排出への社会・ステイクホルダーによる関心の高まりの中で、そのような機運が高まる可能性はある。その際には、ISO14064を活用し、一定の比較指標を確立した上で、自社のGHG排出に関する高いパフォーマンスをアピールすることで比較優位を獲得することも可能となると考えられる。 以上から、ISO14064の活用の可能性・方向性については、以下のようにまとめることが出来る。すなわち、利用者の目的に応じた柔軟な活用を通じて、内部管理、外部説明の場面において、自らのGHG排出管理の効率・品質を高め、報告する情報・データの信頼性を向上させ、その努力をアピールすることが可能である。そして、GHGに関する今後の社会・ステイクホルダーの要請の進展にあわせ、より戦略的な活用の可能性も秘めた幅広いツールであるといえる。 |
■検討委員会メンバー(敬称略・順不同 H18年2月現在) |
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