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ニュースレター
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1997年10月号 |
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「21世紀のインドと国際社会」研究委員会報告書完成座長 飯島 健 さくら総合研究所代表取締役副社長 「21世紀のインドと国際社会」研究委員会は96年12月の第14回委員会、本年2月の現地調査をもって終了した。委員会では、委員の発表17、外部講師の発表4,計21題の講演とそれに基づく活発な討論が行われた。この度、その結果 が取りまとめられA4版228ページの報告書として刊行された。 1991年以降経済改革を進めるインドに対する関心は、将来の巨大市場、生産地としての魅力が中心となっているが、本報告書では、安全保障、国際政治など総合的な視点からインドを捉えるとともに、インフラ、財政など巨大な国の内部にある根の深い問題にも目を向けることに努めた。執筆者各位 に深く感謝したい。 以下は、報告書「第20章 問題提起」から抜粋したもので、文責は事務局にある。 1.総合安全保障とのかかわりインドは安全保障の点から重要な国である。第一に、石油資源をめぐるエネルギー安全保障とのかかわりがある。インドは、産油国を含む回教圏とのつながりを持っている。また、東アジアへの石油の輸送路であるインド洋に軍事力をもっている。インド自体も石油輸入への依存度が高く、アジアの経済成長が中東石油に依存する構図の中にインドも加わってくることが予想される。このようなインドの立場は、石油を中東に依存している東アジア、特に日本にとって大きな意味を持つ。 第二に核問題がある。インドは、中国、パキスタンと対峙する核武装能力をもっており、現在の核保有国主導の核軍縮に反対している。このことは、唯一の被爆国として日本がアジアの核問題を考える際にも、中国の核兵器に対するアジア唯一の抑止力としてのインドの核オプションは、日本の安全保障にとって重要な意味を持つ。 また、潜在的な経済大国、人口の巨大さなどの面 からエネルギー、食糧などの世界市場や地球環境等に対しても、インドの影響は将来的に大きなものとなることが予想される。地球的なサステイナビリティの観点から、インドの動向はインド一国だけの問題にとどまらない。エネルギー、食糧を輸入に頼るという脆弱さを持つ日本にとっても、インドの存在は大きな意味を持つ。 2.社会基盤の未整備と投資環境整備の必要性インドにおいては、初等教育、貧困層への施策、農業、電力、通 信、交通等のインフラなど、社会の基本的な条件整備が依然として課題となっているが、政府の対応は財政赤字に制約されている。財政赤字の原因は、国営企業の非効率性、補助金政治、農業を過度に優遇した電気料金体系などである。これらは以前の社会主義的な政策の名残であるとともに、社会各層の既得権に結びついている。このような政治的な背景があるため、財政赤字の減少は容易ではないと思われる。 こうした事情のゆえ、外資の導入によって、財政だけではカバーしきれないインフラの整備を図るとともに、輸出へのテコ入れを図るというシナリオを、インドは思い描いている。しかし、インドが期待するほど直接投資は伸びていない。その理由は、第一に、「10億人のうちの2億人」の中間層を狙って消費財に投資したが、期待通 りに売れないという場合がある。第二に、規制緩和はすすんだものの、複雑な手続きを求める官僚機構のためにプロジェクトが進まないという場合がある。第三に、道路港湾、電力通 信などの基本的なインフラが十分に整備されていない場合がある。外資によってインフラを整備したいインドと、投資環境としてインフラを重視する投資家との思惑のずれは、鶏と卵の関係に似ている。 一方、インドの輸出の現状は、繊維製品など、従来と同様の労働集約的な産業に支えられているが、こうした産業分野では、インドよりもさらに賃金の低廉な途上国に追い上げられている。 インドの経済が今後、成長力を保ってゆくためには、産業の高度化を促進する投資が必要であり、投資環境の整備は最重要の課題である。 3.経済自由化の光と影一方、経済自由化の影響はインドの「支配階層」に及んでいる。富農の投資先は非農業部門に多角化した。新興の産業資本家が台頭し、中間財、資本財の輸入規制の撤廃を求めるようになった。官僚も、行政能力を超えた市場への介入を矯正する姿勢を見せるようになった。経済自由化の趨勢は、「自由化がさらなる自由化を生む」流れとなっている。地域間の経済格差や階層間の格差、貧困問題が政治的に表面 化しないかぎり、あるいは1991年のような債務危機が再現しないかぎり、「中間層」の購買力に依存した経済成長を続けることになるだろう。「中間層」だけでインドは外資にとって十分に魅力的なのである。 インドは東アジアの経済発展に学ぼうと考えているが、人口の規模と増加率、根強く残る階層的社会、土地改革の徹底と初等教育の浸透の度合いなど、東アジアとの条件の違いは大きい。人口問題、土地改革、初等教育の普及などの「社会改革」を放置したままで「経済改革(市場の自由化)」をすすめていった場合、社会階層間の所得格差の拡大、貧困がもたらす環境の悪化、人権等への悪影響、国内の不満を外にそらすことに伴う軍事化などの問題をもたらすおそれがある。 4.インドに対する日本のかかわり方「インドの重要性」に照らすならば、インドの経済成長と政治的安定が日本にとっても有益だと考えられる。これまでのインドの経済自由化政策は国際的に評価されており、インド国内のコンセンサスも得ている。経済関係の促進や日本の総合的な国際戦略の中で日印関係の構築が求められている。 日本が取り得る行動の例を挙げると、まず、総合安全保障とのかかわりでは、今後、環境・エネルギー等をめぐる安全保障の議論の枠組みを構築する場合にインドを積極的に取り込むこと、国際的な核不拡散を促進する観点からインドが核政策について、より柔軟な姿勢をとるように促すことなどがあげられる。 また、投資環境の整備に向けての働きかけについて外資導入にあたっての条件整備(官庁手続きの改善等)をインドの中央・地方政府に対して勧奨すること、インドのインフラ事業への投資を検討・推進すること(ただし、公共性と採算性のバランスをどう図るか、民間資金と公的資金をどう使い分けるか、そのためにインドはどのような投資環境を整備すべきかなど、さらに踏み込んだ検討が必要)などの点を指摘することができる。 1)本報告書の構成第一部 インドの課題と展望 2)委員会委員名簿座長 飯島 健 さくら総合研究所代表取締役副社長環太平洋研究センター所長 |
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