GHGプロトコルは、GHG(温室効果ガス:Greenhouse Gas)の排出量及び排出削減量を算定する世界標準のガイドラインとして策定が進められているものである。WRI(World
Research Institute)とWBCSD (World Business Council for Sustainable
Development)が主催し、世界の主要企業や、欧米を中心とした政府関係者、研究機関、有力NGOなど多様な関係者が策定に関わっている。 GHGプロトコルは二部構成となっており、このプロジェクトモジュールと、コーポレートモジュール(Corporate Standard)から成る。コーポレートモジュールは、企業など事業者の組織としての排出量の算定の基準である。既に完成し、今年4月には改訂版が公表された(弊所サイトにて仮訳を公開予定)。一方、プロジェクトモジュールは、排出削減のプロジェクトにおいてどれほど排出削減がなされたかを算定する基準である。今年12月の完成を目指し策定中であり、今回のRMTミーティングも今年1月に行われた意見聴取の結果などをもとに内容をつめていくものであった(昨年9月に出されたドラフトの修正)。 このプロジェクトモジュールは、上述のように排出削減プロジェクトでの排出削減量を算定するためのものである。この場合の排出削減量は同じ事業者の排出量の単純な経年比較で出すことはできない。プロジェクトがなかった場合の排出量の推移(ベースライン)と、プロジェクトが実施された場合の排出量の推移の比較で出す必要がある。従って、ベースラインはどのようなケース(シナリオ)がありうるのか、そしてその際の排出量の推移はどう予測されるのか、プロジェクトによってどのような排出源の、どれ程の排出量が置き換え(削減)られそうなのか、といったことをステップを踏んで適切に把握していくことが必要となる。 RMTミーティングは3日間で、毎日10人前後※の参加があった。事務局のJanet Ranganathan氏(WRI)が1日目と3日目の、Suzie Greenhalgh氏(WRI)が2日目のコーディネイトを行った。(会場:シェルセンター13F) ※参加者一覧は、末尾参照
(1)第1日目のポイント
(2)第2日目のポイント ベースラインの選定という今回のミーティングの山場であった。 ベースラインの選定の論点と検討事項について紹介する前に、その前提となっているこの基準のドラフトに示されているGHG削減量を定量化するステップについて簡単に紹介する。
このうちのSTEP.5 に関する議論である。 一次効果(排出削減量)を正確に求めるためには、プロジェクトと比較の対象となるベースラインは信頼性の高いものが選ばれなくてはならない。 ただ、ベースラインの選定プロセスをあまりに厳格に決めすぎて、プロジェクト開発者の選択の幅を狭めるようなものであってはならないとの意見が出された。 また、ベースライン候補の選定にあたっては、考えられる全候補を上げてから検討すべきとの意見もあったが、関係の薄いものや必要性のないものを除いて記載すればよいことと、service equivalenceの考え方※に沿って候補を選ぶべきことが確認された。
なお、ベースラインを選ぶ際には、標準的な手法を用いることでデータ収集や検証の費用を節約できる上にベースラインの選択の透明性や一貫性を高めることができるため、以下の3つの標準的な手法の利用がこの基準内で紹介されている。
①については、まずバリアテストをまず実施することになる。これは、候補となっているベースラインシナリオの通りとなるのが妨げられるようなバリアがあるかどうかを評価するものである。バリアテストは、ベースライン選定手続きというよりベースラインを正当化するものとして使われることである点についてメンバーの多くが同意した。つまり、ベリファイアーに対し、ある特定のベースラインシナリオを選んだ理由を説明する上で助けとなる枠組だというわけである。 投資ランキングテスト(investment ranking test)は、メンバーから不評で、テストのためのデータ集めが大変である上に、誤った分析を行う恐れがあるのではという指摘も出された。 ②のGHGパフォーマンス標準とは、ベースライン排出量の代用として利用するパフォーマンス標準を定めるものである。これを使うことで利用者(プロジェクト開発者)は、ベースライン排出量の算定に手間が省けるし、利用者間の統一もとれる。似たような環境(地理的位置、規模、技術など)にある複数のプロジェクトに適用可能な排出係数を設定するものである。 しかし、実運用面での課題もある。例えば、どの程度のデータがあれば十分かという点や、対象範囲をどのように決めるのか(特にエネルギー部門で、ある特定の燃料固有の基準(例.低排出の石炭か多排出の石炭か)を使うべきか、複数燃料の基準(例.石炭、ガス、再生エネルギーの混合)を使うべきかなどである。また、第二効果も、プロジェクトそれぞれの事情で異なるだけにこれをどう決めて入れ込むかは難しい点である。 とりあえず、パフォーマンス基準は、追加性の篩(ふるい)にかけるステップと、パフォーマンス基準の選定するという2つのステップで構成されるべきことが確認された。 ③の設備補修等に関するベースライン手続きについては、改修に先立つ施設・装置の寿命(end of life)までそのプロジェクトは追加的であるか、という点について議論がなされたが、実際問題として寿命を定義するのは難しい。定期点検やオーバーホールで寿命が延びる場合もある。施設・設備の寿命とは何かをきっちりと決めるルールを作るのは無理そうだという感じであった。 また、設備改修によってキャパシティが増えてしまう場合はどう扱うべきかについても議論された。これはservice equivalence の考え方(上記参照)に関するものであり、設備改修の前後にservice equivalenceがあるかどうかの問題であると思われる。 **** 他、ベースラインシナリオの寿命については、原則5年を提案している。しかし、シナリオ策定後の技術の浸透などを反映すべきであるとする指摘や、プロジェクト開発者が適切と思う長さでいいのではないか、といった意見があった。そこで、決めた期間の間はベースラインシナリオをそのまま維持すること(前提や法律が変わっただけのことでシナリオを変える必要はない)が提案されている。 (3)3日目のポイント GHG削減量の算定、GHGモニタリングプランの策定と、レポーティングが主なポイントであった。
********* 雑感 2005年1月からのEU排出権取引の開始への準備やCDMの方法論の積み上がりなど排出量や排出削減量算定のルール作りに関連する周辺状況の動きはめまぐるしい。また同様の基準策定の動きとしてISO14064の策定も急速に進められている。このような中、世界標準を目指すGHGプロトコル策定の動きも加速されている。 プロジェクトによる排出削減量の算定については、CDMがあまりにも複雑かつ厳格なルールにて運用されているだけに、プロジェクト投資意欲を持つ多くの関係者にとっては、まずわかりやすく、柔軟性があって使いやすいことを望んでいるのではないかと感じる。もし、GHGプロトコルがGHG算定の基準として世界の主導権を握るとすれば、それは、様々な事業形態の多様性を考慮し事業者がもっとも適切と思うアプローチを選択しうる柔軟性を備える場合ではないかと感じる。また、CDMとの関係(どこがCDMのプロセスに使えるのか、どの点が違うのか)がもっと具体的に示されれば(現在も別紙1に示されてはいるが)、CDM関係者にとっても大きな手助けとなるものと考える。 とにかく、多様なプロジェクト開発者に、GHG削減量算定の考え方とその具体的指針を明確に提示する意味で、この基準の意味は大変大きなものであり、なるべく多くの実例や知見を結集し、誰にでもわかりやすく、かつ柔軟で使いやすい形にまとめられることを祈念するものである。 【ご参考】(RMT参加メンバー一覧 / 氏名:参加母体) Mahua Acharya, WBCSD Tom Baumann, Natural Resources Canada Laurent Corbier, WBCSD Jeff Fiedler, NRDC Gloria Godinez, WBCSD Suzie Greenhalgh, WRI Yasushi Heida, TEPCO Jed Jones, KPMG Arthur Lee, ChevronTexaco Maurice Le Franc, US EPA Mike McMahon, BP Janet Ranganathan, WRI Jayant Sathaye, LBNL Kenichi Shinoda, GISPRI Tim Stileman, IPIECA (observer) 【今後の予定】
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(文責:地球環境対策部 篠田健一) |