チャイナ・カウンシル
「エネルギーの戦略と技術作業グループ」活動状況
(財)世界エネルギー会議東京大会組織委員会
専務理事・事務局長 横堀恵一
チャイナ・カウンシルについては、既に前号で横山前資源環境技術総合研究所長が書かれているので、省略するが、小生は、昨年(1993年)からその「エネルギーの戦略と技術作業グループ」に参加している。同作業グループは、これまでに4回会合しているので、本号においては、その活動状況について報告することとしたい。
作業グループの目的は、環境と調和した経済発展のあり方について中国政府に報告するというチャイナ・カウンシルの活動の中で、特に、環境と調和した経済発展を支えるエネルギーの生産、利用のあり方について長期的方策と技術問題の点で調査、報告することにある。
他の作業グループと同様、メンバーは、中国側と外国側双方から構成され、共同議長制をとっている。中国側メンバーとしては、共同議長を務めるのが楊紀珂教授である。楊教授は、科学者で、国会にあたる全国人民大会の環境保護委員会の副主任(副委員長)であり、元安徽省省長(知事)である。他のメンバーは、元能源部(エネルギー省)国際合作(協力)司司長であり、中国電力技術貿易公司の総経理(総裁)である謝紹雄氏、国家計画委員会所属の能源研究所所長の周鳳起氏、中国石油学会常務理事である泰同洛氏、中国核工業総公司科学技術委員会常任委員の左胡氏、北京天則経済研究所所長の茅于軾氏等である。外国人側は、共同議長が、スウェーデンのルント大学のトーマス・ヨハンソン教授で、再生利用エネルギーの専門家である。他の委員は、国際エネルギー・イニシャティヴという民間国際研究機関を主宰しているインドのアムリヤ・レディ教授、アメリカのプリンストン大学の研究者で再生利用エネルギーの専門家であるボブ・ウイリアム博士、イタリアのエネルギー・環境機構ともいうべきENEAの研究者であるウゴ・ファリネリ博士、シェルの石油・天然ガス専門家であるティム・ブレナンド博士で、さらに小生が加わっている。
作業グループの事務局は、中国の国家環境保護局に置かれている。
これまでの活動状況
作業グループの第1回会合は、1993年4月北京西郊部の香山飯店で開かれて以降、同年10月東京、1994年2月深せん、5月安徽省合肥と4回開催され、この間本年1月には、統合資源計画(IRP)のワークショップを北京で開いている。小生は、第3回会合及びワークショップには、都合により出席できなかった。
作業グループとして、これ等の会合で検討している主な項目は、以下の通
りである。
(1)中国の重化学工業における効率的エネルギー利用
中国のエネルギー消費の内、産業部門、特に重化学工業分野の消費の比率が極めて高い(1990年の全消費量
の55%)ので、現在、鉄鋼業を中心に検討が進められている。この場合、現在の老朽、過小規模の設備の効率化のほかに、将来の生産規模の拡大に伴い、一挙に最新技術発展の効果
を応用するという、技術の「飛躍」(leap-frogging)の可能性の議論が行われている。
(2)中国における省エネルギーの推進策
中国におけるエネルギー利用は、一人当りの水準では、先進国より低いが、経済規模との対比では、先進国と比してかなり高く、合理化による節約の余地があると考えられる。このために、省エネルギー推進のための方策を検討しているが、対策としては、資金面
の優遇策のほか、教育、啓蒙、訓練にも渉るので、「科学、技術、訓練作業グループ」との関連も考えて進めている。
(3)再生利用エネルギーの利用
広大な中国では、水力の他、太陽、風力等の再生利用エネルギーを利用できる条件の土地もある。このような自然の再生利用エネルギーの活用は、分散型エネルギー供給源として地方の経済発展を支える自前のエネルギー源として重要である。又、水力については、三渓プロジェクトの如く、大型電源として開発中のものもある。
他方、都市化が進んでいる中国でも、人口の大半は、なお、農村部に居住しており、農村振興の目的も兼ねたエネルギー開発として生物ガスの利用が重視されている。農村部における住民、家畜の排泄物処理で発生したメタンガスを厨房、発電に用いるとともに、残滓等を肥料や飼料として、下水処理、エネルギー供給、食糧等農作物増産等を合わせ達成しようというものである。
又、再生利用エネルギーではないが、燃料電池の利用も検討されており、例えば都市バスへの利用が考えられている。
(4)石炭の利用の改善
中国は、大産炭国であり、国内のエネルギー消費の内7割を石炭が占め、中国の石炭エネルギーへの依存度は、将来も高い水準で推移することが予想される。しかし、中国の石炭の燃焼効率は低く、環境汚染も生じている。更に、産炭地と消費地が離れ、鉄道輸送等への負担も大きい。このため、石炭の効率的な燃焼や「きれいな」利用の技術の開発普及が重視されている。作業グループは、そのための方策を検討している。
(5)石油、天然ガスの利用
石炭利用に代わる燃料として、石油、天然ガスの利用が考えられるが、環境や供給安定性の観点から天然ガスが望ましいと考えられる。天然ガスの開発は、中国国内、例えば海南島沖合の他、近隣諸国からの輸入も考えられる。
(6)エネルギー対策評価手法
各種のエネルギー対策の評価に当っての手法については、環境費用も含めた評価をどうするかが議論されている。このため、米国の電力料金に対し、規制当局が行っている「統合資源計画」とよばれる価格算定方程式に関するワークショップが1月に行われ、そのフォローアップが行われている。
(7)その他
現在、中国における原子力発電の今後については、競合する化石燃料価格の安さ、原子力発電の資本集約性、外国人委員の多くが再生エネルギー専門家であること等から消極的な意見がある一方、石炭の供給隘路による制約から原子力の可能性を考える意見もある。
今後の課題として、輸送に関するエネルギー需要がモータリゼーションの進展に伴い爆発的に増える可能性とそれへの対応を検討することとなっている。
作業グループの会合に際しては、単なる検討のための議論だけではなく、関連施設の見学、視察も行われる。例えば、昨年10月の東京での会合に際しては、省エネルギー型鉄鋼業として日本鋼管扇島工場を、環境適合型(脱硫装置付)石炭火力発電所として電源開発磯子火力発電所をそれぞれ見学した。又、先の合肥市での会合では、近郊農村でバイオガス利用状況を視察した。
感想と結論
中国は広大かつ人口が多く、地方の事情も異なる。従って、何回中国に行っても、「群盲象を撫でる」の感を免れない。他の先進国や日本の経験を紹介できても、応用については、中国各地の実情に合わせた工夫が必要であろう。
中国の環境問題への関心については、北京の政府関係者の間では大きくなっており、エネルギー政策関係者の認識もこの数年で随分変わったように思われる。しかし、広大な中国の中で、一朝一夕に全国的な規模で変化を期待することも非現実的である。
楊教授をはじめ、作業グループに参加されている中国人の方々は、率直に話される。私も率直に、日本での経験をお話するように努めている。
環境問題については、エネルギー節約、効率化等も絡めて、効利的な面
を強調することが理解を得やすい。はじめから経済発展と対立的に捉えたアプローチには、心理的抵抗もある。生物ガスの利用等のように中国自らのイニシアチブで行って、取り組みも注目すべきである。
毎朝の通
勤の自転車の波を見ると、中国の持つエネルギーを感じる。他方、合肥市の白公の廟に参り、その手入れの行き届いた様子を見て、郷土の産んだ偉人への尊敬の念も、又、長い歴史の中に生き残っている、と感じた。中国が市場経済にむかって急速に動き、価格の自由化、補助金廃止の中で環境費用の内部化も併せて進めることは、言うは易く行うは難い大きな挑戦と思われる。我々としても学ぶべきことは多いと思う。
最後に、専門的分野についての助言を仰いだり、前述の工場見学については、多くの方々を煩わしており、この機会を借りて御礼を申し上げたい。