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ニュースレター
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1996年4月号 |
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「気候変動に関する適応・緩和技術国際会議」開催題記会議を、通商産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、IPCC第2作業部会サブグループAとの共催で下記により実施した。本会議は、最終プログラム決定の遅れからショート・ノーティスとなったが(会員企業:2週間前、NGO:前週)、国内外から約100名の参加を得た。
(1) イントロダクトリー・ミーティング(2月6日(火)10:00〜12:00) 海外からの参加者の会議の目的ならびにプログラムを紹介し、会議のテーマについて共通
認識を形成するとともに、会議のすすめ方について意見交換を行った。 (2) 国際シンポジウム(2月6日(火)13:30〜17:00) IPCCでは、1992年11月から第二次評価報告書の作成にとりくんでいたが、昨年10・11月の作業部会総会ならびに12月のIPCC総会において各作業部会報告書ならびに総合報告が審議され、採択・承認された。 本シンポジウムは、この第二次評価報告書のうち、「気候変動に関する適応・緩和技術」ならびに「環境経済政策」に焦点をあて、報告書作成に参加された諸氏を講師に招き、国内の産・官・学・NGOならびにアジア各国の政策立案担当者に内容を紹介することを目的として開催された。 〔プログラム〕
(3) 国際会議(2月7日(水)9:30〜17:00) 共同実施活動(Activity Implemented Jointly)ならびに環境技術協力をテーマにラウンド・テーブル方式で会議を行った。会議では、まず午前中に、ヨーロッパならびに日本の共同実施活動および環境技術協力への取り組みを紹介し、午後に、途上国の取り組みとニーズについて発表を受けた後にフリー・ディスカッション・スタイルにより今後の国際協力のあり方などについて意見交換を行った。 共同実施活動日本プログラム(AIJ-Japan)の概要については、本年2月号で紹介したとおりである。今回、第1次プロジェクトの公募に先立って基本的考え方を広く国内・外に紹介することにより、共同実施活動に対する日本政府の積極的姿勢を表明するとともに、活動に対する理解を深めてもらうことを主眼とした会議内容となった。 〔プログラム〕議長:午前;津坂秩也(地球産業文化研究所地球環境対策部課長)
共同実施活動に関しては、国内・外の情報交換の場として、関係省庁を挙げて「共同実施活動フォーラム」を設立する予定となっているが、当研究所もこれまでの共同実施活動に関する知見の収集の成果 を活かし、共同事務局の一員として参加する予定である。 IPCCに関しては、当研究所ニユースレターで過去何回か紹介しており、今回はIPCC第2作業部会事務局長、リチャード・モス氏の講演内容を紹介する。また今回の会議に出席された日本の執筆者の講演内容については、以下の地球研ニュースレターを参照して頂きたい。黒田商学部長(H7/2巻頭言、H8/2 AIJジャパンプログラム)、石谷教授(H8/1第23回地球環境問題懇談会から)、柏木教授(H7/5巻頭言、H7/1 GLENTEX94セミナー講演)。 −IPCC第2作業部会第二次評価報告書の概要− IPCC報告書の目的は、気候変動枠組み条約の第二条にある通 り、大きく三つのことがあります。第一は、生態系が適応できる範囲に温室効果 ガスの増加を止めること。第二に、それにより食糧生産が驚異にさらされないこと。第三に、その中で経済的発展が可能となる道を探すことです。このため、IPCCには三つのワーキンググループがあります。WG1は「気候変動の科学的知見」、WG2は「温暖化の影響と対応策」、WG3は「温暖化の社会経済的側面 の評価」であり、WG3はIPCCにおいては新規分野です。そこでは、社会的なコスト、気候変動におけるコスト、国際的、世代間の平等性等を見ています。従って、今回の第二次評価報告書はこの三つのパートから構成され、そうすることによって、この科学的なコミュニティから政府に、どのようにしてこの目的を実施していけばいいかをインプットするという流れを取っています。 しかし、政府がこの条約を実施に移そうとする時、非常な困難さが伴うと思います。それは、科学的・技術的不確定要因が常に存在するからです。すなわち、生態系が再度回復できるかどうか分からないこと、回復にどれ程の時間を要するか不確定であること、排出と影響の間にかなりタイムラグがあるということです。また、一つの政府、政府の一部だけではグローバルな問題に対処することはできませんし、影響については地域的に差があるということを認識する必要があります。 この三つの報告書をまとめている報告書があります。以下の三つの問題に対処しているものです。実施に際しての、最適な安定レベル、そして最適な排出経路について、最後に技術と政策の選択という順番になっています。今回は、特に三番目の点に焦点を合わして話したいと思います。この報告書で強調しておきたい事は、百年後におけるグローバルな気候変動の回答を得るのではなく、情報が豊かになればその政策も豊かなものになるのではないか、という事を申し上げたいのです。 それでは第1作業部会の報告書から見ていきたいと思います。第一は、今までの事実のバランスからいって、気候において人工的影響が認識できるということです。今までの所で検出できた点、それから、これからの変動における予測を述べたいと思います。色々な不確定要因はありますが、大体2100年頃までに1度〜3.5度の温度上昇が見込まれています。これは従来のレポートに較べて低すぎるという意見が出ましたが、今回分かったこととして、大気中の硫酸エアロゾルは温度を下げる効果 がありという事です。エアロゾルが温室効果とは逆の働きをするのです。また、大気中のCO2の寿命が平均百年なのに対して、エアロゾルはその4分の1から1週間ぐらいの寿命です。但し、ここでいう不確定要因は、温室効果 ガスの排出量の違いにあります。これは、人口増加、技術の変化、経済成長の度合いによって変わってきます。また、社会経済的要因、今後の温室効果 ガスの上昇も考慮する必要があります。この様な不確定要因が1度〜3.5度の上昇の中に含まれています。 ここでまず三つの用語について説明します。それは「感応性」と「適応可能性」と「脆弱性」です。感応性は、そのシステムがある気候系からのインプットが変わることによって、どのくらい変わるかということです。社会経済的な、基礎的な研究から始めるわけです。ただ、気候変動のインパクトを考える時、社会は常に同じではありません。影響に対して各国も色々な施策を展開してゆくため、現在と同じではないのです。そのため、適応の可能性を考えてみました。ある特定の国で制度の脆弱さがどのぐらいなのか、特に気象が変動したときにどの位 変化がみられるのか、そして最後に重要なのが、その気候変動がどのくらい早く来るのか予測することです。しかし、地域ごとの影響の定量 的な予測については、現状のレベルで不確定であり今後の検討を待たなければなりません。 第2作業部会報告書における幾つかのハイライトを紹介したいと思います。まず森林ですが、草木が変化すると思います。森林のタイプが変わり、牧草地も変わると思います。世界の3分の1の森林が変わるでしょう。これは、降雨量 や温度の変化に森林がついていけないということです。世界の氷雪圏においては、山脈にある氷河の3分の1から2分の1がなくなるでしょう。また、砂漠を管理することが難しくなります。人口変動、かつ人的管理が悪かったため、乾燥地の条件がさらに悪くなるということです。沿岸の脆弱性も指摘されました。日本でも考えられますが、洪水の危険に晒される確率が2倍になるということです。そして、水位 が上昇することによって土地の損失が予想されており、ほとんどの小島か姿を消してしまうでしょう。高潮などにより、沿岸インフラ、不動産関係の保険業界も大きな打撃を受けます。これらの地域は経済的にも重要な地域で、経済活動への影響も大きいでしょう。農業については、グローバルな食料の量 は気候変動があっても維持できる見通しにあります。しかし、世界各地域が平均的にそうかというと否です。現在の世界を見れば、既に食料危機に瀕している地域が数多くあります。ここでは、CO2の上昇は農業生産にプラスとそのメリットを加味していますが、農作物の疫病の変化、気象の変動性などは含まれていません。水系の脆弱性ですが、様々な分野で気候変動の影響とそれに対応する不十分なインフラのために水系の脆弱性が露呈されています。最後に人間の脆弱性ですが、人間も直接的な影響を受けます。例えば、熱波による影響、感染症の発生地域の拡大などが挙げられます。こうして見てくると、今後、気候変動に対して人々が適応していけるシステムを導入することが必要ですが、既にストレスに晒されている地域でどう対応していくのかは、至近の非常に大きな問題です。 次に、緩和策についてですが、この部分は柏木先生から詳細な説明がありますから、共通 の見解として出てきたものを紹介したいと思います。まず、温室効果ガスを大量 に削減することは技術的にも経済的にもフィージブルであるということです。来世紀には既存のエネルギーインフラを何回か完全に入れ換えることになります。更新に際して新しい技術を導入する。これは資本の更なる投下、あるいは無駄 なく行うことが可能であるということです。さらに、エネルギー供給と需要の管理を効率的に行うことにより、この機会を大きくしていくこともできます。また、技術の開発、拡散、移転を加速化するということで、異なる政策的な方法も色々出てきていますが、排出削減を行うということであれば、さらに多くのアプリケーションを考えなければなりません。エネルギー効率の向上も、現在の技術でも10%〜30%の効率アップが多くの国で可能です。 運輸部門の緩和策について若干触れたいと思います。運輸のセクターは急成長しています。アジアは特に著しいものがあります。しかし、エンジンの効率を高めたり、軽量 化したりすることで、増加するエネルギーを3分1に減らすことも可能です。またこれは、マイカーではなく公共の車ほ優先して使う、排出システムをかえていくということで可能になってくるわけです。ここでは色々なオプションが提示されていますが、最も重要なことは、皆様がた全員が運輸部門における緩和策の対象者であり、重大な責任があるということです。 商業ビル、あるいは住居などについての緩和策ですが、この部門のエネルギー使用については、何も対応策を取らない場合に較べて、エネルギー使用増を2025年までに4分の1に減らすことが可能です。例えば、熱伝導を向上させるとか、最高電気供給システム、あるいは空調の効率化をはかることによって、こうした目標が可能となります。大気の温度を都市部でも下げるために植物を増やしたり、建物表面 の反射率を向上させる方策も可能です。あるいはエネルギー源を変更するといった政策を取ることによって、温室効果 ガスの排出を削減するということです。 最後に、従来の報告書では無く今回つけ加えられた二つ章についてお話しします。様々なオプションがあるということ、それが政府の場合、提示されることになります。しかしそこでは、今現在手に入るものは何なのか、自分の国にとって一番いいものはどれかを考えてみなければなりません。これらの章はその質問に対して答えていくという役割を持っています。色々な問題点がありますが、それを幾つかのブロックに分けていきます。例えば、国の目的、オプションは何か、各国が置かれている状況により変わってきます。あるいは気候変動や環境問題を一緒に考えながら、その国でどの程度の緩和策が可能であるのか、あるいは制度上どのような問題があるかということを考えていきます。また、国境を超える場合、その問題点が各国間の間にもあると思います。また、その際の資金的問題も考えられています。ここでは分析的なツールを提供して、例えば、目録としてどういうものが既存の技術として可能なのか、そしてモデルがあって、その国の状況に対してはどういったものが適応可能であるのか、といったふうに書かれています。その中にデニス・ターパックさんと協力者によって書かれた章ですが、技術レポートというものがあります。ここではより具体的に、どの国でどのような事が適応可能かといったケース・スタディまで載せられています。この中には105の技術的オプションが書かれています。エンドユースの技術として、例えば、化石燃料で更新可能なもの、核エネルギー、エネルギー転換、その他色々なものが出できます。インターネットでも、今これが掲載されていますのでご覧になってください。ぜひ、今回の報告書を詳しくご覧になって、ご活用願いたいと思います。 −おことわり− 本文は当研究所が速記録からまとめたものであり、講演者本人の確認を取ったものではありません。 |
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