ニュースレター
メニューに戻る


1997年4月号

「GIIの行方と各国の対応」研究委員会から
討議のポイント


 昨年1月に発足にした「GIIの行方と各国の対応」研究委員会は、本年2月をもって合計16回の会合を終了し、とりまとめの段階に入った。以下は委員会の議論のポイントを要約したもので、文責は事務局にある。

「GIIの理念とその背景」 浜野委員

 情報スーパーハイウェイの理論的な構築が、アメリカにおいてなされるに至ったのは1980年代であった。84年、レーガン大統領が圧倒的多数で共和党政権を樹立したことにショックを受けた民主党の若手が、理論構築をしなければならないということで、様々な研究者を中核として勉強会を開始した。アメリカの産業構造を変革しなければならないが、共和党の主張するように完全に民間主導型でやるのは良くないとゴアは考え、逆に、ある種の政府の役割が必要であるという理論構築をする課程で、彼は情報に特化していったのである。

「情報通信技術における日・米・欧の比較」 藤田委員

 現在使用されているコンピュータの非常に重要な技術は、アメリカ政府が最初にリスキーな問題として取り上げ、大学などを通 して技術開発してきたものが主である。それゆえアメリカは圧倒的なチャンピオンで、GIIは日本やヨーロッパにとっては危機かもしれない。なぜなら日本やヨーロッパは、GIIから得られる良さを探しているが、単にアメリカの技術のユーザーになってしまうかもしれないからである。一方、ソフトウェア市場を考えると、アメリカ一国がキーとなる技術を持っていたとしても、様々なアイディアがソフトウェアにはあるので、アメリカだけの世界ではない。したがってGIIで皆が欲しい時に欲しい情報が得られるような環境下で、各国が独自性を出すことが出来れば、アメリカの一人勝ちとはならない可能性もある。日本はそこに活路を見出すべきかもしれない。

「次世代情報スーパーハイウェイの基本アーキテクチャ」 土井講師

 将来の情報スーパーハイウェイにおいては、現在約6,000万台といわれているネットワークに接続されているコンピュータが、数十億台となる。数の違いによってアーキテクチャは全く発想が違ってくる。そして、その時のコンピュータの性能は一体どれくらいであろうか。いま大体10年で1,000倍性能が上がると言われているので、現在よりはるかに性能が高いマシンが、十数億台とネットワークにつながっている状態を想定しなければならない。また、ネットワークとコンピュータは一体で考えなければならない。しかもその一体なものが、生体的な挙動をするように考えていかないと、十数億台という数に増えたときには、様々な問題を生じるであろう。

「インターネットのこれからの方向」 村井講師

 インターネットが急速に変化するのには、二つの要素がある。一つは技術が進歩すること、もう一つは人間のためにこのテクノロジーが使われるようになった、すなわち人間が学習し賢くなり、このテクノロジーに対する要求が進化したということである。インターネットにおいて重要なのは、開発者の開発速度、利用者の学習速度さらに仕事においてをこれを利用していく速度、そして毎日動かして変化に対応することである。さらにインターネットの標準化において大切なのは、ラフコンセンサスとランニングコードである。フルコンセンサスを得ることは困難なので、ラフコンセンサスが得られていれば、一番大切なのはランニングコード、すなわち役に立っているテクノロジーだということである。

「無線通信の今後の可能性」 小野寺講師

 無線通信が今後期待される分野は、無線通 信でしか出来ないサービス、具体的には移動体通信である。移動体通信のサービスエリアは広がっているが、過疎地等対象外のエリアも多い。対象外エリアをカバーしていくためには、衛星の利用が必要となる。船舶から航空機、自動車そして個人へと対象を広げてきた移動体通 信は、今後もサービス対象は個人が中心であろう。「いつでも、どこでも、誰とでも」という言葉の「どこでも」をクリアーするため衛星システムが用いられる。ただ「どこでも」を完全にクリアーするためには、世界共通 方式が期待されるが、産業政策に絡んで現状では困難である。なぜなら、世界共通 方式が出来ると、その方式を発明した企業・国家が非常に優位な条件を得ることとなるので、これに対する抵抗が多いのが実状だからである。

「通信の自由化先進国 イギリスの現状」 小尾講師

 イギリスの通信の問題として、ブリティッシュ・テレコム(BT)の分割か否かの議論があるが、分割されない理由として次の6つが挙げられる。(1)イギリスの場合、競争政策と分割は別 のものである。(2)BTの規模は、アメリカの地域電話会社程度なので、規模の大きさを問題視されていない。(3)国際株主を含めた多数のBTの株主は分割に賛成しないと予想される。(4)既にCATV電話事業者が市場参入しており、市内通 話も7社による競争状態にある。(5)BTクラスのナショナル・フラッグ・キャリアが存在しないと、国際競争上問題がある。すなわち98年のEUの通 信自由化に対してBTが国際戦略を持つことが好ましい。(6)世界的には2%のシェアの国内のマーケットを自由化し、98%のマーケットで自由に活動する基盤を創るのがイギリスのGII構想であり、そのためにはBTの分割など出来ない。

「ヨーロッパの電気通信事情」 清家委員

 ヨーロッパの電気事業者は、世界のメガキャリアの上位 に位置し、また主管庁中心の体制は、ヨーロッパで発展してきたシステムである。ドイツ・テレコム(DT)は民営化したが、移動通 信と新規分野を除いては独占体制が存続している。そしてDTはフランス・テレコム、アメリカのスプリントとともにグローバルワンを結成し、国際共同事業を展開している。イタリアについては、民営化されたのは非常に古いが、テレコム・イタリアを設立し旧来の特異な運営形態から他国並の形態となった。他の諸国についても、従来の主管庁中心体制から脱却し民営化の方向をとっている。ヨーロッパ各国は今後、EUの通 信自由化指令に沿って電気通信事業を自由化するとともに、WTOの動きにも対応して外資をも受け入れる方向に進んでいくと思われる。

「北欧諸国の高度情報化」 アダム委員、木村専門委員

 北欧諸国は情報通信基盤整備に関しては世界をリードしており、特にスウェーデン、フィンランドは一、二を争う状況にあるのではないだろうか。これは1980年代末から90年代初にかけて景気後退を経験した両国の政策立案者が、脱工業化社会に向けて新たな産業の振興・雇用創出・景気回復を情報技術分野にかけた成果 だと考えられる。デンマークは同時期に景気後退がなかったためか、他の北欧諸国と比較すると情報技術分野はやや遅れているが、農業分野への情報技術利用が高度に進んだハイテク農業国であることが特徴的である。

「ネットワークの進化と電子金融」 須藤委員

 現在世界中で、インターネットビジネスが注目を集めているが、電子取引の本格的実用化のためには、確実で安全性の高い電子決済をどの様に構築するか等の課題がある。そこで暗号技術を駆使した電子マネーが開発されている。電子マネーには、(1)クレジットカードのデジタル化と(2)デジタル・キャッシュとの二つがある。(1)の場合、金融システムに与える脅威は少ないが、マーケット情報はカード会社に集まり、銀行の地位 は相対的に後退するかもしれない。(2)の場合、これまで当座預金口座間で預金通 貨を用いて決済がなされていた企業の大口取引においてもデジタル・キャッシュによる相殺決済が増大し、銀行の資金決済件数が大幅に減少する可能性がある。そしてこれは、銀行の金融仲介機能の一部喪失を意味すると同時に、商流・物流等のビジネス情報入手が困難となることにより資金貸付のための銀行の審査能力の喪失につながる可能性が大きい。

「東アジアの経済成長と情報化」 佐賀委員

 発展途上国の情報化で問題となるのが、資金調達・技術移転・人材開発である。技術移転に関し、移動体通 信を山間僻地に適用したマレーシアの成功例がある。山頂に中継基地を設置し、そこからアンテナ付公衆電話機に無線を飛ばす。この様な移動体通 信適用により、電話線を山中に引くことなく過疎地にも電話を普及することが出来たのである。これは最新技術を途上国のニーズに合わせて活用した好例と言えよう。また民営化の成功例としてテレコム・マレーシアが挙げられる。同社は、1990年に3倍増資し、増資新株を売却し、これにより得た資金で政府からの借入金を返済して当時進行中の5カ年計画の必要資金をすべて自己資金で調達した。こうして財務体質を改善した後、テレコム・マレーシアは政府が所有する同社の株式に転換可能な転換国債を海外市場で発行し、民営化と資金調達に成功したのである。

「シンガポールにおける情報基盤建設の現状」 山内委員

 国内市場の規模と独自の技術的資源を前提とすると、シンガポールのようなNIESが自国の技術だけでNIIを構築するのは困難である。また国内需要だけに頼っていてはNIIを建設してもコスト回収が困難である。従ってシンガポールは、先進国のグローバル企業が持つ先端技術資源と地域的市場占有力を、同国のNII建設に役立つ形でテコ入れさせる政策を採るのである。つまり外力を用い内力を振興するわけである。そのためにシンガポールの情報通 信政策の枠組みや投資環境は、国外から技術供与する企業や先端的ユーザーにとって、開放的でかつ同国に技術移転し商業活動をもたらすほど魅力的でなければならない、という命題が出てくるのである。

「社会経済の軸からみたGIIのインパクト」 松原委員

 情報化、例えばトップと現場の間の電子メールのやりとり等により中間管理職が不要になるという議論がある。しかしパソコン等を使うにしても、それ以前に実際に人が対面 するコミュニケーションがなければならない。そして、その対面コミュニケーションの場を仕切っているのが、企業においては中間管理職だと思われる。日本型経営をより良くするためにも情報化は重要であり、真に不要な部分は情報化により淘汰されるべきである。しかし日本のような国では、何らかの形で企業組織の中で人が集まり対面 してものを言い合う現場は、どうしても捨てることは出来ないのではないだろうか。したがって、有能な中間管理職は今後も企業において重要な役割を果 たし続けるであろう。

「米国の航空政策に学ぶGIIの今後」 松元講師

 現在の米国の航空政策は1978年の航空規制緩和法で幕を開けた。81年に路線参入規制を廃止し、83年には運賃規制を撤廃して、85年には各種規制を立案していた民間航空委員会をも廃止した。これらは米国の航空事業に大波乱を巻き起こした。当時米国経済が着実に成長していたこともあり、規制緩和により新規路線増加、増便、運賃割引がもたらされた。しかしこの様なプラス面 があった一方、過当競争により吸収合併・倒産が相次ぎ、市場の寡占化が進むというマイナス面 もあった。結果的にアメリカン、ユナイテッドおよびデルタのビッグ3が市場を支配することになった。今後の日米の航空政策だが、米国は懸命にオープンスカイ政策を日本に対し求めるであろう。しかし日本は徐々に国内の自由化を進め、競争力をつけたうえで国際的なオープンスカイ政策へと進む手法を採るのではないかと思う。

「GIIと国家の役割」 薬師寺委員長代理

 四半世紀程前、自動車とは自分でタイミングを調節して動かすものであった。また、テレビも画像が悪くなると叩けば直ることが多かった。しかし今日では、自動車やテレビはプログラムによって細かく調整されており、少しでも故障すれば修理か廃棄処分、人間で言えば死体となってしまう。こうした技術のあり方の根元を探ると、近代技術とその背後にある国家に至る。換言すれば国家は自らの富のために積極的に死体を生産、すなわち大量 廃棄をしてきたと言えるであろう。この様なことを問題視するのであれば、技術者は製品設計においてユーザー側に裁量 権のある部分を組み込むべきである。これはかつてのクラフト型の技術では当然のことであった。近代技術の背後に国家が存在することが必然であると考えるならば、この問題を克服するためには、地域的なコミュニティー等の社会集団・秩序が技術を支えるべきであり、国家は公共財の提供のみに特化すべきではないだろうか。

「GIIと新しい文化創造」 川勝委員

 現在日本では8割の人が都市に住んでいるが、コンピュータネットワークがこの都市に偏した生き方を変え得るであろう。では、どの様な国・文化を我々はこの情報社会で創造すべきであろうか。情報社会の市民すなわちネティズンにとって、どういう暮らし方が良いのだろうか。サイバーモールで買い物をしたり、インターネットで世界と交流するというのは室内の話であるから、体を動かせるような空間すなわち「庭」を持つことが大切なのではないだろうか。人間の居住する建物と庭が一体であること、つまり家と庭が一体になったのがまさに家庭である。それが今、家が箱に成り下がり庭は公園に追い出され、家と庭が二極分解している。家庭一体の復活を目指すことが、サイバースペースの中で生きる我々にとって必要である。情報社会においてこの庭のある生活を実現できれば、日本は庭園の島(Garden Islands)、太平洋に浮かぶ理想郷となるであろう。

「情報革命と新世界秩序」 公文委員長

 世界の情報革命には(1)第二次産業革命の成熟段階の継続(2)第三次産業革命の突破段階(3)産業化を超える情報化の進展という三つの流れがある。(1)は放送、通 信等の高度化であり、双方向TV・移動体通信等が挙げられる。(2)は情報通 信技術の業務利用で、企業における非定型業務の生産性向上を実現させるものとして期待がかけられており、その代表格はインターネットである。(3)はNGO、NPO、ネティズンといった人々の積極的なコミュニケーションやコラボレーションであり、智業・智民の台頭という言葉で表現できよう。この三つの流れを想定する中で、新秩序軸を構築することが出来る。新秩序軸の必要条件として三つあり、第一が上記(1)(2)(3)の合流点に生まれる新開発主義の理念、第二が異文化・異文明のより深いレベルでの相互接触の常態化、第三が情報技術の有効利用のための秩序であることである。これらの必要条件から以下の四つの新世界秩序軸が考えられるのである。(1)政治秩序軸:多様な政治体制共存の中での平和の秩序 (2)経済秩序軸:協働による繁栄の秩序 (3)情報秩序軸:ネットワーキングによる共愉の秩序 (4)社会秩序軸:自由な交流と自発的な協働による文化の相互理解・尊重