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ニュースレター
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1997年6月号 |
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アジア太平洋地域の経済自由化に向けた
「日米中3カ国の協調に関する」調査研究について 当研究所は、財団法人産業研究所からの委託にもとづき、「アジア太平洋地域の経済自由化に向けた日米中3か国の協調に関する調査研究」を行っている。この研究は、日米中三国の有識者による意見交換を通 して、三国の共通の認識を探ろうとするもので、昨年12月の東京での研究会合を踏まえ、以下のような趣旨の報告書をとりまとめている。 【提言】地域・世界システムの今後の改善に関する展望について 日米中三国フォーラムは、地域・世界システムの今後の改善に向けた取り組みについてまた将来的な政策提言をいかに行うかについての論議をさらに進めていくことが必須であるという合意に達した。中国がWTO加盟への意志を持っている点は重要であり、これをいかにして実現するかは、市場構造のハーモナイゼーションや、改革の管理に政府がいかに関与するかといった問題と並んで、今後の会合での協議が待たれるところである。 我々が直面している現実的な問題に取り組むことによってのみ、互恵的な平等という原則を維持することができる。さもなければ、その原則も掛け声倒れに終わってしまう。我々が直面 している問題すべてについて突っ込んだ研究が必要である。 三国の問題に取り組む上では、APECを十分に活用すべきである。APECのペースは遅いとも言えようが、一つのフォーラムとして、APECは域内主要国が共通 の解決をめざす上で積極的な役割を果たしてきた。APECが顕著な成果を残してきた以上、我々としても、現今の問題に取り組む上で当面 はAPECを活用すべきである。 アブソープション問題については、中国が自国の問題を解決する手段として、何らかの代替策を探さなければならない。「アブソーブ」問題は、「中国は急速なGDP成長とあわせ、貿易黒字をますます肥大化させている」という不確かな前提に基づいている。この前提は、三つの点で検証しなければならない。第一に、香港経由の対米輸出は除外して考える必要がある。第二に、国外生産分の中国本土への移転が進み、貿易黒字の数値に誤差が生じている。第三に、中国における米国製品のネットワークを無視するわけにはいかない。その場合、収益は米国に入るが、中国の貿易黒字として計上されるからである。 いわゆる「チャイナ・ネットワーク」とは、実際には、米企業・西側企業が生産の再編である。現実に我々が進めるべきは、このテーマについて情報を交換し、協議を開始することである。 多国間機構の実効性の問題を考える場合に我々が考慮する必要があるのは、二国間・複数国間の協定にもインセンティブがあるという現実である。また、多国間機構に対する信頼性もやはり問題となる。最後に、地域全体にわたる生産に向けたインセンティブ制度は、我々が取り組むべき課題として最も重要なものの一つである。 アブソープションについては、そのほとんどがこの地域で生じると思われるが、その進展については十分に注意を払う必要がある。国内的な調整の点から言えば、中国は「一つの市場」として捉えられていない。一部の調査によれば、少なくとも4〜5の地域市場に分かれているとされている。国際的なモデルについてはヴィジョンの問題が出てくるし、APECについては実にさまざまな見解が数多く見られる。最後に、問題点を誇張しがちな外交担当者のコントロールも必要である。 アジアの自己生成的な構造は今後は持続しないかもしれないが、それでも需要・供給の面 から今後も研究を進める必要がある。中国における生産に対する需要は存在するだろうか。存在するとしたらどれくらいの規模か。また東アジア地域における「成長の共有」はありうるだろうか。最後に、日本はアジアに関してどのような立場を取るべきか。米国とともに経済ルールのハーモナイゼーションに努めるのか、それとも「アジアの大義」に従うのか。 【会合の概要】1996年12月、東京で会合を開催し、アジア太平洋地域で自由貿易と経済協力をさらに促進すべく、フォーラムでは、WTOやWPECといった国際貿易推進制度の強化と推進という目標をどう追求していくかについて、三国の基本的スタンスを探った。この会合には、三国を代表する学者や財界人が参加している。 議論の枠組みとして、以下の4点が提示された。
参加組織: DIHS(電通総合研究所 日本) 開催日:1996年12月13〜15日 ラン・W.ウルフ(デューイ・バランタイン法律事務所 弁護士) 日本側メンバー: 国分良成 慶應義塾大学法学部教授 基調講演(第1日)最初の基調講演で、アラン・ウルフは通商政策に関する米国の中道的な立場を取り上げ、4つの話題に触れた。一つはアメリカの通 商政策一般と、それを形成する要因であり、残りの三つは、日本、中国、そして多国間協定に対して米国がどのような政策で臨むかを個別 に論じるものだった。ウルフは、アメリカがなぜ自由で開放的な市場をめざすのか、その歴史的・政治的理由を簡単に説明した。アメリカは中国をWTOに組み込もうとする政策を取るだろう。中国は、例外扱いとするにはあまりにも巨大な国だからである。貿易制裁を通 じて行動を変えようとするのは非効率だが、貿易政策は市場自由化の一助にはなりうる。日本の貿易自由化はこれまで遅々としたものだったが、この方面 での創造的な取組みは今後に期待されるところである、 二番目に基調講演に立ったコジマ・アキラは、日本の立場から貿易と投資に関する意見を述べた。彼はまず、最近の日本政治において改革をめざして建設的な変化が生まれていると説明し、多国間主義(multilateralism)の時代へ向けた大きな変化について述べた。日本は、最近の為替メカニズムの急速な変動を一つの背景として、海外生産に巨額の投資を行っているが、日本への直接内国投資はほとんどなく、経済の空洞化につながりかねない。だが、他のアジア諸国は海外からの直接投資により大きな恩恵を受けており、その経済は急速に変化している。世界は貿易から投資の時代へと移りつつあり、それに伴う変化は政策面 にも反映されるべきである。 この日最後に基調講演に立ったジアリン・ツァンは、中国の貿易自由化に対する考え方に対する評価を行う中で、中国が経済自立に基づいた中央計画経済から自由化を促進するプログラムへと力点を移している様子を説明した。この移行は、保護主義が所期の目的に貢献しえないという認識に由来するものである。最初のうちは、一部の産業に対し他のアジア諸国が行ってきたような保護を与える必要があるというコンセンサスはあるが、問題はどのような保護を行うかである。中国に対してあらゆる障壁を一挙に撤廃するよう求めるのは、現実的でもないし不公正である。 ツァンは三つの点を指摘して講演を締めくくった。?自由化は、市場開放の一つであり、現在広まっている経済条件を深化させ、中国の利益となるものである。?貿易不均衡は多くの要因に基づくものであり、単に市場アクセスのみの問題ではない。?自由化に単一の普遍的な形態はない。多くのアジア諸国は、自由化というコンセプトに「リベラルな民主主義」という価値観を混入させることに同意しないだろう。 基調講演(2日目)スティーブン・コーエンは基調講演の中で、中国の「規模」を、中国にとって本質的であり、他と区別 するものであり、また中国を束縛しているものであると説明した。国の規模が大きく、また世界経済への参入が遅かったため、中国がグローバルな貿易システムに適応しようとすると、そのシステムを破壊してしまうというのが彼の意見である。中国は、より弱体なアジア諸国による生産を駆逐してしまうのではないか。アジアが欧米に対して維持している巨額の純貿易黒字は、とうてい持続不可能なレベルである。では、日本がこの貿易赤字を吸収できるだろうか。中国は早晩WTOに加盟すると思われるが、米国が真に必要としているのは、長期的な移行期間にわたる多国間での調整を経た上での対中貿易なのである。 タケナカ・ヘイゾウは、基調講演において三つの点を考察した。第一に、アジア太平洋地域の経済発展の地盤は堅固であり、自己生成的な経済が活発であり、成長が持続する可能性は高い。アジア諸国はアメリカに代わって生産を吸収する役割を果 たすようになりつつある。第二に、こうした成長に関連して、憂慮すべきリスクが存在する。たとえば、軍国主義、エネルギー問題、環境・食糧不足の問題などである。第三に、APECの重要性が増しているとはいえ、これに代わる枠組みを創出する必要は、今後より鮮明になってくるだろう。米国による制裁の脅しは、米国市場の相対的な地位 が下がるにつれ、弱まってくるだろう。 ゴングダ・ツァオは、APECによる自由化への取組みに触れ、アジア太平洋地域の経済コミュニティというヴィジョンは、加盟各国がその確立に向けて積極的に協力すれば実現可能であり、この目的に向けて、明確な目標と原則を述べた包括的な枠組みが用意されつつあると述べた。中国は市場経済に向けて大きな前進を達成しており、対外貿易改革と経済管理システムの扱いについては透明性と公正性を指導原則として進める見込みであり、APECプロセスへも積極的な取組みを約束している。このプロセスはWTOに準じたもので、加盟国は多国間交渉に参加することによってこれを主導することになる。 |
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