<21世紀に向けてのアジアにおける「社会開発」>
研究委員会
−「社会参加」の史的分析の視角を踏まえて−
当研究所では、平成6年度に「21世紀のアジア地域における開発問題」研究委員会を設立し、約半年間専門家による一連の勉強会をもった。上記委員会は安田野村総研理事を座長に、政治、経済、社会学等幅広い分野から更には、学会のみならず現場で活動しているNGOsの人々16名を委員として、テーマを経済発展を含む社会開発に改変していわば第2弾としてスタートしたものである。
社会開発に関する議論は、昨年のコペンハーゲンでの国連社会開発サミットでの問題提起を受けて、活発化してきている。しかし、そのコンセプトは正確に理解されているとは言い難く、多くの議論は未だ観念論あるいは抽象論の域を出ないか、逆に具体的ではあっても問題相互間の有機的連関への理解を踏まえていない感がある。“問題の全体像を踏まえた上での貧困問題克服への具体的シナリオづくり”が求められているゆえんである。ついては、この問題に対して、一部の当事者グループの参加にとどまる「専門分野別
タテ割り的アプローチ」ではなく、従来型の経済発展のパターンにとって替わるべき開発のパターンとしての「社会開発的アプローチ」を、「全員参加型の社会開発のコンセプト」として具体的ケース・スタディ*に基づいて模索する必要があるように思われる。各地域で噴出する火種を抱え、かつ「貧困軽減」の課題がいよいよ重くなってきている冷戦後の今日の世界において、その必要性は一層高まっている。この意味で、“市場経済化”という現実を踏まえた上で、社会開発という“極めて規範的な”アプローチを試みてみることにする。
この委員会では、次のような視点からアジア地域での社会開発問題を考え自由な討議を進める。
まず一つの軸としては、(1)自然的、歴史的、文化的な地域諸特性に裏打ちされた「コミュニティ・ディヴェロップメント」ならびに(2)公的部門での意思決定プロセスへの「NGOsの社会参加」等を共通
のキィ・ワードとし、またもう一つの軸としては、(欧米との対比及び)アジア地域の中での相互比較を通
して、それぞれの地域における望ましい社会開発のあり方を具体的に模索する。
以上のような検討を踏まえて当委員会としては、その最終目標としてこの地域への日本の協力の方向性に関する実践的提言を試みることにしている。
<委員会運営のスケジュール>
第一回(2/19、月)*「Social
Development…概念と4つの研究視角…」
…当委員会の問題意識との絡みで…
島崎 委員
第二回(3/13、水)
*「市場経済とその社会的条件…M.Weberの視点から…」
…望ましい発展の為の前提条件…
梅津 講師
*「開発と自立の経済学」
近藤 委員
第三回(3/21 、木)
*「社会開発」のコンセプト…開発論の新動向として検討する…
矢野 委員
*「社会開発、環境保全、NGOの関係を考える」
高橋 委員
第四回(4/26、金)
*「経済発展と社会発展」…社会的市場経済との絡みで…
井上 委員
*「文化を開発(計画)にいかに取り込むか:…国連システムの試み」
内田 委員
第五回(5/10、金)
*「企業のフィランソロビィ<社会的貢献>」
鵜澤 委員
*「共生の思想を中心に」…市場経済との絡み…
藤田 委員
第六回(5/31、金)
*「タイの開発僧を巡る問題」
安田 委員
*「人間開発指標」を中心として…貧困の定義の再検討の必要性…
…Human Development & Social Development…
大久保委員
第七回・八回 (予定)
・中国(山本委員、石田講師)
・タイ・ラオス(磯田委員、谷山委員)
・フィリピン、インドネシア(宗田委員)
・バングラデシュ・インド(大久保委員、大橋講師、シャブラニール)
上のケース・スタディの結果報告
第九回・十回 (予定)
まとめ
注:*:<国別ケース・スタディについてのガイドライン>
当該国のコミュニティのレベルにまでおりて経済発展のインパクトを検証し、展望するのが狙いである。検討に際しては、以下のとおり留意する。
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社会活動の成果
、或いは過去2年間くらいの最近の研究・調査の成果であること。
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コミュニティ・レヴェルの実態、都市であれば街区対象の研究or活動を対象とした報告書であること。
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社会関係・伝統・文化・自然条件などの地域の特性を質的(単なるGNP統計ではなく)に検討しているものであること。
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所得格差地域格差の拡大・縮小という論点を取り入れて、「発展」の選択肢を考えているものであること。