2004年3号
平成15年度 「持続的な社会経済システムと企業の社会的責任」 研究委員会報告書 日本におけるCSRの課題と今後の方向 平成15年度日本自転車振興会補助事業
この度、標題の研究委員会報告書が完成したので、概略を紹介する。 |
報告書総括
わが国のCSRの議論は、一部のグローバル企業、経済団体が主導している。関西経済連合会は2001年、報告書『企業と社会の新たなかかわり』を発表し、経済同友会は、CSRをテーマとする企業白書『「市場の進化」と社会的責任経営』を2003年3月に発表した。CSRへの注目は集まっているが、広く定着した状況にはない。市場社会においてCSRを促進させる市民の声、NGOの運動が高まった結果議論が出てきたというわけではないからである。
アンケートなどによれば、市民のCSRへの関心は必ずしも低いわけではない。が、社会的問題を自らの問題として捉え、行動し、ネットワーク化していく社会的ムーブメントには繋がっていない。
今後CSRに取り組む各セクターに求められる課題を以下、四点掲げる。
(1) |
NPO/NGOの育成・支援 |
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まず企業や政府の活動を独立した立場で調査・評価し、政策提言できるNPO/NGOの成長が求められる。また企業がフィランソロピー活動や社会的事業を行う際に、NPO/NGOとの間で仲介し、アライアンスを手助けする中間支援組織の存在も求められる。
わが国においてNPO/NGOは萌芽期にあり、こういった機能をもち力のある団体はまだまだ少ない。制度的な支援策、ローカル/グローバル・レベルで支える仕組みをつくっていくことが重要である。 |
(2) |
大学でのCSR研究・教育の充実 |
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これまでわが国ではCSRへの関心が低かったため、研究対象として「企業と社会」の問題領域に関心をもつ研究者は少なかった。今後、学生への教育、基礎研究の充実と同時に、政策提言、マネジメント・システムや教育プログラムの開発を企業やNGOとも協力しながら進めていくことが求められよう。 |
(3) |
政府の役割の認識 |
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企業社会においてCSRを求めるムーブメントが弱かったから、これまでのところ省庁の動きも活発ではない。広範なCSR課題への取組みの支援には、省庁間の連絡が必須である。CSRは特定の省庁の課題ではなく、関係する省庁がヨコの連携をとり、産業政策の基礎に位置づけていく構えが必要であろう。CSR支援の制度的な整備をしていくにあたっては、経済界、NGOとの連携が重要となる。
一般に経済団体は、CSRへの取り組みについて自発性に基づくアプローチを強調する。しかしこれまで企業社会において十分配慮がなされてこなかった社会的マイノリティの処遇、人権、環境などの問題領域では深刻な課題も多く、欧米のNGOが求めるように、一定の規制的アプローチも必要である。こうした「自発的アプローチ対規制的アプローチ」の調整も今後検討していく必要がある。
政府はまた、CSRについて政策や税制などによって側面から支援していくことの可能性についても今後議論していくことが必要である。さらに中小企業の社会的責任について、啓蒙し支援していく方策を検討していくことも必要である。 |
(4) |
マルチ・ステイクホルダー・フォーラムの設置 |
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CSRは、政策的にはミクロのレベルとマクロのレベルの両方で考えていく必要がある。ミクロのレベルとは、個々の企業が社会的責任をどう取り込むか、というマネジメントの問題に関して、であり、マクロのレベルとは、産業政策としてどう位置づけ、どう支援体制を整えていくかという問題である。
マクロなCSR政策として、まず企業・経済団体と政府、NGOが共に考えていく体制づくりが必要である。日本におけるCSR政策、今後の産業政策を考えていくためにも、経済団体、政府(関係省庁)、環境・消費・社会問題にかかわるNGO、労働組合などの参加する「マルチ・ステイクホルダー・フォーラム」というような場を設定し、議論していくことが求められよう。 |
研究委員会名簿(敬称略,五十音順)
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氏 名 |
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所属・役職(平成15年7月現在) |
委員長 |
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谷本寛治
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一橋大学大学院商学研究科 教授 |
委 員 |
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逢見直人
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UIゼンセン同盟 政策局長 |
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金井 司
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住友信託銀行運用部 次長 |
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金谷千慧子
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女性と仕事研究所 代表理事 |
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星川安之
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財団法人共用品推進機構 事務局長 |
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河口真理子
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大和総研経営コンサルティング部 主任研究員 |
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鈴木 均 |
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日本電気株式会社コーポレートコミュニケーション部社会貢献部長 |
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出見世信之
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明治大学商学部 教授 |
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古瀬裕昭
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富士ゼロックス調査部 マネジャー |
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緑川芳樹
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グリーンコンシューマー研究会 代表 |
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森原秀樹
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反差別国際運動 事務局長 |
専門委員
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土肥将敦
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(財)地球産業文化研究所 客員研究員 |
講 師
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安生 徹
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経済同友会 常務理事 |
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稲岡稔
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イトーヨーカ堂 常務取締役 |
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串田剛朗
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富士ゼロックス商品開発本部 マネジャー |
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鈴木賢志
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ストックホルム商科大学欧州日本研究所 助教授 |
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高橋秀子
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イナックス新宿ショールームL21 アドバイザー |
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中村 豊
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富士ゼロックス商品開発本部開発戦略部 |
事務局 |
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木村耕太郎 |
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財団法人 地球産業文化研究所 専務理事 |
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本根正三郎
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財団法人 地球産業文化研究所 事務局長 |
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竹林忠夫 |
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財団法人 地球産業文化研究所 企画研究部長 |
報告書目次
第I部 本編
第1章 |
総論:CSRを考える(谷本委員長) |
参 考 |
CSR関連年表(事務局) |
第2章 |
CSRとステイクホルダー(出見世委員) |
第3章 |
労働とCSR(逢見委員) |
第4章 |
女性労働とCSR(金谷委員) |
第5章 |
人権と企業の社会的責任をめぐる諸課題(森原委員) |
第6章 |
消費者とCSR(緑川委員) |
第7章 |
人に優しい「アクセシブル・デザイン」とCSR(星川委員) |
第8章 |
SRIと企業評価(河口委員) |
第9章 |
CSRとコミュニティ(谷本委員長・土肥専門委員) |
第10章 |
機関投資家とCSR(金井委員) |
参 考
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千代田区におけるCSR調達(土肥専門委員) |
第11章 |
市場経済参入の新たな条件~CSR(鈴木委員) |
第12章 |
経済同友会によるCSRイニシアティブ(古瀬委員) |
第13章 |
日本経済団体連合会及びCBCCにおけるCSR推進への取組み(長谷川委員)
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第14章 |
日本におけるCSRの課題と今後の方向(谷本委員長) |
第II部 講演要旨編
第1章 |
企業の社会的責任(CSR)−激変する経済環境の中で−(稲岡講師) |
第2章
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サステナビリティとしての消費者へのアドバイザー業務(高橋講師) |
第3章 |
ユニバーサル・デザイン(アクセシビリティ)への取組み(中村講師・串田講師) |
第4章 |
経済同友会による企業の自己評価調査結果のあらまし(安生講師) |
第III部 欧州調査編
第1章 |
欧州機械工業等グローバル企業の社会的責任への取組み(鈴木賢志講師) |
第2章 |
欧州各機関のCSR取組み動向−マルチステイクホルダーフォーラムを中心に
(谷本委員長・事務局)
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