地球環境
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COP8中間速報

2002年10月23日(水)〜28日(月),ニューデリー インド


2002年10月29日
□ COP8開幕

 気温が40度を超えるという厳しい季節を過ぎたといえどもまだ強い日差しの残るデリーで、気候変動枠組条約第8回会合(COP8)及び第17回補助機関会合(SB17)が開幕した。CNGを燃料とするタクシーやインドでおなじみの3輪のオートリクシャ、そしてライフルを持った兵士が取り囲む会場のビガン・バワーン国際会議場に、各国の交渉団やNGOなどが世界各国から続々と集まった。

 会合初日の23日(水)に開催されたCOP第1回全体会合では、COP7議長であったモロッコ環境大臣エルヤズギ氏が気候変動は現実に世界に影響を及ぼし始めていること、そしてCOP7決定(マラケシュ合意)によって京都議定書がまもなく発効を迎える状況であることを指摘した。気候変動枠組条約事務局長ハンター氏は、京都議定書がCOP7の決定を受けて「交渉」段階からの「実施」の局面に入っており、今回の会合で多くの技術的な問題を決定するために締約国に協力を呼びかけた。

  COP8議長には開催地インドの環境大臣バール氏が選出された。補助機関会合(SB17)は29日(火)までに結論を出すことを目標に、議題ごとのコンタクトグループ(小規模な交渉グループ)やSBSTA/SBI議長が中心となって非公式協議を開始した。

□ 気候変動枠組条約の約束についてのレビュー(条約4条2項(a)、(b))


 「先進国は率先して温室効果ガス(GHG)を削減する」という条約の約束の妥当性第2回審査をCOPの議題として取り上げるかどうかという本問題は、エルヤズギCOP7議長がCOP7以降非公式協議を重ねてきたにもかかわらず関係国の理解が得られず、バール議長がCOP8期間中に非公式協議を実施し、その結果を最終日の全体会合で報告することになった。

□ COP8「デリー宣言」

 9月に実施されたCOP8準備会合においてインド政府より提案された「デリー宣言」についてバール議長は、地球温暖化に対して脆弱である途上国の状況をまず考慮し、持続可能な発展のためにも気候変動に対する途上国の「適応(adaptation)」が再優先検討事項であることを第1回全体会合において強調した。これに対して中国を始め多くの途上国が賛同するコメントを述べた。先進国側は、「持続可能な開発」の実現に向けて積極的に協力するの意向を表明する一方で、米国は現時点で途上国に削減目標を課す議論をするのは現実的ではないという態度を明らかにした。
25日(金)の第2回全体会合で「デリー宣言」に対して各国が意見を述べた。概要は以下の通り。

EU
 デリー宣言は新しいモメンタム。京都議定書をまだ批准していない国々をプッシュする必要がある。
 
アンブレラ・グループ
 国際組織との協力・技術革新等「行動」につながる活動について明示すること。また、持続的な国家戦略と気候変動対策との関連を深めていく必要がある。

ナイジェリア
 シンプルで短く明快な宣言である必要がある。特に貧困問題、「北」の失敗についても触れるべき。第2約束期間について記載することば認めない。(クウェイト)

ベネズエラ
 「気候変動と持続可能な発展に関するデリー宣言(Delhi Declaration on Climate Change and Sustainable Development)」というタイトルにするべき。遠い将来のことではなく、京都議定書の発効など近い将来の問題について記載するべき。

日本
 全締約国が京都議定書に参加することが望ましい。京都議定書の発効ははじめの一歩である。

カナダ
 全締約国が同じ側に立つことが大切であり、南北間にある信用の欠如を解消しなければならない。京都議定書は非常に重要な始めの一歩であり、それが達成されないことには何の意味もない。また、2012年以降のことは2005年から議論を始めることになっているが、非常に時間がかかる議題であるため、なるべく早くから開始することが望ましい。途上国は先進国にまずやれというが、現時点においてば排出量は増えているが第1約束期間には達成するつもりで先進国は目標を背負って対策を行っている。別に約束違反をしているわけではない。実際途上国の排出量も増加している。それについて何も対策を講じたくないとはどういうことか?

USA・サウジ・イラン・チュニジア・オマーン等
 途上国にも削減目標を負えというが、現時点では先進国は減らすどころか増やしている。まず先進国がリーダーシップをとって削減目標を達成するべき。

中国
 以下3点について改善するべき。
資金メカニズム、キャパビル、技術移転などの分野においては進展が多少あるものの達成には程遠い。
気候変動問題と戦う最初の措置である京都議定書の早期発効がなされなければその先のことは何も達成できない。
気候変動は人間の活動によって起こってしまったが、これは技術や社会が発展することでのみ乗り越えることが出来る。よって持続可能な発展は中核となる非常に重要な要素である。

スリナム
 途上国のニーズについて記載して欲しい。また宣言はaction-orientedである必要がある。

 その後、「デリー宣言」の内容に関しては非公開で協議が実施され、28日(月)になってCOP8バール議長による非公式提案文書が公表された。その内容はヨハネスブルサミットの決定事項に準じたもので、「共通かつ差異ある責任」の原則そして「持続可能な開発」が強調される内容になっている。開発途上国の気候変動における脆弱性を考慮して、まず先進国(附属書汳約国)が率先して温室効果ガス排出削減に取り組むこと、そして具体的な資金援助、技術移転及びキャパシティビルデング等に取り組むことを求めている。先進国側が求めていた途上国の将来の削減義務に関する文言や、京都議定書未批准国の早期批准要請あるいは早期発効を求める文言は含まれていない。地元紙によると、EUはこの草案に対して、京都議定書についての言及がないこと、気候変動の「緩和」よりも「適応」に偏りすぎていると点を批判するコメントを出している。これに対して、バール議長は「草案に過ぎない」との見解を示している。

  本提案文書に基づき、事務レベルの折衝さらに30日(水)午後からの閣僚級のラウンドテーブルにおいて最終的な「デリー宣言」の内容が協議されることになる。提案文書の概要は以下の通り。
(a) 締約国は「持続可能な開発」を促進する権利があるとともに、促進すべきである。気候変動に対処するためには経済的発展の重要性を考慮しつつ、人為的変動に対して気候システムを保護する政策及び措置は各締約国の特殊事情に対処すべきであり、国内開発計画と統合したものであるべきである。
(b) すべての締約国は「共通かつ差異ある責任」の原則のもとで、持続可能な開発の実現に向けて気候変動とその悪影響に対処するための約束を実施しなければならない(shall)。
(c) 気候変動の悪影響に対する「適応」が途上国にとって再優先課題であり、国際社会はこれに注目し行動することを求める。
(d) 革新的技術の開発と頒布における国際強調の促進;公的政策、民間部門、市場指向型のアプローチによるエネルギー、投資
(e) 具体的な事業に基づく技術移転、及び関連するすべての部門(エネルギー、運輸、産業、農業、林業、廃棄物管理)におけるキャパシティビルデング、そして技術進歩R&D、経済規模の拡大、持続可能な発展のための機関の強化を通じた技術進歩の促進を強調。
(f) 適切なエネルギーサービス及び資源に対するアクセスの向上。
(g) 附属書汳約国は、資金源、技術移転、気候変動の緩和のための政策及び措置を採用し条約の目的のために人為的GHG排出量のトレンドを変える先駆けとなることを証明等の条約の約束を実施するべきである(should)。

□ CDM理事会報告

  COP8の総会ではCDM理事会の報告が行われ、各締約国からは特に理事会の規約について異議が唱えられた。サウジアラビアは「コンセンサス」の捉え方について修正点を2つ挙げ修正が認められた。また、アメリカは理事会会合の出席(attendance)及び情報開示の不十分さについて規約の修正を求めた。(最終版はこれから発表される予定。現時点で一番新しいバージョンはFCCC/CP/2002/3/Add.1。)その他、ベースライン及びモニタリングの方法論について更に詳細なガイダンスの必要性(EU)、非附属書I国のキャパシティビルデング及びApplicant operational entitiesへのインセンティブの必要性(スリランカ・アルゼンチン・コロンビア・インド等)等が述べられた。また、ロシアからはJIトラック2について小規模CDMプロジェクトのように簡易化された様式及び手続きを作成するよう正式文書に明記することを求めた。これら意見をもとにCOP8期間中に更にコンサルテーションを行い、議論を深めていくこととなった。その他、CDM理事会メンバーによるQ&Aセッションが設けられ、傍聴者が理事会メンバーに直接意見を述べられる機会が設けられた。内容としてはCDM理事会会合の透明性の問題、ベースライン作成及びリーケージの計算方法のためのユーザーガイドラインの必要性、地域的な専門家知識を持っているATの必要性等COP8総会でも既に指摘されているような質問・意見が主であった。

□ カナダ提案

 天然ガスや水力などのGHG排出量が少ないエネルギーの輸出分をクレジットとして換算し、京都議定書目標達成に使用できるようにするという「カナダ提案」が、第1回全体会合において取り上げられた。提案国のカナダは本提案で得られるクレジットがカナダにとって大変重要であると主張したのに対して、G77-China、EU、サウジアラビアから反対の声が上がったため、本議題はCOP本会議の議題としては保留とされ、同様に議題にあがっていたSBSTA17において非公式協議が実施されることになった。

 25日に開催されたSBSTA17第5回会合で本問題が取り上げられた。カナダは、本問題について専門家で協議を実施し、SBSTA21(2004年/COP10と同時開催予定)までに報告書を作成することをCOP8で決定することを求めたのに対して、EU、サウジアラビア、スイス、G77+China、オマーンなどが、この提案はカナダ一国の利益に過ぎない、あるいは京都議定書との整合性の問題という観点から反対を表明した。一方、ロシア、スロベニア、ニュージーランド、ポーランドなどは本問題について興味を示し、分析を進めることに賛成した。29日のSBSTA全体会合までに議長が決議案を準備することになった。

(文責;高橋 浩之、蛭田 伊吹)

以上